Case1|食品卸売業A社のMGIM研修の考察と示唆・研究上の観察ポイントと限界

Case1|DX推進事例

MGIMワークショップの実施事例として、食品卸売業A社のDX推進に向けた事例をご紹介します。フェーズ別の議論内容や成果物を具体的にご紹介し、ATY Japanの考察や示唆などを解説しています。

Case1|考察

ATY解釈

本ページは、検出から発展までの記録(各ページの「記録」)を踏まえた、ATY Japanの分析・示唆・限界をまとめたものです。

記述は原則としてATY解釈で、記録を引用する箇所には「記録」を付しています。

本事例の位置づけ(半日のワークショップ形式の観察記録であり、効果検証や理論の実証を目的としないこと)は、事例概要ページに記載しています。

本ページの示唆は、半日の単一事例で、深掘りの記録がある4例を中心に、提唱者が同席して整理したものです。

副社長・取締役の影響、各主体による保持の確認がないことなどの限界は、ページ末尾の「研究上の観察ポイントと限界」に示します。

示唆の根拠は、後続の「意味の追跡」「保持の整理」「MGIMプロセスにおける意味ズレの変化・統合分析」に示しています。

ATYの考察、得られた示唆

協働可能な新しい意味は、次の循環への出発点

ATY解釈

MGIMの4つのプロセスで形成された「協働可能な新しい意味」は、そこで終わるものではなく、実際の協働行動につながり、その経験が組織学習を生み、さらに組織アイデンティティの更新を通じて、次の意味形成へとつながっていきます。

統合された「協働可能な新しい意味」は、協働行動 → 経験 → 学習 → アイデンティティ更新 → 次の意味創出という循環の出発点となります。

今回のワークショップでは、統合された意味と協働行動の方向性までを確認しました。

これ以降の協働行動 →(経験)→ 組織学習 → アイデンティティ更新については、本事例のワークショップ後に継続的に観察すべき研究課題として位置づけます(限界8)。

本事例から得られたMGIM上の示唆(仮説的)

ATY解釈

  1. 意味ズレは、単なる意見対立として現れるとは限らないことが観察された。
  2. 表面的な認知・利害の差異の背後に、価値・アイデンティティに関わる意味が確認される場合がある(記録のある4例)。
  3. 翻訳は単なる言葉の言い換えではなく、異なる意味を接続可能な表現に変換する過程として観察できる。
  4. 統合は、本事例では、既存意味のいずれかを選択するのではなく、複数の意味の要素を接続した新しい意味が形成されたと解釈できる。
    ただし、各主体による保持の確認は行っていない(限界13)。

統合単位が変わると新たな意味ズレが生じる可能性があります。本事例では、全体共有で両チームの意味は収束し、新たなズレは観察されませんでした。

A-21・A-54・B-41・B-32の意味ズレカードから、「意味ズレカードの表面的な記述と、その背後にある意味は一致しない場合がある」という可能性が観察されました。

そして、以下の示唆もあります。

ATY解釈

  1. 対話は、意味ズレを単に解消する過程ではなく、当初の意味ズレの背景にあった意味が確認される過程でもある可能性がある(4例)。
  2. 主体ごとに意味形成の出発点が異なっていても、媒介する意味を見いだすことで、協働可能な意味が形成され得る(本事例では、経営の視点の影響を含む。限界4 限界11)。

さらに、「チーム内で意味統合が成立した後、その統合された意味自体が、次の主体間の意味ズレを発生させる可能性がある」という点も注目できます。

この点は、MGIMを4つのプロセスのワークショップにとどまらず、多層・循環的な意味形成モデルとして検討する上での課題と考えます(本事例では未検証)。

研究上のポイント

ATY解釈

MGIMでは、意味ズレは単に「異なる意見」として検出されるだけではなく、対話を通じて、その背後にある価値的・アイデンティティ的意味が確認される場合がある(4例)。

確認された意味を翻訳によって接続可能な表現へ変換し、複数主体の意味を包含する協働可能な新しい意味へ統合する、という流れとして整理できる(統合ページの中間的な意味は、ATY Japanによる再構成)。

「意味の追跡(記録のある4例)」で示したとおり、対話で確認された意味が翻訳・統合に対応していることを追跡できたのは、記録のある4例を元カードに含む意味接続カードに限られます。

意味の追跡(記録のある4例)

