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社内政治の定義は、その時代の社会や企業を取り巻く環境に応じて変化しています。
1960年代から1970年代にかけては以下のように定義されていましたが、「政治」と「非政治」を明確に区別することができないなどの問題がありました。
- ・自分の個人的な利益のための行動(Burns, 1961)
- ・資源配分に関する要求(Harvey & Mills, 1970)
- ・他者に対するコントロールや影響力の行使(Martin & Sims, 1974)
1980年代では、政治が組織にとって正当なものでありうるとした見方よりも、狭い範囲に限定されていました。
- ・権力の獲得・形成・使用のための行動(Pfeffer, 1981)
- ・組織の正当な影響力システム外にある行動(Mintzberg, 1983)
そして1990年代には、社内政治には「影響」「非公式」「対立」の3要素が含まれるという考えに加え、意味のマネジメントととらえる考え方も出てきました。
2000年代では、政治的スキル尺度(PSI)を開発・検証し、これが組織内の個人有効性に正の関連を持つことを示しています(Ferris et al. 2005)。
2010年代以降では、従業員の政治認知(POPs)が社内政治の中核として、再統合する動きもあります。
- ・旧来の研究は「政治認知(POPs)」「政治的行動」「政治的スキル」という構成概念レベルの3分類を中心に整理されてきましたが、これが研究を人為的に制約してきたと指摘し、より高次の上位カテゴリとして「政治的特性」「政治的行為」「政治的成果」という3軸を提唱しました(Ferris et al. 2019)。
- ・過去30年の研究を総括して組織政治認知(POPs)を従来の静的な状態概念としてのみ捉えるのではなく、イベント的視点および時間的アプローチを導入する必要性を指摘しました。
そして、政治的イベントを「新規性」「破壊性」「重要性」の3特性から評価する枠組みをPOPs研究に応用できると論じるとともに、政治行動のポジティブ側面を含めた統合的理解の重要性を示しました(Hochwarter et al. 2020)。
両者の研究はそれぞれ、意味の生成と伝達のプロセス(Ferris)と、意味の影響力の強度(Hochwarter)という異なる側面から、意味のマネジメントを理論的に補完しているといえます。
そこで今回は、社内政治にける意味のマネジメントとの関係について整理し、センスメイキング理論の概要についてまとめます。
社内政治における意味のマネジメント

1990年代には、ジェラルド・フェリスらが、「共有された意味のマネジメント」「意味を操作し、他者の解釈に影響を与える行為」と社内政治を定義しました。
- ・意味をマネジメントするという視点は、「組織シンボリズム」や「社会構成主義」というアプローチに基づきます。
- ・これらのアプローチでは、出来事や行動の意味はあらかじめ決まっておらず、それを見た人がどのように意味づけるかによって決まると考えます。
そこからは、社内政治は単なるパワーゲームや自己利益の追求ではなく「意味をめぐる競争」といえます。
- ・リーダーや社員が、特定の言動や出来事に意味を与え、その意味の受け止め方をコントロールしようとする行動こそが社内政治であるといえます。
- ・社内政治は、「言葉の使い方」「物語の語り方」「感情の喚起」などを通して、周囲の認識や行動を変えようとする行為となります。
そして、意味のマネジメントという政治行動は、個人の能動性を前提としており、人はただ状況に反応するだけの存在ではなく、「意味をつくり、他者に影響を与える存在」であることになります。
しかし、「意味のマネジメント」という定義も、社内政治のすべてをカバーしきれていません。
利害の対立、権力、非公式性、自己利益といった、従来の研究で重視されていた要素を含んでいないからです。
意味形成理論(sensemaking:Weick, 1995)
カール・ワイクらは、意味形成を「状況を言葉で明確に理解できるものに変換し、それを行動の出発点として用いるプロセス」と定義しています(Weick et al. 2005)。
