書籍 日本企業のポテンシャルを解き放つ DX×3P経営 | 福原 正大(著)

書籍 日本企業のポテンシャルを解き放つ DX×3P経営 | 福原 正大(著)

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日本企業のポテンシャルを解き放つ DX×3P経営

福原 正大(著)

出版社:英治出版 (2022/1/11)
Amazon.co.jp:DX×3P経営

  • なぜあの企業はDX推進に成功しているのか?

    世界から押し寄せるデジタル勢の脅威に抗え

    DX人材・組織づくりのプロントランナーが示す全社変革のロードマップ

関連書籍
 2022年12月24日 ポール・レインワンド 『ビヨンド・デジタル』ダイヤモンド社 (2022/11/30)
 2022年11月19日 ジョン・コッター『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』ダイヤモンド社 (2022/9/21)

本書は、大企業中心にDX組織変革コンサルティングを行うHRテック起業家であり、一橋ビジネススクールおよび慶応義塾大学経済学部の特任教授、政策アドバイザーを勤める著者が、3P(Philosophy・People・Process)のフレームワークをもとに全社をあげた「DXに強い人と組織づくり」の実践的な方法を示した一冊です。

「テクノロジーを活用して、どのように戦略を立て、事業や業務をアップデートするか」という、これまでのDXを巡る議論に対し、日本企業が抱える課題を明らかにし、解決策を人と組織に焦点を当てた具体的アプローチを示していますので、DX推進者だけではなく、経営トップやビジネスリーダーの方々にとって、DX推進を成功させるうえで大変参考になります。

本書は5章で構成しており、特に3章から5章では3Pフレームワーク(ヴィジョンと哲学・人材戦略・プロセス)それぞれ章を独立して詳細に解説し、DXを推進していくうえでの実践的な方法を示しています。

  • ・第1章では、スイスのネジ商社ボサード(Bossard)、JPモルガン・チェースやハネウェル、さらにはダイキン工業など、実際にDX推進に成功している伝統企業の事例を示しながら、「DXを始めるに当って、何を考えないといけないのか」という本質的な問いを考察しています。
  • ・第2章では、「今や、データとデジタル技術は『活用』ではなく『前提』となっている」という転換期にあるとして、企業に求められる戦略、その観点から日本企業でDXを阻んでいる問題点を掘り下げています。
  • ・第3章では、3Pの内「Philosophy(ヴィジョンと哲学)」の観点で、DX時代に求められる7つの視点に加え、クリステンセン『イノベーションのDNA』のイノベーションを起こす企業の哲学と対比しながら、創造的なカルチャーを育む哲学について詳細に解説しています。
  • ・第4章では、「People(人材戦略)」の観点で、人材像を決める際の手がかりとして、世界の先進企業が重視するコンピテンシーや気質、それらを伸ばしていくための考え方を紹介し、人びとに自然と芽生える変化への抵抗心「DXバイアス」への対処法を詳細に示しています。
  • ・第5章では、「Process(プロセス)」の観点で、ヴィジョン仮説をつくり、検証し、新たな価値を提供する事業をつくりあげていくための「探索型創造プロセス(5つのステップ)」を示しています。

伝統的な日本企業であっても、人材の潜在能力は欧米トップ企業と比べても遜色ありません。

また、ビジネスモデルも遅れをとっているとは思いません。

実際、GAFAのようなメガ企業であっても、リアルのモノ・サービスづくりに強い企業に対して大きな危機感を抱いています。

なぜなら、リアルのビジネスに強い企業こそ、DXを実現すれば競合になりうると考えているからです。

だから私は、経営トップが新しい時代に沿ったヴィジョンを示し、真剣に人と組織の変革に取り組んでDXを推進していけば、その大きなポテンシャルを解放できるはずだ、と確信しています。

日本企業の課題

日本の企業は、人材戦略とプロセスでつまずく可能性が高い。

日本企業が破壊的イノベーションを起こしにくい大きな理由は、イノベーションのリスクをとることに消極的である。

  • ・日本企業では、過半数がリスクをとることに消極的である。(積極的な人材は5%未満)
  • ・35歳から44歳までの人びとがリスク消極型になる傾向が最も低く、それ以上の層では年齢が上がるとともにリスクに対して消極的な人が増える傾向にある。

伸びている組織の中には、むしろ55歳以上の人たちの方がリスクに対して積極的である。

  • ・年齢がリスク回避姿勢を起こしているのではない。
  • ・会社の組織形態、プロセス、そして個人の心の問題が大きく関与している。

年齢とともに、意思決定にデータを用いる人材の割合が下がっていく傾向にある。

  • ・年代が上の人ほど、データよりも経験知を信頼していることかもしれない。
  • ・若い人ほどデータを使うが、意思決定する年配者がデータを使おうとしないため、会社がデータ志向に変われない。

