書籍 コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践/フィリップ・コトラー

書籍 コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践/フィリップ・コトラー

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コトラーのH2Hマーケティング
「人間中心マーケティング」の理論と実践(H2H Marketing)

フィリップ・コトラー (著)、ヴァルデマール・ファルチ (著)、ウーヴェ・シュポンホルツ (著)、鳥山 正博 (監修, 解説)
出版社:KADOKAWA (2021/9/29)
Amazon.co.jp:コトラーのH2Hマーケティング

  • 「信用」に投資した企業のみが生き残る。

    「信用」と「共感」の通貨としての価値は今後ますます高まっていく
    新時代のバイブル

関連書籍
 2022年05月12日 フィリップ・コトラー『コトラーのマーケティング5.0』朝日新聞出版 (2022/4/20)

本書は、近代マーケティングの父、フィリップ・コトラー名誉教授が提唱する「新たなマーケティング・パラダイム」を解説した一冊です。

マーケティングは紆余曲折を経て「人間主体」の存在へと戻ってきており、現時点のゴールであるH2Hマーケティング(Human to Human Marketing)の理論を詳細に解説していますので、マーケターだけではなく多くのビジネスリーダーの方々にとって、自身のビジネスを実践に落とし込むことができる一冊です。

また、マーケティングの変遷を遡りながら体系的に整理していますので、現在のマーケティングの潮流を読む鳥観図としての価値も高く、知識の整理に役立ちます。

本書は6章で構成されており、マーケティングの現状を整理し、新たなマーケティング・パラダイムとしてのH2Hマーケティングを紹介したうえで、H2Hマーケティングの要素のマインドセットとマネジメントを解説し、実務としてのプロセスへと展開しています。

  • ・第1章では、マーケティングの現状を紹介しながら、今後の方向性について自問しています。
    単なる理論的な問いかけではなく変化の必要性を説き、近年台頭しつつある様々な概念にも触れ、現場で得た応用マーケティングについての所見と考察を練り上げています。
  • ・第2章では、H2Hマーケティングモデルを紹介しています。
    あらゆるマーケティング活動に盛り込まれるべき概念として、デザイン思考、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)、デジタライゼーションについて詳細に解説しています。
  • ・第3章では、H2Hマーケティングの要素の一つ目として、H2Hマインドセットについて解説しています。
    マインドセットという用語そのものを確認し、既存の市場や顧客志向のマーケティング・マインドセットを検証しながら、その二つの特徴を紹介しています。
  • ・第4章では、H2Hマーケティングの要素の二つ目のH2Hマネジメントについて解説しています。
    H2Hマーケティングモデルの基盤として、トラスト・マネジメント(信用管理)に焦点を置きながらH2Hマーケティングの戦略面を解説し、ブランドマネジメントの新しい考え方を紹介しています。
  • ・第5章では、H2Hプロセスと新たなマーケティングミックス形成に必要なプロセスに焦点を当て、オペレーティブ(実務)・マーケティングを再考しています。
    古典的な4P概念では現在のビジネス課題に対応しきれないとして、反復的なプロセスはデジタライゼーションがもたらす新たな技術機能とH2Hマーケティングの深い考察をベースとしており、顧客や協業パートナーに提案する有意義な価値の創造と提供に必要なコアコンピタンスに挑んでいます。
  • ・第6章では、生きることの難しい世界に意義を見出す新たな解を提示しています。

既存のマーケティング概念の多くは、H2Hマインドセットが掲げる目標を達成できない。

4Pマーケティングミックスを重視したプッシュ型マーケティングは、デジタル社会の実現にもはやフィットしない。

インターネットは双方向であるばかりか多方向である。

顧客に関する知識、顧客によるプル型行動、さらにはユーザー生成コンテンツ(User Generated Content / UGC)がますます重要な役割を果たす中、マーケターは、デジタライゼーションがもたらす影響に賢く、論理的に適応していかなければならない。

H2Hマーケティング

顧客や企業は双方の長期的な繁栄を目指すべきで、それが人間志向であるものこそが、H2Hマーケティングである。

最高マーケティング責任者(CMO)の役目は、顧客と企業双方のメリットの最大化であり、H2Hマーケティングを創造し、より高いパーパス(存在意義)に向けてまい進すれば現実のものとなる。

