研修の基本手順
MGIMの4プロセスとワークショップの対応
MGIMの4つのプロセスは、理論上は、統合された意味が協働行動・組織学習・アイデンティティ更新へ循環する構造の一部として位置づけられ、実行・定着までを含めて扱います。
本ワークショップは、このうち意味の形成(検出から統合まで)を、短時間で実践・観察できる形に操作化したもので、両者の対応は次のとおりです。
| 検出 | 対話 | 翻訳 | 統合 | |
|---|---|---|---|---|
| 理論上の定義 MGIMプロセス 成熟度尺度 |
意味の差異を、違和感・混乱・抵抗などの兆候として認識し、可視化する | 異なる意味づけの主体が、背景や価値観を相互に表現し、相互理解を形成する | 異なる意味を保持したまま、相互に理解でき、行動に結びつけられる表現へ変換する | 異なる意味の重要要素を保持した、協働可能な新しい意味を形成し、協働行動の基盤として共有する |
| ワークショップでの操作化 | 参加者が、テーマへの意味・解釈・期待・懸念を付箋に記述し、可視化する | 付箋の背景を相互に説明し、4つの分析観点に分類する | 各主体の意味を、背景を保持したまま、相互に接続可能な表現へ変換する | 複数の意味の重要要素を保持した新しい意味を形成し、行動の方向性(始める/止める)まで具体化する |
| 成果物 | 意味ズレカード | 背景要因カード(対話後の分類記録を含む) | 意味接続カード | 新しい意味カード+協働行動の方向性 |
| 完了基準 観察可能な形 |
全参加者が1枚以上記述し、記述者の役割が記録されている | 各主体が相手の意味と背景を説明でき、本人が「その通り」と確認している | 各意味接続カードについて、元の意味ごとに保持される要素が対応づけられている | 全員が「自分の意味の重要要素が保持されている」と確認し、始める/止める事項が各1件以上ある |
| ワークショップで扱わない範囲 | 組織の方針との対比、報告の仕組みの設計 | 感情・利害の調整 | 方針の具体的な業務への落とし込み、役割の割当 | 実施計画、役割分担、実行、定着 |
| MGIM成熟度尺度(MGIM-MS)との関係 理論上の枠組み |
検出の質問群に対応 | 「相互理解度」KPI(相手の主張再現テスト)を完了確認に使える | 尺度の翻訳は行動定義まで含む。ワークショップの成果はその前段に相当 | 尺度の統合は、重要要素の保持確認や方針・判断基準への反映などを測る。ワークショップの成果は、新しい意味の形成まで |
意味の差異を捉える4つの分析観点の位置づけ認知的・価値的・利害的・アイデンティティ的
4つの分析観点は、並列の分析カテゴリーであり、4観点の間に階層があることを前提にしません。
なお、意味の差異の背景要因を認知的・価値的・利害的・アイデンティティ的に整理しますが、対話を促進するためのMGIM上の分析カテゴリーであり、意味の差異を網羅的に分類する固定的な類型論を意図するものではありません。
この4つの分析観点は、実務上の観察に基づく作業的な整理で、学術的な根拠づけは今後の課題です。
成熟度尺度との関係理論上の枠組み
ワークショップの結果は、MGIM-MSの回答の代替ではありません。
ただし、実施前後に同じ質問項目へ回答すれば、組織の変化を観察する補助データとして活用できます。
MGIM-MSは理論上の枠組みで、本研究の事例(A社のDX推進)では使用していません。
ワークショップの全体像

MGIMが目指すのは、複数の主体のあいだの意味の差異を、問題として排除するのではなく起点として捉え、異なる意味を認識し、その違いを活かしながら、協働可能な新しい意味を形成することです。
組織には、経営者、管理職、現場、営業、技術、スタッフなどの異なる立場があり、立場が異なれば同じ出来事に対する見方や価値判断が異なることは自然です。
問題となるのは、意味の差異が主体間で認識・接続されないまま、意図や行動の不整合として表れ、組織の協働を阻害する場合(意味ズレ)です。
そのため、ワークショップ実施に当たっては、特に以下事項に留意してください。
- テーマ(出来事)に関係する人たちに、できる限り参加してもらい、混成チームで実施する。
- 役職や経験に関わらず、この場では全員対等に発言する。
- 他人の意見を尊重し、否定しない。
- ワークショップで表明された個人的な意見や経験が、参加者の人事評価や不利益な取扱いに直接利用されないよう、事前に運営ルールを明確にする。
- ワークショップの位置づけを明確にし、実施後のフォローを継続する。
特に、4.統合フェーズでの「新たに始める」「現状を止める」事項に関しては、経営陣や担当部門が検討結果を参加者に報告するように努める。
ワークショップの実施ガイド
想定する参加者
- 1チーム当たり5~6名
- 経営陣、管理職、現場メンバー
- 役職だけでなく、さまざまな部門で混成
- 複数チームで実施できれば、最後にチームの結果発表を通して、結果に至った背景や議論内容を全員で共有できます。
参考時間:240分(4時間)
- 半日を想定した参考時間配分です。
