ATY Japan

Case1|DX推進

Case1|対話

対話フェーズ

対話フェーズの目的は、「お互いの背景や立場、考え方の違いを理解し合う」ことです。

このフェーズでは、検出フェーズで記述した「意味ズレカード」を手掛かりとして、認知的・価値的・利害的・アイデンティティ的な4つの観点から、意味ズレの背景にある要素について対話します。

その過程で、意味ズレカードをいずれかの要素に分類するとともに、対話を通して当初とは異なる意味づけを発見することもあります。

例えば、検出フェーズでは、「10年後も地域の卸として必要されるのか不安」に対して、「DXのための作業が増えるのは困る」という意味ズレが生じています。

そこで対話フェーズでは、「なぜそう考えるのか?」と問いかけて、出てきた背景を4つの意味ズレ要素に分類していきます。

今回のワークショップでは、以下の通り分類されました。

Aチーム Bチーム
1.認知的要素
  • A-22
    80人規模の会社なので、大企業と同じようなDXをやっても人手が足りない。
  • A-31
    もっと得意先の売れ筋や在庫状況を把握して、先回りした提案ができるようになりたい。
  • A-32
    営業が持っている得意先情報を、会社全体でもっと活用できるようにしてほしい。
  • A-34
    得意先への提案力を高めるためならDXをやりたいが、単なる社内管理のためのDXなら優先順位が違うと思う。
  • A-41
    紙やExcelなど、古いやり方が残っているところをまず何とかしてほしい。
  • A-42
    同じ情報を何度も入力する作業をなくしたい。
  • A-51
    現場は予定通りにいかないことが多いので、机上で考えた仕組みだけではうまくいかないと思う。
  • A-52
    在庫や出荷の情報をリアルタイムで共有できれば、営業や得意先とのやり取りはもっと良くなると思う。
  • A-53
    配送センターの情報を営業や経営がもっと活用してくれれば、会社としてできることが増えると思う。
  • B-23
    営業、事務、物流がそれぞれ別々に最適化されると、かえって全体として非効率になるのではないか。
  • B-32
    得意先ごとに事情が違うので、全部をシステムで一律に管理するのは難しいと思う。
  • B-51
    急な注文変更や欠品対応など、現場ではその場で判断していることが多い。
  • B-52
    システムを変えるなら、現場の人が実際に使えるものにしてほしい。
  • B-54
    在庫や出荷の情報をリアルタイムで共有できれば、営業や得意先とのやり取りはもっと良くなると思う。
2.価値的要素
  • A-16
    DXをやること自体が目的になってしまうのは避けたい。
  • A-23
    得意先にとって本当に価値があるDXなのか、それとも社内の自己満足にならないかを見極めたい。
  • A-35
    得意先への提供価値を高めることと、社内の効率化をどう両立するのかを考えたい。
  • A-43
    DXで仕事が楽になるなら賛成だけど、最初だけではなく本当に楽になるところまでやってほしい。
  • A-44
    経営から見る「効率化」と、実際に仕事をしている側の「効率化」は違うと思う。
  • A-54
    効率化だけを進めると、現場に無理が集中する可能性がある。
  • B-24
    DXの効果をどう測るのかを最初に決めたい。
  • B-31
    得意先から急に問い合わせや依頼が来るので、その対応に追われている。
  • B-33
    DXによって効率化した時間を、本当に得意先への提案活動に使えるようにしてほしい。
  • B-34
    得意先への提案と物流の対応をもっとつなげられれば、今より良いサービスができると思う。
  • B-41
    今でも日々の業務で手いっぱいなのに、DXのための作業まで増えるのは困る。
  • B-43
    現場の人が実際に困っていることを聞いてからシステムを決めてほしい。
  • B-52
    システムを変えるなら、現場の人が実際に使えるものにしてほしい。
3.利害的要素
  • A-33
    DXで営業の仕事が効率化されても、その分さらに訪問件数を増やせと言われるのは嫌だ。
  • B-21
    DXが必要なのは分かるが、具体的に何を変えるのかがまだ見えていない。
  • B-22
    現場の負担を増やさずにDXを進められるのかが心配だ。
  • B-42
    新しいシステムを入れると、結局覚えることが増えるのではないか。
  • B-53
    入力作業が増えるだけのDXなら、現場としてはやりたくない。
4.アイデンティティ的要素
  • A-11
    このまま今までと同じやり方を続けていて、本当に10年後も地域の卸として必要とされるのか不安がある。
  • A-12
    DXは単なる業務効率化ではなく、会社そのものの存在意義をもう一度考えるきっかけにしたい。
  • A-13
    得意先から「この会社がないと困る」と思ってもらえる卸になりたい。
  • A-14
    メーカーとスーパーの間にいるだけの卸では、将来的に存在価値が薄くなるのではないか。
  • A-15
    現場には今までのやり方への思いもあると思うが、会社としては変わらなければならない。
  • A-17
    せっかく配送センターや得意先・メーカーとのネットワークがあるので、それをもっと経営に活かしたい。
  • A-21
    システムを入れるだけなら、これまでもできた。業務そのものを変えなければ意味がない。
  • 検出時の記述を記述者自身の意味づけに基づいて分類した段階では、Bチームにはアイデンティティ的カードはありませんでした。
  • しかし対話を通して、B-41やB-32の背景からアイデンティティ的意味が発見される可能性があります。

