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ライフ・シフトの未来戦略: 幸福な100年人生の作り方
アンドリュー・スコット(著)、池村 千秋(翻訳)
出版社:東洋経済新報社 (2025/4/23)
Amazon.co.jp:ライフ・シフトの未来戦略
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全世界100万部のベストセラー『ライフシフト』共著者による、まったく新しいビジョン
本書は、全世界100万部のベストセラー『ライフシフト』共著者で、ロンドン・ビジネススクール経済学教授の著者が、一人ひとりの個人と人類全体にとって、長寿化に向けた課題にどのように対応していくことが必要なのかを論じた一冊です。
長寿化がもたらす抜本的な変化と、それによって持ち上がる新しい課題への対応策を詳細に提言していますので、すべての方々が、人生設計やキャリアプランの立て方、医療制度や経済と金融業界のあり方、「高齢者であること」や「老いること」についての文化や思想をどのように根本から変えるべきなのかを考えるうえで大変参考になります。
本書は3部9章で構成しており、長寿化に向けた課題に対応することの重要性を説いたうえで、エバーグリーン型への転換を遂げるためにどのようなイノベーションが必要なのかを詳細に解説しています。
第1部では、エバーグリーン型への移行に際しての課題を説明し、その課題がなぜ重要なのかを検討しています。
- ・第1章では、平均寿命にどのような変化が起きたのか、そして今後、どのような変化が起きる可能性が高いのかを紐解き、長寿化に伴って対処する必要がある課題を論じています。
- ・第2章では、私たちは、どのように老いていくのか、より長く、より良い老い方をするためには、どうすればいいのかを論じています。
- ・第3章では、どうして、今エバーグリーンの課題がそれほど重要なのか、なぜ、それが人類にとって新しい時代の到来を意味するのかを、金銭的価値を示しながら論じています。
第2部では、エバーグリーンの課題を達成するために、どのような大掛かりな変化が必要とされるのかを論じています。
- ・第4章では、現在は第1の長寿革命から第2の長寿革命に立っているとして、長い人生を健康に生きられるようにするために、医療制度と個人の行動をどのように変える必要があるのかを論じています。
- ・第5章では、必要とされるお金をどのようにまかない、長寿化の経済的な恩恵をどのようにして引き出せばいいのか、それに伴って職業人生かどのように変わるのかを論じています。
- ・第6章では、長い人生でお金が足りなくなるリスクを取り除くために、金融業界はどのように変わるべきか、そして、一人ひとりはお金に関わる行動をどのように変えるべきかを論じ、どのように資産管理の計画を立てて、稼いだお金をマネジメントすればいいかを検討しています。
第3部では、老いることについての私たちの考え方と文化と心理を、どのように変える必要があるかを論じています。
- ・第7章では、長くなった人生で、どのように生き甲斐を見いだせばいいのか、老いに対する心理と文化をどのように修正し、どうやって年齢差別的な固定概念を捨てるべきなのかを論じています。
- ・第8章では、社会における高齢者の割合が高まる一方、若い世代が長く生きる助けになるような規範と制度が整っていない状況で、世代間の公平をどのように確保すればいいのかを論じています。
- ・第9章では、エバーグリーン型の社会を築くうえで大きな障害になるものはなにか、そうした障害を乗り越えるにはどうすればいいのか、一人ひとりがエバーグリーン型の未来へ移行するために個人はどのようなことをすべきなのかを論じ、エバーグリーンの課題から導き出せる6つの重要な行動原則を示しています。
いま本当に求められているのは、人類を取り巻く状況の劇的な変化に、つまり若い世代が非常に高齢まで生きることが当たり前になる時代の到来に適応することだ。
そのためには、長寿化により突きつけられる課題を克服し、エバーグルーン型への転換を遂げる必要がある。
人々が長い人生を生きるための準備を整えられる社会をつくり、長くなった人生の「生活の質」を「人生の量」と釣り合うものにすることが求められるのだ。
そうすることではじめて、私たちは、人生の時間が増えることにより生まれる機会を存分に活用できる。
本書では、そのために個人と社会がどのように変わらなくてはならないかを論じたい。
エバーグリーン(evergreen)
『ライフ・シフトの未来戦略』を参考にしてATY-Japanで作成
エバーグリーンとは、「季節を通して緑の葉をつけ、機能し続ける」常緑植物について用いられる言葉であるが、広い意味では「常にあらゆる局面で新鮮さを失わない」状態をあらわす。
長い人生ではこれを目指すべきで、人生が長くなるのに合わせて、健康やその他の重要な要素が機能する期間も長くしなければならない。
