既存理論間の接続
既存理論は何を説明してきたのか
心理学、組織行動論、経営学などでは、個人や組織の現象について多くの研究が蓄積され、それぞれ異なる重要な現象を説明しています。
MGIMが注目するのは、これらの理論そのものではなく、それらの理論によって説明される現象と現象の「間」です。
既存理論が説明する各現象を、意味の差異という共通の分析単位によって接続し、マルチレベルの循環モデルとして再構成します。
個人の意味形成、意識・省察、主体間の相互理解、組織学習・アイデンティティに関しては、複数の理論領域に知見が蓄積されています。
本ページでは、それらをMGIMがどのような関係として接続するかを整理しています。
各理論とMGIMの詳細な対応関係は、理論的マッピングで整理しています。
意味ズレ統合モデル(MGIM)の理論的特徴
MGIMの理論的特徴は、主に次の3点に整理できます。
1. 意味ズレの概念化意味の差異を中心的な現象として位置づける
個人・部門・階層などの主体間に生じる意味形成の違いを、組織における重要な現象として捉えます。
本研究が確認した範囲では、既存研究において個別に論じられてきた諸現象を、複数主体間の意味の差異という観点から横断的に接続し、その統合過程まで一貫して捉える枠組みは限定的です。
MGIMは、個人・部門・階層ごとに形成される意味の違いそのものを、偶発的なノイズではなく、組織の協働や変革の成否を左右する中心的な現象として位置づけます。
この視点により、「情報が共有されているのに行動が揃わない」といった、既存理論を個別に適用するだけでは限界があった現象について、複数主体間の意味の差異がどのように協働行動の違いにつながるのかを、一連のプロセスとして捉えることを目指します。
2. 意味ズレ統合プロセスの提示検出 → 対話 → 翻訳 → 統合
「検出 → 対話 → 翻訳 → 統合」によって、異なる意味を協働可能な新しい意味へ接続・統合するプロセスを提示します。
意味の違いの存在は、さまざまな理論で示唆されてきましたが、本研究が確認した範囲では、その違いをどのように扱い、協働可能な状態へつなげるのかについて、既存研究を横断して一連のプロセスとして捉える枠組みは限定的です。
MGIMは、これを次の4つのプロセスとして提示します。
| プロセス | 内容 |
|---|---|
| 検出 | 違いに気づく |
| 対話 | 互いの前提を表出する |
| 翻訳 | 異なる意味を保持したまま、相互に理解でき、行動に結びつけられる表現へ変換する |
| 統合 | 協働可能な新しい意味を形成する |
これにより、意味ズレへの対応を、分析・実践するための体系的なプロセスとして扱えると考えます。
3. マルチレベル循環の提示個人から組織へ、そして個人へ
個人の意味形成から集団・組織レベルの意味統合、協働行動、組織学習、組織アイデンティティの更新までを接続し、その結果が再び次の意味形成に影響する循環構造として捉えます。
これらは、それぞれ異なる理論領域で個別に説明されてきた現象です。
MGIMは、個人レベルから組織レベルへと連なる循環として接続し、さらに、更新されたアイデンティティが次の個人の意味形成(認知・解釈)に影響を与えるという、レベルをまたいだフィードバック構造として捉えます。
これにより、組織が環境変化に応じて意味づけを更新し続ける動的なプロセスとして説明することを目指します。
MGIMで重要なのは、「検出 → 対話 → 翻訳 → 統合」の4プロセスです。
既存理論には、意味形成、対話、学習、アイデンティティなどの概念が存在しますが、MGIMは、それらを意味の差異を協働可能な意味へ変換する一連のメカニズムとして構造化します。
既存理論が「個別の心理・組織現象を説明している」のに対し、MGIMは「異なる意味を持つ主体間の差異を、協働可能な新しい意味へ変換するメカニズム」を扱う、という関係です。
意味ズレ統合モデル(MGIM)の理論的貢献
MGIMの各要素に対応する既存理論と、MGIMの理論的貢献を、領域別に整理します。
| 領域 | 概要 | 既存理論 | MGIMの理論的貢献 |
|---|---|---|---|
| 1. 個人の意味形成 | 個人レベルの内的プロセス 出来事や情報を認知し、解釈し、自分や組織にとって「何を意味するか」を形成するプロセス。 |
| 個人の意味形成を、認知・解釈・意味形成・感情・意図・行動・経験・学習・アイデンティティまでを含む循環プロセスとして捉える。 |
| 2. 意識・省察 | 横断的な条件 自らの認知・解釈・意味形成・感情・意図・行動・経験などを自覚し、それらの前提や関係を省察する。 |
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| 3-1. 検出 MGIMプロセス | 複数主体の意味の差異 個人間・組織間で異なる意味が生じていることを認識し、意味の差異を検出する。 | Weick:センスメイキング理論(状況の解釈・意味形成) |
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| 3-2. 対話・翻訳 → 統合 | 協働可能な新しい意味の形成 対話を通じて相互理解を深め、意味を翻訳し、協働可能な新しい意味へ統合する。 |
| 「検出 → 対話 → 翻訳 → 統合」を一連のプロセスとして構造化し、協働可能な新たな意味を形成する。 |
