書籍 フューチャー・バック思考 未来を変える、ビジネス・リーダーの思考法 | マーク・ジョンソン(著)

書籍 フューチャー・バック思考 未来を変える、ビジネス・リーダーの思考法 | マーク・ジョンソン(著)

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フューチャー・バック思考 フューチャー・バック思考 未来を変える、ビジネス・リーダーの思考法
Lead From The Future

マーク・ジョンソン(著)、ジョシュ・サスケウィッツ(著)、福井 久美子(訳)
出版社:実務教育出版 (2022/6/13)
Amazon.co.jp:フューチャー・バック思考

  • クリステンセンとともに25年
    盟友であり共同創業者が公開する、長期的成長へのアプローチ。

    ビジョン→戦略→計画→実行で、破壊的変化を乗り越えよ!

関連書籍
 2022年12月24日 ポール・レインワンド 『ビヨンド・デジタル』ダイヤモンド社 (2022/11/30)

本書は、イノサイト社の共同創業者と同社パートナーのお二人が、破壊的イノベーション時代の長期成長へのアプローチ方法を示した一冊です。

イノサイト社は、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授と2000年に共同で設立した、戦略とイノベーション・マネジメントのコンサルティング会社です。

その著者らが、連続しない破壊的変化には「フューチャー・バック思考」によるアプローチが不可欠であることを「プレゼント・フォワード思考」と対比しながら詳細に解説していますので、ビジネスリーダーの方々がビジョンを長期的な戦略に転換し、具体的な新構想を考えていくための思考法を学ぶことができます。

本書は4部8章で構成されており、二つの思考を対比しながら理論を整理し、具体的な実践方法を示し、経営陣や組織への浸透、企業以外の組織への応用へと展開しています。

第1部の「理論編」では、「プレゼント・フォワード思考」と「フューチャー・バック思考」について詳細に説明し、いくつかの原則と共通点を明らかにしています。

  • ・第1章では、戦略やイノベーションにおけるプレゼント・フォワードとフューチャー・バックの使い分けを整理し、根深い認知バイアスを抑え込み、イノベーションのジレンマを解決していくためには長期計画が重要であることを説いています。
  • ・第2章では、ビジョンの意味や戦略との関連について説明し、「フューチャー・バック思考」の本質を詳細に紐解き、フューチャー・バック思考のリーダーの特質に迫っています。

第2部の「実践編」では、「フューチャー・バック・プロセス」の主要な3つのフェーズを通して、組織の長期的なビジョンと戦略を策定して実行する方法を解説しています。

  • ・第3章では、1つめのフェーズ「実行可能で刺激的なビジョンを描く」で、まず未来の事業環境を描き、次に会社はどんな影響を受けるかを整理し、そのうえで未来に何を提供するか、どうやって価値を想像するか、実現するためのギャップをどう埋めるかを整理する方法を示しています。
  • ・第4章では、2つめのフェーズ「ビジョンを明確な戦略に転換する」で、未来像のポートフォリオを設定し、それを逆算して中間目標を設定した後、イノベーションと投資のポートフォリオを策定するステップを示しています。
  • ・第5章では、3つめのフェーズ「戦略を実施する準備をして、その実行を管理する」で、まずは役員チームとイノベーション・チームの組織モデルと探求・構想・発見のプロセスを統合した戦略のプログラム化、新成長戦略の三段階(インキュベーション・加速・移行)、戦略的な選択(アンカー)について詳細に解説しています。

第3部の「浸透変」では、上層部が「フューチャー・バック思考」を先導するとともに、リーダーシップの考え方、戦略計画プロセス、組織文化に「フューチャー・バック思考」を組み込んで組織能力を高める方法を紹介しています。

  • ・第6章では、「フューチャー・バック思考」と「プレゼント・フォワード思考」のバランスをとりながらリーダーシップを取るためのフレームワークを紹介しています。
  • ・第7章では、エグゼクティブ育成プログラム、組織的にしなやかマインドセットに注力すること、そこから取締役会との有益な連携を通して、組織に「フューチャー・バック思考」を浸透させる方法を説明しています。

