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『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』を参考にしてATY-Japanで作成
『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』(アダム・グラント、三笠書房、2022年4月18日)は、人は再考する能力を皆持っているが、その能力を頻繁に活用していないとして、科学者のように頻繁に考えることの必要性を説いた一冊です。
どのように再考が行われるかを心理学の視点を中心に掘り下げていますので、すべての方々にとって、再考するスキルを磨き、より満ち足りた人生を送るための参考になります。
書者は、誰もが持つ三つの職業モードとして「牧師」「検察官」「政治家」を挙げ、考えたり、話をしたりするときに、無意識に切り替わっているとしています。
そして、研究している中で、思考プロセスはループで循環していることに気づき、「謙虚さ」を起点とした「再考サイクル」、「自尊心」を起点とする「過信サイクル」とを対比しながら解説しています。
そこで、本書を参考にして、「再考サイクル」と「過信サイクル」の概要を整理します。
「再考サイクル」と「過信サイクル」
『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』を参考にしてATY-Japanで作成
「再考サイクル」においては、科学者の思考モードを解除するとサイクルは崩れ、かわりに「過信サイクル」が展開する。
人が自信過剰になりやすいのは素人からアマチュアになった時で、その移行する過程で「再考サイクル」が崩れる可能性がある。(人は、経験を積むにつれて、「謙虚さ」を失うものである)
「自尊心」を起点とする「過信サイクル」
「牧師」モードにいるとき、人は真実がすでに見つかったと思い込み、知識の隙間に気づかない。
「自尊心」は「確信」を生み、疑いを消し去る。
その確信が人を「検察官」にする。
「検察官」になると、他者の見解を変えることに全力を注ぎ、一方で自分の見解は決して変えない。
そうすると、「確信バイアス」と「望ましさバイアス」が入り込む。
- ・確信バイアス(confirmation bias):自分が予期するものを見る。
- ・望ましさバイアス(desirability bias):自分が見たいものを見る。
「政治家」になり、周囲の人たちから賛同を得られない考えを無視したりはねつけたりする。
自分を格好よく見せることに気をとられるあまりに真実は背後に追いやられ、「是認」や称賛を得られたことで高慢になる。
地位や名声や力に執着する「ファストキャット症候群」(成功により自己の無能さを認めなくなり、機会を見失うようになる精神状態)に陥り、現状に満足し、自分の考えを疑うことも信念を試すこともしなくなる。
「謙虚さ」を起点とする「再考サイクル」
知的に「謙虚」であり、無知を自覚することから始まる。
欠点を自覚することで「懐疑」への道が開ける。
欠けている知識を問うことで、自分が持たない情報に対する「好奇心」が生まれる。
探し求めるうちに新しい何かを「発見」する。
知的探索をするうちに新しい「発見」と出会う。
「発見することは、まだたくさんある」と自覚することで、「謙虚さ」を保てる。
「謙虚さ」は透明フィルターのようなもので、人生経験を吸収し、知識を英知に変える。
しかし、傲慢さはゴムでできた盾ように、すべての人生経験をはね返してしまう。
自信が募ると傲慢さに傾き、自信を失い続けると人は控えめになる。謙虚すぎると自己肯定感が低くなる。
「謙虚さ」とは、しっかりした知識や能力、自分の過ちや不確実さを認識する力を表している。
将来の目標に達するのに十分な能力が備わっていると自信を持ちながら、そのための正しい手段は何かと現在の自分に問う「謙虚さ」を持つことが、適切な自信レベルである。
まとめ(私見)
本書『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』(アダム・グラント、三笠書房、2022年4月18日)は、既存の考えを新たな視点から見つめ直すことがいかに大切かを紐解いています。
その中で、「謙虚さ」を起点とした「再考サイクル」、「自尊心」を起点とする「過信サイクル」とを対比しています。
始まりが「自尊心」か「謙虚さ」かの違いで、以降のサイクルが「過信サイクル」になるか「再考サイクル」になるかが変わってき、そのループは続きます。
本書によると、「自尊心」は真実がすでに見つかったと思い込んでいる状況であるとしています。
自分が意図しているかどうか、具体的な言動として現れるかどうか、「自尊心」は人によってさまざまであると思います。
また、経験や学習からくる自信の有無、相手との関係性(比較)やプライドなどによっても、「自尊心」の度合いは変わってくるのかもしれません。
