ATY Japan

Case1|DX推進

Case1|発展

これまで、検出・対話・翻訳・統合のフェーズを経て、AチームとBチームそれぞれのチーム単位で協働可能な新しい意味を形成しました。

整理すると以下の通りです。

1.検出フェーズ:意味ズレカード

  ↓

2.対話フェーズ:認知・価値・利害・アイデンティティ → なぜそう考えるのか

  ↓

3.翻訳フェーズ:意味接続カード

  ↓

4.統合フェーズ:意味接続カード → 中間的な協働可能な意味 → より上位の協働可能な意味
 + 意味の具体化:新たに始めること / 現状を止めること

ワークショップからの発展

今回のA社は2つのチームそれぞれで並行してワークショップを実施しましたので、両チームの成果を共有し、全社としての協働可能な新しい意味を形成することにしました。

その進め方は、AチームとBチームそれぞれでワークショップの成果を整理したシート(Meaning Gap Card)を作成し、成果に至った背景やフェーズにおける特徴的な議論などを紹介し、全員で共有・議論して、全社として協働可能な新しい意味を形成していきます。

チーム統合
 Aチーム:Aチーム内で協働可能な意味を形成
 Bチーム:Bチーム内で協働可能な意味を形成

  ↓

全体共有:A・B両チームの成果と意味形成過程を共有

  ↓

全社統合:両チームの意味を保持しながら、全社として協働可能な新しい意味を形成

今回のワークショップの結果、以下の通りの「協働可能な新しい意味の形成」につながりました。

現状:DX → システム・効率化 → 仕事が変わる / 増えるのではないか

  ↓

新しい意味:DX → 情報+現場の判断 → 業務をより良くする → 余力が生まれる → 得意先への提案・対応 → 提供価値が高まる

そして、「効率化のためのDX」から「得意先への提供価値を高めるためのDX」へと、新たな意味形成につながりました。

さらに、「提供価値を高める」ことは、「地域の得意先に必要とされる」から「地域密着型卸としての存在価値を高める」へとつながり、「次の意味創出」へと循環していきます。

全体共有から全体統合へ

チーム別シート(Meaning Gap Card)
Aチーム Bチーム
1.テーマ 全社でDXを推進する 全社でDXを推進する
2-1
自分にとっての意味
DXは会社の存在価値を変えるためのものであり、得意先への提供価値を高め、10年後も地域で必要とされる会社になるための変革である。 DXは現場の仕事を置き換えるものではなく、現場の経験・判断力を活かしながら、仕事をより良くし、得意先への対応を高めるためのもの。
2-2
相手にとっての意味
Aチーム内では、DXを「会社の存在価値」という大きな意味だけでなく、情報活用、業務効率化、現場での判断など、具体的な仕事の変化として捉える意味も存在している。 Bチーム内では、DXを「現場の仕事をより良くする」という意味だけでなく、標準化、個別対応、効率化、得意先対応、現場の経験・判断力など、それぞれ異なる意味から捉えている。
3.なぜ違うのか
  • 同じAチーム内でも、DXを見る起点が異なる。
  • 会社の将来・存在価値から捉える人と、情報・業務・現場の具体的な変化から捉える人がいる。
  • WhyからDXを捉える意味と、How・具体的な業務からDXを捉える意味が異なっている。
  • 同じBチーム内でも、DXを見る対象が異なる。
  • システムや業務プロセスを変えることを重視する意味と、個々の得意先への対応や現場の判断を守ることを重視する意味が存在している。
4-1
相手の意味をどう理解したか
具体的な業務や情報活用を重視する意味は、会社の存在価値を否定するものではなく、会社の将来価値を実現するためには、現場で実際に機能する仕組みが必要だという意味として理解した。 標準化を進めたいという意味は、現場の個別対応をなくしたいという意味ではなく、標準化できる部分と、人が判断すべき部分を分けることで、現場の仕事をより良くしたいという意味として理解した。
4-2
相手の意味をどう解釈したか
「存在価値」と「業務変革」は別々の目的ではなく、会社の存在価値を高めるための具体的な手段として接続できると解釈した。 「効率化」と「個別対応」は対立するものではなく、標準化できる仕事を効率化することで、人が必要な判断や得意先対応により多くの時間を使えると解釈した。
5-1
統合できる新しい意味
DXによって会社の存在価値を高めるために、情報を活用し、業務を変え、現場の判断と組み合わせながら得意先への提供価値を高める。 標準化できる業務は効率化し、そこで生まれた余力を現場の経験・判断が必要な得意先対応に振り向けることで、現場の仕事をより良くする。
5-2
意味に基づく協働行動
会社の将来像を具体的なDXテーマに落とし込み、情報活用・業務効率化・現場判断をつなげる。効率化で生まれた余力を得意先への提案・対応などの価値創造に振り向ける。 標準化できる業務と個別判断が必要な業務を整理し、情報やシステムで支援できる部分を効率化する。その余力を得意先対応や人による判断に振り向ける。
全体共有:AチームとBチームの成果を比較

