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リーダーシップ研究の略歴

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2026年03月31日
リーダーシップを「人を動かす力」と捉えるなら、意味のマネジメントは「人が動く(動きたくなる)理由をつくる力」と言えます。
そのため、意味のマネジメントは、リーダーシップ研究において本質的な概念の一つであると考えています。
意味のマネジメントとリーダーシップとの関係おいても、その時代の社会や企業および組織を取り巻く環境変化、働き方意識や価値観の変化などにより、リーダーとメンバーとの関係も変化しています。
リーダーシップ研究の主な変遷と意味との関係(意味のマネジメント)は以下の通りで、意味のマネジメントは各リーダーシップ理論の根本的な概念と位置づけられると言えます。
- ・~1960年代:特性・個性的リーダーシップ
- 主な主張:個人特性中心
- 意味との関係:意味概念なし
- ・1950年代~1970年代:行動・状況的リーダーシップ
- 主な主張:行動や状況に着目
- 意味との関係:意味より適合重視
- ・1980年代:変革型リーダーシップ
- 主な主張:ビジョンの提示
- 意味との関係:意味の再構築、象徴操作
- ・1990年代:ナラティブ(物語)リーダーシップ
- 主な主張:物語を通じた意味づけ・共感・変革
- 意味との関係:意味の共有
- ・2000年代~:複雑性リーダーシップ
- 主な主張:自己組織化
- 意味との関係:意味の共創
変革型リーダーシップでは、「ビジョン=意味の再構築」を核心として、ビジョンを提示し、価値を再定義し、アイデンティティを変革することが中心となります。
これに対してナラティブ(物語)リーダーシップは、独立理論というよりも方法論・分析論の視点として発展し、物語を通じて意味づけし、共感を得て変革することが中心となります。
そして複雑性リーダーシップは、近年の複雑・多様化する環境において意味は創発するものとして、意味生成を促進する条件を整えたり、解釈の多様性を活かしたりすることが中心となります。
前回は、組織における意味づけが政治的プロセスであることを確認しました。
意味をめぐる政治的プロセスが避けられない以上、リーダーシップとはその政治性を前提に意味を再構成する営みであると言えます。
そこで今回は、意味の政治的プロセスを所与としてリーダーはどう対処すべきかについて、リーダーシップ研究の略歴と近年の理論を整理し、意味のマネジメントとリーダーシップとの関係を考察します。
リーダーシップの定義
バーナード・バスによる定義(Bass, 1990)
リーダーシップとは「他者に変化をもたらす心理的プロセスである」と定義し(Bass)、キーワードは変化・影響・動機であると解釈できます。
そこからは、リーダーシップとは、CEOやキャプテンのような役職とは限らず、あくまでも心理的に「他者に変化をもたらす」ことを指していると言えます。
リーダーシップとは、状況あるいはメンバーの認識・期待の構成・再構成がしばしば行われる(二人以上のメンバーから成る)グループにおける、メンバー間の相互作用のことである。
この場合リーダーとは「変化」を与える人、すなわち他者に対して(その他者がリーダーに影響を与える以上に)、影響を与える人のことを指す。
グループ内のある人が他メンバーのモチベーション・能力を修正する時、それをリーダーシップという。
ゲイリー・ユクルによる定義(Yukl, 2002/ 2006/ 2010)
リーダーシップを命令や指示ではなく「影響のプロセス」としてとらえています(Yukl)。
そこから、強制的に人を動かすのではなく、相手が自発的に動きたくなるように働きかけることがリーダーシップの核心であると言えます。
何をすべきか、どのようにすべきかについて、他者が理解し合意するよう影響を与え、共有された目標を達成するための個人および集団の努力を促進するプロセスである。
リーダーシップ研究の略歴
初期(1940年代まで)のリーダーシップ研究では、「特性論」と呼ばれるアプローチが主流で、リーダーは生まれつき偉大な資質を備えた人物であると考えていました。
しかし、優れたリーダーに共通する特性を見出せませんでした(Stodgill, 1948)。
そして、優れたリーダーの行動を観察・分析し、そのパターンを解明しようとする「行動理論」が登場しました。
