CSR・CSVの考え方を発展したSDGs、企業におけるSDGsへの取り組みは本業を通じた社会価値の創出

CSR・CSVの考え方を発展したSDGs、企業におけるSDGsへの取り組みは本業を通じた社会価値の創出

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CSR_CSV_SDGs

事業構想大学院大学 出版部、『SDGsの基礎』を参考にしてATY-Japanで作成

先日は、事業構想大学院大学 出版部(著)『SDGsの基礎』をご紹介しながら、SDGs(持続可能な開発目標)の概要、ESG投資(環境、社会、ガバナンス)との関連について整理しました。

そこで今回は、CSR・CSVとSDGsとの関連、企業におけるSDGsへの取り組みについて整理します。

SDGsは、企業では経営の中枢に据えることが想定されており、CSR経営・CSV経営の延長としての位置づけはもとより、社会的責任としての取組みだけではなく、社会課題を収益事業として取組むこと(本業化)も期待されています。

企業がSDGsに取り組む上では、企業ブランドや棄損などのリスク回避のためにSDGsを利用するといった消極的な理由(守り)と合わせて、国際社会や政府がどの様な施策や課題解決を優先しているかを見極めて自社のビジネスに結びつけるという積極的な理由(攻め)を追求していくべきではないかと考えています。

CSR・CSVの考え方を発展したSDGs

CSR(Corporate Social Responsibility)とは「企業の社会的責任」と訳され、企業が倫理的観点から事業活動を通じて、自主的に社会に貢献する責任のことと言われています。

これに対して、CSV(Creating shared value)とは「共通価値」や「共有価値」の創造などと訳され、2011年1月にハーバード大学マイケル・E・ポーター教授らによって提唱されました。

CSVとCSRとは、社会・環境対応という点においては似ているものの、CSRは「守り」に対してCSVは「攻め」のイメージがあるとしています。

ポーター教授は、「寄付や社会貢献を通じて自社イメージの向上をはかるこれまでのCSRは、事業との相関性はほとんどない」として、CSRの活動は、社会や環境に対する自社の責任として害を低減したり、ステークホルダーと良好な関係を生み出したりするものであるとしています。

一方CSVは、経営資源や専門性など、企業が持っている強みを活かして、ビジネスとして社会問題を解決するという視点であり、「社会価値と経済価値を同時に実現する」という考え方です。

また、企業と社会的責任の関係や持続可能な社会づくりについては、2010年に発行された「社会的責任の手引(ISO26000)」が羅針盤機能となり、社会課題に向き合う上での基本的考え方や「To doリスト」を示し、社会・環境課題対応の組織内への「実装マニュアル」となっています。

そこでSDGsは、ISO26000やCSVを深める上でも、企業の中長期的な成長戦略を策定して上でも、国際的な共通言語となっています。

本業のCSRを進め、コーポレート・ガバナンスやサステナビリティ項目の中から重要項目を選び、そこにCSVという攻めのアプローチをしていくという、CSRとCSVを併用していくのが的確な企業戦略となります。

企業は、SDGsを社会貢献活動の一環として取り組むのではなく、それを超えて、本業を通じて社会的課題の解決に向けたイノベーションを生み出していくことが重要となります。

企業におけるSDGsへの取り組み

国内外で今後取り組みが必要とされる課題のリスト(ビジネス機会)としてSDGsを捉え直し、貢献可能なゴールもしくはターゲットの方向性と整合しつつ、取り組みを強化したり、自社の強みを活かした企業経営や事業戦略に発展させていくことが重要である。

これが、「SDGs = 社会課題の解決 = イノベーションの創出とサステナブル経営の実践」につながる。

ビジネスの観点からは、SDGsの持つ意味合いを4本の主要な柱を通して理解 することが重要である。

  • ■行動を起こさないことのリスク
    何もしないことは、高価なオプションとなる
    ・行動を起こさないことのコスト
    ・規制上のリスク
    ・市場の混乱
    ・事業運営ライセンスの減少
  • ■機会を捉える
    ビジネス戦略をSDGsに適合させることによる恩恵
    ・新しい成長市場
    ・ポリシーロードマップとしてのSDGs
    ・信頼の回復
  • ■ガバナンスと透明性
    より良い情報=より優れた決定
    ・コーポレートガバナンスの意味合い
    ・価格設定と外部性の統合
  • ■協調の必要性
    SDGsの実現は、一社で行えることではない
    ・セクターアプローチ
    ・体系的なアプローチ
    ・官民の連携
SDGsを企業内部に根付かせていくための視点

