Case1|食品卸売業A社のMGIM研修「発展フェーズ」の記録・協働可能な新しい意味の形成

Case1|DX推進事例

MGIMワークショップの実施事例として、食品卸売業A社のDX推進に向けた事例をご紹介します。フェーズ別の議論内容や成果物を具体的にご紹介し、ATY Japanの考察や示唆などを解説しています。

Case1|発展

発展フェーズ

目的
参加者全員の「協働可能な新しい意味」を形成する。
成果物
新しい意味カード+その意味に基づく協働行動の方向性(具体的な施策・実施計画は含まない)
完了基準
両チームの意味を保持しながら、参加者全員で協働可能な新しい意味を形成し、それを自分の立場から理解し、協働に活用できる方向性を共有できている。
発展フェーズの目的は、「参加者全員としての協働可能な新しい意味を形成する。」ことです。

記録

本事例では、新しい意味カードへの記入はなく、参加者全員の共有・議論の中で確認された発言を、同席記録から転記しています。

保持の確認は、本事例の記録には含まれていません。 限界13

発展フェーズ:研修で記録された内容

これまで、検出・対話・翻訳・統合のフェーズを経て、AチームとBチームそれぞれのチーム単位で協働可能な新しい意味を形成しました。整理すると以下の通りです。

  1. 1.検出フェーズ意味ズレカード
  2. 2.対話フェーズ認知・価値・利害・アイデンティティ → なぜそう考えるのか
  3. 3.翻訳フェーズ意味接続カード
  4. 4.統合フェーズ意味接続カード → 新たに始めること / 現状を止めること → チームの協働可能な新しい意味

ワークショップからの発展

今回のA社は2つのチームそれぞれで並行してワークショップを実施しましたので、両チームの成果を共有し、参加者全員で協働可能な新しい意味を形成することにしました。

その進め方は、AチームとBチームそれぞれでワークショップの成果を整理した意味ズレ統合シート(Meaning Gap Card)を作成し、成果に至った背景やフェーズにおける特徴的な議論などを紹介しました。

そして、参加者全員で共有・議論して、参加者11名(2チーム)の間で、協働可能な意味が発言として確認されました。 限界5

  1. チーム統合Aチーム:Aチーム内で協働可能な意味を形成
    Bチーム:Bチーム内で協働可能な意味を形成
  2. 参加者全員で共有A・B両チームの成果と意味形成過程を共有
  3. 参加者全員で統合両チームの意味を接続しながら、参加者全員の「協働可能な新しい意味」を形成(保持の確認は未実施)

参加者全員の共有から統合へ:研修で作成された成果物

記録

以下は、実際のワークショップで両チームが作成した意味ズレ統合シート(Meaning Gap Card)です。

チーム別意味ズレ統合シート(Meaning Gap Card)

AチームBチーム
1.テーマ全社でDXを推進する全社でDXを推進する
2-1
自分にとっての意味
DXは会社の存在価値を変えるためのものであり、得意先への提供価値を高め、10年後も地域で必要とされる会社になるための変革である。DXは現場の仕事を置き換えるものではなく、現場の経験・判断力を活かしながら、仕事をより良くし、得意先への対応を高めるためのもの。
2-2
相手にとっての意味
Aチーム内では、DXを「会社の存在価値」という大きな意味だけでなく、情報活用、業務効率化、現場での判断など、具体的な仕事の変化として捉える意味も存在している。Bチーム内では、DXを「現場の仕事をより良くする」という意味だけでなく、標準化、個別対応、効率化、得意先対応、現場の経験・判断力など、それぞれ異なる意味から捉えている。
3.なぜ違うのか
  1. 同じAチーム内でも、DXを見る起点が異なる。
  2. 会社の将来・存在価値から捉える人と、情報・業務・現場の具体的な変化から捉える人がいる。
  3. WhyからDXを捉える意味と、How・具体的な業務からDXを捉える意味が異なっている。
  1. 同じBチーム内でも、DXを見る対象が異なる。
  2. システムや業務プロセスを変えることを重視する意味と、個々の得意先への対応や現場の判断を守ることを重視する意味が存在している。
4-1
相手の意味をどう理解したか
具体的な業務や情報活用を重視する意味は、会社の存在価値を否定するものではなく、会社の将来価値を実現するためには、現場で実際に機能する仕組みが必要だという意味として理解した。標準化を進めたいという意味は、現場の個別対応をなくしたいという意味ではなく、標準化できる部分と、人が判断すべき部分を分けることで、現場の仕事をより良くしたいという意味として理解した。
4-2
相手の意味をどう解釈したか
「存在価値」と「業務変革」は別々の目的ではなく、会社の存在価値を高めるための具体的な手段として接続できると解釈した。「効率化」と「個別対応」は対立するものではなく、標準化できる仕事を効率化することで、人が必要な判断や得意先対応により多くの時間を使えると解釈した。
5-1
統合できる新しい意味
DXによって会社の存在価値を高めるために、情報を活用し、業務を変え、現場の判断と組み合わせながら得意先への提供価値を高める。標準化できる業務は効率化し、そこで生まれた余力を現場の経験・判断が必要な得意先対応に振り向けることで、現場の仕事をより良くする。
5-2
意味に基づく協働行動
  1. 会社の将来像を具体的なDXテーマに落とし込み、情報活用・業務効率化・現場判断をつなげる。
  2. 効率化で生まれた余力を得意先への提案・対応などの価値創造に振り向ける。
  1. 標準化できる業務と個別判断が必要な業務を整理し、情報やシステムで支援できる部分を効率化する。
  2. その余力を得意先対応や人による判断に振り向ける。