テーマ内容や議論重視などの意向に応じて、個別に調整してください。 - 冒頭で趣旨説明、終了後の講評の設定に関しては、独自にご判断ください。
- 15分:全体説明・テーマ設定
- 45分:検出フェーズ
- 50分:対話フェーズ
- 10分:休憩
- 50分:翻訳フェーズ
- 50分:統合フェーズ
- 20分:Meaning Gap Card発表・振り返り
参考時間について
- 統合フェーズ(50分)
意味接続カードが各チーム4枚程度を想定した目安です。カード数が多い場合は、時間配分を調整してください。 - Meaning Gap Card発表・振り返り(20分)
複数チームで実施し、参加者全員で新しい意味を形成する場合は、別途の時間(目安:30~60分)を設けてください。
必要な備品(チーム当たり)
- 赤色の付箋:検出(意味ズレカード)で使用
- 黄色の付箋:翻訳(意味接続カード)で使用
- 青色の付箋:統合(新しい意味カード)で使用
- 模造紙またはホワイトボード、マジックペン
ファシリテーターの役割中立的な進行のために
本ワークショップは、参加者の本音や対立を扱うため、進行役(ファシリテーター)の関わり方が成果を大きく左右します。
- テーマに対して利害関係や強い個人的意見を持たない、中立的な立場の方が進行することを推奨します。
- 各フェーズを通じて、否定・評価をせず、どんな意見にも一貫して中立的な態度で接してください。
- 特に「統合」フェーズでは、時間が押しても多数決や安易な妥協に逃げず、複数の意味を保持した新しい意味の形成を粘り強く支援してください。
- 初めて実施される場合は、社内の人事・経営企画部門など、当事者部門と直接の利害関係を持たない方が進行するか、外部のファシリテーターの起用をご検討ください。
ワークショップの手順
1.検出成果物:意味ズレカード
目的:テーマ(出来事)に関する意味の差異を言語化し、誰と誰の間に、どのような意味の違いが存在するのかを可視化する。
成果物:意味ズレカード(意味の差異の検出)
完了基準:全参加者が1枚以上の意味ズレカードを記述し、記述者の役割が記録されている。
異なる主体が形成している意味が具体的に言語化され、「誰が・何を・どのように意味づけているか」と、その間の意味の差異が可視化されている。
手順:本音を赤色の付箋に記入(1枚1項目)してボードに貼る。
- テーマに関する率直な気持ち(本音)を記述する。
- 本音をできるだけ多く書き出す。
- 期待や懸念、重要だと思うこと、過去の経験、変えてほしいことなどの視点から書き出す。
留意事項
- ここでの「本音」とは、参加者がテーマについて形成している意味・解釈・期待・懸念などを率直に記述することを指す。
- 表面的な言葉ではなく、思ったことの意味を明らかにする。
- 意味の差異がどこに、誰との間で、どのような形で生じているのかを明らかにする。
ファシリテーターの役割
- 冒頭で、「ここで話す本音は、後で評価や人事査定に使われない」という運営ルールを、口頭でも明確に宣言する。
- 「まず全員が黙って付箋に書く時間を確保し、発言の前に書く」という順序を徹底する。
- 「本音が思いつかない」という参加者に対し、「期待・懸念・過去の経験・変えてほしいこと」という問いかけの切り口を、個別に提示して引き出す。
2.対話成果物:背景要因カード
目的:お互いの背景や立場、考え方の違いを理解し合う。
成果物:背景要因カード(意味の相互理解)。説明・理解と分類を基本とし、対話の中で当初と異なる意味づけが確認された場合は、その内容も記録する。
完了基準:各主体が、相手の意味と「なぜその意味を形成したのか」を説明でき、相手本人が「その通り」と確認している。
手順:赤色の付箋を4つの観点に分類しながら、意味の差異の背景にある観点について対話を促進する。
- テーマ(出来事)に関する解釈や前提、記述に至った背景や経緯を説明する。
- 4つの観点の内、どれに関係しているかを分類する。
認知的な差異、価値的な差異、利害的な差異、アイデンティティ的な差異
留意事項
- 相手の意見を否定したり、反論したりしない。
- 単なるコミュニケーションではなく、本音に至った意味を明らかにする。
- 他者がなぜその意味を形成しているのかを理解し、お互いの会話を通して分類する。
ファシリテーターの役割
- 声のトーンや表情で暗に否定的な反応をしてしまう参加者が現れた場合には、対立を「理解の材料」に転換できるように介入する。
- 4つの観点(認知・価値・利害・アイデンティティ)への分類に迷うことがあれば、「これは、出来事の捉え方・理解の違い(認知)なのか、損得の違い(利害)なのか」などと、平易な言葉で参加者と一緒に確認しながら進める橋渡しをする。
3.翻訳成果物:意味接続カード
目的:異なる主体が形成している意味やその背景を保持しながら、それぞれの意味を相互に接続可能な表現へ変換する。
成果物:意味接続カード(意味の接続)
完了基準:異なる意味の背景を保持したまま、相互に接続可能な表現に変換されている。
各意味接続カードについて、元の意味ごとに保持された要素が対応づけられている。
