ビジョンの策定とバックキャスティング型戦略策定、それを実行するリーダーの重要性

ビジョンの策定とバックキャスティング型戦略策定、それを実行するリーダーの重要性

このページ内の目次

バックキャスティング

近年、「バックキャスティング(バックキャスト)思考」の重要性が高まっています。

「バックキャスティング」とは、長期的なビジョンの策定やパーパス(存在意義)を考え、そこから逆算して明確な戦略に転換して計画的に実行していくことを意味します。

そこで、バックキャスティング思考による戦略策定の必要性、それらをけん引するリーダーの重要性について簡単に整理します。

バックキャスティング思考の必要性

バックキャスティング

「バックキャスティング(Backcasting)」とは、非連続的な未来像を考え、そこから逆算して戦略を策定していくものです。

これに対して「フォアキャスティング(Forecasting)」は、既存の延長から未来を予測して戦略を考えることで、バックキャスティングの対義語となります。

「バックキャスティング」は自らの目的達成に焦点を当てて自ら起こしていくのに対し、「フォアキャスティング」は過去からの予測を主にしているところに違いがあります。

これまでも多くの企業は、経営理念やビジョンを策定し、現状の課題を明らかにし、実現に向けた戦略を策定するアプローチを基本としてきました。

しかし近年では、技術革新や経営環境の変化を予測することが難しく、過去から現在に至る延長線で捉えて戦略を策定(フォアキャスティング)できなくなってきています。

一方、3~5年の短期で予測して都度適切に対応する戦略を策定していく選択肢もありますが、それでは目先の対応に留まって、進むべき方法を見失ってしまうことにもなります。

そこで、「バックキャスティング思考」が有効となります。

  • ・3~5年という短期ではなく、10~30年、さらにはそれ以上という長期で、「将来ありたい姿(ビジョン)」を描いて、それを実現する構想や取り組みなどを考え出す。
  • ・そして、長期的視点でビジョンの策定やパーパス(存在意義)を考え、そこから逆算して現状とのギャップを解決する明確な戦略に転換し、計画的に実行する。
  • ・また、戦略計画においては、中間目標を設定して進捗を管理し、中間目標との間にギャップがあれば適時対策を講じる。
  • ・戦略を実行していくうえでは、ビジョンとの適時整合に加え、常に再考サイクルをまわして学習し続ける組織文化を醸成する。

なお、長期的視点でのビジョンは、持続可能な開発目標や社会課題解決などの領域であり、時には漠然(曖昧な)とした未来像になるかもしれませんが、策定していく中で得られた不確実性要素を掘り下げて対応策を考えていき、逆算して現在に近づくにつれて戦略は具体化していくはずです。

「あるべき姿」は外部環境や外発的な動機からくる「大義」ですが、「ありたい姿」は内発的な「大志」から生まれてくるものです。

「バックキャスティング思考」による戦略は、自らの未来像をどのように創造していくかであり、外部環境の変化に内部環境をどのように適合させていくかといった「フォアキャスティング思考」とは異なります。

そして、見据えている未来像(領域やテーマ)の大きさ、実現までの期間も異なります。

フューチャー・バック思考

『フューチャー・バック思考』(マーク・ジョンソン、実務教育出版、2022年6月13日)は、戦略、イノベーション、リーダーシップ、文化を統合することで、組織が自分たちの未来をコントロールできる原則と実践方法を定義し、そのやり方を詳細に説明した一冊です。

未来から現在を展望することを「フューチャー・バック」、現在を起点にして未来を展望することを「プレゼント・フォワード」と表現し、二つの思考を対比しながら理論を整理し、具体的な実践方法を示し、経営陣や組織への浸透、企業以外の組織への応用へと展開しています。

そして、目まぐるしく変化する市場に対応していくためには「フューチャー・バック思考」の実践が有効であることを説いています。

フューチャー・バック思考

『フューチャー・バック思考』を参考にしてATY-Japanで作成

さらに、リーダーの特質についても明らかにしています。

フューチャー・バック思考を持つことにより、3~5年のスパンで計画を立てるのではなく長期的な展望を見据え、勇気を出して、人々の求める変化を生み出して主導する方法を見つけ出し、すぐに着手することができるようになるとしています。

永続する偉大な企業

『ビジョナリー・カンパニーZERO』(ジム・コリンズ、日経BP、2021年8月19日)は、『ビジョナリー・カンパニー』シリーズが発行される前の1992年に著者らが執筆し、日本語訳されずにいた名著『Beyond Entrepreneurship』の改訂版で、ビジョナリー・カンパニーの原点となる一冊です。

永続する偉大な企業を築くということは、100年にわたって偉大であり続けることを意味するとしています。

本書では、「業績」「影響」「評価」「持続性」の4つの基準を満たす組織を「偉大な企業」と定義して、「ビジョン」「戦略」「卓越した戦術」といった基本に加え、最高の人材の確保・育成と文化の醸成、効果的なリーダーシップ、イノベーティブな企業になるために必要な基本要素についても詳細に解説しています。

その中で、「ビジョン」「戦略」「卓越した戦術」の関係を明らかにして、ビジョンのフレームワークとして、時代を超える、変化することのない「コアバリューと理念」、100年間にわたって会社の指針となる「パーパス(存在意義)」、利用的な時間軸を10~25年とする「ミッション(BHAG)」を明らかにしています。