第4部の「応用編」では、経営戦略家の立場を離れ、「フューチャー・バック思考」が非営利組織に提供できるメリットを紹介しています。

  • ・第8章では、政府、陸軍、大学教育、宗教機関といった会社以外の組織が、「フューチャー・バック思考」の原理から何が学べるか、そして自分自身を未来から導くという個人的な目標達成に役立てる方法について議論しています。

とはいえ、フューチャー・バック思考で変革的な計画を練って実行することは、決して簡単なことではない。

組織のシステムや認知バイアスに邪魔されるだろう。

どちらもそう簡単には追い払えないうえに、容赦なく何度も圧力をかけてくる。

あなたはその圧力に負けない力で押し返さなければならない。

フューチャー・バック思考で有望なビジョンと戦略を練るには、組織の新たなシステムと、いくつかの新しいバイアスが必要になる ―― なかでも重要なバイアスは、自分にはより良い未来を作る能力があるという固い信念だ。

ビジョン、未来から現在を展望することの重要性

刺激的で実行可能なビジョンを制定して、それを展開するスキルは習得できる。

さらにこのスキルがあれば、どんな保守的な組織文化でも、ビジョンを浸透させて従業員の起業家精神に火をつけ、新たな目的意識と方向性を吹き込むことができる。

2、3年先のことしか考えていないのであれば、5年後、10年後に予期せぬ不測の事態に見舞われる恐れがある。

改善するだけでは売上高の伸びと長期的な持続可能性を確実にすることはできないため、組織がかりで長期的かつ刷新的な成長を追求することが必要である。

未来のことを考えながらも、中核事業の維持や効率化ばかりに注力してしまうリーダーは、自身では長期的なビジョンと戦略を持っているつもりでも、多くの場合、現在の市場がこのまま続くものと思い込みに基づいた見せかけの事業計画である。

インスピレーションあふれる刺激的なビジョンは「構想」であって実現するまでの「過程」ではないし、ビジョンを実行可能にするのは、それを達成するための手段である戦略である。

  • ・5年以上先の遠い未来を見据えて選択する。
    戦略:1~3年先の近い未来。
  • ・「新しいゲーム」を定めることができる。
    戦略:ゲームで勝つ方法
  • ・目的/目的地を定める。
    戦略:目的地に達するまでの手段/過程
  • ・組織にインスピレーションを与える。
    戦略:ビジョンの事業化、ゲームで勝つための能力アップ
リーダーの特質

ビジョンのあるビジネス・リーダーは組織を一から創る場合がほとんどで、確立された企業にはめったにいない。

ビジョンのあるビジネス・リーダーは組織にとっての最善の未来を描き、それを実行する方法を見つけ出し、しかもその展望は明晰かつ刺激的で、オペレーション化が可能なほどに細かい。

ビジョナリーは、組織の未来像を体系的な視点ではっきりと見えているビジネス・リーダーである。

新しいことを学び、既得の知識を捨てていく姿勢を持ち、自分が思っている以上に未来をはるか先まで見通すことができる。

全体像を重視しながらも、一つひとつの微細なことにも気を配り、必要なときには決断力があるが、忍耐強く最善の解決策を見つけ出す。

フューチャー・バック思考を持つことにより、3~5年のスパンで計画を立てるのではなく長期的な展望を見据え、勇気を出して、人々の求める変化を生み出して主導する方法を見つけ出し、すぐに着手することができるようになる。

フューチャー・バック思考とプレゼント・フォワード思考

フューチャー・バック思考

『フューチャー・バック思考』を参考にしてATY-Japanで作成

プレゼント・フォワード思考

現在を起点にして未来を展望する。

多くの情報を踏まえたうえで、既存のルール、事実、データに基づいて物事を決定する。

既存の情報を使って考え、その論理的プロセスは既知のルールに当てはめて演繹的に推論するか、ハァクトやデータを基に帰納的に一般化する。

プロセスは、データを直接的かつ機械的に使う(データを集め、分析し、アルゴリズムに当てはめて実行する)のに対して、フューチャー・バック型のプロセスは学習モードを伴う。

