書籍 未来企業 レジリエンスの経営とリーダーシップ/リンダ・グラットン(著)

書籍 未来企業 レジリエンスの経営とリーダーシップ/リンダ・グラットン(著)

このページ内の目次

未来企業 レジリエンスの経営とリーダーシップ
リンダ・グラットン(著)、吉田晋治(翻訳)
出版社:プレジデント社(2014/8/7)
Amazon.co.jp:未来企業 レジリエンスの経営とリーダーシップ

  • 働き方が変わる。企業も変わる。

    真の「働きがい」とは何か。

    ワーク・シフト』の著者リンダ・グラットン教授からの次なるメッセージ。

関連書籍
 2022年02月09日 アンドリュー・スコット『LIFE SHIFT2』東洋経済新報社 (2021/10/29)

本書は、ロンドン・ビジネススクール教授で、人材論、組織論の世界的権威、ベストセラー『ワーク・シフト』の著者が、希望を感じさせる企業の取り組みを紹介しながら、経営者も従業員も自らの仕事に心から誇りを持つことができる「未来企業」の姿を描いた一冊です。

前著『ワーク・シフト』では、企業の「外側」に目を向け、働き方の変化が人々にとって何を意味するかを考察しているのに対し、本書『未来企業』では、こうした変化が企業にとって何を意味するのかを解説しています。

  • ・組織、地域、世界のレジリエンスを高めるための経営のあり方とは?
  • ・そのために不可欠な新しいリーダー像とは?

本書で指摘されている状況は近いうちに到来すると想定されている中、自らの組織のあり方、自分自身のあり方について、考えさせられる一冊です。

本書は、大きく3つで編成されています。

  • ・第1部では、
    働き方の変化、その変化が企業に与える変化について、探っています。
  • ・第2~4部では、
    • 未来を見据えて、3つの領域のそれぞれにおいてレジリエンスを高めることの必要性を説いています。
    • 社内のレジリエンスを高めること、地域社会やサプライチェーンを強化すること、グローバルな問題に立ち向かうこと、について多くの事例を紹介しながら詳しく説明しています。
  • ・第5部では、
    これからのリーダーシップについて再定義し、リーダーとフォロワーを含めた全員の役割について説いています。

本書『未来企業』は、いわば、『ワーク・シフト』の企業バージョンです。
この本で私は未来の世界を形づくる要因が、企業とそこで働く人々にどんな影響を及ぼすかについて書きました。
企業は今後、どのような活動にどのような方法をもって取り組むべきか。
どんな文化がもっとも望ましいのか。
未来企業を導いていくリーダーの条件とは何か。
これらの問いについての私なりの答えがここにあります。

3つの領域のレジリエンス

レジリエンス = ストレスからの回復力、困難な状況への適応力、災害時の復元力

不確実性の増す世界において、企業や個人にとって最も重要な能力は「レジリエンス」である。

企業経営者の影響が及ぶ領域は、3つの円でイメージしています。

  • ・最も内側の領域:社内のレジリエンスを高める → 個人
  • ・真ん中の領域:社内と社外の垣根を取り払う → 企業
  • ・最も外側の領域:グローバルな問題に立ち向かう → 世界
1.個人のレジリエンス=職場環境

企業が生き残り、レジリエンスを高めるためには、複雑な問題や不透明な問題を解決する能力を高め、イノベーションを起こせる「知的で賢いネットワークをつくる」ことが必要であり、これらを実践できる人材を発掘することが重要である。