| 4. 意味の再創出 個人の意味形成に循環 | 組織レベルの更新(意味の再創出) 統合された意味が協働行動につながり、経験を通じた学習を経て、組織アイデンティティが更新される。 |
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上の表は、個別理論の詳細な対応表ではありません。
既存研究が扱ってきた理論領域と、MGIMがそれらをどのような循環的関係として接続するかを領域別に整理したもので、理論ごとの射程と限定は理論的マッピングで示しています。
既存理論の「間」にある問題
組織成員が曖昧な状況や出来事に対して意味を形成・更新し、その意味づけが行為と相互作用しながら組織的現実を構成していく過程は、センスメイキング理論などによって説明されています。
個人の認知・行動・環境の相互作用は、社会認知理論によって説明されています。
リーダーシップについては、リーダーシップを「意味のマネジメント」として捉える研究があります。
関連する主な既存理論・研究は、次のとおりです。この一覧は、「理論的マッピング」で扱う12理論に、リーダーシップの補足文献と、概要ページで言及している近接研究を加えたもので、12理論とは別の網羅的な文献一覧ではありません。
| 扱う現象 | 理論 | 代表的な文献 |
|---|---|---|
| 状況の意味形成 | センスメイキング理論 | Weick, K. E. (1995). Sensemaking in Organizations. Thousand Oaks, CA: SAGE Publications. |
| 認知・行動・環境の相互作用 | 社会認知理論 | Bandura, A. (1986). Social Foundations of Thought and Action: A Social Cognitive Theory. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall. |
| 感情 | 認知評価理論(Appraisal Theory) | Lazarus, R. S. (1966). Psychological Stress and the Coping Process. New York: McGraw-Hill. / Lazarus, R. S. (1991). Emotion and Adaptation. New York: Oxford University Press. |
| 意図と行動 | 計画的行動理論(Theory of Planned Behavior) | Ajzen, I. (1991). The Theory of Planned Behavior. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 50(2), 179–211. |
| 経験と学習 | 経験学習理論(Experiential Learning) | Kolb, D. A. (1984). Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall. |
| 組織学習 | 組織学習理論(Organizational Learning) | Argyris, C. & Schön, D. A. (1978). Organizational Learning: A Theory of Action Perspective. Reading, MA: Addison-Wesley. |
| 学習する組織 | 学習する組織(Learning Organization) | Senge, P. M. (1990). The Fifth Discipline: The Art and Practice of the Learning Organization. New York: Doubleday. |
| 知識創造 | 知識創造理論(Knowledge-Creating Company) | Nonaka, I. & Takeuchi, H. (1995). The Knowledge-Creating Company: How Japanese Companies Create the Dynamics of Innovation. Oxford University Press. |
| 組織アイデンティティ | 組織アイデンティティ理論(Organizational Identity) | Gioia, D. A., Schultz, M., & Corley, K. G. (2000). Organizational Identity, Image, and Adaptive Instability. Academy of Management Review, 25(1), 63–81. |
| 組織アイデンティティの定義 | 組織アイデンティティ(中核的・永続的・特徴的) | Albert, S. & Whetten, D. A. (1985). Organizational Identity. Research in Organizational Behavior, 7. |
