理論的マッピング
既存理論はMGIMを構成する各メカニズムの理論的基盤として利用しますが、MGIMは既存理論を単純に統合したものではありません。
MGIMは、既存理論の要素を単純に置き換えたものではなく、各理論がMGIMのどのメカニズムを理論的に支えているかを示すことで、理論間の「間」を接続します。
- 個人レベルのプロセス:認知 → 解釈 → 意味形成 → 感情 → 意図 → 行動 → 経験 → 学習 → アイデンティティ
- 組織レベルのプロセス:意味ズレ → 検出 → 対話 → 翻訳 → 統合 → 協働行動 → 組織学習 → 組織アイデンティティ更新
以下は、その理論ごとの詳細な接続分析です。
MGIMは、既存理論の単純統合ではない
既存理論はそれぞれ重要なメカニズムを説明していますが、それらを「複数主体間の意味の差異 → 検出 → 対話 → 翻訳 → 統合 → 協働 → 学習 → アイデンティティ更新」という一連の循環プロセスとして接続する点には、なお理論的検討の余地があります。
MGIMは、既存理論を一つの新しい理論へ混ぜ合わせるのではなく、それぞれの理論が説明する異なるメカニズムを保持したまま、それらを「意味ズレ」という分析単位によって接続します。
| 既存理論 |
関連する既存理論の主な説明 |
MGIMが接続・説明しようとする部分 MGIMへの貢献 |
Weick センスメイキング |
- 環境の変化や曖昧な状況に対して、組織成員が手がかりを取り出し、既存の経験やアイデンティティ、社会的相互作用を通じて、状況についてもっともらしい意味を形成・更新していくプロセスである。
- 組織成員が状況に意味を与え、もっともらしい解釈を形成する。
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- 複数人の異なる解釈を比較し、ズレを検出・翻訳するプロセスである。
- Weickの理論を基盤としながら、MGIMは別の問いを立てる。
- Weickも社会的・組織的な意味形成を扱っているが、その上でMGIMは、複数主体間に形成された意味の差異を「意味ズレ」として明示的に捉え、その差異を検出し、対話・翻訳を経て、協働可能な意味へ統合するプロセスに焦点を置く。
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Bandura 社会認知理論 |
個人的要因、行動、環境が相互に影響する「相互決定論(reciprocal determinism)」が中心となり、また自己効力感や結果予期などが行動形成に重要な役割を果たす。 |
- Banduraは、「個人の認知的・個人的要因-行動-環境」の相互作用を理論的に支える。
- Banduraの相互作用論的視点を、MGIMでは複数主体間の意味形成と組織レベルの循環を捉えるための理論的基盤として位置づける。
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Lazarus 認知評価理論 |
出来事そのものが直接感情を決定するのではなく、その出来事をどのように評価するかが感情生成に重要となる。 |
- Lazarusは、出来事に対する評価が感情反応に関係することを説明し、出来事に対する評価(appraisal)と感情の関係を理論的に支える。
- MGIMでは、出来事や状況に対する評価が感情反応に関係し、その評価の違いが主体間の感情・意図・行動の違いにつながる可能性を検討する際の理論的基盤として位置づける。
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Ajzen 計画的行動理論 |
- 行動意図が行動の中心的な動機的要因であり、態度、主観的規範、知覚された行動統制が意図形成に関係する。
- また、意図が強くても行動統制等の条件によって実行されない場合がある。
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- Ajzenは、「意図 → 行動」を支える。
- MGIMでは、意味統合から協働行動までの間に媒介・条件変数が存在する。
- 「意味が共有されても必ず協働行動が起きるわけではない」という問題を理論的に支え、MGIMでは意味統合から協働行動への移行を想定するが、その間には意図、態度、主観的規範、知覚された行動統制等の媒介・条件要因が存在し得る。
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Kolb 経験学習理論 |
経験を出発点として、省察、抽象的概念化、能動的実験を循環させながら知識を形成する。 |
- Kolbは、具体的経験・省察的観察・抽象的概念化・能動的実験の循環による経験学習を説明する。
- MGIMでは、この経験学習の考え方を、協働行動後の経験が個人・集団・組織の学習につながる過程を考える理論的基盤として位置づける。
- Kolbは基本的には学習者の経験の変換を説明するが、MGIMは「複数人による協働行動を共同経験として蓄積し、それを組織学習へ変換する」ことを重要視する。
- Kolbは経験を学習へ変換するメカニズムの理論的基盤として位置づけ、集団・組織レベルへの展開はMGIMが他の組織学習研究と接続する部分である。
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Argyris & Schön 組織学習理論 |
- single-loop learningは、既存の価値・規範を維持しながら行動や戦略を修正する学習である。
- 一方、double-loop learningでは、行動を支える価値、規範、前提そのものを問い直す。
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- Argyris & Schönは、「学習 → 意味・前提の変更」を支える。
