プラットフォームの構築、一人勝ちする理由と先行者への対応(攪乱要因)

プラットフォームの構築、一人勝ちする理由と先行者への対応(攪乱要因)

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プラットホーム型ビジネス

経済産業省『2019年版ものづくり白書』(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成

ここでは、『集中講義デジタル戦略 テクノロジーバトルのフレームワーク』(根来 龍之、2019年8月8日、日経BP)で整理されているプラットフォームの構築、特に一人勝ちする理由と先行者への対応(または攪乱要因)について整理します。

産業がデジタル化された結果、産業のレイヤー構造化が進み、ユーザーの選択肢を広げる「多様性の基盤」となるのがプラットフォームです。

プラットフォームには、「ネットワーク効果」などの特有の成長加速要因が存在するため、一人勝ちの状況が生じやすくなります。

一方、一人勝ちにならないように働く、「マルチホーミング」「クロスプラットフォーム製品」「市場の成長」「スイッチングコスト」などの要因(攪乱要因)もあります。

プラットフォーム構築

プラットフォームは、顧客に価値を提供する製品群の土台となるもので、企業や消費者などの他プライヤーが提供する製品・サービス・情報と一体になって、初めて価値を持つ製品・サービスとなる。

ある事業を成功させると、その事業基盤とシナジーが働く事業を付け加えながら成長していくことが多い。

新しく付け加えていく事業は、新たな収益源の確保が目的の場合もあれば、顧客基盤を広げることや顧客の囲い込み(ロックイン)が目的の場合もある。

プラットフォームの広がりをうまく設計することができれば、自社プラットフォームを中心とした経済圏を広げることができる。

プラットフォームのビジネス構造
以下の二つの種類に大別できるが、現実のビジネスでは両方の側面を有していることが多い。

  • 1.基盤型プラットフォーム
    ・ゲーム機のように、補完製品が存在することを前提にするプラットフォーム
  • 2.媒介型プラットフォーム
    ・ユーザー間の仲介、コミュニケーションや取引きの媒介などの機能を持つプラットフォーム
    ・手数料を収益源とする場合は、補完プレイヤーを囲い込もうとする傾向がある。
プラットフォームが一人勝ちする理由

プラットフォームには、「ネットワーク効果」などの特有の成長加速要因が存在するため、一人勝ちの状況が生じやすい。

また、プラットフォーム以外にも働く成長加速要因として、「先発優位性」「規模の効果・収穫逓増性」などがある。

一方、一人勝ちにならないように働く、「マルチホーミング」「クロスプラットフォーム製品」「市場の成長」「スイッチングコスト」などの要因(攪乱要因)もある。

「市場の成長」は市場形成の前半から働く要因であるのに対し、「スイッチングコスト」はある程度規模が大きくなった後の攪乱要因と位置付けられる。

先発優位性

  • ・先発者は、顧客基盤を最初に獲得できることから、「技術・ノウハウ獲得」「ブランド確立」「顧客からのフィードバック獲得」などのメリットが得られる。
  • ・先発優位があって、スイッチングコストが高い場合には、その優位性がさらに促されるが、先発優位性が発揮できない場合は、阻害要因となる。

収穫逓増

  • ・先行した企業に規模の経済が働くと、さらに成長が加速される。
  • ・一般に、規模が拡大すると単位当たりのコストが低下する(規模の経済)が、ある程度以上になると逆に単位コストが高くなり、利益率が低下してしまう(収穫逓減)
  • ・しかし、デジタル製品・サービスは、規模拡大とともにコストの低下がなかなか止まらない(収穫逓増)
  • ・規模の効果は、シェアが高い企業に有利に働き、収穫逓増が続く場合は、上限なく規模拡大を追求する内的要因となり、さらに一人勝ちが進む。

ネットワーク効果

  • ・ネットワーク効果とは、利用者が増えるほど製品・サービスの価値が上がることを意味し、利用者の拡大によって利便が増加する。
  • ・ネットワーク効果の特徴のひとつは、ある規模を超えた場合、需要の爆発的な成長がある。
  • ・ネットワーク効果には、「サイド内」と「サイド間」の二つの種類があり、「サイド間」は「サイド内」よりも後に働く。
    1.サイド内ネットワーク効果
    ユーザー数が増えると、そのユーザーが属するグループにとって、プラットフォームの価値が向上あるいは下落する現象
    2.サイド間ネットワーク効果
    片方のユーザーが増加すると、もう片方のユーザーグループにとってプラットフォームの価値が向上あるいは下落する現象
  • ・プラットフォームの設計では、マネーサイドとサブシティサイドを効果的に使い分けて、「どのように儲けるか」という収益モデルを考える。
    1.マネーサイド:収益源となるプレイヤーグループ
    2.サブシティサイド:無料あるいはコスト割れで製品・サービスを提供されるプレイヤーグループ
プラットフォーム構築

