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イノベーションの攻略書
ビジネスモデルを創出する組織とスキルのつくり方
The Corporate Startup
How established companies can develop successful innovation ecosystems
テンダイ・ヴィキ、ダン・トマ、エスター・ゴンス(著)、渡邊 哲(翻訳)
出版社:翔泳社(2019/11/6)
Amazon.co.jp:イノベーションの攻略書
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変革の火を絶やすな
「5つの原則」で組織を変え、「4つの実践」で現場を変える
既存事業を回しながら新規事業を成長させるフレームワーク
関連書籍
2022年11月19日 ジョン・コッター『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』ダイヤモンド社 (2022/9/21)
2022年11月01日 ダン・トマ『イノベーション・アカウンティング』翔泳社 (2022/10/1)
2022年04月09日 福原 正大『日本企業のポテンシャルを解き放つ DX×3P経営』英治出版 (2022/1/11)
2021年09月03日 カロリン・フランケンバーガー『DX ナビゲーター』翔泳社 (2021/7/20)
2021年08月03日 ジーノ・ウィックマン『TRACTION トラクション』ビジネス教育出版社 (2020/12/10)
2021年02月12日 デビッド ロジャース『DX戦略立案書』白桃書房 (2021/1/8)
本書は、スタートアップ同様にイノベーションを企業が起こすための社内エコシステム構築を支援している著者らが、既存企業が現状のビジネスモデルにとらわれずに新規事業を立ち上げるために必要な「組織イノベーション力」と「個人のイノベーション力」を獲得する具体的な方法を紹介した一冊です。
また翻訳は、世界のイノベーション拠点と日本をつなぐハブとして、国内に最新のイノベーション手法やITソリューションを提供している株式会社マキシマイズの経験豊富なコンサルタントの方々が担っているため、非常に的確に記述されています。
企業がイノベーション・プロセスの複雑さを管理し、そのメリットを享受するための原則や方法及びツールを提供してくれていますので、既存企業のリーダーの方々に限らず、スタートアップの方々にとって、イノベーションを管理するための知識を体系的に習得でき、提供されているツールを使ってイノベーションを推進していくうえで大変役立ちます。
本書は二つのパートで構成されており、パート1では、既存企業がイノベーション・エコシステムを構成するための5つの原則を解説し、パート2では、イノベーションの実践を通して、エコシステムの活用方法を詳細に解説しています。
パート1では、企業が「組織のイノベーション力」を獲得する方法を紹介しています。
- ・第1章では、「組織のイノベーション力」を獲得するための考え方と、5つの原則を導入して「イノベーション・エコシステム」を構築することの有効性を解説しています。
- ・第2章から第5章では、5つの原則の内の4つを各章に分けて、考え方、事例、実践手段の視点から詳細に紹介しています。
- ・第2章で「イノベーション投資方法」、第3章で「イノベーション・ポートフォリオ」、第4章で「イノベーション・フレームワーク」、第5章で「イノベーションKPI」
パート2は「実践」編で、イノベーション・チームが「個人のイノベーション力」を獲得する方法を解説しています。
- ・第6章から第9章では、「イノベーション・フレームワーク」の各工程の考え方、事例、実践手段の視点から詳細に紹介しています。
- ・第6章で「アイデア創造」、第7章で「アイデア検証」、第8章で「事業の拡大」、第9章で「事業の見直し」
- ・第10章では、イノベーション・エコシステムの構築手順として、12のステップを紹介しています。
イノベーションを成功させるためには、さまざまな部門の複数の関係者が相互に協力する必要がある。
イノベーションにはアイデア創造、事業開発、初期顧客への販売、成長、事業拡大といった一連の流れがあるが、その中で自社組織の複数部門が必然的に関与することになる。
組織的な方向性が一致していることが極めて重要な理由がそこにあるのだ。
イノベーション・エコシステム
テンダイ・ヴィキ『イノベーションの攻略書』翔泳社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成
イノベーション・エコシステムとは社内起業家が働く環境を指し、その狙いはイノベーションが安定して生まれる環境を整えることにある。
イノベーション・エコシステムは、5つの主要な要素(原則)に加え、5つの支援機能を備えている。
