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コトラーの起業家的マーケティング
フィリップ・コトラー(著)、ヘルマワン・カルタジャヤ(著)、ホーイ・デン・ホァン(著)、ジャッキー・マセリー(著)、恩藏 直人(監訳)、藤井 清美(翻訳)
出版社:朝日新聞出版 (2025/4/18)
Amazon.co.jp:コトラーの起業家的マーケティング
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伝統的手法から脱して創造性とリーダーシップ重視型アプローチへ
2030年に向け、曲がり角を越えるために、起業家的マインドセットを実装せよ
神様コトラー提唱!
マーケティングの新しい枠組み「オムニハウス・モデル」徹底解剖!
本書は、フィリップ・コトラー名誉教授らが、変動性と不確実性に満ちた今こそ「起業家的」精神を実装する「次世代マーケティング」の実践を伝授した一冊です。
『コトラーのマーケティング4.0』(朝日新聞出版、2017年8月21日)、『コトラーのマーケティング5.0』(朝日新聞出版、2022年4月20日)に続く新刊ですが、第16版になっている『マーケティング・マネジメント』(Pearson Education Japan for JP)の続編の位置づけとして、新しいマーケティングを論じた書籍といえます。
新バージョンとなる起業家的マーケティングについて詳細に解説していますので、マーケターだけでなく経営者の方々が、伝統的手法から脱して創造性とリーダーシップ重視型アプローチへ変革していくうえでのガイドになります。
本書は12章と終章で構成しており、起業家的マーケティングのコンセプトの枠組みとなる「オムニハウス・モデル」を用いて詳細に解説しています。
- ・第1章では、起業家精神クラスターとプロフェッショナリズム(専門性)クラスターで構成するオムニハウス・モデルの全体像を紹介したうえで、マーケティングの盲点という課題に対して起業家的マーケティングでどのように解決できるのかを解説しています。
- ・第2章では、二項対立するプロフェッショナル・アプローチと起業家的マインドセットについて、そのメリットとデメリットを明らかにしながら詳細に比較しています。
- ・第3章では、企業が生き残るためには協働することが必要であるとして、ダイナミクス(左上)の5つのドライバー(5D)を詳細に解説したうえで、将来のトレンドに対してどのように協働すべきかを紐解いています。
- ・第4章では、将来のビジネス環境ではダイナミクス(左上)内の4Cダイヤモンド・モデルの一つである「顧客」が主役になるとして、新しい顧客管理と顧客ナビゲートを解説し、保守的企業と先進的企業を対比しながら今後の方向性を探っています。
- ・第5章では、マインドセットや機能や資源を調和させるための戦略について論じています。
特に、起業家精神クラスターのさまざまな要素を融合させて、専門性クラスターの諸要素とを結びつける方法を探っています。
- ・第6章では、サイロの壁を打ち破る方法について論じています。
まずマーケティングと財務を結びつける方法を探った後、他の資源、特にテクノロジーと人間に関する資源の融合について検討しています。
- ・第7章では、起業家精神クラスターの「創造性」と専門性クラスターの「生産性」の融合について論じています。
まず創造性と生産性に関する問題を明らかにした後、顧客や投資家を引き付ける方法を探っています。
- ・第8章では、創造性とバランスシートの関係について論じています。
貸し手と投資家の両方の視点を明らかにして創造性の本質を探ったうえで、創造性の最適な結果を得るための方法を探っています。
- ・第9章では、起業家精神クラスターの「イノベーション」と専門性クラスターの「改善」を結びつけることで競争優位を築くための必要な工程を解説しています。
4C分析、保守的アプローチと先進的アプローチ、利益拡大のためのイノベーティブなソリューション実現のための3つの戦略適合、イノベーションと収益性の互恵的関係について解説しています。
- ・第10章では、起業家精神クラスターの「リーダーシップ」と専門性クラスターの「マネジメント」を融合させる必要性について論じています。
まずリーダーシップと起業家的マーケティングとのつながりを探り、リーダーシップとマネジメントとの関係に注目し、株主にとっての価値要素を結びつけて、その測定方法を検討しています。
- ・第11章では、これまでの章では起業家精神クラスターと専門性クラスターの要素間の関係を論じてきたのに対して、本章では起業家的マーケティング戦略について解説しています。
