経営学における政治的視点 | 組織の政治的行動の理論から政治の建設的側面、構造変化対応へと変化

経営学における政治的視点 | 組織の政治的行動の理論から政治の建設的側面、構造変化対応へと変化

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経営学における政治的視点の展開

社内政治というと、「根回し」「本音と建て前」や「ゴマすり」といった行動の他、派閥間の争い、「忖度」「えこひいき」「権力争い」といった言葉を思い浮かべるかもしれません。

これまでも、社内政治に関係する学術論文だけなく、モチベーション、リーダーシップ、組織変革といった組織行動に関する理論研究や実証研究も多く行われ、それらの理論やフレームワークは時代の環境の中で変化しています。

企業においては、さまざまな調整や戦略的な対応が求められている中で、社内政治をリーダーシップ行動の一部と捉え、実践的な枠組みへと進化していると考えることもできます。

そこで今回は、社内政治について再確認し、経営学における政治的視点がどのように進化してきているかを俯瞰し、今後の可能性(課題)を提示します。

社内政治

社内政治の科学

『社内政治の科学』を参考にしてATY-Japanで作成

『社内政治の科学』(木村 琢磨、日経BP、2025年11月14日)では、社内政治を以下と定義しています。

社内政治とは、

自己または会社の利益の増大または損失の抑制を目的として、

会社の意思決定に影響を与え、社内での権力・資源の獲得や利害調整のために行われる、

会社から正式に承認されていない影響行動である。

本書は、さまざまな理論が世界中で展開され、膨大な理論研究・実証研究が積み重ねられてきた中で、特に社内政治の理解を大きく前進させてきた質の高い研究に焦点を当てています。

そこで、ビジネスの現場で起きている社内政治の実例と研究の変遷、日本人が見落としがちなグローバルの社内政治を解説したうえで、社内政治の定義や研究史、理論的な展開、「権力」や「意味のマネジメント」との関係を通して社内政治の本質を考察しています。

そして、政治的側面を備えたリーダーシップについて考察し、社内政治をうまくマネジメントするために欠かせない個人の総合的な能力、社内政治の状況や課題をエビデンスに基づいて把握するための「社内政治の分析法」について解説しています。

利害の異なる人たちを束ね、会社の目標を実現するために努力しているビジネスリーダーの方々が、もともと政治的な存在である会社という組織の中で、どのようにしたら影響力を発揮できるかを考えるうえで参考になります。

経営環境が常に変化している中で、企業は変革し続けていかなければなりません。

社内政治は、多様な利害や解釈が交錯する組織において合意を形成するための手段の一つとなります。

社内政治は、単なる「利己的な行動」や「巧妙な策略」ではなく、組織における資源の配分や意思決定に正当に関わる行動になり得ます。

そこでリーダーは、政治力(政治知識・政治スキル・政治準備性・政治的パワー)を身に着け、社内政治をマネジメントすることが重要になります。

但し、その政治力を利己的に使うのではなく、会社のために使う意思がなければなりません。

この意思を持てるかどうか、継続できるかどうかは、リーダーの倫理性にかかっています。

経営学における政治的視点の展開

経営学における政治的視点の展開

1970年代までは、組織の政治的な性質や政治行動に関する実証や理論が中心でした。

1980年代から1990年代にかけては、ネガティブな社内政治の知覚に着目したPOPs研究が主流で、研究論文が増加しています。

2000年代からは、政治の建設的な側面が注目され、リーダーシップ研究、意味のマネジメントとの統合が進み、政治スキルに関する研究も盛んになりました。

そして近年では、リモートワーク、AI・アルゴリズム、デジタルプラットフォームが権力構造を再編する可能性がある中で、物理的境界を超えた「分散型組織」における政治が新たな研究対象に加わってきています。

古典経営学における議論
1900年~:古典的管理論

フレデリック・テイラー:科学的管理法、アンリ・ファイヨール:管理原則、マックス・ウェーバー:官僚制モデル

組織を「規則に従う機械」とみなしてトップダウンで管理すべきものと考え、感情や対立といった人間的要素を排除した管理が望ましい。

背景

  • ・大規模な組織における秩序の維持と効率性の向上の必要性、科学的合理主義が影響した。
  • ・個人の感情や利害は非効率の要因であり、明確なルールと階層構造による管理が最適である。
1960年代:行動科学的アプローチ

リチャード・サイアートとジェームズ・マーチの企業の行動理論(1963)

組織内の「対立」「交渉」「妥協」といった政治的力学を説明する基盤を築く。

情報の不完全性と非対称性があるために、人は自分に有利になるように情報を操作したり、選別したりする。

背景

  • ・人間の行動の複雑さや利害の調整といった現実がある。
  • ・大企業は集団の集合体であるという視点を提示し、企業を単一の意思決定主体ではなく、派閥のような異なる利害や目的を持つ複数の集合体とみなす。
  • ・自分たちの利益を増やすために同盟を組んだり、対立しつつも協力を続けようとする利害調整が行われる。
1970年代:政治的意思決定論