- MGIMでは、Single-loop「協働行動 → 問題発生 → 行動修正」、Double-loop「協働行動 → 問題発生 → (そもそも我々は何を目指しているのか?) → 意味・価値・前提の再検討」に対応し、ここからアイデンティティ更新へMGIMが接続する。
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Gioia et al. 組織アイデンティティ理論 |
組織アイデンティティを単純に「不変で永続的なもの」と見るのではなく、組織イメージとの相互関係を通じて比較的流動的であり、その不安定性が変化への適応を可能にする。 |
- Gioiaらは、組織アイデンティティと組織イメージの相互関係、およびアイデンティティの流動性・適応性を説明する。
- MGIMでは、その知見を「組織学習 → アイデンティティ更新 → 次の意味形成」という循環に接続する。
- Gioiaらが論じる組織アイデンティティと組織イメージの相互関係・流動性に関する知見を踏まえ、MGIMでは組織学習による意味・前提の変化がアイデンティティの更新につながり、その更新が次の意味形成に影響する循環構造として位置づける(意味統合が協働行動を促進する条件を形成)。
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Mezirow 変容的学習理論 |
- 成人は、自らの経験を無自覚のうちに特定の準拠枠(意味パースペクティブ)に基づいて解釈しており、通常の学習はその準拠枠の内部で新しい知識を蓄積するにとどまる。
- しかし、既存の準拠枠では説明できない経験(混乱を伴う契機:disorienting dilemma)に直面すると、自らの前提を批判的に省察(critical reflection)し、準拠枠そのものを組み替える「パースペクティブ転換(perspective transformation)」が生じる。
- なお、Argyris & Schönのダブルループ学習も同様に前提の問い直しを扱うが、Mezirowは個人の学習・成長という文脈に、Argyris & Schönは組織の行動修正という文脈に、それぞれ主眼を置いている。
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- Mezirowは、個人が自らの意味づけの前提そのものを対象化し、批判的に省察することで、意味パースペクティブを組み替えていく過程を理論的に支える。
- MGIMでは、この「自らの意味づけの前提を対象化し、批判的に省察する」という視点を、個人が自らの認知・解釈・意味形成の前提を自覚し、必要に応じて再構成する「意識・省察」の中核的なメカニズムとして位置づける。
- Mezirowが個人内における意味パースペクティブの変容(個人の学習)を扱うのに対し、MGIMはこの個人内の省察・再構成を出発点としながら、それを主体間の意味ズレの検出・対話・翻訳・統合という組織レベルのプロセスへと接続・拡張する点に独自の焦点を置く。
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Schön 実践における省察 |
- 専門家は、実践の最中にその場で状況を捉え直し行動を調整する「行為の中の省察(reflection-in-action)」と、実践後に自らの判断や前提を振り返る「行為についての省察(reflection-on-action)」を通じて、暗黙のうちに用いている実践知(knowing-in-action)を問い直しながら専門性を発揮する。
- この省察は、単なる規則の適用ではなく、状況との対話を通じて自らの認識枠組みそのものを更新する過程として捉えられる。
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- Schönは、個人が自らの実践的な認知・判断の前提を、状況との対話を通じて自覚し問い直す過程を理論的に支える。
- MGIMでは、この「行為の中で/行為について自らの前提を振り返る」という視点を、個人が自らの意味形成(認知・解釈・意味づけ)を自覚し省察する条件として位置づける。
- Schönが専門家個人の実践知の更新を扱うのに対し、MGIMはこの省察を「意識・省察」という横断的条件として一般化し、複数主体間の意味ズレを検出する前段階の機能として接続する。
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Flavell メタ認知 |
- メタ認知とは、自らの認知活動(知覚・記憶・理解・思考など)そのものを対象として捉え、それをモニタリング(監視)し、コントロール(制御)する高次の認知機能である。
- 人は課題に取り組む最中に、自分がどの程度理解できているか、どのような方略を用いているかを把握し、必要に応じて認知的方略を修正する。
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- Flavellは、自らの認知プロセスそのものを対象化し監視するという「認知についての認知」の仕組みを理論的に支える。
- MGIMでは、この「自らの認知を対象化してモニタリングする」という機能を、個人が自らの認知・解釈・意味形成・感情・意図・行動を自覚するための基盤的なメカニズムとして位置づける。
- Flavellは主に個人の認知課題遂行の文脈でメタ認知を扱うが、MGIMはこれを組織における意味形成の自覚・省察(意識)へと拡張し、意味ズレの検出を可能にする条件として接続する。
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Boland & Tenkasi パースペクティブ・メイキング/テイキング |
- 異なる専門知識共同体(コミュニティ・オブ・ノレッジング)は、それぞれ固有の解釈図式(パースペクティブ)を発展させながら意味を形成する(パースペクティブ・メイキング)。