記録

深掘りの記録がある4例について、検出から統合までの意味の変化を追跡します。

初期分類・対話・翻訳の列は記録、統合の列は、ATY Japanによる対応づけ(ATY解釈)です。

カード
記述者
検出:記述カード
(初期分類)
対話
確認された要素
翻訳
接続先
統合(ATY解釈)
チーム別シートでの対応
A-21
取締役
システムを入れるだけなら、これまでもできた。業務そのものを変えなければ意味がない。
認知的
アイデンティティ的
これからも単なる卸ではなく、得意先に必要とされる会社でありたい
接続A①Aチーム5-1「DXによって会社の存在価値を高めるために、…業務を変え、…」
A-54
配送
効率化だけを進めると、現場に無理が集中する可能性がある。
利害的
価値的
現場の人を大切にしながら会社を変えたい
さらにアイデンティティ的
現場の人たちの力で地域の得意先を支えてきた会社
接続A③5-1には直接の記述なし。
5-2の4「『効率化した結果、仕事を増やす』のではなく、『生まれた余力を価値創造に使う』という考え方を共有する」に対応
B-41
スタッフ
今でも日々の業務で手いっぱいなのに、DXのための作業まで増えるのは困る。
利害的
価値的
得意先への対応や本来やるべき仕事に時間を使えなくなる
さらにアイデンティティ的
得意先への細かな対応が強み
接続B①・接続B③Bチーム5-1「…余力を現場の経験・判断が必要な得意先対応に振り向けることで、現場の仕事をより良くする」
B-32
営業
得意先ごとに事情が違うので、全部をシステムで一律に管理するのは難しいと思う。
認知的
アイデンティティ的
得意先の事情を理解して対応することが自分たちの仕事
接続B②・接続B④Bチーム5-1「標準化できる業務は効率化し、…現場の経験・判断が必要な得意先対応に…」

ATY解釈

上表の4例は、深掘りで確認された意味が、翻訳・統合の記述に対応している例です。

一方、接続A②・接続A④の元カード(A-31・A-32・A-34・A-51・A-52・A-53)は、すべて初期分類が認知的で、深掘りの記録がなく、これらの意味接続カードに対話で確認された意味が反映されたかは、確認できません。

したがって、「検出から統合への連続性」は、記録の範囲では、8枚の意味接続カードのうち6枚(接続A①・接続A③・接続B①〜④)について追跡できます(限界12)。

チーム別シートの5-1に反映された意味接続カードは、Aチームが4枚のうち3枚(接続A①・②・④)で、接続A③の「余力」は5-1ではなく5-2に現れています。

Bチームは、4枚(接続B①〜④)の要素がすべて5-1に含まれています。

保持の整理

記録

参加者全員の新しい意味(原文)は、参加者全員の共有・議論の中で確認された発言です(新しい意味カードへの記入はなく、同席記録から転記。発展ページを参照)。

ATY解釈

以下は、ATY Japanによる再構成です(参加者の記述ではありません)。

情報を活用する → 標準化できる仕事は効率化する → 現場の経験・判断を活かす → 余力を得意先への提案・対応に使う → 提供価値を高める → 地域から必要とされる会社になる

参加者全員の原文は、Aチームのシート5-1の要素(会社の存在価値、情報活用、業務変革、現場判断、提供価値)と、Bチームのシート5-1の要素(標準化、余力の振り向け、現場の経験・判断)を含んでいます。

  1. Aチームの「会社の存在価値」は、原文では「地域から必要とされる会社になる」に対応すると、ATY Japanは整理しています。
  2. Bチームの「現場の仕事をより良くする」は、原文には含まれていません。

したがって、両チームの意味の大部分が接続されたと整理できます。

ただし、各主体が「自分の意味の重要要素が保持されている」と確認する手順は、本事例の記録には含まれておらず、保持の程度は、ATY Japanの解釈にとどまります。

また、最終の意味は、地域から必要とされる会社という結びになっており、Aチームの目的に近い内容です(限界4 限界11)。

要素対照表:チーム別シートの統合後の意味と、参加者全員の原文

チーム別シートの5-1(A版1・B版1)の要素が、参加者全員の原文に含まれているかを対照しました(○:含まれる、×:含まれない、-:そのチームの5-1の要素ではない)。

対応の判定は、ATY Japanによるものです。

会社の存在価値を高める情報を活用する業務を変える標準化できる業務を効率化する余力を得意先対応に振り向ける現場の経験・判断を活かす得意先への提供価値を高める現場の仕事をより良くする
A版1○○○--○○-
B版1---○○○-○
全員の原文○○○○○○○×