5つの原則の内、「原則1.イノベーション投資方針」と「原則2.イノベーション・ポートフォリオ」はイノベーション戦略、「原則3.イノベーション・フレームワーク」と「原則4.イノベーションKPI」はイノベーション管理、最後の「原則5.イノベーションの実践」は顧客との対話やビジネスモデルの検証を実施する。
ほとんどのイノベーション・ラボは実践のみに注力する傾向があるが、実際には支援体制の整ったエコシステムがなければイノベーション・ラボの事業は高い確率で失敗してしまう。
原則は互いに結びついており、それぞれが「創造・検証・学習」のループを形成し、このループを継続的に回し、高速で繰り返すことが必要である。
イノベーション・エコシステムを構築する際は、経営層は低価格市場や新興市場から現れる破壊的イノベーションに用心しなければならないし、大企業は可能な限り自社自身を「破壊」するよう努力すべきである。
「創造・検証・学習」のループはイノベーション・エンジンの基本であり、イノベーション戦略、管理、実践の各活動内にもループがあり、イノベーション・エコシステム全体もループ(イノベーション戦略=創造、イノベーション実践=検証、イノベーション管理=学習)である。
イノベーション・エコシステムを構成するための5つの原則
原則1.イノベーション投資方針
イノベーションは企業全体の戦略目標の一部であり、全社戦略と方向性が一致しなければならない。
そのため、イノベーション投資方針には、イノベーションの戦略的な目的と、未来に対する見解を明示する。
自社の投資方針を定めたら可能な限りそれに従わなければならないが、投資の実行や却下の基準とその理由を明確にすることができる。
特定のイノベーション・プロジェクトを採用する際の境界線、またはガードレールとして機能し、自社の意図に基づく戦略に加え、市場の変化に対応するためにイノベーション・プロセスを通して市場から学習し、投資方針を洗練させなければならない。
自社のイノベーション投資方針を市場やその仕組みに関する仮説の集合体とみなし、これらの仮説を自社のイノベーション・ポートフォリオで検証し、得られた教訓を活かして投資方針を洗練させる。
戦略的な顧客インタビューを経営トップレベルに直接報告する仕組みがあれば、現場で得られた学びを迅速に採用し、当初提案されたイノベーション戦略を適切に修正・強化できる。
ステップ
ビジネスモデルのマッピング、ワークショップに向けた調査、ワークショップ(事業環境キャンパス作成)、レビュー、選択肢の検討、投資方針、フィードバックと最終版の確定
原則2.イノベーション・ポートフォリオ
イノベーション投資方針と戦略的目標を達成するために、自ら製品とサービスのポートフォリオを確立する必要がある。
大企業はスタートアップではないので、自社を一つのビジネスモデルで動く単一組織と考え行動することはやめ、製品やサービスのポートフォリオとしてとらえる必要がある。
イノベーション投資方針を作成し、イノベーションの長期目標を設定することが望ましく、「探索」と「実行」を区別する。
理想的には、イノベーション投資方針に従って適切な事業ポートフォリオを構築し、事業環境が大きく転換したときにはすでに新たな競争優位の探索を遂行中、という状況を実現することである。
ポートフォリオはイノベーションの中核領域・隣接領域・変革領域の全領域をカバーする製品で構成されるべきであり、初期段階の製品だけではなく、事業として成熟し確立された製品も含める。
目安の一つは、70%のリソースを中核領域のイノベーションに、20%を隣接イノベーションに、10%を変革領域のイノベーションに投資するという「70:20:10」であるが、業界によってその割合は変わる。
なお、中核事業の管理手法ではイノベーションの管理はできないことを認識し、隣接領域や変革領域のイノベーションは中核事業とは別に管理すべきである。
- ・中核領域
既存顧客に既存製品を改善して提供する領域で、イノベーションは既存資産を利用して、すでに把握している顧客向けに実施する。
- ・隣接領域
既存顧客に新製品を提供または、新市場に既存製品を適用する領域で、企業は既存能力を新しい用途に利用することが重要となる。
- ・変革領域
新市場向けの新事業を創出する領域で、企業は新たな能力、製品、サービスの開発を進めつつ、同時に新市場で新事業に対する需要を検証しなければならないため、大企業にとっても非常に困難である。
目標は、異なる成長戦略にある様々なビジネスモデルをバランスよく含めた事業ポートフォリオを構築し、管理することである。
ステップ
目標設定、目標値と現状事業ポートフォリオとの対比、差異の分析、投資計画の作成、方針の見直し
原則3.イノベーション・フレームワーク
投資方針を実行し、製品とサービスのポートフォリオを管理するためには、「探索」から「実行」までの工程を管理するフレームワークが必要となる。