5Dの分析に基づいて4Cを検討し、マーケティング構造(PDB)に変換する方法を解説しています。
- ・第12章では、起業家精神クラスターの要素「CI-EL」と専門性クラスターの要素「PI-PM」を水平に論じています。
急拡大のためにはケイパビリティを築き、それらを同時活用しなければならないとして、戦略の実行に必要なオムニ・ケイパビリティを探っています。
- ・終章では、オムニハウス・モデルの中央に位置する要素の「オペレーション」について論じています。
企業の硬直性が生じる原因を明らかにして、対策のためのサプライチェーンの統合とビジネス・エコシステム構築の重要性、新しいオペレーションの卓越性の3つの面について解説しています。
その変化にはマーケティングも含まれる。
望ましい結果を何度も生み出したかもしれない。
我々は本書で、この手法を「プロフェッショナル・マーケティング」と呼ぶ。
それはセセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング、製品管理、ブランド管理などの概念と結び付いている。
ゆっくり一歩ずつ進む手法は、今ほど接続されていなかった時代には適していたのかもしれない。
だがもう、そうは言えなくなってきている。
急速に変化する今日の世界では、どこにでも合わせられ、必要に応じて機敏に動けるマーケティング戦略が必要とされる。
起業家的マーケティングこそ、組織が互いに繋がり合い、柔軟で、結果ドリブンになるための手段となっている。
起業家的マーケティング
起業家的マーケティングという概念は、マーケティングの要素と起業家的精神の要素を組み合わせたものであり、ホリスティックな視点を包含している。
- ・マーケティングが過去に往々にして閉じこもっていたサイロ、縦割り組織から脱した全部門を統合するアプロ―チである。
- ・それは起業家的な面とプロフェッショナル(専門的)な面、それぞれのマインドセットを融合させるということでもある。
起業家的マーケティングは、ケイパビリティ(能力)を次のレベルに引き上げ、顧客が繋がるだけでなく、顧客に直接語りかける方法を見つけようとする。
デジタル技術の進歩により、組織のさまざまな機能の統合がかつてないほど容易になり、起業家的マーケティングは、財務、テクノロジー、オペレーションなど、他部門と互いに交流する。
起業家的マーケティングは、起業家そのものに類似しており、リスクをとることを奨励し、結果ドリブンであり、生産性を追求し、改善する機会を常に探すなど、素晴らしい可能性をたくさん秘めている。
オムニハウス・モデル
『コトラーの起業家的マーケティング』を参考にしてATY-Japanで作成
起業家的マーケティングのコンセプトの枠組みとなる「オムニハウス・モデル」は、起業家的マーケティングのビジョンであり、組織全体とどのように統合させるかを示している。
オムニハウス・モデルは戦略を実行し、具体的な目標を達成するために使う枠組みである。
起業家的マーケティングの解釈をより正しい方向へと導く道案内の役目を果たす。
オムニハウス・モデルの核は、起業家精神グループとプロフェッショナリズム(専門性)グループの2つのクラスターに集約される。
2つのクラスターは他の機能に取り囲まれており、それらの機能と互いに影響を及ぼし合っている。
- ・「ダイナミクス(左上)」の要素は、マーケティングの戦略や戦術を構築するための基盤になる。
- ・「創造性」と「改善」は、堅固な「起業家精神」と「リーダーシップ」というマインドセットを併せ持つ人びとによって「マネジメント」されて、初めて「競争力(右上)」へと結びつく。
- ・「創造性-改善」と「生産性-イノベーション」の融合は、過去(左下)の「貸借対照表(B/S)」や「損益計算書(I/S)」に反映される。
- ・「起業家精神-専門性」と「リーダーシップ-マネジメント」を強固に融合させながら実行していることが、未来(右下)の「キャッシュフロー(C/F)」や「市場価値(M/V)」を決定する。
オムニハウス・モデルが示すように、マーケティングを財務と、またテクノロジーを人間と融合させることは不可欠である。
オムニハウス・モデルの中心にはオペレーションがあり、マーケティングの目的を引き受けて実行に移し、同時に財務目標も達成できるようにする。
また、テクノロジーの利用が最終的に人間に強い影響を与える橋渡しもする。
我々は警戒を怠らず、Z世代の登場やメタバースの誕生など、将来的に大きな影響に繋がる出来事を先読みして対処する必要がある。
変化には柔軟に対応し、テクノロジーに対して拒否反応を起こしてはならない。