意味と解釈の定義

  1. 理解:相手が何を意味しているのかを、その背景を含めて把握する。
  2. 解釈:相手の意味を、自分が形成している意味との関係から位置づけ直す。
  3. 相手:同じチーム内の他のメンバーを指す。(他チームとの比較は、参加者全員での共有の場で行ったものとして、次節「参加者全員で共有」に分けて記述します。)

参加者全員で共有:AチームとBチームの成果を比較

記録

ここで、チーム単位で作成した意味ズレ統合シート(Meaning Gap Card)を、参加者全員で対比しながら議論した結果は以下の通りです。

意味ズレ統合シート:3.両チームの意味の違い(3.なぜ違うのか)

Aチームから見たBチームとの違い

  1. Aチームは、DXを「会社が将来どのような存在になるのか」という上位の意味から捉えているのに対して、Bチームは、DXによって「実際の仕事がどう変わるのか」「現場にどのような影響があるのか」という具体的な意味から捉えていました。
  2. そのため、Aチームは「会社の将来・存在価値」を起点に考え、Bチームは「現場の仕事・負担・個別対応」を起点に考えるという違いが生じていました。
  3. 但し、両者はDXそのものについて対立しているのではなく、「得意先への提供価値を高めたい」という共通した意味を持っていると考察しました。

Bチームから見たAチームとの違い

  1. Bチームは、日々の仕事の中で、「得意先ごとの個別対応」「急な注文変更」「欠品対応」「現場での判断」「新しいシステム導入による負担」などを直接経験していました。
  2. DXを考える際に、まず「実際に現場の仕事がどう変わるのか」を重視する一方、Aチームは、会社全体の将来や存在価値からDXを考えているため、「10年後も必要とされる会社にするには何を変えるべきか」を重視するという、出発点が異なっているだけであると考えました。

ATY解釈

上記のチーム間の違いは、参加者全員の共有の場で整理されたものです。

Aチームの「会社の将来・存在価値」は、副社長のカードに集中していたこと(対話ページの表C)、Aチーム内でも、副社長と現場の記述の間に違いがあったこと(シートの「3.なぜ違うのか」)から、チーム間の違いは、役割・立場による違いを含むと考えられます。 限界1

意味ズレ統合シート:4.理解と解釈

4-1.(全体共有)相手チームの意味をどう理解したか

Aチームは、Bチームの意味をどう理解したか

(Bチームの意味について)

  1. Bチームの「現場の負担を増やしたくない」「一律のシステムでは対応できない」という意見は、DXそのものへの反対ではありませんでした。
  2. 対話を通して、それは「現場がこれまで培ってきた経験や判断力を活かしながら、得意先への対応力を維持・向上したい」という意味であることが理解できました。

Bチームは、Aチームの意味をどう理解したか

(Aチームの意味について)

  1. Aチームの「会社の存在価値を変える」「得意先への提供価値を高める」という考えは、単に効率化したいという意味ではありませんでした。
  2. 対話を通して、「効率化や情報活用によって生まれた余力を、得意先への価値提供につなげ、将来も必要とされる会社になりたい」という意味であることが理解できました。

4-2.(全体共有)相手チームの意味をどう解釈したか

Aチームは、Bチームの意味をどう解釈したか

(Bチームの意味について、および両チームの関係について)