ここで、チーム単位で作成したシート(Meaning Gap Card)を対比すると、以下の考察となります。

1.両チームの意味の違い(3.なぜ違うのか)

  • Aチームから見たBチームとの違い
    • Aチームは、DXを「会社が将来どのような存在になるのか」という上位の意味から捉えているのに対して、Bチームは、DXによって「実際の仕事がどう変わるのか」「現場にどのような影響があるのか」という具体的な意味から捉えています。
    • そのため、Aチームは「会社の将来・存在価値」を起点に考え、Bチームは「現場の仕事・負担・個別対応」を起点に考えるという違いが生じています。
    • 但し、両者はDXそのものについて対立しているのではなく、「得意先への提供価値を高めたい」という共通した意味を持っていると考察します。
  • Bチームから見たAチームとの違い
    • Bチームは、日々の仕事の中で、「得意先ごとの個別対応」「急な注文変更」「欠品対応」「現場での判断」「新しいシステム導入による負担」などを直接経験しています。
    • DXを考える際に、まず「実際に現場の仕事がどう変わるのか」を重視する一方、Aチームは、会社全体の将来や存在価値からDXを考えているため、「10年後も必要とされる会社にするには何を変えるべきか」を重視するという、出発点が異なっているだけであると考えます。

4.理解と解釈

4-1.相手の意味をどう理解したか

  • Aチームから見たBチームの理解
    • Aチームの「会社の存在価値を変える」「得意先への提供価値を高める」という考えは、単に効率化したいという意味ではありません。
    • 対話を通して、「効率化や情報活用によって生まれた余力を、得意先への価値提供につなげ、将来も必要とされる会社になりたい」という意味であることが理解できます。
  • Bチームから見たAチームとの違い
    • Bチームの「現場の負担を増やしたくない」「一律のシステムでは対応できない」という意見は、DXそのものへの反対ではありません。
    • 対話を通して、それは「現場がこれまで培ってきた経験や判断力を活かしながら、得意先への対応力を維持・向上したい」という意味であることが理解できます。

4-2.相手の意味をどう解釈したか

  • Aチームから見たBチームの解釈
    • Aチームが考える「効率化」は、仕事を減らしたり、人の仕事をなくしたりすること自体が目的ではありません。
    • そのため、Bチームが懸念していた「効率化すると仕事量を増やされるのではないか」という意味とは異なり、効率化によって生まれた余力を新しい価値創造に使うことが重要であると解釈できます。
  • Bチームから見たAチームの解釈
    • Bチームが懸念しているのは「変化」ではなく、現場の強みを失うような変化です。
    • そのため、Aチームが考える「会社の将来のためのDX」とBチームが考える「現場をより良くするDX」は対立するものではなく、会社の存在価値を高めるために両方必要な意味として解釈できます。

5.統合と協働行動

5-1.統合できる新しい意味

  • Aチームで統合された意味
    • Aチームは「現場の経験・判断力を活かしながら、DXによって業務をより良くし、得意先への提供価値を高めることで、10年後も地域から必要とされる卸売企業になる。」になります。
    • この意味では、Aチームの「会社の存在価値」「得意先への提供価値」「情報活用」、Bチームの「現場の経験・判断」「標準化と個別対応」、AとB共通の「効率化による余力」を一つの意味として接続できます。
  • Bチームで統合された意味
    • Bチームは「現場の経験・判断力を活かし、標準化できる仕事はDXによって効率化する。その結果生まれた余力を得意先への提案・対応に振り向け、地域の得意先から必要とされる会社になる。」になります。
    • これにより、「効率化すると現場の仕事が増える」「効率化して会社の価値を高めたい」という一見異なる意味を、「効率化した余力を、現場と得意先の価値向上に使う」という新しい意味に接続できます。

5-2.意味に基づく協働行動

なお、ここでいう協働行動は、統合された意味に基づいて、組織として何を実践していくかという行動の方向性を示すこととし、具体的な施策・実施計画は改めて策定することになります。

Aチームの協働可能な意味に基づく行動は、以下の通り掘り下げることができます。

  • 1.得意先・営業・物流の情報を共有し、活用できる仕組みをつくる。
  • 2.標準化できる業務と、現場の判断を残す業務を整理する。
  • 3.DXによって生まれた時間・情報・判断余力を、得意先への提案・対応に振り向ける。
  • 4.「効率化した結果、仕事を増やす」のではなく、「生まれた余力を価値創造に使う」という考え方を共有する。
  • 5.DXを単なるシステム導入ではなく、会社の存在価値を高める活動として進める。
  • 一方、Bチームの協働可能な意味に基づく行動は、以下の通り掘り下げることができます。