| 組織アイデンティティの動態 | 組織アイデンティティの動態理論 | Hatch, M. J. & Schultz, M. (2002). The Dynamics of Organizational Identity. Human Relations, 55(8), 989–1018. |
| 実践における省察 | 省察理論(Reflection-in-Action / Reflection-on-Action) | Schön, D. A. (1983). The Reflective Practitioner: How Professionals Think in Action. New York: Basic Books. |
| 認知のモニタリング | メタ認知理論(Metacognition) | Flavell, J. H. (1979). Metacognition and Cognitive Monitoring: A New Area of Cognitive-Developmental Inquiry. American Psychologist, 34(10), 906–911. |
| 異なる知識共同体間の視点の翻訳・共有 | パースペクティブ・メイキング/テイキング理論 | Boland, R. J. Jr. & Tenkasi, R. V. (1995). Perspective Making and Perspective Taking in Communities of Knowing. Organization Science, 6(4), 350–372. |
| 異なる社会的世界の間での意味の橋渡し | 境界オブジェクト理論(Boundary Objects) | Star, S. L. & Griesemer, J. R. (1989). Institutional Ecology, ‘Translations’ and Boundary Objects: Amateurs and Professionals in Berkeley’s Museum of Vertebrate Zoology, 1907–39. Social Studies of Science, 19(3), 387–420. |
| 境界を越える知識の移転・翻訳・変換 | 境界知識理論(Knowledge Boundaries) | Carlile, P. R. (2004). Transferring, Translating, and Transforming: An Integrative Framework for Managing Knowledge Across Boundaries. Organization Science, 15(5), 555–568. |
| 技術フレームの不一致 | 技術フレーム理論(Technological Frames) | Orlikowski, W. J. & Gash, D. C. (1994). Technological Frames: Making Sense of Information Technology in Organizations. ACM Transactions on Information Systems, 12(2), 174–207. |
| フレームの整合 | フレーム整合理論(Frame Alignment) | Snow, D. A., Rochford, E. B., Jr., Worden, S. K., & Benford, R. D. (1986). Frame Alignment Processes, Micromobilization, and Movement Participation. American Sociological Review, 51(4), 464–481. |
| 経験の前提の省察と意味の再構成 | 変容的学習理論(Transformative Learning) | Mezirow, J. (1991). Transformative Dimensions of Adult Learning. San Francisco: Jossey-Bass. |
| リーダーシップによる意味の形成 | 意味のマネジメント(The Management of Meaning) | Smircich, L. & Morgan, G. (1982). Leadership: The Management of Meaning. The Journal of Applied Behavioral Science, 18(3), 257–273. |
Carlile(2004)、Orlikowski & Gash(1994)、Snow ら(1986)、Boland & Tenkasi(1995)は、MGIMの翻訳・対話のプロセスに近接する研究です。Senge(1990)、Nonaka & Takeuchi(1995)、Hatch & Schultz(2002)、Albert & Whetten(1985)は、今後の研究展開の暫定的な命題(P4・P5)が接続する理論です。
個人が自らの意味形成を自覚し、その前提を振り返る過程については、省察理論やメタ認知理論が、複数主体間で意味を翻訳し、共有可能にする過程については、パースペクティブ・メイキング/テイキング理論や境界オブジェクト理論が、それぞれ関連する知見を提供しています。