産業のレイヤー構造化が進んできた場合は、プラットフォームの考え方を戦略に取り入れることが有効である。

但し、あえてプラットフォーム型のビジネスにしないという戦略もあり得る。
その場合は、補完製品を他社に頼らず、全部自分でやるという選択をすることである。

プラットフォームと補完製品群を合わせて「エコシステム」と呼ぶが、プラットフォームは「エコシステムのマネジメント」という経営課題を持っている。

  • ・プラットフォーム(土台)と補完製品群との接続方法を定めておけば、補完製品群を増やしていける(モジュール化がカギ)
  • ・プラットフォームと補完製品群が分離しているからこそ、ネットワーク効果という経済原理が働き、エコシステム全体の価値が高まっていく。
  • ・プラットフォームは他のプレイヤーの協力を前提にしているため、協力してくれるプレイヤーを増やし、やる気になってもらうことが重要となる。
    そのためには、プラットフォーム参加メリットを理解してもらうことが重要であり、時には「口説き落とす」という泥臭い努力も必要となる。く

プラットフォームビジネスでは、「他社にオープンにする範囲」を決めることが重要である。

  • ・「どのプレーヤーに、どの程度まで他社の補完製品を受け入れるか」という意思決定をする必要がある(技術の問題ではない)
  • ・エコシステムの大きさ、成長のスピードを考えるとき、「補完製品の品質をどのようにコントロールするか」ということは重要なテーマとなる(コントロールの強弱は、エコシステムの性質や魅力に影響する)

先行者への対応、または攪乱要因

プラットフォームが一人勝ちにならないように働く、「マルチホーミング」「クロスプラットフォーム製品」「市場の成長」「スイッチングコスト」などの要因(攪乱要因)もある。

これらの攪乱要因を突いていければ、後発企業でも対抗して戦うことができる。

市場の成長、新たな機能やサービス

スイッチングコストがあっても、それが影響しない新規顧客を中心に顧客を獲得することができる。

世代交代によって生まれる新しい利用者には、後発企業でもアプローチしやすい。

先発企業にない機能やサービスを後発企業が持っている場合は、それらの魅力に新規ユーザーは反応しやすい。

スイッチングコスト

「金銭的コスト」「心理的コスト」「手間コスト」など、ユーザーが現在利用している製品・サービスから別に乗り換える際に負担するコストである。

先発優位があまり働かない場合は、スイッチングコストによって市場シェアが分散される。

金銭的コスト(低い場合)

  • ・新規の投資がいらない
  • ・教育を受けなくても使える

心理的コスト(低い場合)

  • ・スイッチにリスクを感じない
  • ・親しみ、愛着を感じない

手間コスト(低い場合)

  • ・スイッチする祭に関連作業がない
  • ・切り替えるのに時間がかからない(待つ必要がない)
マルチホーミング

ユーザーが複数のプラットフォームを並行して使用することをいい、マルチホーミングが広く行われている場合は、一人勝ちになりにくい。

自社サービスを使ってもらうよう提案することは相対的に容易であるため、後発企業にとってはマルチホーミングは使いやすい追い上げ手段である。

マルチホーミングが進むかどうかの分かれ目はメリットとコストとの関係で、メリットがコストを上回ると感じる利用者が多いほど、複数のプラットフォームを使う利用者は増える。

複数のプラットフォームを利用しにくい分野では、ユーザーはどれか一つのプラットフォームを選択する傾向にあるが、それほど機能差がない場合や、仮に劣っていても必要な機能が十分満たされている場合は、ネットワーク効果やバンドワゴン効果に影響されやすい。

利用するプラットフォームの数が増えてもマルチホーミングのコストが比例して増えていかない場合は、3つ以上のプラットフォームが共存する市場になりやすい。

クロスプラットフォーム製品

後発企業がマルチホーミングに着目すると、先発企業の一人勝ちを抑止することができる。

複数のプラットフォームで使える補完製品(クロスプラットフォーム製品)が市場に登場して利用者が使うようになると、個別プラットフォームの囲い込み効果を弱める。

クロスプラットフォームは、それを基盤とする製品・サービスや、それを上位レイヤーとする製品・サービスのネットワーク効果を阻害する。

クロスプラットフォーム製品・サービスがあることで、シェアが小さいサービスも存続しやすくなる。

クロスプラットフォームの補完製品・サービスは、個別プラットフォームのネットワーク効果を中和する。

プラットフォーム間の差別化を減少させ、マルチプラットフォーム化の要因となる。

その他

ニッチ市場で勝負

  • ・強いプラットフォームがあっても、小さなプラットフォームが存在し得る場合もある。
  • ・それは、小さなプラットフォームが対応するニッチ市場に、業界リーダー的なプラットフォームが参入しにくい理由(戦略グループ障壁)があるかどうかで決まる。

「土俵替え」による形勢逆転

  • ・ビジネス基盤となっているインフラが変化することで、一人勝ちが崩壊する場合もある。
  • ・新しい端末・デバイスの出現、通信環境の変化など

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