H2Hマーケティングを実践している企業は、顧客と価値を共創し、自社が提供する価値を適切に伝えることに注力している。

H2Hマーケティングは、サービスの共創的交換を新たなマイルストーンとする。

H2Hマーケティングは、人間と、人間が抱える問題の解決を中心に据え、現在欠けている信用、誠実さ、共感、脆弱性、建設的な対話、サステナビリティなどの問題に取り組んでいく。

H2H企業は、顧客やサプライヤー、従業員、社会全体に至るまで、あらゆる利害関係集団を倫理的に裏切らない。

「愛される企業」は「自分第一、他者は二の次」的思考を超え、あらゆる関係者の利益に配慮する利害関係者アプローチを採用する。

「愛される企業(FOE:Firms of Endearment)」の特徴

  • ・同業他社より高い給与水準で、社員教育に時間もお金もかける。
  • ・サプライヤーを、しもべではなく協働パートナーとして扱い、彼らの事業への支援をも獲得し、共に成長する。
  • ・顧客、従業員、操業している地域社会と積極的な絆で結ばれている。
  • ・離職率が低い。
  • ・長期目標を持ち、短絡的で軽率な行動に陥らない。

マーケティングは、大きな課題に直面している。

  • ・介入型のアウトバウンドマーケティングではなく、パーミッションベースの人間中心型マーケティングへと移行する。
  • ・株主中心の近視眼的視点ではなく、あらゆる利害関係者を人間として真摯に扱う方向へと移行する。
  • ・受動的な消費者の支配ではなく、顧客と共創・協働して共に社会に貢献する意識的な努力を重ねる方向へと移行する。

H2Hマーケティングモデルと理論フレームワーク

H2Hマーケティングモデル

『コトラーのH2Hマーケティング』を参考にしてATY-Japanで作成

H2Hマーケティングモデルは、デザイン思考、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)、デジタライゼーションといった影響因子を新しいマーケティングの考え方へのアプローチとして統合した理論フレームワークである。

デザイン思考、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)、デジタライゼーションの価値論理は、H2Hマーケティングの出発点であり、人間志向の企業によるサービスの革新や実現に向け、価値創出の視野を広げる。

H2Hマーケティングモデルは二階層を持ち、一階層目は、デザイン思考、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)、デジタライゼーションの三大概念を備えた概念的フレームワークである。

二階層目は、マーケティングの概念的思考を実装するレイヤーで、三つの要素がある。

  • ・一つ目は、H2Hマインドセットで、H2Hマーケティングを成功裡に実現するための前提条件である。
  • ・二つ目は、H2Hマネジメントで、H2Hマーケティングの戦略立案、調整、制御を担う。
  • ・三つ目は、H2Hプロセスで、H2Hマーケティングを実務に落とし込む。

顧客行動が変わり、バリュープロポジションを見直す必要が出てきたいま、企業は顧客との関係の変化が貴重な資産となることを知った。

デザイン思考

人間中心性、顧客に関する深い洞察をベースとした思考法、革新を生む反復プロセスとしてのマーケティングなどのマインドセットへの理解を促す。

マーケティングが有意義な革新への重要な役割を果たし、実践の現場でも実のある貢献をするための、人間中心的で経験主義的なマインドセットと方法論の基盤を提供する。

本質的な原則の一つは、提供側の収益性や技術的、組織的な実現可能性ではなく、そのソリューションがユーザー、人間にとって望ましいものかどうか、から議論を始めることである。

「マインドセットまたは文化としてのデザイン思考」と「ツールボックスや方法論」、そして「実践次元でのデザイン思考」の二つの次元がある。

  • ・思考パターン:共感力、統合的な思考力、楽観的、実験的、協働力
  • ・プロセス:理解、観察、ペルソナの視点の定義、アイデア出し、プロトタイピング、テスト

デザイン思考を成功裡に活用するには、方法論としてのみの導入も可能だが、方法論の適用が功を奏すにはマインドセットとして実装される必要がある。

サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)