しかし、本研究が確認した範囲では、組織内に異なる意味を持つ複数の主体が存在する場合に、その意味の違いがどのように顕在化し、どのように相互理解され、どのように協働可能な意味へ変換されるのかというプロセスを、既存研究を横断して統合的に捉える枠組みは限定的です。
ただし、これは既存研究に意味の差異や複数主体間の相互作用が存在しないことを意味するものではありません。
MGIMが提案するのは、それらを「意味の差異」という分析単位として明示し、検出 → 対話 → 翻訳 → 統合というプロセスを通じて、協働行動 → 組織学習 → アイデンティティ更新まで接続する点です。
MGIMは、この理論間の接続部分に着目しています。
リーダーシップとMGIMとの関係
既存の組織論やセンスメイキング理論において、リーダーシップは、不確実な環境下でメンバーが納得できるストーリーを提示し、個々の「もっともらしさ(Plausibility)」を形成するプロセスとして捉えられてきました。
Smircich & Morgan(1982)は、リーダーシップの本質を「意味のマネジメント(The Management of Meaning)」として定義し、リーダーが現実を枠づけ、フォロワーのために意味を形成する存在であると論じました。
MGIMは、この「意味のマネジメント」という視点を継承しながら、リーダー単独による意味の形成・提示にとどまらず、組織内に生じる意味の差異を統合することで、協働可能な新しい意味を形成するプロセスとして再定義し、発展させます。
センスメイキング理論とMGIMの関係競合ではなく、分析焦点の違い
センスメイキング理論とMGIMは、競合する関係ではなく、異なる分析焦点を持つものとして位置づけられます。
センスメイキング理論は、主体が不確実な状況をどのように意味づけ、理解可能な状況として構成するのかを捉えます。
これに対し、MGIMは、異なる主体間に生じる意味の差異を分析単位として捉え、その差異を協働可能な新しい意味へ統合するプロセスに焦点を置きます。
既存研究にも、複数主体間の意味形成や相互作用を扱う研究は存在します。
MGIMは、複数主体間に生じる意味の差異を分析単位として設定し、その差異が認識・接続されない状態を「意味ズレ」として概念化したうえで、検出 → 対話 → 翻訳 → 統合 → 協働可能な意味の形成というプロセスを、一連の分析枠組みとして提示します。
この観点から、MGIMにおけるリーダーシップは、単に「正しい意味」を提示してメンバーの意味を統一することではありません。
リーダーには、異なる主体が形成している意味を認識し、それらの差異を捉え、対話と翻訳を通じて相互理解を促し、必要に応じて複数の意味を接続・統合する役割が求められます。
そのため、MGIMでは、リーダーシップを単一の行為としてではなく、意味の差異の状態や統合プロセスに応じて、異なる役割を担うものとして捉えます。
MGIMの4つのプロセスに対応して、次の4つの役割を区別します。
- 検出者自らの意味だけでなく、他者・部門・専門領域などの異なる意味形成を認識し、意味の差異や意味形成の変化を把握する。
- 対話促進者異なる主体が持つ意味や背景を対話を通して浮き彫りにし、それぞれの解釈や前提を相互に理解できるよう促す。
- 翻訳者異なる主体が持つ意味や背景を、それぞれの主体が理解し、協働に活用できる言葉や概念に変換する。
- 統合者既存の意味のいずれかに一方的に合わせるのではなく、異なる意味を接続し、協働可能な新しい意味の形成を促す。
この4つの役割は、既存のリーダーシップ理論における役割分類をそのまま再構成したものではなく、MGIMのプロセスにおいてリーダーシップが担いうる役割を整理したものです。
リーダーが常に4つすべてを担うことを意味するものではなく、組織の状況、意味の差異の程度、関係する主体、統合の段階などに応じて、必要な役割が異なります。
この点において、MGIMはリーダーシップそのものを一つの実践手法として定義するものではありません。
むしろ、複数主体間に生じる意味の差異を分析し、その差異がどのように協働可能な意味へと統合されるのかを説明する概念モデルとして位置づけられます。
リーダーシップは、その意味統合プロセスにおいて重要な主体・機能の一つとして位置づけられます。
現時点の位置づけ
本ページの理論的接続は、MGIMの理論的位置づけを示すもので、各理論との対応関係の学術的な検証は今後の課題です。
「既存研究を横断する枠組みは限定的」という記述は、本研究が確認した範囲での位置づけで、網羅的な文献レビューに基づくものではなく、今後の確認が必要です。
MGIMは、既存理論の知見と、長年のコンサルティング経験からの気づき、大学院での研究・概念化を基盤に構築した概念モデルです。
ワークショップ事例から導いたものではなく、事例はMGIMの実施および検証の一部です。
4つの分析観点は、実務上の観察に基づく作業的な整理で、学術的な根拠づけは今後の課題です。
関連ページ
意味の差異を捉える4つの分析観点、意味の差異を検出・対話・翻訳・統合するMGIMの4つのプロセスと、その循環モデルは「MGIMプロセス」で、各理論とMGIMの対応関係は「理論的マッピング」で整理しています。
研究者:八百幸 孝昌(ATY Japan)
本ページで説明する理論的接続は、八百幸 孝昌が研究・提唱する意味ズレ統合モデル(MGIM)の理論的位置づけを示すものです。
