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新興技術のハイプ・サイクル(2024年版)
出典:Gartner『Gartner 2024 Hype Cycle for Emerging Technologies』
現地時間2024年8月21日、米国の調査会社Gartner(ガートナー)が「新興技術のハイプ・サイクル2024年版」を公開しましたので、概要を整理します。
ハイプ・サイクル(2024年版)の概要
「新興技術のハイプ・サイクル2024年版」も、2019年版で方針を変更して以来、過去の同ハイプ・サイクルでは取り上げていなかった最新テクノロジーを紹介しています。
そのため、「幻滅期(Trough of Disillusionment)」「啓発期(Slope of Enlightenment)」「生産の安定期(Plateau of Productivity)」のテクノロジーがなくなっています。
また、2年から5年で主流に採用される可能性が高いものは少なく、多くは5年から10年以上かかるテクノロジーとなっています。
テクノロジーの初期段階の性質上、展開リスクは高くなりますが、アーリーアダプターにとってのメリットは潜在的に大きくなります。
Generative AI(生成的AI)は、昨年は「過度な期待のピーク(Peak of Inflated Expectations)」のほぼ中央に位置していましたが、今回は「過度な期待のピーク」終わり部分に移動し、2年から5年で主流に採用される可能性が高いとしています。
これは、ビジネスの焦点が基礎モデルへの関心からROIを促進するユースケースへと移行し続けているため、過大な期待のピークを過ぎたとしています。
そして、2,000を超えるテクノロジーや適用済みフレームワークを分析したうえでの知見を抽出し、注目すべき25の先進テクノロジーを4つの包括的なトレンドとして簡潔にまとめています。
そこで、注目すべき25の先進テクノロジーは、「自律型 AI:Autonomous AI」「開発者の生産性の向上:Boost Developer Productivity」「トータル エクスペリエンスによるエンパワーメント:Empower With Total Experience」「人間中心のセキュリティとプライバシーの実現:Deliver Human-Centric Security and Privacy」の4つのテーマに分類しています。
なお、2023年版では、「新興 AI:Emergent AI」「開発者エクスペリエンス(DevX):Developer experience (DevX)」「普及型クラウド:Pervasive cloud」「人間中心のセキュリティとプライバシー:Human-centric security and privacy」の4つの包括的なトレンドに集約していました。
2024年版、新興テクノロジーを4つのテーマに分類
自律型 AI:Autonomous AI
AIの急速な進化により、人間の監視を最小限に抑えて動作し、自己改善し、複雑な環境での意思決定を効果的に行うことができる自律型AIシステムが生まれている。
人間が実行できるあらゆるタスクを実行できる高度なAIシステムは、ゆっくりと現実へ移行し始めている。
注目すべきテクノロジー
- ・マルチエージェント システム、大規模アクション モデル、マシン カスタマー、ヒューマノイド作業ロボット、自律エージェント、強化学習など
- ・マルチエージェント システム(MAS:multiagent systems、自己組織化システム)
複数の相互作用するインテリジェントエージェントで構成されたコンピュータシステム
- ・マシン カスタマー(machine customers)
機械の顧客が幅広い消費者および企業の購入に関与するようになり、組織にとっての主要な課題と機会を予測して解明し、組織がそれらに取り組む必要がある。
参考:Gartner Says Machine Customers Represent
開発者の生産性の向上:Boost Developer Productivity
テクノロジーは、開発者がソフトウェアを設計して提供する方法を変革し、開発者の生産性をこれまで以上に高めている。
開発者の満足度、コラボレーション、フローを改善することで、利益を最大化しながら、より高品質の製品を迅速に提供できるようになる。
注目すべきテクノロジー
- ・AI拡張ソフトウェア エンジニアリング、クラウド ネイティブ、GitOps、社内開発者ポータル、プロンプト エンジニアリング、ウェブアセンブリなど
- ・GitOps
バージョン管理や継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD)などのDevOps(開発および運用)の手法をインフラ管理に適用した運用モデル
- ・ウェブアセンブリ(Wasm:WebAssembly)
Webアプリケーションを高速実行するための最新技術で、プログラミング言語と多様な実行環境の間に位置する中間層的な役割
トータル エクスペリエンスによるエンパワーメント:Empower With Total Experience
トータル エクスペリエンスとは、顧客エクスペリエンス、従業員エクスペリエンス、マルチエクスペリエンス、ユーザー エクスペリエンスの実践を融合させることで、優れた共有エクスペリエンスを生み出す戦略である。
顧客と従業員の両方にエンパワーメントを提供して、信頼、満足度、忠誠心、支持を高めることを目指す。
注目すべきテクノロジー
- ・顧客のデジタル ツイン、空間コンピューティング、スーパーアプリ、6Gなど
- ・スーパーアプリ(superapps)
エンドユーザー (顧客、パートナー、従業員) に一連のコア機能と、独自に作成されたミニアプリへのアクセスを提供するアプリ
参考:Gartner、Superapps
人間中心のセキュリティとプライバシーの実現:Deliver Human-Centric Security and Privacy
チーム間で相互信頼と共有リスクの認識の文化を生み出すセキュリティとプライバシーの技術を使用することで、組織の回復力が高まる。
人間中心のセキュリティとプライバシーは、組織のデジタル設計に強固なセキュリティとプライバシーの基盤を織り込む。
注目すべきテクノロジー
- ・AI TRiSM、サイバーセキュリティ メッシュ アーキテクチャ、デジタル免疫システム、偽情報セキュリティ、フェデレーテッド マシン ラーニング、準同型暗号化など
- ・AI TRiSM(AI Trust, Risk and Security Management)
AIモデルのガバナンス、信頼性、公平性、確実性、堅牢性、有効性、プライバシーをサポートする枠組みと定義
参考:Gartner、AIを安全かつ効果的に活用するために必要なことは何か?