1960年代からは、行動理論も効果的なリーダシップスタイルを明らかにできなかったことから、「状況適合理論」が台頭してきました。
状況適合理論では、業務内容や部下の特性に応じて求められるリーダーシップは異なるとして、さまざまな理論が提唱されました(Fiedler, 1964; House, 1971)。
1970年代の後半では、急速な変化や不確実性といった経営環境に対応するために、「変革型リーダーシップ」の概念が提唱されました(Burns, 1978)。
そして、変革型リーダーシップの構成要素(知的刺激、個別的配慮、鼓舞する動機づけ、理想化された影響)が示されました(Bass, 1985)。
その後、サーバント・リーダーシップ理論(Greenleaf, 1970)、リーダー・メンバー・エクスチェンジ(LMX)理論、シェアード・リーダーシップ理論(Pearce & Conger, 2003)が登場しました。
さらに近年では、組織を複雑適応系と捉えて「リーダーシップ=創発現象」とする分散・複雑性リーダーシップ理論(Uhl-Bien et al. 2007; Lichtenstein et al. 2006)、そして適応空間研究、高信頼組織(HRO)研究との統合、デジタル組織・リモート組織研究、フォロワーシップとの統合などの研究が進んでいます。
「特性論(個性の理論)」「行動理論(行動の理論)」「状況適合理論(コンティンジェンシー理論)」の三つは古典的な理論であるのに対し、「リーダー・メンバー・エクスチェンジ(LMX)」「トランザクショナル・リーダーシップ(TSL)とトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)」は1980年代以降のリーダーシップ研究の中心となりました。
そして、「シェアード・リーダーシップ」は2000年代に入って注目されている「新時代のリーダーシップ理論」の一つとなっています。
リーダーシップの理論(古典的理論)

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成
「個性の理論」は、「リーダーを務める人は、他の人と比べて特異でユニークな資質・人格がある」という前提に立ち、リーダーシップの発揮には二種類があります。
- ・リーダーシップ・エマージェンス(自然発生的なリーダーシップ)
役職の決まっていない平等な集団において、仕事を進めた結果として周囲に目されるようになる人を指す。
- ・リーダーシップ・エフェクティブネス
CEOや部長などの役職のように、誰がリーダーかは最初から決まっている。
「行動の理論」は、リーダーの「行動」に着目した理論です。
- ・リーダーの行動スタイルを、「業務重視」と「従業員重視」に分けることが重要である。
- ・「ルール・役割分担などの設計」と「部下との友好的な人間関係」と、二つの重視するスタイルに分類することができる。
「ルール・役割分担などの設計」を重視するスタイルはリーダー自身のパフォーマンスと強いプラスの関係を持ち、「部下との友好的な人間関係」を重視するスタイルはフォロワーの満足度やモチベーションなどと強いプラスの関係を持つ。
「コンティンジェンシー理論」は、「リーダーの個性・行動の有効性は、その時々の『状況・条件』による」という主張です。
リーダーシップの理論(新時代の理論)

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成
関係性の質に注目した理論
「リーダー・メンバー・エクスチェンジ(LMX)」は、リーダーと部下(メンバー)の心理的な交換・契約関係に注目しています。
- ・以前のリーダーシップ研究では、「リーダー固有の特性・行動スタイルは、部下に均一に影響を与える」というのが暗黙の前提になっていたが、現実的には異なり「『誰が部下か』によって対応・関係性は変わりうる」ということに注目している。
- ・リーダーと部下の関係を「暗黙の交換・契約関係」と見なして、「心理的な交換・契約関係」は日々の業務を通じて何度も繰り返されるプロセスの蓄積である。
- ・一般的には、「質の高い交換関係」をリーダーが築けた部下ほど、業務パフォーマンスが向上し、組織へのコミットメントが高まり、離職率が低下する。
行動スタイル(リーダー中心)に注目した理論
「トランザクショナル・リーダーシップ(TSL)とトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)」はリーダーの行動スタイルに注目した理論で、両者は相矛盾するものではなく、むしろ「優れたリーダーシップ」として補完関係にあると言えます。