ATY解釈

副社長の事前宣言は、すでに「得意先への提供価値向上」と「地域密着の卸売企業としての存在意義」に言及していました。

両チームの検出時のカードにも、「得意先への価値向上」という共通の意味がありました(検出ページ)。

したがって、本事例で観察された変化は「効率化のためのDX」から「提供価値のためのDX」への転換というより、宣言された方針に、現場の経験・判断の保持と、効率化で生まれた余力の再配分という条件が加わり、現場の業務に接続できる形になった変化と整理できます。

ワークショップ前の参加者の意味づけは、事前調査を行っていないため、確認できていません(限界4)。

参加者全員での共有後の意味の連鎖は、上記「保持の整理」に、参加者全員の原文に基づくATY Japanの再構成として示しています。

この意味が、実際の協働行動、組織学習、アイデンティティの更新を経て、次の意味形成につながるかどうかは、今後の観察課題です(限界8)。

MGIMプロセスにおける意味ズレの変化・統合分析

発展ページの「完了基準の充足状況」では、各フェーズが手順上の所定の状態に到達したかを確認しました。

ここでは、それとは別に、実際のワークショップで記録された内容をもとに、AチームとBチームの意味が「検出・対話・翻訳・統合」を通じてどのように変化したかを整理します。

本事例では、A・Bの両チームがそれぞれ4つのフェーズを実施した後、両チームの成果と意味形成の過程を参加者全員で共有しましたので、最後に「参加者全員」の段階(発展)を加えています。

行見出しの【記録】はワークショップで記録された内容、【ATY解釈】(色付きの行)はATY Japanの解釈・再構成です。
「中間的な意味」は、参加者がそのまま記述したものではなく、各カード間の関係をATY Japanが整理したものです。