取締役は既存事業を深堀する「深化型」傾向が強く、イノベーティブな「探索型」は部長くらいまでである。

日本の伝統企業には、従来から存在する大きな組織的・構造的な問題がある。

  • ・「創造的なアイデアや事業を推進する人」と「既存事業を堅実に伸ばしていく人」に求められる能力や資質は異なるが、そのために科学的データに基づく人材配置が十分にできていない。
  • ・既存の意思決定制度の枠組みのなかで新規事業の提案を評価する習慣があるため、「新規提案に対してリスク管理を求めすぎる」という組織の論理が働いている。

DX×3P経営

日本企業のポテンシャルを解き放つ DX×3P経営

『日本企業のポテンシャルを解き放つ DX×3P経営』を参考にしてATY-Japanで作成

Philosophy(ヴィジョンと哲学)

どんな世界(ヴィジョン)を実現するために、どの分野でデータを集め、プラットフォームを築くのか、という全体像を考える。

企業のトップが、誰もがワクワクするようなヴィジョンをつくる。

未来の新しい世界における顧客を中心に、ヴィジョンを構築する。

新しい技術を前提に、世界において自分たちが関わる産業がどうなっているのか、という絵を描いていく。

組織が時代の変化に対応して進化するためには、既存事業を深掘りする能力「深化」と新規事業を探索する能力「探索」という、相矛盾する能力を同時に追求する「両利きの経営」が重要である。

構築したヴィジョンと哲学に魂を入れるのは、トップの最優先の仕事である。

ヴィジョンは磨き続けなければいけないし、言葉にこだわり続けなければいけない。

People(人材戦略)

気質や潜在的なバイアスといった要素に注目した新しい能力開発のアプローチを実施する。

人材領域のDXによって人びとの能力がデータ化され、より客観的かつ科学的な評価・育成ができるようになってきている。

イノベーティブな創造性の高い人材を、管理職レベルから現場まで適切なバランスで配置する。

新たなヴィジョンを実現するためには、それぞれの企業の現状に合った人材が必要である。

近年世界的に主流となっているのは、コンピテンシーを重視した人材育成である。

コンピテンシーとは「行動特性」のことで、その人材が持っているスキルではなく、「どんなときにどう振る舞うか」「どのように問題と向き合うか」といった振る舞い方を意味している。

イノベーターたちには共通して「発見力(新しいアイデアを見つける力)」があり、それを可能にするスキルは「関連づける力」「質問力」「観察力」「ネットワーク力」「実験力」である。

「ヴィジョン」のコンピテンシーは、より複雑で先行き不透明な今の時代に、自ら未来を切り開くための道しるべをつくる能力である。

コンピテンシーに影響を与える要素は「外向性」「開放性」「繊細性」「協調性」「自律性」という個人の性格に影響する因子で、「性格特性」や「気質」などとも言われ、どの程度強いか・弱いかは一人ひとり異なる。

チームは、「発見力」ばかりでなく、それを実現化する「実行力」とバランスがとれるように構成すべきである。

コンピテンシーを伸ばすためには、自己評価と他者からの評価を融合させ、行動によって学習し、自己開発の筋道をアップデートしていくことが重要である。

上司はメンバーの現状と開発目標を把握し、安心安全な環境のもとで伸ばしていく。

一人ひとりの心の中のデジタル技術そのものやデジタルを前提としたイノベーションに対する「抵抗感」に紐づく「DXバイアス」を乗り越える。

Process(プロセス)

伝統企業で両利きの経営を実現するためには、「探索型」の事業創造プロセスが求められ、組織開発分野においても新たな知見が生まれている。

中でも、「心理的安全性」「弱さを見せあえる組織」が重要である。

クリステンセンが論じたプロセスは、イノベーション人材を獲得するための「採用プロセス」と、イノベーションにつながる行動を促す「発見プロセス」の2種類である。

  • ・採用プロセス
    採用時に「何か発見したことがあるか」と尋ねるような、創造的な人材を獲得するためのイノベーション企業の慣行である。
  • ・発見プロセス
    イノベーション人材に特有の行動を、組織全体に促すことである。

ヴィジョン仮説をつくり、それを検証し、新たな価値を提供する事業をつくり上げでいく、新たな人材戦略を実行し、多様な人材が集まった探索型チームをつくるためには、探索型創造プロセスを回すことが有効である。

日本はDX後進国と言われていますが、すでに多くのイノベーションを起こし、世界のトップを走ってきた日本企業の力があれば、巻き返すことは可能でしょう。

問題は、1人ひとりがDXバイアスを乗り越え、いつ改革を始めるか、なのです。

皆さんの会社にとってどんなヴィジョンや哲学・人材・プロセスが必要なのかは、自社のことを良く知っている皆さん自身であれば、きっと見出すことができるでしょう。

もちろん、3章で示したとおり、ときにはSF作家のような外部の力を借りるのも役に立ちます。

自社らしい未来像が見えてくれば、一気に改革は加速していくはずです。

まとめ(私見)

本書は、3P(Philosophy:ヴィジョンと哲学、People:人材戦略、Process:プロセス)フレームワークを示しながら、DXに強い人と組織をつくるための対応策について詳細に解説した一冊です。