  1. Bチームが懸念しているのは「変化」ではなく、現場の強みを失うような変化でした。
  2. そのため、Aチームが考える「会社の将来のためのDX」とBチームが考える「現場をより良くするDX」は対立するものではなく、会社の存在価値を高めるために両方必要な意味として解釈できました。

Bチームは、Aチームの意味をどう解釈したか

(Aチームの意味について)

  1. Aチームが考える「効率化」は、仕事を減らしたり、人の仕事をなくしたりすること自体が目的ではありませんでした。
  2. そのため、Bチームが懸念していた「効率化すると仕事量を増やされるのではないか」という意味とは異なり、効率化によって生まれた余力を新しい価値創造に使うことが重要であると解釈できました。

意味ズレ統合シート:5.統合と協働行動

5-1.統合できる新しい意味

Aチームで統合された意味

Aチームは「現場の経験・判断力を活かしながら、DXによって業務をより良くし、得意先への提供価値を高めることで、10年後も地域から必要とされる卸売企業になる。」になりました。

ATY解釈

この意味は、Aチームの「会社の存在価値」「得意先への提供価値」「情報活用」、Bチームの「現場の経験・判断」「標準化と個別対応」、AとB共通の「効率化による余力」を、一つの意味として接続したものと整理できます。

Bチームで統合された意味

Bチームは「現場の経験・判断力を活かし、標準化できる仕事はDXによって効率化する。その結果生まれた余力を得意先への提案・対応に振り向け、地域の得意先から必要とされる会社になる。」になりました。

ATY解釈

これにより、「効率化すると現場の仕事が増える」「効率化して会社の価値を高めたい」という一見異なる意味が、「効率化した余力を、現場と得意先の価値向上に使う」という新しい意味に接続されたと整理できます。

5-2.意味に基づく協働行動

記録

参加者全員の共有・議論では、協働可能な意味に基づく行動として、次の項目が挙げられました(各チーム5項目)。

Aチーム

  1. 得意先・営業・物流の情報を共有し、活用できる仕組みをつくる。
  2. 標準化できる業務と、現場の判断を残す業務を整理する。
  3. DXによって生まれた時間・情報・判断余力を、得意先への提案・対応に振り向ける。
  4. 「効率化した結果、仕事を増やす」のではなく、「生まれた余力を価値創造に使う」という考え方を共有する。
  5. DXを単なるシステム導入ではなく、会社の存在価値を高める活動として進める。

Bチーム

  1. 現場で標準化できる業務と、個別判断が必要な業務を整理する。
  2. 現場の経験・判断を活かせるDXの仕組みを検討する。
  3. DXによって増える作業ではなく、減らせる作業を明確にする。
  4. 効率化によって生まれた時間を、得意先への提案・対応に使う。
  5. DXの成果を「業務時間の削減」だけではなく、「得意先への提供価値」で確認する。

なお、本事例でいう協働行動は、統合された意味に基づいて、組織として何を実践していくかという行動の方向性を示すものです。

記録

具体的な施策・実施計画は、ワークショップ後に改めて策定することになりました(策定メンバーは別途決定)。

参加者全員で統合

記録

両チームが意味ズレ統合シート(Meaning Gap Card)を発表した後、参加者全員で共有・議論しました。

発表では、「統合した新しい意味」だけでなく、「なぜその意味に統合できたのか」も説明しました。

参加者全員の共有・議論で確認された内容(発言要旨)

  1. Aチームの「会社の存在価値を高めるためにDXをする」と、Bチームの「現場の経験・判断を活かしてDXをする」という、2つの意味が確認されました。
  2. Aチームの意味形成は「存在価値 → 情報 → 効率化 → 余力 → 顧客価値」、Bチームは「現場 → 負担 → 個別対応 → 経験・判断 → 余力 → 顧客対応」として説明されました。
  3. 全体共有の場で、「情報 → 標準化 → 効率化 → 現場判断 → 余力 → 顧客対応 → 提供価値 → 存在価値」という接続が示されました(取締役の「最終的にどんな接続になりますか?」という問いかけに対して、参加者全員で接続)。 限界11
  4. 最後のまとめでは、AチームとBチームのどちらを採用するかではなく、両者の意味を保持した意味を形成する方向で整理されました(副社長)。 限界11

記録

参加者全員の新しい意味(原文)