AチームBチーム
検出
記録
  1. 副社長のカードでは、10年後も地域の卸として必要とされるのかという不安(A-11)、DXを会社の存在意義を考えるきっかけにしたいという意向(A-12)など、会社の存在価値に関する意味が示された。
  2. 他のメンバーのカードでは、得意先への提供価値(A-31)、情報活用(A-32)、効率化に伴う営業・現場の負担への懸念(A-33・A-54)などが示された。
  1. 具体的に何を変えるのかが見えないこと(B-21)、現場の負担(B-22・B-41)、得意先ごとの個別対応(B-32)、現場での判断(B-51)、情報・システムの活用(B-52)などに関するカードが示された。
  2. 得意先への提供価値に関するカードもあった(B-33・B-34)。
検出
ATY解釈
  1. DXを「会社が将来どのような存在になるのか」という上位の意味から捉える記述が、副社長のカードに集中していた。
  2. この傾向には、副社長の参加と事前の方針宣言の影響が含まれる可能性がある(限界1 限界4)。
  1. DXを「実際の仕事をどう変えるのか」「現場にどのような影響があるのか」という具体的な意味から捉える記述が多かった。
対話
記録
  1. A-21(取締役)とA-54(配送)について、同じチームの参加者が「なぜ…ですか?」と問いかけた。
  2. A-21は、認知的からアイデンティティ的な意味が確認された。
    A-54は、利害的から価値的、さらにアイデンティティ的な意味が確認された(対話ページ)。
  1. B-41(スタッフ)とB-32(営業)について、同じチームの参加者が問いかけた。
  2. B-41は、利害的から価値的、さらにアイデンティティ的な意味が、B-32は、認知的からアイデンティティ的な意味が確認された(対話ページ)。
対話
ATY解釈
  1. 表面的な「業務を変える」「効率化による現場の負担」の背後に、会社の存在価値や、現場の人を大切にしながら会社を変えたいという意味が確認された(記録のある2例)。
  2. 2段目の問いが会社レベルの回答を促した可能性がある(限界3)。
  1. 表面的な「負担」「一律化できない」という利害・認知の意味の背後に、得意先への対応品質や、現場の経験・判断力を維持したいという意味が確認された(記録のある2例)。
  2. 2段目の問いの影響の可能性は、Aチームと同様である(限界3)。
翻訳
記録
  1. 接続A①〜接続A④の4つの意味接続カードを作成した(存在価値/情報活用による提供価値向上/効率化による余力/情報と人の判断)。
  1. 接続B①〜接続B④の4つの意味接続カードを作成した(現場の仕事の改善/標準化と個別対応の両立/余力の得意先対応への振り向け/現場の経験・判断力のDXへの組み込み)。
翻訳
ATY解釈
  1. 元カードにA-21・A-54を含む接続A①・接続A③は、対話で確認された意味と対応する。
  2. 接続A②・接続A④の元カードには深掘りの記録がなく、対話の確認が反映されたかは確認できない(限界12)。
  3. 「存在価値」「顧客価値」「効率化による余力」「情報と人の判断」が接続され、DXを会社の存在価値から捉えながら、具体的な業務・情報活用へ接続する意味が形成された。
  1. 接続B①〜接続B④は、いずれも元カードに深掘りの記録がある(B-41・B-32)。
  2. 「現場の仕事」「標準化と個別対応」「余力」「現場の経験・判断」が接続され、DXを現場の仕事の改善と得意先対応につなげる意味が形成された。
統合
記録
  1. 4つの意味接続カードについて、新たに始めること・現状を止めることを記入した。
  2. チーム別シート5-1に、統合後の意味として「DXによって会社の存在価値を高めるために、情報を活用し、業務を変え、現場の判断と組み合わせながら得意先への提供価値を高める。」と記入した(発展ページ)。
  1. 4つの意味接続カードについて、新たに始めること・現状を止めることを記入した。
  2. チーム別シート5-1に、統合後の意味として「標準化できる業務は効率化し、そこで生まれた余力を現場の経験・判断が必要な得意先対応に振り向けることで、現場の仕事をより良くする。」と記入した(発展ページ)。
統合
ATY解釈
  1. 5-1には、接続A①・接続A②・接続A④の要素が含まれ、接続A③の「余力」は5-2に現れている。
  2. ATY Japanによる関係整理では、中間的な意味として「会社の存在価値を高めるには得意先への提供価値を高める必要がある」「情報と現場判断を組み合わせ、効率化によって生まれた余力を価値向上に使う」が整理される(再構成であり、参加者の原文ではない)。
  3. 上位の「存在価値」と、具体的な「情報・判断・効率化・余力・顧客価値」が接続され、チームとしての協働可能な意味が形成されたと整理できる。
  1. 5-1には、接続B①〜接続B④の要素がすべて含まれている。
  2. ATY Japanによる関係整理では、中間的な意味として「現場の経験・判断力を活かしながら、DXによって現場の仕事をより良くする」「標準化できる仕事を効率化し、生まれた余力を得意先対応に戻す」が整理される(再構成)。
  3. 「現場の経験・判断」と「標準化・効率化」が対立するものではなく、効率化で生じた余力を得意先対応に振り向ける意味として接続されたと整理できる。
発展
記録
  1. A・B両チームが、それぞれの最終成果だけでなく、そこに至った背景やフェーズ途中の特徴的な議論を共有した。
  2. 取締役の「最終的にどんな接続になりますか?」という問いかけに対し、参加者全員で「情報 → 標準化 → 効率化 → 現場判断 → 余力 → 顧客対応 → 提供価値 → 存在価値」という接続が示された。
  3. 最後のまとめは副社長が行った。
    参加者全員の新しい意味は、新しい意味カードへの記入ではなく、発言として確認された(発展ページの全員版)。
発展
ATY解釈
  1. チーム内で形成された意味を一方に統一するのではなく、A・B双方の意味を接続し、参加者全員の協働可能な新しい意味へ再構成する段階として観察された。
  2. 全員の原文は、A版1の5要素と、B版1の4要素のうち3要素を含む(Aの「会社の存在価値」は「地域から必要とされる会社」に対応、Bの「現場の仕事をより良くする」は含まれない)。
  3. ただし、各主体の「重要要素が保持されている」という確認は、記録に含まれていない。
  4. 全員統合は、取締役の問いと副社長のまとめを含む進行であった(限界11)。

ATY解釈:分析結果

本事例では、AチームとBチームは同じDXをテーマとして扱いながら、検出段階では異なる意味の出発点を示しました。

Aチームでは、DXを会社の将来や存在価値との関係から捉える意味が副社長のカードを中心に表れ、Bチームでは、具体的な仕事、現場の負担、個別対応、現場の判断との関係から捉える意味が比較的強く表れました。

ただし、これは単純な「経営対現場」あるいは「Why対How」という対立ではありません。

Aチームにも業務効率化や現場負担への懸念(A-33・A-43・A-44・A-54)があり、Bチームにも得意先への提供価値に関する意味(B-33・B-34)が存在していました。