「組織」の側面で本業化を進めるにあたっては、6つの構成要素に複合的に取り組むことにより、企業内部にSDGsを根付かせていくことができる。

Philosophy(理念):1.企業理念・経営ビジョン

  • ・企業理念とビジョンは、経営の意思を組み込み、従業員に会社の中での自社の使命を浸透させるための重要な拠り所となる。
  • ・企業がビジネスを通じてSDGsに貢献しようと考える際には、企業理念やビジョンに立ち返り、自社が社会の中で何を実現するために存在しているのかという原点を確認することで、特に貢献しうるゴールやターゲットが見えてくる。

Leadership(リーダーシップ):2.経営トップの認識とコミットメント

  • ・サステナビリティ目標を事業に統合するに当たっては、経営トップや幹部のリーダーシップが鍵となる。
  • ・経営トップがSDGsの認識と取り組みを進化させる後押しとなる。

Strategy(戦略):3.中長期の経営計画及び目標設定

  • ・多くの企業で中期経営計画が企業戦略の要となっているため、SDGsに関連した中期計画を策定している企業については、実効性の担保という視点から評価できる。
  • ・目標設定のあり方については、SDG Compassでのアウトサイド・インの考え方も踏まえ、達成可能かは不確実だが、追求すべき社会像から中期の目標を立て、達成できない場合はその理由を説明して改善策を示すことが、より長期の対応が必要なSDGsや気候変動においても、ESG(環境・社会・ガバナンス)との関連でも、望ましい姿勢である。

Structure(構造):4.CSR部門、経営層が関与する委員会

  • ・組織としてのサステナビリティ戦略の策定・実施を推進するため、多くの日本企業では、CSRやCSV、もしくはサステナビリティのための部署を設置している。
  • ・SDG Compassは、取締役会レベルのサステナビリティ委員会が設置されている場合、「サステナビリティの優先課題に特化した戦略的な検討を行うための時間が確保されるため、事業への統合の初期段階では特に有益である」としている。

System(制度):5.社会解題解決を促すための仕組み、6.報酬制度

  • ・事業を通じて経済価値を創出しながら社会課題の解決を促す仕組みを社内で構築すれば、SDGsへの取組みが自動的に生み出されることにつながる。
  • ・報酬制度は、個人レベルでインセンティブを与えるのに加えて、企業の中長期の取組みを重視する投資家へのメッセージとしても有効な手段となる。

People(従業員):7.中間管理職と事業部門の認識

  • ・SDGsの本業化に当たっては、中間管理職や事業部門が、業務の中でサステナビリティに目を向け実践していくことが不可欠である。
  • ・中長期の経営計画及び目標設定、社会課題解決を促すための仕組みは、関係者間の議論や具体的な検討を促すため、中間管理職や事業部門の認識を向上させる格好の取組みとなる。
企業活動を通じてSDGsに貢献していくための視点

「企業活動」の側面からSDGsの本業化を進めるに当っては、中核的事業を通じた貢献、社会貢献性の強い事業/事業に関係する社会貢献、市場環境の整備という活動を認識する必要がある。

8.中核的事業(ビジネス機会の獲得・拡大)

9.中核的事業(経営リスク対応)

  • ・複数の層からなるサプライチェーンに属する企業は、持続可能な調達に積極的に取り組むことで、取引先から選ばれる可能性も広げられる。

10.社会貢献性の強い事業/事業に関係する社会貢献

  • ・ESGへの認識が高まってきた現在、自社の得意分野を活かして戦略的に活動することで、将来のビジネスへの投資や中長期の経営リスク対応として評価されることが可能となる。

11.市場環境の整備

  • ・SDGsの取組みやESG投資が推奨される現在、サステナビリティに資する企業が勝ち残っていくための市場環境の整備が求められている。
    規制や基準作り、各業界における規範作り、環境保護や人権保護を促すイニシアチブへの参画・関与など
  • ・企業はこれらへの関与を通じて、他社に先んじて取り組む姿勢を示すとともに、ビジネス機会の獲得や経営リスクへの対応を図ることも可能となる。
SDG Compass