- ・TSLは、部下を観察し、部下の意思を重んじ、あたかも心理的な取引・交換(トランザクション)のように部下に向き合うリーダーシップである。
状況に応じた報酬、例外的な管理
- ・TFLは、明確にビジョンを掲げて自社・自組織の仕事の魅力を部下に伝え、部下を啓蒙し、新しいことを奨励し、部下の学習や成長を重視するリーダーシップである。
カリスマ、知的刺激、個人重視
- ・不確実性の高い事業環境下にある企業においては、カリスマ型リーダーシップが業績を高める傾向にある。
構造・分散に注目した理論
「シェアード・リーダーシップ(SL:Shared Leadership)」は、「垂直的な関係」ではなく、それぞれのメンバーが時にはリーダーのように振る舞って、他のメンバーに影響を与え合うという「水平関係」のリーダーシップです(Pearce & Conger, 2003)。
- ・従来のリーダーシップ理論は「特定の一人がリーダーシップを執る」ことが前提であったのに対し、SLは「グループの複数の人間、時には全員がリーダーシップを執る」と考える。
- ・垂直的なリーダーシップよりもSLの方がチーム成果を高めやすく、特に複雑なタスクを遂行するチームにおいて強い。
行動スタイル(フォロワー中心)に注目した理論
奉仕者を第一として、まず奉仕したいという自然な感情から始まり、意識的な選択によってリーダーになることを志すという「サーバント・リーダーシップ(Servant Leadership)」があります(Greenleaf, 1970)。
それは、異常な権力欲を満たすために「まずリーダーになる」のとは根本的に異なり、「リーダーが先か、奉仕者が先か」という動機に対する問いであり、理論全体の根幹をなします。
その後、サーバント・リーダーが備えるべき特性が整理され(Spears, 1996/2010)、測定尺度(SLQ)が開発・検証されてきました(Liden et al. 2008)。
しかし、メンバーがサーバント・リーダーシップを望んでいる場合にのみ正の効果が生まれ、望んでいない場合は効果がないことも示されており、このリーダーシップがすべてのフォロワーに有効なわけではないという限界も指摘されています。
さらに、サーバント・リーダーシップは、奉仕するリーダーという特定個人の資質に依存し、依然としてリーダー中心の構造になり、奉仕・傾聴・合意を重視するために意思決定が遅延するリスクがあります。
これに対して、シェアード・リーダーシップは、個人依存からチーム構造へと進化し、奉仕の主体がリーダーからメンバー同士の奉仕となり、複雑な環境下での多点的な意思決定を可能にすると言えます。
しかし、最終責任者が不明になる、リーダー不在による無秩序を招く可能性があるなど、シェアード・リーダーシップにも限界があります。
サーバント・リーダーシップの限界はリーダーシップを「個人の徳」に依存しているのに対して、シェアード・リーダーシップは「関係と構造」に埋め込む試みであると理解できます。
センスメイキングにおけるリーダーシップの7大要素

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成
「大まかな意思・方向性を持ち、それを信じて進むことで、客観的に見れば起きえないことを起こす力が人にはある」というのも、センスメイキングのもう一つの命題であり、これを「セルフ・フルフィリング(自己成就)」と言います。
優れた経営者・リーダーは、組織・周囲のステークホルダーのセンスメイキングを高めれば、周囲を巻き込んで、客観的に見れば起きないような事態を、社会現象として起こせます。
そのためには、多義的な世界で、未来へのストーリーを語り、周囲をセンスメイキングさせ、足並みを揃え、環境に働きかけて、まずは行動することが必要です。
考察(私見)
意味のマネジメントとリーダーシップとの関係も、その時代の社会や企業および組織を取り巻く環境変化、働き方意識や価値観の変化などにより、リーダーとメンバーとの関係も変化しています。
主に以下の理由で、意味のマネジメントとリーダーシップとは切り離して語ることはできません。
1. リーダーシップの核心は「方向づけ」であり、そのためには意味づけが不可欠である。
- ・リーダーは単に指示を出す存在ではなく、組織が向かう方向にメンバーが納得し、主体的に動ける状態をつくる存在である。