企業が長期にわたって将来性を維持するためには、従業員が「知性と知恵」を増幅し、「精神的活力」を高め、「互いの結びつきを深める」ような職場環境が必要である。

1.「知性と知恵」という無形資産

従業員が個人として、チームのメンバーとして、賢い群衆の一員として、洞察力と分析力を高められる場合に生まれる。

「知性と知恵」を増幅させる方法

  • ・アイデアを掘り起こす。
  • ・オープンイノベーションを活用する。
  • ・実験をして認識を深める。
  • ・リスク負担を高く評価する。

2.「精神的活力」

従業員にやる気があって、じっくりと考えられる状況であれば、仕事に創造性とイノベーションをもたらしやすくなる。

しかし新しいテクノロジーは、仕事を楽にするどころか、絶えず注意しなければならなくなるため、じっくりと考えて革新的なアイデアを生み出す時間が残らない。

従業員の活力を高める方法

  • ・働き方を変える。
  • ・仕事中に自由時間をつくる。
  • ・自然なリズムに合わせる。

3.「社会的つながり」

企業が持っている社会的な資産であり、企業全体に張り巡らされ、企業の枠を超えてサプライチェーンや社会にまで及ぶネットワークの奥行きと広がりの中に存在している。

テクノロジーの進化、グローバル化、世代格差によって、自然な協働が困難になっていると同時に、ビジネス戦略における協働の必要性が高まっている。

サイバー空間での協働を促すための手段

  • ・責務の透明性を高める。
  • ・サイバー空間で信頼を高めながら親睦を深める。
  • ・コミュニケーションを欠かさない。
  • ・思いやりの重要性を理解する。
2.企業のレジリエンス=社外での活動

地域のことを考え、サプライチェーンの末端まで配慮した活動

  • ・企業は自分勝手に活動できる存在ではなく、地域社会と深く関わっていることを自覚することが求められる。
  • ・社内のレジリエンスのみに目を向けるのではなく、企業がその一員である地域社会や広範なサプライチェーンを含めた社外のレジリエンスにも目を向けることが必要である。

1.地域(近隣)社会の一員として活動することへの期待の高まり。

企業が収益性と思いやりの両方を追求するためには、

  • ・地域社会のニーズを正確に見極めて自社の資源を活用してニーズを満たすか、
  • ・様々な社会活動を通じて地域社会との連帯感を高めるか、

である。

企業が近隣に配慮するためには、その地域を重視し、覚悟と思いやりを持って資源を活用する。

近隣への配慮を実現する方法

  • ・近隣の活力とレジリエンスを高める。
  • ・近隣に思いやりを示す。
  • ・地域住民の即戦力となるスキルを高める。

2.サプライチェーンとのつながりを強める。

企業は、サプライチェーンにかかるコストを最小限に抑え、生産性を最大限に高めることで、付加価値を高めている。

しかし一方、サプライチェーンの裾野では、劣悪な労働環境の下で、低賃金で苛酷な労働を強いられている人たちもいる。

企業は、積極的にサプライチェーンに働きかけ、そのレジリエンスを高めるために、経営陣の価値観やビジネスモデルを考えていくことが必要である。

サプライチェーンとのつながりを強める取り組み

  • ・広範なサプライチェーンに責任を負う。
  • ・社会的企業モデルを確立する。
  • ・地元に投資する。
3.世界のレジリエンス=グローバルな課題への取り組み

グローバル化、ネットワーク化、テクノロジーによって、世界は変化しつつあり、厄介で解決しにくい問題が起こってきている。

企業は、その資源や能力を活用して、若者の失業問題や、気候変動といったグローバルな課題へ取り組んでいくことが必要である。

企業が、サプライチェーンとのつながりを深め、グローバルな問題に立ち向かう意志と機能を備えるためには、経済的必要性とリーダーシップの道徳的指針に基づいて行動することが必要である。

1.研究とイノベーションの力

イノベーションを実現するために、革新的な企業は、高度な専門知識と創造性を持つ人々を集め、意欲を高めるための取り組みを行ってきている。

しかし、有能な人材は従来の縦割りの組織を嫌う傾向があるため、彼らの持つ深い知識を社内の各部署にスムーズに伝達するための仕組みを構築することが必要となっている。

世界中で、有能な人々が自発的にグローバルな問題に立ち向かっており、それによって企業の研究力と革新力も高まっている。

多くの企業が行っている取り組み

  • ・コア・ケイパビリティを見極め、強化し、つなげる。
  • ・専門家の洞察力を活用する。
  • ・専門家のスキルを活用する。

2.展開力と動員力

素晴らしいアイデアを生かして世界を変えられる規模まで展開するためには、機動力が不可欠である。

グローバル化を進める初期段階から、企業は現地の文化に浸透し、現地の言葉や風習を理解して、現地のやり方に従って取引を行なうことが必要である。

そこで、若手幹部の昇進の決め手となるのは異文化に対して細やかな配慮のできる人であり、経営者は全社規模に浸透するような目標を立てられるかどうかで評価される。

企業は多くの資源を投入して、アイデアや製品を迅速に低コストで世界中に届けるためのインフラを整備し、組織構造は絶えず調整して集中型と非集中型のバランスをとっている。
それらの展開力と機動力は、企業の長年の取り組みの賜物である。