強い利益動機を持つことは少しも悪いことではないが、それは社会・環境面に関する様々な責任課題を忘れてもよいということではない。
ビジネスモデルに接続可能性という側面を組み込むべき時が来たのである。
まとめ(私見)
本書は、変動性と不確実性に満ちた今こそ「起業家的」精神を実装する「次世代マーケティング」の実践を伝授した一冊です。
起業家的マーケティングのコンセプトの枠組みとなる「オムニハウス・モデル」を用いて詳細に解説していますので、マーケターだけでなく経営者の方々が、これまでのプロフェッショナル・マーケティングから起業家的マーケティングという新しい時代へ移行するうえでのガイドとなります。
本書は、コンセプトの解説が中心となっていますが、マーケティング戦略や戦術を検討する際、組織内でマーケティングと他部門との連携を強化する際、オンラインとオフラインの統合を実行していく際などにおいて、さまざまな課題を乗り越えるための指針となります。
本書が示すコンセプトを自身の組織と対比しながら読み進めていけば、組織が持つ潜在力をより深く理解できるだけでなく、弱点に対してどのように対処すればよいかを理解して、変化する世界で主導的役割を担う準備ができます。
なお本書は第12章まですが、第13章から第16章までは技術的な内容であるため外されていますが、別途サイトでPDF公開していますので、本書内のURLをご確認ください。
目まぐるしく変わる今日のビジネス環境では、プロフェッショナル(専門的)・アプローチだけに頼っていくことはできなくなっています。
これからは企業内部の戦略的柔軟性が不可欠であり、経営層にも起業家的アプローチを採用してもらい、そのアプローチを全社に組み込むことが必要です。
自社のニーズに最も適したプロフェッショナル・マーケティングと起業家的マーケティングのバランスを見つけて実践していかなければなりません。
また、オムニハウス・モデルの両端には、「マーケティング」「テクノロジー」「人間」「財務」の4つの機能を置き、しかも「マーケティング」と「財務」、「テクノロジー」と「人間」を対角線上の両端に位置付けて、それぞれを統合することの重要性を説いています。
企業の多くではこれらの機能が往々にして縦割りで、切り離されていると強調しています。
従来型マーケティングの盲点の一つは、財務機能とマーケティング機能が両立できていないことであるとして、財務部門とマーケティング部門の間に強固な関係を築くことは財務的メリットにつながると提言しています。
- ・財務分野の主要測定基準の多くは、売上利益率や総資産利益率などのリターンという考え方を基本にしている。
- ・一方、マーケターは、ブランド・ロイヤリティ、顧客満足度、市場シェアなどの非財務的測定基準を使うことが多い。
「テクノロジー」と「人間」も同様に、メンバー(人間)がテクノロジーの支援を受けて高レベルの業務に集中できるという、テクノロジーと人間のバランスがとれた状態を築くことはメンバーの強化につながるとしています。
組織の硬直性と慣性は企業の統合に向けた障害となりますが、企業として一体となることは、意味性、存続可能性、持続可能性にとって不可欠です。
組織が縦割りとなって連携できない状態(サイロ化)を解決するには時間を要するのかもしれませんが、持続可能性に向けて段階的に移行し、そのためには起業家精神とリーダーシップのマインドセットが必要です。
原書『Entrepreneurial Marketing』は2023年3月に出版されていて本書の記述内容に時間差がありますが、本書を参考にして取り組んでいけば今からでも間に合うと思います。
本書によれば、2022年から2030年までがポスト・ノーマル時代の「次の曲がり角」に位置付けて、2025年までのさまざまな可能性に対処するための姿勢が決定的な意味を持つと提言しています。
そして、2030年は戦略的な時点で、SDGs(持続可能な開発目標)の達成期限でもあり、2045年に向かう足がかりとなるとしています。
2030年以後の時代に生き残りたいなら、2030年に向かう流れに乗り損ねないようにすべきであると警告しています。
2045年は、アメリカの発明家であり人工知能研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏が2005年に提唱し、人間の知能と人工知能が融合する時点「シンギュラリティ(技術的特異性)」を指しています。
今日の企業は、2030年に向かって前進するために戦略的柔軟性を構築する必要があり、それは後の数十年に向かう重要な踏み台にもなると強調しています。