例えば、「ランニング・リーン」「投資レディネス・モデル」などは、アイデアの創造、検証、事業拡大というイノベーションの3つのステップに整理統合できる。
「探索」で要求されるのは、「技術リスク」と「市場リスク」を突き止め、それらを低減することである。
- ・探索
「顧客発見」でイノベーターのビジョンを文書化してビジネスモデルの仮説に落とし込み、「顧客検証」で仮説を検証する。
- ・実行
「顧客開拓」で需要喚起や販売促進を通じてスケールさせ、「組織構築」でスタートアップから中核事業への転換、実証済みのビジネスモデルを遂行する新会社への転換を完了する。
自社標準のフレームワークを整備できれば、社内の共通言語となり、各事業やビジネスモデルが成長段階のどの位置にいるのかが理解でき、投資判断や事業開発の基盤としても活用できる。
イノベーション管理の主たる原則は、テストで実証済みのビジネスモデルのみを事業拡大するという考えで、新たな事業アイデアについては経営陣はビジネスモデルの実証に投資すべきである。
企業がイノベーターやアーリー・アダプタ(アーリー・エバンジェリスト)と一緒に事業アイデアを想像し、検証していくことが有効である。
イノベーション・フレームワークの4段階
アイデア創造、アイデア検証、事業の拡大、事業の見直し
原則4.イノベーションKPI
イノベーション・フレームワークを導入したら事業の成功を図るための指標と、これに応じた適切な投資方法が必要となる。
既存事業の管理には従来型の会計手法が最適であるが、イノベーションを管理するには別の指標が必要となり、イノベーションの成長度合いに応じて「段階的投資」を行うべきである。
財務指標に基づいて新たな事業アイデアの投資判断を行うと、結果的にこれまで慣れ親しんできた既存事業と同じ種類の事業を選択することになり、既存事業と同種の事業の投資を続けることからの脱却を妨げるだけでなく、自社内のイノベーション能力の破壊をも引き起こす。
イノベーションの進捗を管理するためには、「報告用KPI」「ガバナンスKPI」「グローバルKPI」を使い、各KPIには「活動測定指標」と「結果測定指標」とに分類できる。
- ・報告用KPI
イノベーション・チーム、構想中のアイデア、実行中のテスト、アイデア創造から事業拡大までの進捗状況を測定する。
- ・ガバナンスKPI
投資判断を行うために、実証済みの仮説とイノベーションの成長についての進捗を測定する。
- ・グローバルKPI
全社的な視点で事業に対するイノベーションの影響を評価する。
原則5.イノベーションの実践
イノベーションの実証の基本原則は、検証によってビジネスモデルの有効性を実証する前に事業を拡大してはならないことである。
探索段階におけるイノベーターの仕事は、「価値仮説」と「成長仮説」を検証することになり、顧客に対する製品の魅力と潜在的なビジネスモデルの収益性の両方を検証する。
- ・価値仮説:製品は顧客のニーズを満たしているかを検証する。
- ・成長仮説:製品を顧客の目に留めさせて購入させる手段と、自社製品が市場シェアと利益を拡大していくための手段に焦点を当てる。
人的なコミュニティの構築も重要で、企業はイノベーション実践者のコミュニティを構築し、定期的な人的交流とベスト・プラクティスや教訓を共有し、取り組みを通してイノベーションのスキルを共有しながら全社的な能力開発につなげていく。
■アイデア創造:アイデアの生成、選択、レビュー
- ・優れたアイデアを想像するためには、縦割りの業務別組織の壁を取り払って、機能横断チームを組成する。
- ・顧客ニーズに対する深い共感と理解を得るために、顧客とのつながりを絶やさない。
- ・顧客だけでなく、事業環境の変化や各種動向にも気を配る。
- ・生み出された全てのアイデアを、全社に開放したプラットフォームに蓄積しておく。
- ・ビジュアル・シンキングを用いるとともに、「ブレインストーミング」「オープンコール」「アイデア・コンテスト」などのアイデアを形にしていく手法を用いてアイデアを生み出し、アイデアを選択する。
- ・ビジネスモデル・キャンパスは想定条件を洗い出し、基本シナリオを記述するのに最適なツールであり、複数のビジネスモデルをプロトタイプとして作成できるためアイデア創造にも有効活用できる。
■アイデア検証:課題の探索、ソリューションの実証、ビジネスのモデル検証
- ・自社が想定している顧客ニーズや問題の有無を確かめる。
- ・開発中のロシューションは、顧客が喜んでお金を払うような形でニーズを満たしているかを検証する。
- ・ビジネスモデルの残りの部分を検証する。
- ・流通チャネル、顧客との関係、主たるパートナー、コスト構造、収益構造を検証する。
- ・テストの主目的は、自分たちのビジネスモデルを今後どうすべきかについて意思決定することであり、そのためにはテストの進捗と決定事項をツールを使って記録する。
- ・量産に移行する前に「創造・検証・学習」のサイクルを実行し、ビジネスモデルを検証する。