新しい意味カードへの記入はなく、参加者全員の共有・議論の中で確認された次の発言を、同席記録から転記しました。

  • 参加者全員の新しい意味発言(同席記録より転記)標準化できる業務は効率化し、そこで生まれた余力を現場の経験・判断が必要な得意先対応に振り向ける。
    そのためには、情報を活用し、業務を変え、現場の判断と組み合わせながら得意先への提供価値を高める。
    その結果、地域から必要とされる会社になる。

ATY解釈

参加者全員の原文と、チーム別シートの要素との対応、ATY Japanによる再構成、保持の程度の整理は、考察ページ(「保持の整理」)に示します。

参加者全員の新しい意味には、経営の視点(取締役の問い、副社長のまとめ)が含まれている可能性があります。 限界4 限界11

統合後の意味の出典一覧

各チームの「統合後の意味」は、出典の異なる複数の表現が本事例に掲載されていますので、混同を避けるため、以下のとおり区別します。

統合後の意味の出典一覧(7区分)A版1〜3/B版1〜3/全員版
チーム-版文出典区分掲載箇所
A版1DXによって会社の存在価値を高めるために、情報を活用し、業務を変え、現場の判断と組み合わせながら得意先への提供価値を高める。【記録】意味ズレ統合シート(Meaning Gap Card)の5-1発展ページ「チーム別意味ズレ統合シート」
A版2DXを会社の存在価値から捉え、情報と人の判断を活用し、効率化によって生まれた余力を得意先への価値向上に振り向ける。【ATY解釈】ATYによる要約・再構成統合ページ
A版3現場の経験・判断力を活かしながら、DXによって業務をより良くし、得意先への提供価値を高めることで、10年後も地域から必要とされる卸売企業になる。【記録】Bチームの要素を含むため、Aチーム単独の成果ではない発展ページ「5-1.統合できる新しい意味」
B版1標準化できる業務は効率化し、そこで生まれた余力を現場の経験・判断が必要な得意先対応に振り向けることで、現場の仕事をより良くする。【記録】意味ズレ統合シートの5-1発展ページ「チーム別意味ズレ統合シート」
B版2DXによって標準化できる仕事を効率化しながら、現場の経験・判断を活かし、生まれた余力を得意先対応に戻す。【ATY解釈】ATYによる要約・再構成統合ページ
B版3
  1. 現場の経験・判断力を活かし、標準化できる仕事はDXによって効率化する。
  2. その結果生まれた余力を得意先への提案・対応に振り向け、地域の得意先から必要とされる会社になる。
【記録】Aチームの要素を含むため、Bチーム単独の成果ではない発展ページ「5-1.統合できる新しい意味」
全員版
  1. 標準化できる業務は効率化し、そこで生まれた余力を現場の経験・判断が必要な得意先対応に振り向ける。
  2. そのためには、情報を活用し、業務を変え、現場の判断と組み合わせながら得意先への提供価値を高める。
  3. その結果、地域から必要とされる会社になる。
【記録】参加者全員の共有・議論での発言(同席記録)。
新しい意味カードへの記入はなし
発展ページ「参加者全員で統合」

記録

参加者全員での共有で付加された要素

版3は、参加者全員の共有・議論の後に、各チームの意味として整理された表現です(同席記録に基づく)。

A版3に含まれる「現場の経験・判断力」は、Bチームの意味を受けて加わった要素、B版3に含まれる「地域の得意先から必要とされる会社になる」は、Aチームの意味を受けて加わった要素であり、いずれもチーム単独の成果ではありません。

全員版は、共有・議論の中で確認された発言であり、版3とは別に整理されたものです。

完了基準の充足状況

記録

手順ページの完了基準に対する、本事例での確認状況です。

フェーズ完了基準(要旨)本事例での確認状況
検出全参加者が1枚以上記述/記述者の役割の記録役割別に記録済み
個人別の記述枚数は、記録していません
対話相手本人による「その通り」の確認記録には含まれていません 限界13
翻訳元の意味ごとの保持要素の対応づけ元のカードとの対応は併記
保持要素の確認は、記録には含まれていません 限界13
統合各主体の「重要要素が保持されている」の確認/始める・止める各1件以上始める・止める事項は、すべての意味接続カードに記録あり
各主体の確認は、記録には含まれていません 限界13
発展全員の協働可能な新しい意味の形成と、方向性の共有新しい意味カードはなく、発言で確認
方向性は、シート5-2の協働行動の発表で共有

ATY解釈

ここまでの記録を踏まえた、ATY Japanの分析(意味の追跡、保持の整理、MGIMプロセスにおける意味ズレの変化・統合分析)、示唆、研究上の観察ポイントと限界は、考察ページに示します。

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