- ・そのためには、目標や戦略を「意味のある物語」として提示する力が求められる。
意味を語れないリーダーは、メンバーの内発的動機を引き出せない。
2. 意味のマネジメントは、リーダーシップのプロセスを支える存在である。
- ・リーダーシップは個人の資質ではなく、リーダーとフォロワーの間のプロセスの中で生まれる。
- ・意味のマネジメントは、リーダーシップの土台をつくる役割を果たす。
3. 変革期のリーダーシップほど、意味のマネジメントが重要になる。
- ・変化が激しい時代には、過去の成功体験や既存のルールが通用しないため、新しい意味を再構築するリーダーシップが必要となる。
- ・単なる情報伝達ではなく、意味の再編成という高度なマネジメントである。
4. 意味のマネジメントは、フォロワーシップを強化する。
- ・意味が共有されると、フォロワーは「やらされる側」から「共に創る側」へ変わる。
- ・リーダーシップはリーダー一人の力ではなく、フォロワーの主体性によって完成するため、意味のマネジメントはその触媒になる。
意味形成は、先の見えない不確実な状況に直面したときには特に必要となり、意味形成の場面では「正しい説明」よりも「納得できる説明」で、人びとがその状況にどう向き合うかを考えられるようにすることが重要となります。
また、組織を変革する場面でも、メンバーに状況を受け入れてもらい、行動の方向を定めるうえで、リーダーが果たすべき役割の一つです。
しかし、意味のマネジメントを行なううえでは、意味のズレが生じることも少なくないため、そのズレを縮小・解消するのがリーダーの重要な役割となります。
意味づけには大きく二つのレベルがあり、本来はこの二つが重なり合うことで、メンバーは「自分の仕事が組織の目的とつながっている」と感じ、主体的に動くようになります。
- ・個人レベルの意味づけ
- 主体:メンバー
- 内容:自分の価値観、キャリア観、人生観に照らした「仕事の意味」
- ・組織レベルの意味づけ
- 主体:経営層・リーダー
- 内容:組織の目的、ビジョン、戦略、文化としての「組織の存在意義」
しかし、この二つがズレることが多いのが現実で、主に以下が原因でズレが生じると言えます。
その根底にあるのは、出来事の理解が異なる(認知的なズレ)、何が重要かが異なる(価値的なズレ)、損得が異なる(利害的なズレ)、「自分たちは何者か」が異なる(アイデンティティ的なズレ)といった機能的な要因があることも考慮しておかなければなりません。
- ・価値観が多様化している。
- ・組織が語る意味が抽象的である。
- ・組織が語る意味と実際の行動が矛盾している。
- ・個人のキャリアステージが変化している。
そこでリーダーは、このズレを縮小・解消するために、主に以下の取り組みが必要です。
- ・リーダーが「意味の翻訳者」になる。
組織のビジョンを、現場の仕事に落とし込む翻訳をする。
- ・個人の意味づけを「聞く」文化をつくる。
意味は押しつけるものではなく、対話を通して共につくる。
- ・組織の意味づけを「行動」で示す。
言葉より行動で示すことで意味をつくる。
- ・意味を「再構築」する。
個人も組織も変化するため、意味づけも更新する。
他にも、「ズレを見ない(無視)」や「組織意味を強制する(押しつけ)」といった対応も考えられますが、これらの対応は多くの場合、組織を混乱・崩壊させることになります。
個人と組織の意味づけのズレは避けられないものですが、それを放置すると組織の活力を奪い、個人の成長も阻害することになります。
逆に、ズレを丁寧に扱い、対話を通じて意味を再構築できる組織は、変化に強く、メンバーの主体性も高まります。
ズレは問題ではなく、意味を共に創るための出発点と捉えると、組織はより柔軟に進化していくはずです。
リーダーシップとは、個人レベルと組織レベルの意味づけのズレを検出し、翻訳し、対話を通じて統合するプロセスであると言えます。
参考
経営学における政治的視点
参考:経営理論の整理(当サイト)
関係する書籍(当サイト)
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ミンツバーグの組織論
7つの類型と力学、そしてその先へヘンリー・ミンツバーグ (著)、池村千秋 (翻訳)
出版社:ダイヤモンド社 (2024/6/12)
Amazon.co.jp:ミンツバーグの組織論 -
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