注意点:顧客開発、実現可能性、プロタイプ、製造サプライヤー、流通、事前予約、顧客の期待の高さ
- ・企業のブランドや評判を傷つけずに、アイデアを検証する。
■事業の拡大:エンジンの調整、成長の加速、刈り取り
- ・自社の成長エンジンを確認し、最適化し、うまく機能させる。
成長エンジン:囲い込みエンジン、伝染型エンジン、有償エンジン
- ・可能な限り大きな市場シェア獲得に向けて、リソースとエネルギーを注ぎ込む。
- ・コストを最適化し、成功したビジネスモデルから可能な限りの利益を刈り取ることに集中する。
- ・事業アイデアが自社の戦略目標に沿っているかと、事業拡大に必要な能力と機能を自社が保有しているかの2つの視点から、成功を収めたイノベーションを本社組織内へスピンインするか、独立事業としてスピンアウトするかを選択する。
- ・「加速」や「刈り取り」フェーズでは、ROI(投資収益率)、NPV(割引現在価値)、ARR(年間経常収益)、投資回収期間といった従来型の経営管理批評を利用できる。
■事業の見直し:ビジネスモデルの分析、見直し、レビュー
- ・自社の成功事業のビジネスモデルと現在の事業環境を照らし合わせ、そのビジネスモデルが現在の動向に対しても有効に機能しているかを分析する。
- ・新たな収益モデルの探索、新たな流通チャネルの創出、新たな顧客層の選定、価値創造のコストを削減する新技術の導入など、どのように対応すべきかを見出す。
- ・新たなビジネスモデルをレビューし、検証が必要な全ての仮説を洗い出す。
- ・利益に集中することは重要であるが、市場ニーズと自社事業との整合性を維持し続けることが必要である。
企業の戦略的な立ち位置と財務的な立ち位置とを混同してはいけない。
- ・ビジネスモデル分析に必要な視点:事業環境、価値提供ネットワークとパートナー企業、顧客の目的、自社戦略に対する自問自答
イノベーション・エコシステムに対する5つの支援機能
イノベーション・エコシステムは、組織内に連携を生み出すため、本社側のシステムやプロセスと連携できるように設計しなければならない。
支援機能1.管理機能
- ・本社から管理機能に関する支援をどの程度得られるかは、イノベーション・プロセスにおいても重要である。
- ・事業部制を採用している企業においても、ブランド管理、法務、人事、財務といった全社共通の管理部門が設置されており、そのサポートはイノベーションの成功に欠かせない。
- ・イノベーション・エコシステムを構築す際には、イノベーション・チームのリーダーが管理部門と連携することが重要となる。
支援機能2.ツールとリソース
- ・事業開発のベスト・プラクティスを社内で広めるためには、ツールを採用し、社内で共有することが必要である。
- ・イノベーション・チームを管理するためには、経営陣も新たな方法を取り入れる必要がある。
- ・適切なイノベーション指標を測定し、推移を記録するためのツールやプラットフォームを導入しなければならない。
支援機能3.イノベーション・カタリスト
- ・新たなツールや事業推進方法の導入を促進するためには、トレーニングやコーチングが欠かせない。
- ・社員に対してリーン・イノベーションのトレーニングやワークショップを実施するのは効果的であり、手法を使いやすくする手引書やツールキット及び解説書などを用意しておくことも有効である。
- ・特に、何か課題が発生したときに、いつでも指導やサポートが受け入れられる体制を整えておくことが重要である。
支援機能4.実践者のコミュニティ
- ・コーチだけでなく、イノベーションを実践する社員が定期的に交流するための実践者コミュニティが必要である。
- ・オンライン上のコミュニティ、参加者の投稿記事、セミナーなどの実施の他、知見やベスト・プラクティス、ツールなどを共有できるようにすることも有効である。
- ・コミュニティを上手に運営すれば、イノベーションのルールや実践方法を企業の文化として広げていくことができる。
支援機能5.外部パートナー
- ・ベスト・プラクティスに追随するためには、外部パートナー、特にスタートアップのコミュニティに属する人物に広く協力を仰ぐべきである。
- ・外部からの講演者や指導者、メンターを招いての企業内イベント開催などにより、外部との関係性を築くこともできる。
- ・オープン・イノベーション、スタートアップ・アクセラレーターとの協働、スタートアップとの共同作業などを通して、外部パートナーとより深く関わることもできる。
イノベーション・エコシステムを完成させる12のステップ
ステップ1.自社の現状把握
ステップ2.経営陣からの支援獲得
ステップ3.イノベーション投資方針の作成
ステップ4.事業ポートフォリオのマッピング
ステップ5.イノベーション・モデルの選択
ステップ6.イノベーション・フレームワークの開発
ステップ7.管理部門の活用
ステップ8.ツールとプラットフォームの開発
ステップ9.イノベーション能力の開発