- ・サイバーセキュリティ メッシュ アーキテクチャ(CSMA:cybersecurity mesh architecture)
多くの企業は、特定のセキュリティリスクに対処することを目的として、さまざまなポイントセキュリティソリューションを導入しているため、セキュリティアーキテクチャが複雑になり、監視と管理が困難に、検出の見逃しや応答の遅延につながる。そこで、サイロ化されたセキュリティから、より協調的で柔軟なセキュリティアプローチに移行するのを支援する概念
参考:Gartner、Cybersecurity Mesh
- ・フェデレーテッド マシン ラーニング(federated machine learning:連合学習)
データ サンプルを明示的に共有することなく、ローカル ノードに含まれる複数のローカル データセットでマシン ラーニング (ML) アルゴリズムをトレーニングすることが目的
参考:Gartner、Federated Machine Learning
4つのテーマ別テクノロジーと主流の採用までに要する年数
黎明期
「過度な期待」のピーク期
『Gartner 2024 Hype Cycle for Emerging Technologies』を参考にしてATY-Japanで作成
ハイプ・サイクルの2024年版と2023年版
ハイプ・サイクル(2024年版)
出典:Gartner『Gartner 2024 Hype Cycle for Emerging Technologies』
ハイプ・サイクル(2023年版)
出典:Gartner『Hype Cycle for Emerging Technologies, 2023』
ハイプ・サイクル(2024年版)では、「自律型 AI:Autonomous AI」「開発者の生産性の向上:Boost Developer Productivity」「トータル エクスペリエンスによるエンパワーメント:Empower With Total Experience」「人間中心のセキュリティとプライバシーの実現:Deliver Human-Centric Security and Privacy」の4つのテーマに分類しています。
- ・AIが引き続き注目を集めている一方で、CIOやその他のIT幹部は、開発者、セキュリティ、顧客および従業員のエクスペリエンスに変革をもたらす可能性のある他の新興テクノロジーも調査する必要がある。
- ・組織の未実証テクノロジーの取り扱い能力に応じてこれらのテクノロジーを活用する方法を戦略的に検討する必要がある。
一方、2023年版では、「新興 AI:Emergent AI」「開発者エクスペリエンス(DevX):Developer experience (DevX)」「普及型クラウド:Pervasive cloud」「人間中心のセキュリティとプライバシー:Human-centric security and privacy」の4つのテーマに分類しています。
- ・AIは現在注目されていますが、変革の可能性を秘めた他のテクノロジーにも目を向ける必要がある。
- ・他のテクノロジーには、開発者の経験を向上し、普及したクラウドを通じてイノベーションを推進し、人間中心のセキュリティーとプライバシーを提供するものが含まれている。
参考
ハイプ・サイクル(Hype Cycle)は、2,000を超えるテクノロジーの中から、注目すべき先進テクノロジー及びトレンドとして簡潔にまとめたものとして、米国調査会社のガートナー(Gartner)が1995年からグローバル版を毎年発表しています。
縦軸に期待度、横軸に時間をとって曲線で表し、多くの技術がこの曲線上を動くという主張で、IT業界の最新動向や今後のトレンドを見ていく上で参考になります。
横軸の時間の流れは、技術(テクノロジー)を5段階に分類しています。
なお、2020年9月に、ハイプ・サイクルのフェーズの日本語表記が、「啓蒙活動期(修正前)」から「啓発期(修正後)」に変更しています。
黎明期(Innovation Trigger)
- ・新しい技術が発表され、注目度が一気に上がる時期です。
- ・初期の概念実証 (POC) にまつわる話やメディア報道によって注目が集まりますが、多くの場合、使用可能な製品は存在せず、実用化の可能性は証明されていません。
過度な期待のピーク(Peak of Inflated Expectations)
- ・注目度が上がるにつれて、新しい技術に対する期待が高まる時期です。
- ・「過度な期待」によって理想と現実にギャップがある状態で、例えば「コスト削減ができると思っている」「儲かると思っている」「すぐに使えると思っている」といった点が挙げられます。
幻滅期(Trough of Disillusionment)
- ・新しい技術に対する実装が追いついていなかったり、周辺の技術が整っていなかったりして、期待外れを感じる時期です。
- ・「冷静な判断」を行う時期でもあり、短期的には幻滅したとしても、中長期で見ると重要なテクノロジーや考え方が存在する状態で、「本物と偽物の区別」が行われる時期でもあります。
- ・また、需要側と供給側が歩み寄る現象が起こる時期でもあり、テクノロジーが具体的な商品やサービスになり、市場が形成されていく時期でもあります。
啓発期(Slope of Enlightenment)
- ・実装や周辺技術が追い付いてきた技術は、徐々に現実のビジネスで採用されていく時期です。
- ・テクノロジーが企業にどのようなメリットをもたらすのかを示す具体的な事例が増え始め、理解が広まり、第2世代と第3世代の製品が登場します。
- ・但し、保守的な企業は慎重で、採用していません。
生産の安定期(Plateau of Productivity)
- ・技術が安定し、広く普及していく時期です。
- ・プロバイダーの実行存続性を評価する基準がより明確に定義され、テクノロジーの適用可能な範囲と関連性が広がり、投資は確実に回収されつつあります。
Hype Cycle:Gartner
Gartner 2024 Hype Cycle for Emerging Technologies Highlights Developer Productivity, Total Experience, AI and Security
August 21, 2024 Gartner
ハイプ・サイクル | ガートナー ジャパン株式会社
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