エバーグリーン型の良い老い方をするためには、良好な健康状態を保つ必要があるが、それだけでは十分ではない。
キャリアとお金のマネジメントの仕方を変えなければならないし、人生のさまざまな段階で、自分がどのようなことに喜びと生きがいを見出すかも考えなければならない。
エバーグリーンの課題が人生観に及ぼす主な影響
- ・暦年齢中心の考え方から脱却する。
暦年齢は手軽に計算できるが老いについて考えるうえでは有益な方法とは言えないため、死生学的年齢と生物学的年齢を重んじるべきである。
- ・生涯を通じて健康寿命を伸ばす。
後で治療することよりも、早い段階で予防することに関心を払う。
- ・老化は再帰的なプロセスである。
今取っている行動が未来の自分に影響を及ぼすと認識して行動する。
- ・平均より上の健康状態を確保する。
老化とは健康状態がゆっくり低下することだとすれば、若い時期を含めたあらゆる年齢で健康を重視する。
- ・病気(ネガティブ要素)よりも健康(ポジティブ要素)に目を向ける。
加齢に伴う病気と闘うことに加え、人生のあらゆる時期に、健康、生きがい、社会との関りを高める。
- ・不平等を解消する。
人がどのように老いるかは社会における格差の影響を受けざるを得ないため、所得レベルや教育レベルなどの差による不平等を解消する。
前提1.私は高齢になるまで生きる可能性が高い。
前提2.長生きすることに関する最大の不安は、ひどい老い方をすることである。
エバーグリーン型の結論
良い老い方ができる可能性を最大限高めるために、今できることをすべきである。
エバーグリーンの課題はきわめて多岐にわたり、専門的な知識がなければ解決できない問題がいくつも浮上するだろう。
いまほど、よい老い方を実践し、未来に投資することが重要だった時代は、過去になかった。
その点は、本書でここまで、経済学のツール、人口動態のデータ、科学的な研究結果、哲学者の主張を紹介して論じてきたとおりだ。
しかし、その一方で、人間的な要素の重要性も見落としてはならない。
第9章で紹介した経済史学者のロバート・フォーゲルが言うところの「スピリチュアルな商品」が果たす役割も大きい。
私たちに価値と生き甲斐と幸せをもたらす人間的な活動も不可欠なのだ。
まとめ(私見)
本書は、一人ひとりの個人と人類全体にとって、長寿化に向けた課題にどのように対応していくことが重要なのかを提言した一冊です。
エバーグリーン型への転換を遂げるために、どのようなイノベーションが必要なのかを詳細に解説していますので、すべての方々が、人生設計やキャリアプランの立て方、医療制度や経済と金融業界のあり方、「高齢者であること」や「老いること」についての文化や思想をどのように根本から変えるべきなのかを考えるうえで大変参考になります。
また、本書を通じて、長寿化というテーマへの関心を改めることができます。
長寿化に関する話題には、社会の「高齢化」という高齢者の数が増えることにしか目が向けられませんが、本書ではこのような無関心や誤解を是正します。
そして、人生が長くなるとともに、一人ひとりが自分の未来のために準備する責任が高まっていることを改めて認識することができます。
なお、前著『ライフ・シフト』では、長くなる職業人生に向けて準備し、スキルと人間関係に投資することの重要性を説いています。
それに対して本書は、ロング・ライフをグッド・ラウフにするためには、できるだけ長い間、健康を維持することが重要であると主張しています。
そこで、年齢を重ねると健康にどのような変化が起きるのか、良い老い方ができる可能性を最大化するために、どのようなことに留意すべきかを詳しく論じています。
本書によれば、過去100年の間に、世界の平均寿命は10年ごとに2~3年のペースで延びているようです。
寿命が延びて自分の持ち時間が増えることを喜べる一方、増えた時間を有効に活用するどころか、病気に苛まれたり、衰弱したり、お金の面で困窮したりする羽目にならないかという不安もあります。
人生終盤の日々を健康に生き、活発に活動する日々を送りたいという気持ちは共通であると思います。
健康と生産性を保ち、社会と関わり続ける時間が長くなるほど、高齢になった時の選択肢が広がり、長寿の恩恵を実感できます。
しかも、変わるのは人生終盤の日々だけではなく、将来もっと長く生きれるようになると思えば現在の行動も変わり、人生の一部の機関だけでなく人生全体の生き方を考え直すようになります。
しかし本書では、現状のままでは、私たちは寿命が延びることの恩恵を得ることができないと警告して、さまざまな対応策を提言しています。
個々の病気を治療することよりも、加齢のプロセスに焦点を当てて健康を改善することに力を入れる。
より良く老いることが可能になれば、人はより長く生きたいと思うようになり、より長く生きられるようになれば、さらによりよい老い方をしたいと思うようになるという好循環が生まれます。