    • 1.現場で標準化できる業務と、個別判断が必要な業務を整理する。
    • 2.現場の経験・判断を活かせるDXの仕組みを検討する。
    • 3.DXによって増える作業ではなく、減らせる作業を明確にする。
    • 4.効率化によって生まれた時間を、得意先への提案・対応に使う。
    • 5.DXの成果を「業務時間の削減」だけではなく、「得意先への提供価値」で確認する。
    全体統合

    今回のワークショップでは、両チームがシート(Meaning Gap Card)を発表した後、全体で共有した際に見えてくるものがありました。

    • Aチームの意味形成は、「存在価値 → 情報 → 効率化 → 余力 → 顧客価値」
    • 一方、Bチームは、「現場 → 負担 → 個別対応 → 経験・判断 → 余力 → 顧客対応」となっています。
    • そして全体共有で、「情報 → 標準化 → 効率化 → 現場判断 → 余力 → 顧客対応 → 提供価値 → 存在価値」へ接続しています。

    Aチームの「会社の存在価値を高めるためにDXをする」、Bチームの「現場の経験・判断を活かしてDXをする」という二つの意味が確認できました。

    そして、ワークショップで得られた発言・カードをMGIMの分析枠組みに基づいて再構成すると、その間には「情報を活用する → 標準化できる仕事は効率化する → 現場の経験・判断を活かす → 余力を得意先への提案・対応に使う → 提供価値を高める → 地域から必要とされる会社になる」という接続が見えてきます。

    最後の全体まとめも「AチームとBチームのどちらを採用するか」ではなく、AとBそれぞれの意味を保持したまま、両者を含む協働可能な意味を形成するというMGIM本来の展開になります。

    特に今回のシート(Meaning Gap Card)では、「統合した新しい意味」だけでなく「なぜその意味に統合できたのか」を発表することが重要となります。

    これによって、最終発表が単なる結論発表ではなく、検出から統合までの意味形成プロセスそのものの共有になります。

    このようにして形成された統合された「協働可能な新しい意味」は、そこで終わるものではなく、実際の協働行動につながり、その経験が組織学習を生み、さらに組織アイデンティティの更新を通じて、次の意味形成へとつながっていきます。

    そして、統合された「協働可能な新しい意味」は、協働行動 → 経験 → 学習 → アイデンティティ更新 → 次の意味創出という循環の出発点となります。

    今回のワークショップでは、統合された意味と協働行動の方向性までを確認しました。

    これ以降の協働行動 →(経験)→ 組織学習 → アイデンティティ更新については、本事例のワークショップ後に継続的に観察すべき研究課題として位置づけます。

    本事例から得られたMGIM上の示唆

    1. 意味ズレは単なる意見対立として現れるとは限らない。

    2. 表面的な認知・利害の差異の背後に価値・アイデンティティが存在する場合がある。

    3. 対話によって意味ズレの背景要因が再発見される。

    4. 翻訳は単なる言葉の言い換えではなく、異なる意味を接続可能な表現に変換する過程として観察できる。

    5. 統合は既存意味の選択ではなく、複数の意味を保持した新しい意味の形成として現れる。

    6. 統合は一回で完了するとは限らず、統合単位が変わると新たな意味ズレが発生し得る。

    今回のB-41、B-32、A-21、A-54の意味ズレカードから、「意味ズレの表面的な要素と、その背後にある意味形成の要素は一致しない場合がある。」ことも発見できました。

    そして、以下の示唆もあります。

    • 対話は意味ズレを単に解消する過程ではなく、当初の意味ズレの背景に存在していた新しい意味を発見する過程でもある。
    • 主体ごとに意味形成の出発点が異なっていても、媒介する意味を発見することで協働可能な新しい意味を形成できる。

    さらに、「チーム内で意味統合が成立した後、その統合された意味自体が、次の主体間の意味ズレを発生させる可能性がある。」という点も注目できます。

    これは、MGIMを単純な「4段階ワークショップ」ではなく、多層・循環的な意味形成モデルとして発展させる上で重要です。

    なお、今回のケースでの研究上のポイントは、次のように整理できます。

    • MGIMでは、意味ズレは単に「異なる意見」として検出されるだけではなく、対話を通じて、その背後にある価値的・アイデンティティ的意味が再発見される可能性がある。
    • その再発見された意味を翻訳によって接続可能な表現へ変換し、さらに中間的意味を経て、複数主体が保持していた意味を包含する協働可能な新しい意味へ統合する。
    研究上の限界

    ATY Japanは本事例の理論(意味ズレ統合モデル:MGIM)の研究・提唱者であり、MGIMワークショップは、検出・対話・翻訳・統合するMGIMの4つのコアプロセスを、ATY Japanがワークショップ形式に操作化した基本手順です。

    本事例では、ファシリテーションは企業様で実施し、ATY Japanはファシリテーションをご支援する形で関与しています。

    なお、本事例は1社の1回の実施結果であり、一般化には限界があります。

    本事例は、MGIMの一般的妥当性を検証するものではなく、MGIMの4つのコアプロセスが実践場面においてどのように観察・記述できるのかを示す探索的な事例です。

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