フューチャー・バック思考

未来から現在を展望する。
長期的なスパンで見て、未来から振り返えるように現在の状況を判断する。

自社が目標としている未来の状況について慎重に考え、そこに到達するための計画を段階的に策定して、実行するものである。

何が起こり得るかを発見することが目的で、最初の情報がわずかしかなく、仮説に基づいて考える。

既知のもの、未知のもの、イメージしたもの、思い描いたものを組み合わせて考えるため、より大雑把な問題解決方法を採用する。

企業は、自社の可能性にまつわる新しいビジョンを描きやすくなる。

成功させるには、しなやかマインドセットの文化が必要であり、その文化はリーダーから始まる。

私たちが思うに、フューチャー・バック思考は、リーダーたちが知識、先見の明、飛躍的な成長をもたらす実行可能なアイデアを手に入れるための単なるツールではなく、世界の見方であり、存在のあり方なのである。

紀元前5世紀頃、ギリシアの哲学者ヘラクレスは「万物は流転する」と書き残した。

世界が回転速度を増し、破壊の速度が加速するなかで、フューチャー・バック思考、リーダーシップ、マネジメントは継続的で戦略的な経営システムの基盤となり、やがてニューノーマルになると私たちは確信している。

本書の教訓を基にして、読者がこの新しい規律を開拓して発展させ、自分の組織だけでなく、私たちみんなをより豊かで公平で持続可能な生き方へと導いてくれることを願っている。

まとめ(私見)

本書は、戦略、イノベーション、リーダーシップ、文化を統合することで、組織が自分たちの未来をコントロールできる原則と実践方法を定義し、そのやり方を詳細に説明した一冊です。

クレイトン・クリステンセンと共同で設立したイノサイト社で、著者らが20年以上にわたって、企業の持続可能性と成長を実現する方法の集大成としています。

イノサイト社は、これまでにも多くのノウハウを書籍として公開しています。

  • ・『イノベーションのジレンマ』(増補改訂版:翔泳社、2001年7月3日)、大企業がイノベーションを起こせない原因を明らかにした。
  • ・『イノベーションへの解』(翔泳社、2003年12月12日)、ジレンマを克服するための行動指針を示した。
  • ・『ホワイトスペース戦略』(CCCメディアハウス、2011年3月29日)、上記書籍に対し、大企業を脅かす変化に対してビジネスモデル変革の必要性を説いた。

そして本書の内容もイノサイト社が実践してきた手法で、「フューチャー・バック思考」とそれに基づく実践的なプロセスを詳細に紹介していますので、ビジネスリーダーだけでなく経営層の方々にとって、組織戦略の立案や経営指針をつくり上げ、持続可能な組織を構築していくうえでのガイドとなります。

本書は、「プレゼント・フォワード思考」と「フューチャー・バック思考」を詳細に対比したうえで、目まぐるしく変化する市場に対応していくためには「フューチャー・バック思考」の実践が有効であることを説いています。

  • ・プレゼント・フォワード思考:現在を起点にして未来を展望する。
  • ・フューチャー・バック思考:未来から現在を展望する。

ここでいう長期的な展望とは3~5年ではなく、5~10年先、あるいはそれ以上を指しています。

それくらいの期間になると、破壊が既存製品にもたらす悪影響を否定できない状況となり、新規に投資したプロジェクトが大きなリターンをもたらし始めるからであるとしています。