20世紀では、人生を「教育 → 仕事 → 引退」という3ステージに分けて考えるのが当たり前でしたが、エバーグリーンの課題を達成するためには、その3ステージのモデルから脱却することが必要であるとして、具体的な対応策を示しながら個人のキャリアにどのような影響を及ぼすかを解説しています。
寿命が延びることにより、人生において自らが主体となって多様なステージをつくり出していく(マルチステージ化)ことも可能です。
そのためには、自らが次のステージに進むのを助け、未来の自分が成功できるようにするために、次のステージの自分に向けて準備することが必要です。
人生の次のステージをどのように乗り切るかを考えるうえでは、未来の人生が長くなればなるほど、若い時の自分からの助けが重要な意味を持ちます。
人生終盤の時期のあり方を改めようと思えば、人生のもっと早い段階にも変化を起こさなければなりません。
若い時期にもっと将来に投資する必要がありますが、将来の時間が増えることにより、現在の選択肢と可能性も広がります。
なお本書では、不老や不死を題材にした文学作品の登場人物を通して、より良い老い方の4種類のパターンを検討しています。
4種類のキャラクターを通して考えることにより、死亡率とフレイル(虚弱)の関係を変容させ、より良い老い方を実践するためのパターンをわかりやすく紹介していますので、著者の主張をより理解するのに役立ちます。
それぞれのパターンごとに、人生の量と質をどのようなバランスで改善するかが異なり、その違いは、死亡率が改善する度合いと、健康状態が改善する度合いの組み合わせの違いにあります。
そして、これらのパターンの優先順位を判断するために、実現できる結果を金銭評価し、良い老い方をすることにどれくらいの経済的価値があり、人生の量と質のどちらの経済的価値が大きいのかを明らかにしています。
- キャラクター1.ジョナサン・スウィフトの『ガリバー旅行記』のストラスブルグ
死亡率に限定して老い方を改善 = 寿命と健康寿命の間のギャップ(レッドゾーン)が拡大
- キャラクター2.オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』のドリアン・グレイ
死亡率は改善しないが年齢ごとの健康状態が改善 = レッドゾーンが狭まり人生終盤の不健康期間が圧縮
- キャラクター3.J・M・バリーの『ピーター・パン』のピーター・パン
長く生きて、あらゆる年齢で健康
- キャラクター4.マーベル・コミックの非正統派ヒーローのウルヴァリン
老化のプロセスを逆転 = 時間の流れを逆転させて衰弱を再生可能に転換
1945年に20歳だった人が80歳になるまで生きる確率は25%に満たなかったのに対し、2019年に20歳だった人は75%の確率で80歳まで生き、25%の確率で99歳まで生きるようです。
2021年のデータでは、日本女性の平均寿命は88歳近く、アメリカは79歳、イギリスは82歳です。
そうすると、長い人生を生きることに伴い、新たな課題が生まれるかもしれませんが、新たな可能性も生まれます。
そのためには、キャリアとお金の計画を立て、健康に良い生活を心がけ、時間を大切にし、時間の使い方を考えておかなければなりません。
80歳代をどのように過ごしたいのか、そのためには70歳代ではどのように過ごし、どんな準備が必要なのか、60歳代では・・・と、多様なステージがある中でバックスキャニングして適切に行動することが重要です。
自分の人生は、自分がマネジメントする。
現在、人類は、若者や中年の人たちが高齢になるまで生きることが想定でき、それに伴い、老い方を改善するために投資し、より良い老い方を目指すことの重要性はますます高まっています。
問題は、高齢者の数が増えることに対してどのように対処するかということではなく、長い人生に対処するために、自分たちが今どのように行動するかが問題となります。
老化をひとつの出来事や目的地のように捉えるのではなく継続的なプロセスとみなすと、現在と未来のつながりを理解しやすくなり、年齢の可変性をうまく生かす方法が見えてきます。
本書は、「長く生きることの意義とはどのようなものなのか」「寿命が延びたことによって増えた人生の時間をどのように使いたいのか」という根本的な部分を考えるうえで参考になる一冊です。
目次
日本語版への序文
はじめに
第1部 新しい必須課題
第1章 新しい時代、新しい年齢
第2章 私たちはどのように老いるのか
第3章 老いがよければ、すべてよし
第2部 エバーグリーン型の経済を築く
第4章 健康革命
第5章 経済的な配当を受け取る
第6章 お金とあなたの人生
第3部 エバーグリーン社会を実現する
第7章 人生の意味
第8章 世代に関する課題
第9章 落とし穴と進歩
エピローグ 愛の力
参考
ライフ・シフトの未来戦略 | 東洋経済STORE
Andrew J Scott | London Business School
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