目的:企業が、いかにしてSDGsを経営戦略と整合させ、SDGsへの貢献を測定し管理していくかに関する指針を提供する。

SDG Compassの5つのステップは、すべての企業が、関連する法令を遵守し、最小限の国際標準を尊重し、優先課題として、基本的人権の侵害に対処する責任を認識していることを前提としている。

企業がSDGsを企業経営に組み込むことのメリットがステップごとに明示され、CSVの指向が強い内容となっている。

17目標が企業にとってのチャンスでる一方、リスク回避にも使える。

ステップ1:SDGsを理解する

  • ・企業がSDGsに関し十分に理解することを支援する。
  • ・SDGsとは何か、企業がSDGsを利用する理論的根拠、企業の基本的責任

ステップ2:優先課題を決定する

  • ・SDGsによってもたらされる最も重要な事業機会をとらえ、リスクを減らすために、企業は、そのバリューチェーン全体を通して、SDGsに関する現在および将来の正および負の影響を評価し、それに基づき、それぞれの優先的に取り組む課題を決定する。
  • ・バリューチェーンをマッピングし影響領域を特定する、指標を選択しデータを収集する、優先課題を決定する。

ステップ3:目標を設定する

  • ・目標の設定は、事業の成功にとって重大であり、企業全体を通じ、優先的事項の共有を促進し、パフォーマンスを改善する。
  • ・企業は、その目標をSDGsと整合させることによって、企業のリーダーは持続可能な開発に対する明確なコミットメントを示すことができる。
  • ・目標範囲を設定しKPIを選択する、ベースラインを設定し目標タイプを選択する、意欲度を設定する、SDGsへのコミットメントを公表する。

ステップ4:経営へ統合する

  • ・中核的な事業と企業ガバナンスに持続可能性を統合し、企業内のすべての機能に、持続可能な開発目標を組み込むことは、設定された目標を達成する上で鍵となる。
  • ・共有された目的を追求し、組織的な課題に取り組むためには、バリューチェーン全体を通じて、そのセクター内、あるいは、政府や市民社会団体とのパートナーシップにより協働していく必要がある。
  • ・持続可能な目標を企業に定着させる、全ての部門に持続可能性を組み込む、パートナーシップに取り組む。

ステップ5:報告とコミュニケーションを行う

  • ・企業は、共通の指標や共有された優先課題を活用して、持続可能な開発に関するパフォーマンスを報告することができる。
  • ・SDG Compassは、企業が、SDGsに関する事項を、多くのステークホルダーとの意見交換や報告に導入していくことを推進する。
  • ・効果的な報告とコミュニケーションを行う、SDGs達成度についてコミュニケーションを行う。

CSR_CSV_SDGs

事業構想大学院大学 出版部、『SDGsの基礎』を参考にしてATY-Japanで作成

企業における社会課題への取組みは、

  • ・事業で得た収益を基にした寄付や奉仕活動などを中心に、CSR(社会的責任)の視点から進んできて、
  • ・企業活動の中に「世の中をいかに良くするか」という視点を組み込んだCSV(共有価値の創造)により、
  • ・企業活動は、経済的価値を生み出すと同時に、社会的価値も生み出すという考え方が広まってきた。

SDGsは、CSVの考えを発展させたと捉えることができ、経営課題中心のCSVに対し、SDGsは社会課題が中心にあり、持続可能な社会の実現という、大きな社会価値を生み出すことが求められている。

参考

国連広報センター

持続可能な開発目標CEO向けガイド(PDF) | wbcsd

JAPAN SDGs Action Platform | 外務省

グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン

SDG Industry Matrix(産業別SDG手引き) | グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン

SDG_COMPASS_Jpn(PDF) | グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン

事業構想大学院大学

SDGs総研

SDGsをどう理解するか 第1回(CSR・CSVとの整理) | SDGs総研

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  • SDGsの基礎

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    事業構想大学院大学 出版部(著、編集)
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    Amazon.co.jp:SDGsの基礎

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