様々な考えを統合して人間中心型マーケティングの理論基盤を提供し、協働エコシステムで価値を共創することの重要性を強調する。

S-DLにより、「価値創造、企業の役割、協働ネットワークの管理と運用が必要である」というH2Hマーケティングの理論基盤が手に入る。

価値は常に共創されること、企業が提供できるのはバリュープロポジションだけで、商品やサービスに価値を「組み込む」ことはできないことを示す。

S-DLにおけるサービスとは、行為、プロセス、パフォーマンスを通じて、他の事業体や事業体自身のメリットのために専門的な知識や技能を適用することを意味する。

S-DLは、先祖であるグッズ・ドミナント・ロジック(G-DL)とは対照的で、モノ中心の交換モデルから、サービス中心の交換モデルへとシフトしている。

  • ・G-DLは主にオペランド資源に焦点を当て、交換の基本単位はモノで、マーケターはオペランド資源である顧客に働きかけ、セグメンテーションを行い、リーチしようとしていた。
  • ・S-DLでは、交換の目的は相手の知識やスキルからメリットを得ることであり、顧客は「サービスの共創者」として参加するオペラント資源となる。
    モノはオペラント資源の運び手であり、モノに組み込まれたスキルや知識を運ぶ媒介となり、モノは埋め込まれた「知識」と「顧客」という二つのオペラント資源を繋ぐことになる。

参考:オペランド資源とオペラント資源

  • ・オペランド資源
    効果を生み出すために、行為が施されたり働きかけられたりする資源(機械、生産プラントなどのハード的な資源)
  • ・オペラント資源
    オペランド資源に行為を施すために使われる資源(スキルや知識などのソフト的な資源)
デジタライゼーション

顧客やマーケターに新たな選択肢を提供し、マーケティングの相互作用や取引の参加者全員に新たな可能性を提示する。

デジタライゼーションは、デジタルプロセスにけるデータの利用活用を意味し、デジタル変革はデータやプロセスを新しいビジネスモデルに適用することである。

様々な形でデジタル技術を活用し、ビジネスモデルを変えて新たな収入源や価値創造の機会を得ることを意味する。

デジタライゼーションの発展には、デジタルデータ処理の基盤構築、情報通信の相互接続、商品やサービスの相互接続の三段階があり、各段階は外部と内部に分けられる。

マーケティングへの影響

  • ・脱物質化とバリュープロポジションの個人化
    一人ひとりについての洞察を生成し、バリュープロポジション、コンテンツ、それらへのアクセスをパーソナライズしていく。
  • ・新しい顧客行動
    今日の顧客は、自分の人間としての問題を解決してくれるかもしれない商品を選択してからサプライヤーを選択する。
  • ・事業者と顧客の新たな関係
    情報の非対称性や知識の優位性が逆転する中で、価値の共創は企業と顧客の双方にとって望ましいものであり、それを推奨すべきである。

デジタルトランスフォーメーションに関するマーケティングの一番のポイント

  • ・短期目標という罠に陥らず、コミュニケーション機能に限定してはならない。
  • ・マーケターはデジタル技能を身に着け、賢い顧客との接点を維持し、デジタル能力について社内の他部門に遅れをとらないようにする。
  • ・マーケターは、常に繋がっている新たな顧客や企業のダイナミクスと、「接続性はマーケティングの重要基盤である市場そのものを変える」ことを理解する。

デジタライゼーションがどれだけ進もうとも、マーケティング活動は常に人間中心であらねばならない。

信用は事業を行う上で唯一の通貨であり、今後もそうあり続ける。

この点を企業はブランドマネジメントで真摯に受け止め、H2Hマーケティングの展開に活かす必要がある。

まだ見ぬ領域への地図とその深い洞察を提供するので、各人、大いなる旅路を歩んでほしい。

多くのCMOがこのアプローチを採用しており、今後も彼らに追随する人々が世界を良くしていくだろう。

まとめ(私見)

本書は、現時点のゴールであるH2Hマーケティング(Human to Human Marketing)の理論を詳細に解説した一冊です。

マーケティングの現状を整理し、新たなマーケティング・パラダイムとしてのH2Hマーケティングを紹介したうえで、H2Hマーケティングの要素のマインドセットとマネジメントを解説し、実務としてのプロセスへと展開しています。