今回の意味ズレカードには複数の意味ズレ要素を持つものもあり、特に以下カードに関しては対話の結果で分類しています。

  • A-17は「情報活用」という認知的な側面もありますが、記述者の意味づけを「自社が持つネットワークという強みを、これからの会社の存在価値につなげたい」と捉え、今回はアイデンティティ的要素に分類しています。
  • A-22は「人手が足りない」という負担そのものよりも、「自社の規模に適したDXでなければならない」というDXの理解として記述されているため、今回は認知的要素に分類しています。
  • B-21は「具体的に何を変えるのかが見えない」ことによる不安・負担と捉え、今回は利害的要素に分類しています。

両チームの4分類のまとめ

要素 確認すること 典型的な問い Aチームの中心的な意味 Bチームの中心的な意味
認知的 DXをどのように理解しているか DXとは何を変えることだと思いますか? DXは会社・業務・顧客への提供価値そのものを変革するもの DXはシステム・情報・業務プロセスを変えるもの
価値的 DXで何を重要とするか DXで何を最も大切にしたいですか? DXによって得意先への提供価値・会社の将来価値を高めたい 得意先へのサービスを高めつつ、現場が無理なく仕事をできるようにしたい
利害的 DXによって誰の負担・利益が変わるか DXによって誰にどんなメリット・負担がありますか? DXで生まれた余力を営業・顧客価値向上に使いたい DXによって入力・教育・追加作業などの負担が増えるのは困る
アイデンティティ的 DX後に自分たちは何者でありたいか DXによって、どんな会社になりたいですか? 地域の得意先から「この会社がないと困る」と思われる卸になりたい 現場の経験・判断力を活かして得意先に対応できる会社でありたい
対話を通して新たな意味ズレ要素を発見

なお、カード記述の1項目に関して複数の要素に分類できるものもあります。

基本的には、記述者の説明(意味づけ)により分類しますが、対話を通して別要素の意味づけを発見できることも、今回の対話フェーズの成果でもあります。

この追加の成果を考えると、対話フェーズの成果物は単なる「背景要因カード(意味ズレカードの分類)」ではなくなります。

例えば、両チーム内での対話の中で、特徴的な例は以下の通りです。

A-21 A-54 B-41 B-32
検出時の分類 認知的 利害的 利害的 認知的
対話で確認した背景 DXを単なるシステム導入とは考えていない 効率化による現場負担を懸念 DXによる追加負担を懸念 一律システムでは個別対応できないと認識
対話で発見した要素 アイデンティティ的 価値的、
さらにアイデンティティ的
価値的、
さらにアイデンティティ的
アイデンティティ的

Aチームのカードでは、以下のような新しい意味の発見につながりました。

Aチーム(A-21)の例

  • 記述カード:システムを入れるだけなら、これまでもできた。業務そのものを変えなければ意味がない。
  • 記述者は「DXをシステム導入とは違うものとして理解している」という意味で、認知的要素に位置づけました。
  • しかし対話すると、
    「なぜ、業務そのものを変える必要があるのですか?」という問いかけに対し、「これからも単なる卸ではなく、得意先に必要とされる会社でありたいから。」となり、認知的要素からアイデンティティ的要素という新しい意味の発見につながりました。