展開力と機動力を高める方法

  • ・活動の必要性を説明する。
  • ・大義を掲げて動員する。
  • ・展開力を生かす。

3.複数のステークホルダー間で協力体制を築く力

企業が研究力と革新力を高め、最高に素晴らしいアイデアを迅速に展開できれば、世界を大きく変えることができる。

そのためには、必ずしも目的は一致していないかもしれないが、多くのステークホルダーが参加し、協力体制を築く能力が重要となる。

各国政府、多国籍企業、NGO、群衆、社会起業家など、それぞれのステークホルダーにできることは限られているかもしれないが、それらの力を企業の資産と組み合わせれば社会に対する影響力を高めることができる。

企業が協力体制を築くための役割

  • ・誰が貢献できるかを見極める。
  • ・検証を実施する。
  • ・協力体制内における橋渡しをする。

リーダーシップの再定義

複雑で不透明なグローバルな問題に立ち向かうための協力体制やグループづくりを主導するのは、多くの場合企業の経営者である。

そこでリーダーは、問題解決に対し前向きに考え、説得力のあるメッセージを発信し、未来のためのビジョンを持ち、明確な基準を持つことが必要である。

これまでの階層的に指揮統制を行うリーダーシップは通用しなくなり、これからは、透明性を高めた本物のリーダーが平等な立場で指導することが主流となる。

  • ・古い秩序の象徴
    強力なリーダーシップ、業務報告に支えられ、企業が「親」で労働者が「子」の関係
  • ・新しい秩序の象徴
    階層がなくなる、フォロワーからの要求が厳しくなる、「大人対大人」の関係で従業員と雇用者の両方の責任が重くなる

リーダーシップは時代遅れにとなる危険性がある。
リーダーが時代遅れになるのではなく、リーダーはいつの時代にも存在するが、フォロワーシップより重要な存在としてのリーダーシップは古い。

1.本物のリーダーになること

企業のレジリエンスを高く保ち続けるのは非常に勇気のいることであるが、リーダーに従う人々は、その勇気がリーダーにあるかどうかを見極めている。

  • ・短期主義や株主価値の偏重といった障壁を乗り越える勇気
  • ・声高に要求してくる市民に対応する勇気
  • ・現在と未来をつなぐメッセージを発信して説得力を生み出す勇気

透明性が高まり、リーダーが「丸裸」にされる時代では、共感、内省、メッセージの発信が重要となる。
そこでリーダーは、

  • ・過去と未来を結びつけるストーリーをフォロワーに伝え、
  • ・共鳴を起こすことで、ありのままの自分をフォロワーに示す。

フォロワーが、相手が本物のリーダーかどうかを判断する基準のひとつは、知行合一ができているかである。

難しい判断を迫られた時に、最も適切な判断を下す可能性が高いリーダーとは、自分自身をよく理解し、その自己認識と寸分の違いのない人物である。

正しい判断を下せる人は、

  • ・自己認識をうまく利用し、
  • ・自分を磨き、
  • ・周囲を巻き込んで強力なチームを築き、
  • ・フォロワーが良い判断を下せるように助言や指導ができる。

本物を目指すには経験が必要であり、リーダーが本物に近づけるのは、

  • ・自分を試し、世界についての理解を深める「厳しい試練」を経た時
  • ・内省を通じて自分自身や自分にとって大切なものについて理解を深めた時
  • ・挫折を経験して、そこから学ぶことができた時
  • ・周囲の人が率直に意見を聞かせてくれた時