ステップ10.イノベーション投資判定会議の設置
ステップ11.主要な指標の選択
ステップ12.コミュニティの構築
イノベーションに関する講演はいつも、市場破壊された大企業をおとしめる話から始まる。
私たち自身も本書やワークショップで同じ過ちを犯している。
それを知りながら本書を執筆したのは、リーン・スタートアップ運動から最大の恩恵を得られるのは大企業であるという強い確信を持っているからだ。
私たちの未来を担っているのは、画期的な製品やサービスを創出するスタートアップ企業だと、当たり前のように語られてる。
しかし評論家が主張するほど、これは必然ではないかもしれない。
まとめ(私見)
本書は、企業が「イノベーション・エコシステム」を構築するための原則を解説し、特に既存企業が同じ組織内でスタートアップを推進していくための実践的な手法を詳細に解説しています。
特に、イノベーションのベストプラクティスである手法を大企業向けに焼き直しているのが特徴で、企業がすでに保有している優位性を組み合わせることにより、リーン・スタートアップ運動による最大の受益者となることを目指しています。
そのために、リーン・スタートアップ、ビジネスモデル設計、顧客開発、デザイン思考などの最新の手法を企業が活用していくための工夫、すぐにイノベーション・エコシステムの構築を始めるために企業がなすべきことなどを紹介しています。
中でも、第9章では、新規事業をゼロから始めるのではなく、既存事業の見直しという視点で検討していく場合に参考になります。
そして、第10章では、イノベーション・エコシステムの構築手順を12ステップに整理されいますので、自社で取り組んでいく際のガイドとなります。
また、「組織のイノベーション力」の獲得には長期的な取り組みが必要であり、ミニマム・バイアブル・エコシステム(MVE:Minimum Viable Ecosystem)として即座に取り組み可能な部分から進め、試行錯誤と繰り返し学習を通じてイノベーション力を高める手順を理解することができます。
出典:スティーブ・ケース『サードウェーブ』バーバーコリンズ・ジャパン(2016年)
テンダイ・ヴィキ『イノベーションの攻略書』翔泳社(2019年)
企業は社内プロセスを再設計して活動に取り組む必要があり、その活動を社内でうまく管理し、イノベーションを実現していくためには経営層のリーダーシップと、活動を継続して成果を生み出していくための援護射撃が欠かせません。
- ・創造的なアイデアやひらめきを生み出すセレンディピティを促進する。
- ・創造的なアイデア生成のプロセスを文書化し、検証する。
- ・アイデアを収益性のあるビジネスモデルに転換させる。
その意味においては、イノベーション・エコシステムを活用して自社のイノベーション文化を変革する方法を、本書で提案してくれています。
個人的には、フレームワークを全面的に活用することには賛成はしませんが、本書で提供してくれている、体系的に整理された手法やフレームワークを参考にして、自社なりにアレンジして活用できるのではないかと思います。
そして、何よりも、イノベーションや新たなビジネスモデル構築について、全社で議論を繰り返し、その結果として企業文化に根付かせていくことが重要です。
本書は、経験豊富な著者らと訳者らによるイノベーション・エコシステム構築の実践的なノウハウが詳細に紹介されていますので、企業戦略を立案し、実行・管理していくうえでのバイブルとなる一冊です。
目次
Introduction イノベーションのパラドックス
PART 1 エコシステム
Chapter 1 イノベーション・エコシステム
Chapter 2 イノベーション投資方針
Chapter 3 イノベーション・ポートフォリオ
Chapter 4 イノベーション・フレームワーク
Chapter 5 イノベーションKPI
PART 2 実践
Chapter 6 アイデア創造
Chapter 7 アイデア検証
Chapter 8 事業の拡大
Chapter 9 事業の見直し
Chapter 10 今日から始めよう
参考
Resources - The Corporate Startup
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出版社:技術評論社 (2019/6/7)
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チャールズ・A・オライリー(著)、マイケル・L・タッシュマン(著)、入山章栄(監訳・解説)、冨山和彦(解説)
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ビジネスモデルを創出する組織とスキルのつくり方テンダイ・ヴィキ、ダン・トマ、エスター・ゴンス(著)、渡邊 哲(翻訳)
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