意味形成は、単に情報を解釈するだけではなく、人びとが「何が起きているのか」を理解し、「次に何をすべきか」を決めるための行動と結びついたプロセスとなります。
意味のマネジメントの要素
- ・ラベリングと分類
- ・回顧的プロセス
- ・相互作用とコミュニケーション
意味形成は、先の見えない不確実な状況に直面したときに必要となり、意味形成の場面では、「正しい説明」よりも「納得できる説明」で人びとがその状況にどう向き合うかを考えられるようにすることが重要となります。
また、組織を変革する場面でも重要で、メンバーに状況を受け入れてもらい、行動の方向を定めるうえで、リーダーが果たすべき役割の一つです。
意味形成理論に依拠した社内政治
ジェラルド・フェリスらは、社内政治を「共有された意味をマネジメントすること」と考え、意味を主観的に評価し、解釈したうえで他者と共有することが、自分が相手に望む行動や結果を引き出すカギであり、社内政治の中核であるとしています(Ferris & Judge, 1991; Ferris et al. 1994)。
組織内の物事の意味を、社員たちがどのように理解・解釈するかをコントロールし、調整することが社内政治の本質であるということになります。
センスメイキング理論(sensemaking)

入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成
センスメイキング理論は、組織のメンバーや周囲のステークホルダーが、事象の意味について納得(腹落ち)し、それを集約させるプロセスをとらえる理論です。
センスメイキング理論は抽象的で、深遠で、哲学的な背景も必要としますが、「未来をつくり出そうとしている経営者」ほどセンスメイキング能力が高いといえます。
- ・センスメイキングは、「見通しの難しい、変化の激しい世界で、組織がどのように柔軟に意思決定し、新しいものを生み出していく」ことに示唆を与える。
- ・「イノベーション」「組織学習」「ダイナミック・ケイパビリティ」「組織の知識創造理論」「リーダーシップ」「意思決定」といったテーマに、違った角度から光を当てる。
「実証主義」と「相対主義」の二つの立場でビジネス環境を見ることができますが、センスメイキングは認識論的相対主義に近い立場をとります。
- ・実証主義
自分が現在直面しているビジネス環境は、周囲の誰にも同じように見えるため、事業環境を正確に分析すれば、普遍的な真実・真理が得られる。
- ・相対主義
誰もが共有する「絶対的なビジネス環境の真理」はなく、主体は客体(環境)の一部と考え、自身が活動して環境へ働きかければ、環境認識も変化していく。
センスメイキングの全体像は、相対主義を前提として、主体(自身・自身のいる組織)と客体(周囲の環境)の関連性についてのダイナミックに循環するプロセスととらえられます。
プロセス1.環境の認知
- ・センスメイキングは、新しかったり、予期しなかったり、混乱的だったり、先行きが見通しにくい環境下で重要となる。
- ・危機的な状況
市場の大幅な低迷、ライバル企業の攻勢、急速な技術変化、天変地異、企業スキャンダルなどに直面した時。
- ・アイデンティティへの脅威
急激な業界環境の変化によって自社の事業・強みが陳腐化したといった、自社のアイデンティティが揺らいでいる状況。
- ・意図的な変化
新事業創造やイノベーション投資など、企業が意図的に戦略転換を行う時。
プロセス2.解釈を揃える
- ・重要なキーワードは「多様性」であり、同じ環境でも認識された周囲の環境をどう解釈するかで、その意味合いは人によって異なる(多義的になる)。
- ・「組織の存在意義は解釈の多様性を減らし、足並みを揃える」ことにあるため、同じ組織に属するからこそ人々は密なコミュニケーションをとり、事業環境や自社の方向性などについての解釈を集約できる。
- ・リーダーに求められるのは、多様な解釈の中から特定のものを選択し、意味付け、周囲に理解させ、納得・腹落ちしてもらい、組織全体での解釈の方向性を揃えることである。
プロセス3.イナクトメント(行動をもって環境に働きかけること)
- ・相対主義では主体(組織)は客体(環境)と分離できないから、組織は行動して環境に働きかけることで、環境への認識を変えることができる。