- そのうえで、他の共同体の視点を理解し、自らの視点と関連づけて解釈する過程(パースペクティブ・テイキング)を通じて、共同体間の知識が統合される。
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- Boland & Tenkasiは、異なる知識共同体がそれぞれ固有の意味世界を形成しながらも、他者の視点を取り込むことで知識を統合していく過程を理論的に支える。
- MGIMでは、この「異なる解釈図式を持つ主体間で、互いの視点を理解し関連づける」という視点を、意味ズレを協働可能な意味へ変換する「翻訳」プロセスの理論的基盤として位置づける。
- Boland & Tenkasiが専門知識共同体間の知識統合を扱うのに対し、MGIMはこれを個人・部門・階層間の意味ズレ一般に拡張し、「検出 → 対話 → 翻訳 → 統合」という一連のプロセスの中の「翻訳」段階として明示的に構造化する。
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Star & Griesemer 境界オブジェクト |
- 異なる社会的世界(専門分野・部門・組織など)に属する人々は、それぞれ異なる意味づけの体系を持ちながらも、「境界オブジェクト」と呼ばれる媒介物(共通の図表・分類体系・成果物など)を介することで、互いの解釈の違いを保持したまま協働を成立させることができる。
- 境界オブジェクトは、複数の社会的世界にとって十分に頑健でありながら、各世界固有の使い方を許容する柔軟性を持つ。
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- Star & Griesemerは、異なる意味世界に属する主体間で、意味の違いを解消せずに協働を可能にする媒介の仕組みを理論的に支える。
- MGIMでは、この「意味の違いを保持したまま協働を可能にする媒介」という視点を、対話・翻訳を経て形成される「協働可能な新しい意味」の性質を理解するための理論的基盤として位置づける。
- Star & Griesemerが物的・制度的な媒介物(オブジェクト)を主な対象とするのに対し、MGIMは意味そのもの(協働可能な新しい意味づけ)を主な対象とし、それが対話・翻訳プロセスを通じて主体間に共有されていく過程として接続する。
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人はどのように意味を形成し行動するのか、個人レベルの意味形成と集団・組織レベルの意味統合が相互に影響する循環構造の詳細は「個人の意味形成」で整理しています。
詳細 個人の意味形成
センスメイキング理論との違い:分析単位の視点から
センスメイキング理論は、意味の形成と再解釈の過程を中心に据えることで、組織における認知的ダイナミクスを説明しています。
Weickらはセンスメイキングを、状況を理解可能なものにして行動につなげるプロセスとして捉え、さらに行動によって生成された手がかりが次の意味形成に影響する構造を示しています。
しかし、センスメイキングは解釈・意味・行動を循環的に扱うため、単純な「意味 → 解釈 → 行動」モデルでは十分ではありません。
組織において意味統合を実践的な成果につなげるためには、それらが共有可能な行動として具体化されることが重要です。
「意味ズレ統合モデル(MGIM)」は、意味の違いを認識・対話・翻訳し、協働可能な新しい意味へ統合するとともに、その意味が協働行動や学習を通じて再び更新される循環プロセスです。
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目的 |
分析視点 |
前提 |
主プロセス |
成果 |
構造 |
| センスメイキング |
意味の形成の説明 |
解釈 |
曖昧性の存在 |
感知 → 解釈・意味づけ → 行動・行為(行動が意味形成を促す側面もある) |
状況についてのもっともらしい意味形成・更新 |
継続的解釈 |
| 意味ズレ統合モデル MGIM |
異なる意味を協働可能な新しい意味へ接続・統合 |
複数主体間の意味ズレと統合 |
意味ズレの存在 |
検出 → 対話 → 翻訳 → 統合 → 協働行動(意味の再創出) |
協働に向けた意味・行動条件の形成 |
循環的進化 |
Weickのセンスメイキング理論は、個人や組織が曖昧な状況に手がかりを見出し、既存の準拠枠と結びつけながらもっともらしい意味を形成し、その意味が行動と相互作用しながら組織的現実を構成していく過程を説明する理論です。
この理論は、主体が状況をどのように意味づけ、行動との相互作用を通じて意味を形成・更新するのかを中心に扱っており、経営者と現場、部門と部門など、複数の主体間に生じる意味の差異そのものを独立した分析単位として扱う視点は、理論の主眼としては限定的です。
また、複数の主体が異なる意味を形成していることが顕在化した後、その差異を相互に理解可能な形へ変換し、協働可能な新しい意味へと統合していく具体的なプロセスについても、センスメイキング理論そのものの射程としては限定的です。
MGIMは、Weickが示した「意味形成は行動と相互作用しながら現実を構成する」という知見を理論的基盤としながら、複数主体間の意味の差異(意味ズレ)を分析単位とし、それを検出・対話・翻訳・統合という一連のプロセスとして接続する点に独自の焦点を置いています。
既存理論を「意味ズレ」という分析単位によって接続し、統合された意味から協働行動 → 組織学習 → 組織アイデンティティの更新まで接続し、その結果が再び次の意味形成に影響する循環構造の詳細は「意味の再創出」で整理しています。
詳細 意味の再創出
研究者:八百幸 孝昌(ATY Japan)
本ページで説明する理論的接続は、八百幸 孝昌が研究・提唱する意味ズレ統合モデル(MGIM)の理論的位置づけを示すものです。