さらに、他の国々と比べて、日本人は自尊心が低い傾向にあることは、多くの調査結果が示しています。
なお、「自尊心」を自分自身に対する肯定的(あるいは否定的)な態度と捉えると、自己肯定感に関係することになります。
自己肯定感は「できる自分もできない自分も丸ごと受け入れる感情」であるのに対して、自己効力感は「できる自分をイメージすることが原動力になる感情」といったように、「できない自分」については大きく触れないという点で違いがあります。
その意味においては、「自尊心」を高めるには(高まるのは)、自己効力感をより強く意識したり、他者との関係において肯定的に評価(自己有用感)したりすることなのかもしれません。
- ・自己肯定感:できる自分もできない自分も「ありのまま」を受け入れる感情
自分のあり方を積極的に評価できる感情、自らの価値や存在意義を肯定できる感情など(自己否定の感情と対をなす感情)
- ・自己効力感:できる自分をイメージする(自分はできると信じる)ことが原動力になる感情
自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること
- ・自己有用感:だれかに必要とされているという感情(満足感)
自分と他者(集団や社会)との関係を自他共に肯定的に受け入れられることで生まれる自己に対する肯定的な評価
- ・自尊心:自分自身に対する肯定的(あるいは否定的)な態度
自己肯定感 + 自己有用感 → 自尊心
日本は、他者(集団や社会)からの評価に大きく影響するため、自己有用感の獲得が自尊心の獲得につながる可能性が高い。
「自尊心」は、自己肯定感に自己有用感が加わって高まり、自分の思考や言動に自信を持ち干渉を排除するもので、自分の能力や価値を信じる「自信」とは異なります。
なお、「自信」は能力とは相容れないことや、自信過剰に陥ることも本書は指摘していますし、「自尊心」が高くなると「過信サイクル」に陥ることになります。
そこで「再考サイクル」の起点となるのは「謙虚さ」ですが、「謙虚さ」とは「自信を控えめに持つこと」ではなく、「しっかりした知識や能力、自分の過ちや不確実さを認識する力である」と、本書では再確認しています。
一方、組織のリーダーの場合、先行き不確定な状況が続くなかで真実を見つけることは難しくなっていますが、状況によって適切に決断しなければなりません。
そこで、市場や利用者および他者の反応を見ながら改善を短サイクルで繰り返すことが有効ですし、都度「考え直す」ことが必要となります。
その過程では、失敗するときもありますが、悲観的にならないで立ち直って(レジリエンス:resilience)再チャレンジすることも、個々のメンバーだけでなく組織体としても必要となります。
本書では、バイナリー・バイアス(二元バイアス)へは「複雑化」で対処し、多種多様な観点を提示することによって「過信サイクル」を破壊し、「再考サイクル」を稼働させることができるとしています。
そして、「批判的に考察」し「建設的に論じる」姿勢も必要であること、「心理的安全性」と「アカンタビリティ」の組み合わせによって学びの文化が醸成できると教えています。
「自分の有能さを誇示する」よりも「自分を改善しようとする意欲や向上心」を組織内へ浸透させ、「短期間の成果追及や成果の説明責任」よりも「過程や手順についての説明責任」を評価していくことも効果的であるとしています。
将来の目標に達するのに十分な能力が備わっていると自信を持ちながら、「そのための正しい手段は何か」と現在の自分に問う「謙虚さ」を持つという「自信に満ちた謙虚さ」を習得することは可能であると、本書は教えています。
知識のある人(あると思っている人)は、多くは未知を受け入れたがらない傾向があります。
新しいことを受け入れる能力や積極的な意志があってこそ、よりよい判断ができると思います。
なお、本書では、「自分の意見や考えを自分のアイデンティティから分離すべきである」と提言しています。
自分の信念や考え方ではなく、価値観(人生の中核となる原理)によって自分を定義すれば、新しい根拠や証拠を踏まえて自分のやり方をアップデートする柔軟性を手に入れることができるというものです。
自分の価値観に自信を持ちながら、謙虚に他者の見解を受け入れ、信念を進化させる。
見直す習慣、考え直す習慣を持つことは、ますます重要になってきます。
そのためには、「なぜ自分が間違っている(かもしれない)のか」を意識し、知的好奇心を持ち、「謙虚さ」に裏打ちされた知的柔軟性が必要です。
THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す
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アダム・グラント(著)、楠木 建(監修, 翻訳)
出版社:三笠書房 (2022/4/18)
Amazon.co.jp:THINK AGAIN
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