Case1|翻訳
翻訳フェーズ
これまで、検出フェーズでテーマに関する本音を「意味ズレカード」に記述し、対話フェーズでは、「意味ズレカード」を手掛かりとして、認知的・価値的・利害的・アイデンティティ的な4つの観点から、意味ズレの背景にある要素について対話してきました。
そして、その過程で、意味ズレカードをいずれかの要素に分類するとともに、対話を通して当初とは異なる意味づけを発見しました。
そこで今回の翻訳フェーズでは、異なる主体が形成している意味やその背景を保持しながら、それぞれの意味を相互に接続可能な表現へ変換して「意味接続カード(意味の接続)」を作成します。
今回のA社のテーマ「全社のDX推進」では、以下の流れになります。
- 検出フェーズ:私はDXをどう意味づけているのか?
- 対話フェーズ:なぜ私はそう意味づけているのか?
- 翻訳フェーズ:その意味を保持したまま、相手の意味と接続できる表現にすると、どうなるのか?
この翻訳フェーズは、あくまでも「相互に接続可能な表現への接続」ですので、具体的な対応策や実現後の姿までは描かないよう留意することが必要です。
それらは、次の統合フェーズの「協働可能な意味を形成」で作成しますので、区別しなければなりません。
「翻訳段階では、Xの意味とYの意味がつながるようになった」のところで留めます。
例えば、以下のように区別します。
- 意味ズレカードに「効率化によって余力を生み出す」と「余力を得意先対応に使いたい」があります。
- 翻訳フェーズでは、「DXによって生まれた余力を、得意先への提供価値向上に活用する」と接続します。
- そこから、「そのために会社として、何を始め、何を止めるか?」までの状態になったところで、次の統合フェーズに移行するようにします。
- 「現場の力を活かして、10年後も必要とされる会社になる」まで明示すると統合フェーズの領域になってしまいます。
なお、翻訳フェーズでの「意味接続カード」は、対話フェーズで4つの意味ズレ要素に分類した「意味ズレカード」の記述表現を接続しますが、以下のような取り組みをすると新たな意味形成の基礎になります。
- 意味ズレカードの記述文に複数のキーワードが存在している場合、キーワードを分解して他のキーワードと接続することも考える。
- 対話を通してお互いで理解した意味を反映して、新たな表現に置き換える。
そこで、これまで整理してきた検出 → 対話の内容を前提にすると、翻訳フェーズでは、単にA・Bそれぞれの「似た意見」をまとめるのではなく、対話によって明らかになった「意味の背景」を踏まえて、複数の意味ズレカードを1つの意味接続カードに整理していきます。
特に今回は、AチームとBチームで意味形成の出発点が異なるため、Aチームは「存在意義・価値」から具体化し、Bチームは「現場・利害」から上位の意味へ接続する形となります。
Aチームの意味接続カード
A-1.DXは会社の存在価値を変えるためのものである
接続する対話時のカード
- A-11:10年後も地域の卸として必要とされるのか不安
- A-12:DXを会社そのものの存在意義を考えるきっかけにしたい
- A-14:メーカーとスーパーの間にいるだけでは存在価値が薄くなるのではないか
- A-17:自社のネットワークをもっと経営に活かしたい
- A-21:システムを入れるだけではなく、業務そのものを変えなければ意味がない
翻訳する意味
「DXを推進する」という認知的な意味から、「DXによって、これからも地域に必要とされる会社へ変わる」というアイデンティティ的な意味へ接続する。
意味接続カード
DXとは、単にシステムを導入することではなく、これまで培ってきた得意先・メーカー・物流のネットワークを活かし、10年後も地域に必要とされる卸として存在価値を高めるための変革である。
A-2.得意先への提供価値を高めるために情報を活用する
接続する対話時のカード
- A-31:売れ筋や在庫状況を把握して先回りした提案をしたい
- A-32:営業が持つ得意先情報を会社全体で活用したい
- A-34:得意先への提案力を高めるためならDXをやりたい
- A-52:在庫・出荷情報をリアルタイムで共有したい
- A-53:配送センターの情報を営業・経営が活用したい
翻訳する意味
「情報を共有したい」という認知的な意味から、「情報をつなげることで、得意先への提案・対応力を高めたい」という価値的な意味へ接続する。
意味接続カード
得意先・営業・配送に関する情報をつなぎ、先回りした提案や対応ができるようにすることで、得意先への提供価値を高める。
A-3.効率化は仕事を減らすことではなく、価値創造の余力を生み出す
接続する対話時のカード
- A-33:効率化した分、訪問件数を増やせと言われるのは嫌
- A-35:提供価値向上と社内効率化をどう両立するか
- A-43:本当に仕事が楽になるところまでやってほしい
- A-44:経営から見る効率化と現場の効率化は違う
- A-54:効率化だけを進めると現場に無理が集中する
翻訳する意味
「効率化によって仕事量を減らす」という利害的な意味から、「現場に余力を生み、その余力を顧客価値向上に再配分する」という価値的な意味へ接続する。
意味接続カード
DXによる効率化は、単に仕事を減らしたり訪問件数を増やしたりするためではなく、現場に生まれた時間・情報・判断の余力を、得意先への提案やサービス向上、新たな価値創造に振り向けることである。
A-4.情報と人の判断を組み合わせる
接続する対話時のカード
- A-31:得意先の売れ筋・在庫状況を把握したい
- A-32:営業の得意先情報を会社全体で活用したい
- A-51:現場は予定通りにいかず、机上の仕組みだけではうまくいかない
- A-52:在庫・出荷情報をリアルタイムで共有したい
- A-53:配送センターの情報を営業・経営が活用したい
翻訳する意味