どんなビジョンを描くかだけでなく、「フューチャー・バック思考」のメンタルプロセスを用いてビジョンを展開することであると説いています。

なお、本書では、大企業はこれまで以上に短命になってきており、そのような状況においても、経営内容が良くて適応力のある組織は自己再建が可能であるとしています。

  • ・1958年には、「S&P500種指数」に採用される銘柄の平均採用期間は33年間
  • ・2016年には、24年間に短縮
  • ・2027年には、12年間に短縮(見込み)

このような状況においても、企業は決して現状に満足せずに常に次の目標を目指す必要があり、それを何度も繰り返し、永遠に現在を管理しながら、より良い未来へと組織を率いていかなければなりません。

そのためには、経営者はレジリエンスを鍛え、積極的にリスクを取り、経験から学んでいくことが必要となります。

そして、学習する組織になるためには、忙しいなかでも時間をねん出し、疑問を抱いたり、探求したり、構想を練ったり、発見するための精神的なゆとりをもつことが重要な要素になるとしています。

企業は、短期的な利益をあげながら、長期的な成長と持続可能性を確実にしていかなければなりません。

経営陣は短期と長期の資源配分という重要な意思決定を下さなければなりませんが、認知バイアス、組織のルールや規範、短期的なインセンティブ(投資家のジレンマ)に加え、目の前の状況対応に翻弄されているのが実態ではないかと思います。

さらに、イノベーションに取り組むよりも、現在安定的に利益をあげている中核事業に注力する思考になるのも否めません。

そこで、さまざまなジレンマを解決していくためには長期的なスパンで見て、未来から振り返るように現在の状況を判断することが効果的であることが理解できます。

そのためには、組織のリーダーが、さまざまなことへの疑問を抱き、学ぶことへの情熱を呼び覚まし、一次的な役割のリーダーシップより組織の寿命の方が長いことを理解して(スチュワードシップ)、組織が今後も存続し続けられるように準備していかなければなりません。

なお、「フューチャー・バック思考」は、個人的な目標を達成することにも役立ちます。

自分自身を未来から導くこと、過去・現在・未来に対する自分自身とビジネスの立ち位置を見定めることにつながることを気づかせてくれます。

そして、「自分の望みは何か」「10年後・20年後、自分にとっての意義あることは何か」などを突き詰めていくことができます。

そのためには、日常は変わらないはずだという過信をなくしながら、既知のものが変化することに注目することが重要です。

また、あらゆることへの疑問を抱き、学ぶことへの情熱を呼び覚まし続けていくことが必要です。

そして、自分たちが何者になれるかを真剣に考えることで、自分たちのあるべき姿に収束していくことになります。

「フューチャー・バック思考」とそのプロセスは、あらかじめ運命づけられた未来を明らかにするものではなく、未来を形作り、それを自分のものにする機会と手段を提供してくれます。

組織や自分自身のビジョンを策定し、そのビジョンを長期的な戦略に転換し、具体的な構想として現在に逆算して、計画を立てて実行する。

そのためには、反復学習のプロセスを通して適時改良し、組織にはしなやかマインドセットの文化を醸成する。

本書は、存在意義を永遠に確立し続けていくための価値観や考え方、自分たちの未来をコントロールしていくための思考法を学ぶことのできる一冊です。

目次

はじめに 未来から現在を展望する

第Ⅰ部 理論編

第1章 プレゼント・フォワード思考の誤信

第2章 未来を起点に現在を展望する

第Ⅱ部 実践編

第3章 刺激的で実行可能なビジョンを作る

第4章 ビジョンを戦略に転換する方法

第5章 戦略を計画して実行する方法

第Ⅲ部 浸透編

第6章 経営陣にフューチャー・バック思考を導入する

第7章 組織にフューチャー・バック思考を浸透させる

第Ⅳ部 応用編

第8章 フューチャー・バック思考を企業以外で実践する

おわりに 21世紀のマネジメントはどうなるか

参考

Innovation Consulting Firm | Innosight

LEAD FROM THE FUTURE(PDF)

株式会社インディージャパン

破壊理論を活用したイノベーション戦略立案と実行支援 |INDEE Japan

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