企業が競争力を生み出すためには、部門内の資源を最適化し、自社戦略に合わせてケイパビリティを調整し、成長状態における独自のコンピテンシーを特定することが重要です。
加えて、柔軟な価値創造プロセスを確実にするために、重要なパートナーとのネットワークを使い、戦略的パートナーとのネットワークを築いてバリューチェーンを統合することも必要です。
そのためには、企業は硬直性と柔軟性を同時に管理する能力を持たなければなりません。
ビジネス環境における不確実性が高まっている現在、顧客も技術も競争環境も大きく変化している状況においては、伝統的なマーケティング(プロフェッショナル・マーケティング)だけでは対応できなくなっています。
それを補うのが、起業家精神やリーダーシップを中心とした起業家的マーケティングであるとして、マーケティングとの融合について詳細に解説しています。
本書は、起業家的マインドセットとプロフェッショナリズムを一緒に活用し、さまざまな二項対立を融合させ、健全な戦略・戦術を策定し実行するための「次世代マーケティング」理論を展開した一冊です。
目次
プロローグ ― ポスト・ノーマル時代のマーケティング
第1章 オムニハウス・モデル ― 起業家的マーケティングのホリスティックな視点
第2章 オムニハウス・モデルのコア要素 ― プロフェッショナル・マーケティングから起業家的マーケティングへ
第3章 競争に関する再考 ― サステナビリティのために協働せよ
第4章 顧客のナビゲート ― マーケット・ポジション強化のための先進的アプローチ
第5章 ケイパビリティの統合 ― マインドセットを調和させるために
第6章 諸機能の統合 ― 組織内の諸部門を融合させよ
第7章 創造性と生産性の融合 ― アイデア創造から資本の最適化まで
第8章 創造性とバランスシート ― 想像力のための資金を調達する
第9章 イノベーションと改善の融合 ― 利益率を高めるためのソリューション中心アプローチ
第10章 リーダーシップとマネジメントの融合 ― 価値観を維持し、市場価値を高めよ
第11章 機会を見つけてつかむ ― 事業の見通しからマーケティングの構造まで
第12章 オムニ・ケイパビリティの構築 ― 準備から実行へ
終章 一段上のオペレーションの卓越性 ― 硬直性と柔軟性のバランスをとれ
エピローグ
未収録(別途サイトでPDF公開中)
第13章 将来の軌道の確保 ― バランシートから市場価値へ
第14章 マーケティングと財務の統合 ― 分離から統合へ
第15章 人間のためのテクノロジー ― ハイテク、より高レベルのタッチ
第16章 テクノロジーとステークホルダー ― ツールを活用して価値を高める
参考
コトラーの起業家的マーケティング:朝日新聞出版
Entrepreneurial Marketing with Philip Kotler and Julia Schlader, MA - YouTube
関係する書籍(当サイト)
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コトラーのマーケティング5.0
デジタル・テクノロジー時代の革新戦略フィリップ・コトラー(著)、ヘルマワン・カルタジャヤ(著)、イワン・セティアワン(著)、恩藏直人(監修)
出版社:朝日新聞出版 (2022/4/20)
Amazon.co.jp:コトラーのマーケティング5.0 -
コトラーのH2Hマーケティング
「人間中心マーケティング」の理論と実践フィリップ・コトラー (著)、ヴァルデマール・ファルチ (著)、ウーヴェ・シュポンホルツ (著)、鳥山 正博 (監修, 解説)
出版社:KADOKAWA (2021/9/29)
Amazon.co.jp:コトラーのH2Hマーケティング -
コトラーのリテール4.0
デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則フィリップ・コトラー、ジュゼッペ スティリアーノ(著)、恩藏直人(監修)、高沢亜砂代(翻訳)
出版社:朝日新聞出版(2020/4/20)
Amazon.co.jp:コトラーのリテール4.0
コトラーの起業家的マーケティング
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コトラーの起業家的マーケティング
フィリップ・コトラー(著)、ヘルマワン・カルタジャヤ(著)、ホーイ・デン・ホァン(著)、ジャッキー・マセリー(著)、恩藏 直人(監訳)、藤井 清美(翻訳)
出版社:朝日新聞出版 (2025/4/18)
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