そして、BHAG(Big Audacious Goal)という「社運を賭けた大胆な目標」を設定して、実現に向けて継続して努力していくことの重要性を示しています。

ミッション・戦略・戦術

『ビジョナリー・カンパニー ZERO』を参考にしてATY-Japanで作成

リーダーの存在

企業や組織のリーダーは、ビジョンや戦略の策定、そして戦略の実行をけん引しなければなりません。

先行き不確定な環境の中で、常にビジョンに立ち返り、都度再考して、適切な判断を下すことが求められます。

また、永続企業の中では、個々のリーダーが担う期間は一時的なものになることを理解して、組織が今後も存続し続けられるように「バックキャスティング思考」の文化を醸成することが必要です。

そのためには、自らが「謙虚さ」に裏打ちされた言動を実践し、メンバーに対して常に語りかけ、メンバーの理解と腹落ちを得て実行を継続してもらえるよう支援していくことが必要です。

「謙虚さ」に裏打ちされた知的柔軟性

『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』(アダム・グラント、三笠書房、2022年4月18日)は、人は再考する能力を皆持っているが、その能力を頻繁に活用していないとして、科学者のように頻繁に考えることの必要性を説いています。

本書からは、リーダーの思考プロセスとして、「謙虚さ」を起点とする「再考サイクル」の重要性を学ぶことができます。

再考サイクルと過信サイクル

『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』を参考にしてATY-Japanで作成

組織のリーダーの場合、先行き不確定な状況が続くなかで真実を見つけることは難しくなっていますが、状況によって適切に決断しなければなりません。

そこで、市場や利用者および他者の反応を見ながら改善を短サイクルで繰り返すことが有効ですし、都度「考え直す」ことが必要となります。

その過程では、失敗するときもありますが、悲観的にならないで立ち直って(レジリエンス:resilience)再チャレンジすることも、個々のメンバーだけでなく組織体としても必要となります。

本書では、バイナリー・バイアス(二元バイアス)へは「複雑化」で対処し、多種多様な観点を提示することによって「過信サイクル」を破壊し、「再考サイクル」を稼働させることができるとしています。

そして、「批判的に考察」し「建設的に論じる」姿勢も必要であること、「心理的安全性」と「アカンタビリティ」の組み合わせによって学びの文化が醸成できると教えています。

「自分の有能さを誇示する」よりも「自分を改善しようとする意欲や向上心」を組織内へ浸透させ、「短期間の成果追及や成果の説明責任」よりも「過程や手順についての説明責任」を評価していくことも効果的です。

リーダーシップ理論とセンスメイキング理論

『世界標準の経営理論』(入山 章栄、ダイヤモンド社、2019年)では、複雑なビジネス・経営・組織のメカニズムを解き明かすために発展してきた「経営理論」を、可能なかぎり網羅・体系的に整理した一冊です。

その中で、戦略とイノベーション戦略が融合する現代において、戦略に心理学ディシプリンを取り込むことが重要であるとしています。

そして、心理学ディシプリンを、主に認知心理学をベースとして組織全体の行動メカニズムを描く「マクロ心理学ディシプリン」と、「個人やチーム」に焦点を当てた「ミクロ心理学ディシプリン」とに分けて、詳細に解説しています。

その中で、「トランザクショナル・リーダーシップ(TSL)とトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)」は1980年代以降のリーダーシップ研究の中心として君臨しています。

リーダーシップの理論(TSLとTFL)

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成

「トランザクショナル・リーダーシップ(TSL)とトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)」は、相矛盾するものではなく、むしろ「優れたリーダーシップ」として補完関係にある。

  • ・TSLは、部下を観察し、部下の意思を重んじ、あたかも心理的な取引・交換(トランザクション)のように部下に向き合うリーダーシップである。
    状況に応じた報酬、例外的な管理
  • ・TFLは、明確にビジョンを掲げて自社・自組織の仕事の魅力を部下に伝え、部下を啓蒙し、新しいことを奨励し、部下の学習や成長を重視するリーダーシップである。
    カリスマ、知的刺激、個人重視
  • ・不確実性の高い事業環境下にある企業においては、カリスマ型リーダーシップが業績を高める傾向にある。

センスメイキング理論

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成

センスメイキング理論は、組織のメンバーや周囲のステークホルダーが、事象の意味について納得(腹落ち)し、それを集約させるプロセスをとらえる理論です。

「大まかな意思・方向性を持ち、それを信じて進むことで、客観的に見れば起きえないことを起こす力が人にはある」というのも、センスメイキングのもう一つの命題であり、これを「セルフ・フルフィリング(自己成就)」といいます。

優れた経営者・リーダーは、組織・周囲のステークホルダーのセンスメイキングを高めれば、周囲を巻き込んで、客観的に見れば起きないような事態を、社会現象として起こすことができます。

そのために必要となるのは、多義的な世界で、未来へのストーリーを語り、周囲をセンスメイキングさせ、足並みを揃え、環境に働きかけて、まずは行動することです。

関係する書籍(当サイト)

トップに戻る

関連記事

前へ

富士通の2022年度(2023年3月期)第1四半期決算は増収減益、本業は順調も部材供給遅延が影響

Page Top