Aチーム(A-54)の例

  • 記述カード:効率化だけを進めると、現場に無理が集中する可能性がある。
  • 記述者は「現場が無理することで損する」という意味で、利害的要素に位置づけました。
  • しかし対話すると、
    「なぜ現場に無理が集中することを問題だと思うのですか?」という問いかけに対し、「現場の人が無理をしてまで効率化する会社にはしたくない。」
  • そして「現場の人を大切にしながら会社を変えていきたい。」となり、利害的要素から価値的要素という新しい意味の発見につながりました。
  • さらに、「この会社は現場の人たちの力で地域の得意先を支えてきた会社だから。」へと進むと、利害的要素からアイデンティティ的要素の発見につながります。

一方、Bチームのカードでも同様ですが、特に認知的・利害的な要素の背景から、価値的・アイデンティティ的な要素が発見されています。

Bチーム(B-41)の例

  • 記述カード:今でも日々の業務で手いっぱいなのに、DXのための作業まで増えるのは困る。
  • 記述者は「DXによって自分たちの負担が増える」という意味で、利害的要素に位置づけました。
  • しかし対話すると、
    「なぜ負担が増えることがそんなに問題なのですか?」という問いかけに対し、「得意先への対応や本来やるべき仕事に時間を使えなくなるから。」となり、利害的要素から価値的要素という新しい意味の発見につながりました。
  • さらに、「この会社は得意先への細かな対応が強みだから、それを失いたくない。」まで進むと、利害的要素からアイデンティティ的要素の発見につながります。

Bチーム(B-32)の例

  • 記述カード:得意先ごとに事情が違うので、全部をシステムで一律に管理するのは難しいと思う。
  • 記述者は「仕事は一律には処理できない」というDXに対する認識で、認知的要素に位置づけました。
  • しかし対話すると、
    「なぜ一律管理したくないのですか?」という問いかけに対し、「得意先によって事情が違うから、そこを理解して対応することが自分たちの仕事だから。」となり、認知的要素からアイデンティティ的要素という新しい意味の発見につながりました。
  • なお、この例では、「システム化できない」ではなく「個別対応できること自体が、自分たちの存在価値の一部である」と意味づけることもできます。

このように、検出フェーズでは「私は、こう思う」に対して、対話フェーズで「なぜ、そう思うのか」と対話することにより、「実は、こういう意味だった」と新たな背景を発見できます。

具体的には、4つの意味ズレ要素それぞれに対して、「最初に考えていたこと」から「対話してわかった相手・自分の背景」を確認できれば、対話フェーズの「意味が違う」が対話フェーズ終了後には「なぜ意味が違っていたのかがわかった」に変わります。

  • 認知的:何が起きていると思っていたか → 何を見てその認識になっていたか
  • 価値的:何を重要だと思っていたか → なぜそれを重要だと思うのか
  • 利害的:誰にどんな影響があると思っていたか → 誰の負担・利益を考えていたのか
  • アイデンティティ的:どんな会社・仕事でありたいか → なぜその存在意義を大切にしているのか
  • そして、次の翻訳フェーズで「その意味を相手が理解できるように表現し直す」、統合フェーズで「異なる意味を接続した協働可能な新しい意味を形成する」というMGIMプロセスにつながります。

    分類を通して特に注目したいポイント

    今回の対話フェーズでの意味ズレカードの分類では、Bチームにはアイデンティティ的カードがゼロになり、興味深い結果となっています。

    検出フェーズでは、Bチームが「負担を増やしたくない」「使えるシステムにしてほしい」「入力作業を増やしたくない」と発言していても、対話すると「なぜ、それが嫌なのか?」の先に「自分たちは何をする会社なのか」というアイデンティティ的な要素が存在しています。

    同様にAチームでは、表面的には「会社の将来」や「得意先への価値」を語っていても、その背景には「この会社は何のために存在するのか」というアイデンティティ的な要素が既に明示されています。

    したがって今回のワークショップでは、以下の可能性があると考えています。

    • Aチームでは、アイデンティティ的な意味づけから具体的な価値・認知・利害へ展開しているように見える。
    • 一方、Bチームでは、認知的・利害的な懸念を出発点として、その背景にある価値やアイデンティティが対話によって明らかになる可能性がある。

    これは、AチームとBチームの意味形成の出発点そのものが異なるという、今回のMGIMワークショップの重要な観察ポイントになります。

    そして、この「検出時における要素の分類」と「対話後に発見された要素の分類」を分けて記録しておけば、次の翻訳フェーズで、単なる意見の違いではなく「意味が形成された背景の違い」を翻訳することができるため、価値のある情報となります。

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