マーケターだけではなくビジネスリーダーの方々にとって、自身のビジネスの実践に落とし込むことができます。

また第5章では、マーケティングの変遷を遡りながら体系的に整理していますので、現在のマーケティングの潮流を読む鳥観図としての価値も高く大変参考になります。

4P ⇒ 4C ⇒ SIVA ⇒ SAVE ⇒ 5C ⇒ 5Eの変化と、それぞれの主要な提案やH2Hマーケティングの結果を整理していますので、理論の理解を深めるのに役立ちます。

本書では、世界の構造的な変化を踏まえ、マーケティングの守備範囲、論理、ツールまでを大胆に変革しています。

特に、デザイン思考、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)、デジタライゼーションを柱としてマーケティングの守備範囲を広げ、マインドセットをアジャイルに変え、戦略レベルからオペレーションレベルまで再定義しています。

さらに各章の終わりには、「日本の読者へのヒント」として解説者の解説が加えられていますので、本書の内容の理解を深めるとともに、国内市場での展開を考えるうえで役立ちます。

H2Hマーケティングモデルは二階層で構成し、三大概念と三つの要素について詳細に解説したうえで、それぞれとの関連性について整理しています。

  • ・一階層目は、「デザイン思考」「サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)」「デジタライゼーション」の三大概念を備えた概念的フレームワーク
  • ・二階層目は、マーケティングの概念的思考を実装するレイヤーで、「H2Hマインドセット」「H2Hマネジメント」「H2Hプロセス」三つの要素

事業の目標達成には、大量消費主義を加速するのではなく、対象となる個人や人間に敬意を払うことこそが基盤になると強調しています。

そして、H2Hマーケティングには、デザイン思考、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)、デジタライゼーションなどの最新のアプローチを取り入れて、刷新したマーケティング理論を展開しています。

加えて、マーケティングの成功は理解度と実践力にかかっているとして、人間と人間の相互作用を特徴とするマインドセット、実践プロセス、経営タスクとしてのマーケティングの実践のあり方を提言し、信頼と共感の重要性を説いています。

本書は、H2Hマーケティングの要素を紹介して「勇気ある行動」を提言しています。

その土台となるのは、人間が抱える問題を見つめ、事業の妥当性を望ましさや経済的実現可能性から探るH2Hマインドセットであり、見えないものや個々人の要件、共創の可能性を深く理解することが必要であるとしています。

インターネットの普及、そして近年のコロナ禍により、企業・マーケターと消費者、ステークホルダーとの関係が一変しました。

その環境下において、新たなマーケティングの統合が求められますが、本書は新時代のマーケティングのバイブルとなる一冊です。

目次

はじめに

第1章 マーケティングの現状

1・1 マーケティングはどこへ向かっているのか?

1・2 愛される企業 ―― H2H理念の先駆者たち

1・3 持続可能な経営への挑戦

1・4 H2Hマーケティングへの進化

第2章 新たなマーケティングのパラダイム ―― H2Hマーケティング

2・1 H2Hマーケティングモデル ―― 三つの影響因子

2・2 デザイン思考

2・3 サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)

2・4 デジタライゼーション

第3章 H2Hマインドセット ―― H2Hマーケティングの基盤

3・1 伝統的なマーケティング・マインドセットとしての市場志向

3・2 H2Hマインドセットとは

3・3 H2HマーケティングモデルにおけるH2Hマインドセット

第4章 H2Hマネジメント ―― 信用とブランドを重視する

4・1 H2H信用マネジメント

4・2 H2Hブランドマネジメント

4・3 H2Hマーケティングにおけるブランディング

第5章 H2Hプロセス ―― オペレーティブ・マーケティングを再考する

5・1 H2Hへの道

5・2 H2Hプロセスの詳細

5・3 H2Hマーケティングの実践プロセス概念としてのH2Hプロセス

第6章 この難しい世界の中で

6・1 世界の目覚め

6・2 レゾナンス(共鳴)のある未来へ

6・3 旅の終わりに

参考

コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践 | カドカワストア

H2H Marketing | Knowledge, strategies and tools - New Marketing Mindset

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