「データを共有する」という認知的な意味から、「データで見えるものと、現場の経験・判断を組み合わせる」という価値的な意味へ接続する。
意味接続カード
DXでは、在庫・出荷・得意先情報などのデータを共有するだけでなく、現場が持つ経験や判断を組み合わせることで、より適切な営業・物流対応につなげる。
Bチームの意味接続カード
Bチームは、検出フェーズでは「具体的に何を変えるのか」「負担が増えないか」「一律化できない」「現場で判断している」というカードが多くありましたが、対話によって「なぜそれを嫌がるのか?」を掘り下げると、「得意先への対応品質を守りたい」「自分たちの仕事の価値を守りたい」という価値的・アイデンティティ的な意味が発見されました。
そこで、Bチームでは「深掘り」を翻訳につなげています。
B-1.DXは現場の仕事を置き換えるものではなく、現場の仕事をより良くする
接続する対話時のカード
- B-21:具体的に何を変えるのかまだ見えていない
- B-22:現場の負担を増やさずにDXを進められるのか心配
- B-41:DXのための作業まで増えるのは困る
- B-42:新しいシステムで覚えることが増えるのではないか
- B-43:現場が困っていることを聞いてからシステムを決めてほしい
対話で発見される意味
- 単純な「DXへの抵抗」ではなく、「現場を知らないDXによって、現場の仕事が悪化することへの懸念」と考えられます。
- B-21は、検出時には「具体的に何を変えるのかが見えないことによる負担・不安」という利害的意味として分類されましたが、対話を通じて「現場を悪化させるDXにはしたくない」というDXの意味そのものへ接続しています。
- さらにB-41の対話から、「得意先への対応や本来やるべき仕事に時間を使えなくなる」という価値的意味が出ています。
意味接続カード
DXは現場に新しい作業を追加するものではなく、現場が本来取り組むべき仕事により多くの時間を使えるようにするためのものである。
B-2.標準化と個別対応を両立する
接続する対話時のカード
- B-23:営業・事務・物流が別々に最適化されると全体として非効率
- B-32:得意先ごとに事情が違い、一律管理は難しい
- B-34:得意先への提案と物流対応をつなげたい
- B-51:急な注文変更や欠品など、その場で判断している
- B-52:現場の人が実際に使えるものにしてほしい
- B-54:在庫・出荷情報をリアルタイムで共有したい
対話で発見される意味
- 特にB-32では、「一律管理したくない」の背景に、「得意先ごとの事情を理解して対応することが自分たちの仕事」というアイデンティティ的な意味が見受けられます。
- したがって、「標準化するか、個別対応するか」という二択にしないことが重要となります。
意味接続カード
標準化による効率化と、得意先ごとの個別対応を両立できるDXとして捉える。
B-3.効率化した余力を得意先対応に戻す
接続する対話時のカード
- B-31:得意先からの急な問い合わせ・依頼への対応に追われている
- B-33:効率化した時間を得意先への提案活動に使いたい
- B-34:得意先への提案と物流対応をつなげたい
- B-41:DXのための作業が増えるのは困る
- B-53:入力作業が増えるだけのDXならやりたくない
対話で発見される意味
- 「負担を増やしたくない」は単純な自己都合ではなく、対話によって「得意先対応に使う時間を失いたくない」という意味であることがわかっています。
- さらに、「この会社は得意先への細かな対応が強みだから、それを失いたくない」まで進むと、アイデンティティ的な意味につながります。
意味接続カード
DXによって事務・入力・確認などの負担を減らし、そこで生まれた余力を得意先への細かな対応や提案活動に振り向けることで、自社の強みをさらに高める。
B-4.現場の経験・判断力をDXに組み込む
接続する対話時のカード
- B-32:得意先ごとに事情が違う
- B-34:営業と物流をつなげたい
- B-51:急な変更・欠品など現場で判断している
- B-52:現場の人が実際に使えるものにしてほしい
- B-54:リアルタイムで在庫・出荷情報を共有したい
対話で発見される意味
「DXを推進しても現場は変えられない」という認知的な意味を、「現場をDXに組み込めば、より効果がある」という価値的な意味へ接続する。
意味接続カード
リアルタイムの情報と現場の経験・判断力を組み合わせて、得意先対応を考える。
AチームとBチームの意味接続カードの整理
今回の翻訳フェーズでは、両チームの意味接続カードは以下の通り整理できます。
| Aチーム | Bチーム | |
|---|---|---|
| DXの意味 | DX=会社の存在価値を変える A-11・A-12・A-14・A-17・A-21 |
DX=現場の仕事をより良く変える B-21・B-22・B-41・B-42・B-43 |
| 顧客価値 | 情報を活用して得意先への提供価値を高める A-31・A-32・A-34・A-52・A-53 |
現場の余力を得意先対応に戻す B-31・B-33・B-34・B-41・B-53 |
| 情報と判断 | 情報をつなぎ、会社全体で活用する A-31・A-32・A-51・A-52・A-53 |
情報と現場判断を組み合わせる B-32・B-34・B-51・B-52・B-54 |
| 効率化 | 効率化で余力を生み、価値創造に使う A-33・A-35・A-43・A-44・A-54 |
標準化と個別対応を両立する B-23・B-32・B-34・B-51・B-52・B-54 |
| 今後想定される方向性 | 会社の将来・存在価値 ↓ 得意先への提供価値 ↓ 情報・効率化 ↓ DXで生まれる余力を価値向上に活かす |
DXの具体性・現場負担 ↓ 本来の仕事・得意先対応 ↓ 現場の経験・判断力 ↓ DXによって現場の対応力を失わない |