手順:背景要因カード(赤色の付箋)を複数主体が相互に接続可能な意味表現に翻訳し、黄色の付箋に記入して貼る。
- 「相手の立場だったら、なぜそう思うのか」を相手に理由や背景を説明してもらい、自分の理解を確認する。
- 概念や言語を翻訳し、意味を相互に理解して、共通の言葉(相互に接続可能な意味表現)を記入する。
- 個々の主体が形成している意味を、複数主体が相互に接続可能な表現へ変換する。
留意事項
- 単なる情報伝達や言い換えにとどめず、お互いが相手の意味を、背景を含めて理解したうえで、接続可能な表現に変換する。
- 相手の意味を、自らの立場との関係を含めて理解する。
ファシリテーターの役割
- 安易な妥協を許さず、「その言葉だと、AさんとBさんの両方の意味が本当に保たれていますか?」と、意味の具体性を保つ問いかけをする。
- 単に想像してもらうだけでなく、実際に相手に語ってもらい、聞き手側が理解を確認するという、双方向のやり取りを丁寧に往復するよう進行する。
4.統合成果物:新意味カード+協働行動の方向性
目的:協働可能な新しい意味を形成する。
成果物:新しい意味カード(協働可能な新しい意味)+その意味に基づく協働行動の方向性(具体的な施策・実施計画は含まない)
完了基準:複数の意味の重要要素を保持した新しい意味が形成され、新しい意味の要素と元のカードの対応で確認されている。
全参加者が「自分の意味の重要要素が保持されている」と確認し、新たに始める事項・現状を止める事項が各1件以上あり、行動の方向性を共有できている。
手順:翻訳で作成した意味接続カード(黄色の付箋)ごとに、「新たに始める」ことと「現状を止める」ことを書き出し、それを手がかりに、必要により意味接続カードを集約して、協働可能な新しい意味を青色の付箋に記入する。
- 意味接続カードごとに、その意味を実現するために、新たに始めること、現状を止めることを書き出す。
- 書き出した内容を手がかりに、複数の意味接続カードを集約して、協働を可能にする新しい意味を定義し、青色の付箋に記入する。
- 新しい意味に基づく協働行動の方向性を整理する(具体的な施策・実施計画は含まない)。
- 新しい意味の要素と元のカードを対応づけ、各主体が自分の意味の重要要素が保持されているかを確認する。
※ 始める/止めることと、新しい意味の定義は、テーマや議論の状況に応じて、順序を入れ替えて進めても構いません。
留意事項
- 合意、妥協、同調、情報共有、意識統一ではなく、協働を可能とする新しい意味を形成する。
- それぞれの意味の重要要素を保持し、それらを接続した新しい意味を形成する。
- お互いが、新しい意味を自らの立場との関係で理解し、その意味に基づいた行動可能な方向性を形成する。
ファシリテーターの役割
- 時間管理と質の担保のバランスを取りながら、拙速な結論を避ける。
- 止めることへの遠慮が見受けられたら、「止めることも、新しく始めることと同じくらい価値のあるアイデアです」と、積極的に発言を後押しする。
意味ズレ統合シート(MGC)最終成果物・振り返り用
ワークショップの最終成果物または振り返り用として、意味ズレ統合シート(Meaning Gap Card)に整理することも効果的です。
シートの項目(参考例)
- テーマ(出来事)
- 意味:自分にとっての意味、相手にとっての意味
- なぜ違うのか
- 理解と解釈:相手の意味をどう理解したか、相手の意味をどう解釈したか
- 統合と協働行動:統合できる新しい意味、意味に基づく協働行動

ワークショップを実施しても意味の統合がうまく進まない場合の対処法は、「意味停滞への対策」ページで解説しています。
現時点の位置づけ
本ワークショップは、MGIMの4つのプロセスを実践場面で適用・観察するための基本的な操作モデルで、固定的な研修手法ではありません。
MGIMは概念が先にあり、ワークショップは、その実施および検証の一部です。
事例は現時点で1件(DX推進)で、今後、事例を増やすことで、MGIMを理論として確立し、実務利用に向けた拡充を予定しています。
理論上の定義、完了基準、成熟度尺度(理論上の枠組み)との対応は、運用上の目安として整理したものです。
本研究の事例では、完了基準のうち、相手本人の確認や各主体による保持の確認が記録されていません。
詳しくは、事例の考察ページ(限界13)に記載しています。
本ワークショップを実施された組織様には、ワークショップに関するご感想や改善事項に加え、任意で匿名化した実施結果(検出された意味の差異の傾向、統合に至った件数など)をATY Japanまでご共有いただけますと幸いです。
ワークショップの改善、MGIMの研究発展に活用させていただきます。
※ MGIMの研究・利用について
- 意味ズレ統合モデル(MGIM)の著作権・名称の権利はATY Japanに帰属します。
- 研究・教育等における引用・検討・発展的利用を歓迎します。(引用の際は出典を明記してください:八百幸 孝昌「意味ズレ統合モデル(MGIM)」ATY Japan)。
- MGIMに関する文章・図表等の無断複製・転載はご遠慮ください。MGIMの名称を用いたサービスの第三者提供をご検討の場合は、事前にお問い合わせください。