- ・センスメイキング理論では「行動」が重要になり、「行動」を循環プロセスの出発点としてとらえている。
- ・多義的な世界では、「何となくの方向性」でまず行動を起こし、環境に働きかけることで、新しい情報を感知する必要があり、そうすれば認知された環境に関する解釈の足並みをさらに揃えることができる。
考察(私見)
社内政治に関する研究の流れは、かつては「社内政治=悪」という単線的理解から、近年では「特性」「行動」「成果」の三次元で政治現象を立体的に把握する方向へと転換していると考えています。
個人が政治をどう知覚するかは、破壊的と感じる「反応的」段階から、組織機能の中核として積極的に関与する「統合的」段階まで4段階(意味づけの成熟段階)があり、どの段階にいるかによって政治のポジティブ・ネガティブが変わるという動態的な視点となると解釈できます(Hochwarter et al. 2020)。
個人の政治知覚の4レベル(質的知見との接合)
反応的:破壊的・操作的と認識(政治=悪)
↓
消極的:必要悪として受容(政治=必要悪)
↓
戦略的:物事を進める手段として活用(政治=手段)
↓
統合的:組織機能の中核として捉える(政治=組織機能の中核)
また、知覚対象の階層として、「単発の政治的出来事」から「繰り返しの認識」、「組織風土としての理解」、そして「自己への影響としての理解」へと拡張するとも解釈できます。
社内政治を「想いを実現する」ための手段の一つであると考えると、適切にマネジメントすることが必要となります。
しかし、社内政治を使う側(リーダー)の視座や対象範囲、受ける側(メンバー)の立場や意識によって、ポジティブと感じるかネガティブと感じるかは変わってきます。
- ・視座が高く対象範囲も広ければ(全体最適)、反対側にいる者(部分最適)はネガティブに感じる可能性が高くなります。
- ・一方、賛同側はポジティブと感じる可能性が高くなります。
そして、ネガティブに感じている人をポジティブ思考に変え、ポジティブに感じている人にはより能動的に活動してもらうためには、受ける側(メンバー)の納得感や正当性が必要となります。
意思決定の意味を、メンバーがどのように理解・解釈するかをコントロールし、調整することが重要です。
なお、社内政治と意味形成の主な傾向をあげるとしたら以下の通りになりますが、明確に表れない場合もありますし、受ける側がどう知覚するかで決まると考えています。
組織のリアルな人間関係や信頼関係と密接に結びついていますので、社内政治と意味形成の境界は難しい面もあります。
- ・意図
- 意味形成:組織の利益を目指す
- 社内政治:個人や特定集団の利益を優先
- ・透明性
- 意味形成:高い(根拠を開示し透明に提示)
- 社内政治:低いことも多い(情報を選別・歪曲して印象操作)
- ・正当性
- 意味形成:共有価値、組織目的
- 社内政治:権力、資源配分
- ・目的
- 意味形成:メンバーが状況を理解し、行動できるようにする
- 社内政治:利害調整、影響力の獲得、意思決定の方向づけ
- ・手段
- 意味形成:説明、ストーリー、対話、正当性の提供
- 社内政治:交渉、同盟形成、情報操作、ロビー活動
- ・対話
- 意味形成:反論や異論を受け入れる余地あり
- 社内政治:服従や沈黙を誘導・強制する
- ・整合性
- 意味形成:言葉と行動が一致
- 社内政治:言動が乖離
- ・受ける側
- 意味形成:メンバーが意味を再解釈できる
- 社内政治:メンバーは手段として扱われる
メンバーは機械ではなく、意志のある自律した個人またはその集合です。
先行きが不透明な中で意思決定しても、メンバーの納得感が得られなければ行動は伴いませんし、結果(変革成功)もついてきません。
意味のマネジメントのすべてが社内政治であるとはいえませんが、目指す方向に向けて行動するようメンバーに納得(腹落ち)してもらわなければなりません。
社内政治を権力争いや自己利益の追及という側面ではなく、利害が異なる組織や社員の合意を形成する手段と考えると、意味のマネジメント(sensemaking)は重要な取り組みです。
参考
経営学における政治的視点
参考:経営理論の整理(当サイト)
関係する書籍(当サイト)
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