  1. 対話:記録のある4例(A-21・A-54・B-41・B-32)で、検出時に表面的に現れた認知的・利害的な意味の背後に価値的・アイデンティティ的な意味が確認されました。
    他のカードの変化は、記録していません(限界12)。
  2. 翻訳:それぞれのチーム内で、意味を相互に接続可能な表現へ整理しました。
    深掘りの記録がある元カードを含む意味接続カードは、8枚のうち6枚です。
  3. 統合:「新たに始めること」「現状を止めること」を具体化し、各チームがシート5-1に統合後の意味を記入しました。
  4. 発展:A・B両チームの成果と意味形成過程を参加者全員で共有し、両チームの意味を接続する議論の中で、「情報」「標準化」「効率化」「現場判断」「余力」「得意先対応」「提供価値」「存在価値」の連鎖が確認されました。

したがって、本事例では、次のような意味の変化・統合の過程が観察されたと整理できます(記録の範囲での整理です)。

個々の意味形成 → A・Bそれぞれの意味の検出 → チーム内での背景理解(記録のある4例) → チーム内での意味の翻訳・接続 → A・Bそれぞれのチーム内統合 → 両チームの成果・意味形成過程の共有 → 参加者全員による意味の再接続 → 全体としての協働可能な新しい意味

なお、本分析は、本事例で記録されたカード、議論、成果物をもとにした探索的な整理で、中間的な意味やカード間の関係には、ATY Japanによる分析・再構成を含みます。

また、各主体が「自分の意味の重要要素が保持されている」と確認する手順は記録されていないため、意味の保持は参加者による検証済みの結果ではありません。

さらに、今回確認された協働可能な新しい意味が、その後の協働行動、組織学習、組織アイデンティティの更新につながったかどうかは、本事例では追跡していません。

したがって、ここで確認できるのは、主としてワークショップ内における意味の変化・接続・統合の過程です。

研究上の観察ポイントと限界

以下の限界は、事例概要ページに記載した本事例の位置づけ(半日のワークショップ形式の観察記録)の範囲で、結果の読み方に注意が必要な点です。

ATY Japanは、MGIM(意味ズレ統合モデル)の研究・提唱者であり、MGIMワークショップは、検出・対話・翻訳・統合の4つのプロセスを、ATY Japanがワークショップ形式に操作化した基本手順です。

本事例では、ファシリテーションを企業が実施しました。

ATY Japanは、全フェーズに同席して観察・記録を行いましたが、ファシリテーターからの相談はなく、助言・介入は行っていません。

本事例では、検出段階で確認された意味の差異が、対話・翻訳・統合を通じてどのように変化したかを観察しています。

特に、以下を分析対象とします。

  1. 意味ズレがどの段階で明確になったか
  2. 対話によって意味の背景理解がどのように変化したか
  3. 翻訳によって異なる意味がどのように接続されたか
  4. 統合によってどのような新しい意味が形成されたか

本事例は単一事例であるため、結果の一般化ではなく、MGIMのプロセスが実践場面でどのように現れるかを観察する探索的事例として位置づけます。

本事例の追加的な限界(13項目)