リーダーを目指す人にとって重要なことは、

  • ・自分のものとして表現できる価値観を身に着け、
  • ・難しい判断が迫られる状況でも、その価値観に基づいて行動できること。
2.リーダーが持つべき世界観

未来企業のリーダーシップ

  • ・グローバルな視野を持つ。
  • ・社内だけではなく、社外にも目を配れる。
  • ・長期的な視野に立てる。
  • ・世界の複雑な仕組みに気づき、互いに存在していることを受け入れる。

リーダーとは、特定の地域、状況、国について考えるのではなく、様々な状況、様々な国のニーズについて考え、応える存在である。

世界観を広げる取り組み

  • ・「裁量の時間幅」を長くする。
  • ・多様性のある広範な人脈を築かせる。
  • ・協力体制を築く。

自分自身の仕事をどう考えるか、リーダーについてどう考えるか、企業と外側の世界との関係についてどう考えるか。
この仕事というマラソンを走り切るには、当然、働きながら自分自身のレジリエンスを高めなくてはならない。
そのためには知性を増幅し、精神的活力を高めて、深く広範な人脈を築く必要がる。

まとめ(私見)

本書は、これからも変わりつつある企業の位置付けや役割、そこで働く人たちの存在の重要性を解いています。

そこで企業は、企業内、地域社会、世界のそれぞれのレジリエンスを高めることが必要であるとしています。

一方、働く人たちは、退職できる時期は少しずつ遅くなり、多くの人にとっての仕事は短距離走ではなくマラソンになっていき、そのマラソンを走りきるためには、自分自身のレジリエンスを高め、精神的活力を保つことが重要としています。

本書には、未来を見据えて、3つの領域でのレジリエンスを高めている企業の事例が、多く紹介されています。

しかし現在の企業の多くは、上場企業であれば四半期単位で業績を評価され、株主から強いプレッシャーがのしかかっているでしょうし、企業内では成果主義とか業績連動報酬など、短期志向の仕事に、時間に追われる毎日を送っている人も多いのではないかと思います。

持続可能性に関する目標を掲げている企業は、そうでない企業よりも最終的には業績が上回っている。

本書の提言は、忙しい毎日を送っている人たちにとっては、現実とはかけ離れた、そして理想とも受け取られるかもしれませんが、企業を取り巻く環境も仕事に対する意識も、既に変わってきているのも事実です。

企業と従業員も「親」と「子」の関係から、「大人対大人」の関係へシフトしていく中で、自分は「子供」ではなく「大人」として、スキルを磨き、レジリエンスを高められる企業を自分で判断(選ぶ)すべきとしています。

数年後、環境が変わってしまった時に取り残されないためにも、

  • ・今一度、企業や仕事及びリーダーシップについて、そして自分自身の働き方や生き方について問い直し、
  • ・自らが目的意識を持ち、積極的に意思決定をして行動する

ことの必要性を強く感じた一冊でした。

本書に関連する情報

著者らが立ち上げた「働き方の未来コンソーシアム」
Hot Spots Movement - Home -

本書に関連したワークブックのダウンロードサイト
Hot Spots Movement - Workbook download

「レジリエンス」?ビジネスパーソンが押さえておくべきキーワード?
2014年9月4日 DODA編集部レポート

“折れない心”の育て方~「レジリエンス」を知っていますか?~
2014年4月17日 NHK クローズアップ現代

  • ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

    ワーク・シフト
    ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

    リンダ・グラットン(著)、池村 千秋 (翻訳)
    出版社:プレジデント社 (2012/7/31)
    Amazon.co.jp:ワーク・シフト

未来企業 ─ レジリエンスの経営とリーダーシップ
  • 未来企業 ─ レジリエンスの経営とリーダーシップ

    未来企業
    ─ レジリエンスの経営とリーダーシップ

    リンダ・グラットン(著)、吉田晋治(翻訳)
    出版社:プレジデント社 (2014/8/7)
    Amazon.co.jp:未来企業

トップに戻る

関連記事

前へ

書籍 「戦略」大全/マックス・マキューン(著)

次へ

SWOT分析は、経営や事業の戦略を立案するための有効なフレームワークのひとつ

Page Top