著者の豊富なDX支援経験に加え、独自に収集した人材データを示しながら対応策を示していますので、表面的なDX推進ではなく、DX時代のビジョンや哲学、担うべき人材や組織変革、DXへの抵抗感への対処など、DX推進に関する本質的なテーマに取り組んでいくうえでのガイドとなります。

なお、本書の3Pは、クリステンセン『イノベーションのDNA』で示した、「哲学(philosophy)」「人材(people)」「プロセス(process)」の「イノベーションの源泉」の3つの要素を、DX時代にアップデートしていますので実践的でもあります。

  • ・哲学(philosophy)
    イノベーティブな企業は、誰もが創造性を発揮できるような行動指針をトップから発信し、リスクをとって挑戦することを奨励している。
    創造的な行動と思考を促す哲学を企業文化(カルチャー)の中に植え付けている。
  • ・人材(people)
    従来の価値観に基づく評価ではなく、創造的なスキルや能力の観点から人材を評価し、育成し、採用している。
  • ・プロセス(process)
    社員の創造性を刺激する仕組みがあり、事業開発や人材交流などのさまざまなところでイノベーションを意識したプロセスを構築している。

また、本書では、経済産業省のDX定義に対して、少し要素を絞った簡潔な表現で以下の通りに定義して、3つのキーワードを示しています。

2018年の経済産業省の定義

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

本書での再定義

「DXとは、データとデジタル技術を前提とした組織と事業によって、顧客価値を大きく向上させるイノベーションである」

  • ・キーワード1.データ(データは取るもではなく「つくるもの」)
    設定した目的に沿ってデータを収集し、AIなどで分析して事業の可能性を見出して仮説を組み立て、プロトタイプをつくって短サイクルでビジネスを回す。
    そして、顧客に関するデータを収集し、収集したデータが新しい可能性を示唆したらビジネスモデルの修正や戦略を転換する。
  • ・キーワード2.デジタル技術
    デジタル技術は有効なデータを導き出してくれないし、データは会社のビジョンや戦略に沿って設計されるべきである。
    そして、専門技術を知ることではなく、「ビジネス課題を解くために、どのようなデータを取得して、どのようなAIを活用すればよりよい結果が出るか」という、技術の使い方を身に着けることが重要である。
  • ・キーワード3.イノベーション
    イノベーションを起こせるかどうかは、技術の問題ではなく、イノベーションを意識的に引き起こす組織と人の問題である。

デジタルが前提となる現代においては、ビジョンとデータが重要になってくるというのが、著者の主張です。

しかし、伝統的な日本企業は、戦略面でも、さらに人と組織面においても、デジタル化に伴うビジネス変化についていけていないとしています。

その原因は、リスクを積極的にとる人材に十分なチャンスと権限が回っていない、意思決定にデータが活用されていない、科学的データに基づく人材配置ができていない、といった構造的な問題があると指摘しています。

トップが掛け声をかけ、DX専門組織をつくるが、実態は外部へ丸投げするなどといった小手先のDX推進ではなく、「全社一丸となってDXを推進する」ことが必要であることを本書は示しています。

そのためには、ビジョンを刷新し、ビジョンに沿ったデータを構築していかなければなりません。

そのビジョンを実現するためには、企業全体で創造的な文化を育む哲学が経営レベルで求められます。

そのうえで、DXに必要な人材の「コンピテンシー(行動特性)」や気質を理解し、「データ活用姿勢」「リスク選好」「深化型/探索型」「デジタルへの感情」といったDXバイアスを乗り越え、人事に関する予算を経営として確保し、戦略的な人事をおこなっていかなければなりません。

そして、ビジョンに沿ったデータと事業をつくるプロセス(データドリブンのプロセス)を回し続けていくことが必要となります。

本書は、「DXとはデータとデジタル技術を前提としたイノベーションである」ことを再認識し、DXに強い人と組織をつくるための具体的な対応策を考えていくうえで大変参考になる一冊です。

目次

はじめに

1 DX時代に企業は何が問われているのか

 伝統企業の逆襲

 DX時代の本質的な問い
――「DXに強い人と組織」をつくろうとしているか?

2 DXの本質と日本企業の課題

 時代の転換を表す「ソサエティ5・0」

 DXとは、データとデジタル技術を前提としたイノベーション

 データはとるものではなく「つくるもの」

 デジタル技術に関する罠

 イノベーションを起こす「人と組織」の基本は3P

 データから見えてきた、日本企業の現状

3 経営戦略を問い直す

 DX時代のヴィジョン

 創造的なカルチャーを育む哲学

 ヴィジョンと哲学に魂を入れる

4 人材戦略を問い直す

 DXに必要な人材の「コンピテンシー」とは

 公正な360度評価を実現する

 DXバイアスを乗り越える

 技術的なハードルを乗り越える

 10年後を見据えた採用戦略

5 プロセスを問い直す

 データドリブンの探索型創造プロセス

 失敗への恐れを乗り越える

おわりに

参考

DX×3P経営|書籍|英治出版

IGS - Institution for a Global Society株式会社

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