限界1 役職の影響
  1. Aチームには、DX方針を事前に宣言した副社長が参加していました。
  2. 検出時のAチームのアイデンティティ的カード6枚は、すべて副社長の記述でした(副社長を除くAチームには0枚)。
    Aチームとしての傾向は、副社長個人の寄与によるところが大きいと考えられます(対話ページの表Cを参照)。
  3. 同調や忖度が働いた可能性を排除できません。
限界2 分析単位
  1. 本事例は、混成編成の2チームの比較を主軸としましたが、チームが意味形成の単位として妥当かは検証していません。
  2. チーム内の役割間の差は、チーム間の差と同程度に大きい可能性があります。
限界3 対話の方法
  1. 対話フェーズでは「なぜそう思うのか」を繰り返し問う方法を用いました。
  2. この方法は、価値やアイデンティティに関する記述を引き出しやすいため、観察された結果が、意味ズレの背後に実際に存在した意味の発見か、問いの形式による産物かは、本事例では区別できていません。
  3. 問い(「なぜそう思うのか」)は、ファシリテーターではなく、同じチームの参加者(スタッフ、取締役、営業)が発しました。
    問いの文言は、参加者の発案に基づきます。
  4. 対話フェーズの2段目の問い(A-54、B-41)は、いずれも取締役が「会社にどんな影響がありますか?」という形で発しており、会社レベルの回答(アイデンティティ的要素)を促した可能性があります。
    深掘りを行った4例のすべてで、最終的にアイデンティティ的要素が確認されています。
    職位が上の参加者が、配送・スタッフの記述者に問う場面があり、回答が職位の影響を受けた可能性があります。
限界4 ベースライン
  1. 「効率化のためのDX」という出発点は、実施前の調査によるものではありません。
  2. 副社長の事前宣言は、すでに得意先への提供価値向上に言及していました。
  3. 最終的な意味に含まれる「地域密着型卸としての存在価値」の要素は、副社長の事前宣言(「地域密着の卸売企業としての存在意義を示す」)と近い内容です。
  4. 本事例の「新しい意味」は、宣言された方針の継承・具体化と、現場の観点の付加が混在したものであり、方針とは独立に形成された意味とは言えません。
限界5 対象範囲
  1. 参加者は全従業員約80名のうち11名(役員3名を含む)であり、得意先・仕入先は参加していません。
  2. 「参加者全員としての意味」は、今回の参加者の範囲における意味形成です。
限界6 利害の対立
  1. 記述された利害的な差異は軽微で、人員や評価に関わる深刻な対立は含まれていません。
  2. より対立の強い場面への適用は、別途の検証を要します。
限界7 研究者の関与
  1. MGIMの提唱者であるATY Japanが、同席による観察・記録と、実施後の分析の双方を担っています。
  2. ATY Japanは、助言・介入を行っていませんが、提唱者が全フェーズに同席していたこと自体が、参加者の発言や記述に影響した可能性があります(観察者効果)。
  3. 第三者による検証は行っていません。
限界8 追跡
  1. 協働行動以降(実行、組織学習、アイデンティティ更新)は未観察です。
限界9 進行と職位の関係
  1. ファシリテーターは、企業の総務部の課長であり、副社長の指揮下にはありません。
  2. 手順ページは、初めて実施する場合、当事者部門と直接の利害関係を持たない社内の方、または外部のファシリテーターを推奨しています。
  3. 本事例のファシリテーターは、A社の社員であり、テーマ(全社のDX推進)の当事者に当たるため、中立性が十分に確保されていた条件とは言えません。
限界10 分析の後付け
  1. 検出ページの分析(チーム別の構造、4つの比較ポイント)は、全フェーズの結果を把握したうえで、実施後に行いました。
  2. 4つの比較ポイントと、翻訳フェーズの意味接続カードの構成の対応は、独立した確認ではなく、分析者が結果を踏まえて整理した影響を含みます。
  3. 参加者全員の共有・議論の記録(Why/Howに近い対比の考察)は、検出ページのATY Japanの整理(Why/How)と同様の枠組みです。
  4. ATY Japanは分析内容を参加者に共有していませんが、この一致が、参加者が独立に導いた結果か、ATY Japanが共有・議論の発言を同席して聞いたうえで、同じ枠組みで整理した結果かは、本事例では区別できていません。
限界11 全員統合の主導

記録

全員統合では、接続を促す問い(「最終的にどんな接続になりますか?」)を取締役が、最後のまとめを副社長が行いました。

ATY解釈

  1. 両者は、チーム内では上位の立場にあり、全社の視点から問いとまとめを行いました。
    今回のDXは全社の活動であり、現場の参加者の視座からは出にくい問いであったため、参加者に気づきを与える結果になったと観察しています。
    また、他の参加者に強制する進行ではなく、率直な問いとまとめであったという印象を持っています。
    これらは、同席記録に基づくATY Japanの印象であり、参加者の反応を確認する調査は行っていません。
  2. 一方で、職位が上の参加者による問いとまとめが、参加者全員の意味形成に影響した可能性は、排除できません。
    全員の新しい意味に、経営の視点が含まれていることは、限界4(ベースライン)とあわせて、解釈に反映する必要があります。
限界12 深掘りの記録の範囲
  1. 本事例では、深掘りを行った4例(A-21・A-54・B-41・B-32)のみを記録しています。他のカードの分類の変化、深掘りしたが変化しなかった例、深掘りを行ったカードの総数は、記録していません。
  2. 4例は、記述者の説明と異なる要素が確認された例として選びました。
    したがって、「対話によって背景が確認された」という観察は、記録した4例についてのもので、全カードに占める割合や一般的な傾向は示せません。
限界13 完了基準の確認記録
  1. 本事例の記録には、完了基準のうち、相手本人の確認、各主体による保持の確認が含まれていません。
  2. したがって、「意味を保持した新しい意味が形成された」という記述は、ATY Japanの解釈に基づく観察であり、参加者による確認を経たものではありません。
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