グレアム・アリソン(1971):企業の意思決定に関する理論に政治的視点を組み込む。

その他、企業や大学などにおける社内政治行動も実証的に研究される。

1980年代:政治的組織論

ジェフリー・フェファー(1981)、ヘンリー・ミンツバーグ(1985)

会社は政治を避けられないという立場から組織論を展開する。

社内政治は会社に本来的に備わる性質である。

会社はそもそも政治的な性質を持つ存在であるという選定で研究される。

1980年代:組織内政治の知覚モデル

ジェラルド・フェリス(1989)

組織内政治の知覚(POPs:Perceptions of Organizational Politics)

  • ・人は客観的事実ではなく、主観的な知覚に基づいて行動する(クルト・レヴィン, 1936)を前提にしている。
  • ・実際に会社の中で政治的な行動が行われているかどうかよりも、従業員が会社で起きていることを「社内政治」だと感じているかどうかが、心理や行動に強く影響する。
  • ・社内政治の負の側面に着目した概念であり、社員がネガティブな政治の蔓延を感じている状態を表したものである。

「負の政治」が蔓延した職場では、従業員が他者に対して警戒心を高め、協力行動を控える。

意思決定が不透明で不公平であると、従業員は仕事への関心や意欲を失いやすくなる。

1990年代:POPs尺度の開発、POPsの実証

ジェラルド・フェリスとミシェル・カクマールが開発したPOPs測定尺度(1992)

  • ・従業員が職場の政治的な雰囲気をどう感じているのかを測定するもので、その後、多くの実証研究で使われる標準的なツールとなる。
  • ・論理モデルと測定手段の両方が整ったことによりPOPs研究は急速に発展し、社内政治研究は組織行動学や産業組織心理学における主要な研究領域へと成長する。

ラッセル・クロパンツァーノ、リサ・ランドールによるPOPsの実証

2000年代~2010年代:POPs尺度を用いたメタ分析

チュー・シアン・チャンによるメタ分析(2009)

  • ・POPsが、職務尺度や組織コミットメント、パフォーマンスを低下させる。
  • ・POPsは、退職の意思やストレス反応を高める。

ギュクル・アティンチによるメタ分析(2010)

  • ・POPsが高まるのは、「上司との関係が悪いとき」「意思決定への参加機会が少ないとき」「キャリア開発の機会が限られているとき」である。
  • ・これらの要因を改善すれば、職場に社内政治が広がっているという感覚を軽減できる。
    → 対策:上司との関係改善、意思決定への参加促進、キャリア開発機会の提供
近年の潮流

1990年代から2000年代初頭までは、社内政治研究においてはPOPsモデルに依拠した実証研究が主流となっていました。

しかし、政治を「利己的な行動で組織の暗部である」とみなすPOPs研究の見方は一面的であるという批判も出てきました。

2000年代に入ると、社内政治の建設的な側面にも注目が集まり始め、社内政治研究に新たな方向性が生まれてきます。

さらに、リモートワーク、AI・アルゴリズム、デジタルプラットフォームが権力構造を再編する中で、新たな分野に関する研究も始まっています。

2000年代:建設的な政治、政治スキルの概念化・尺度開発

アンソニー・アミターによる建設的な政治(2004)

ジェラルド・フェリスによる政治スキルの概念化・尺度開発(2005)

社内政治を単なる搾取や策略的操作ではなく、秩序の形成や人間関係の構築に役立つプロセスと捉える。

「信頼」と「説明責任」の相互作用に注目し、組織における信頼と説明責任は互いに補完し合う一方で、ときには代替関係にもなり得る。

そして、政治スキルという能力の重要性にも注目し、政治スキルを「信頼と説明責任を操作できる影響力の源」と位置づける。

  • ・政治スキルが高い人は、他者と良好な関係を築き、信頼を得る力に長けている。
  • ・その結果、説明責任を果たすために細かなルールを課されることがなくなり、自律性を与えられ、裁量的に仕事を進められるようになる。
2010年代:政治スキルの実証

社内政治のスキルは、「処世術」ではなく、リーダーシップ能力の一部として再定義される。

ジェラルド・フェリス(2007)
リーダーの政治スキルが部下の組織コミットメントや満足度、信頼感を高める。

ベリット・ダンガード・ブロウアー(2013)
政治スキルは、部下との関係やチームのパフォーマンスにも好影響を与える。

2020年代

POPsの負の影響を緩和し増幅する条件、政治スキルがリーダーシップに与える影響などに関する研究が続いています。

今後の可能性(課題)

近年、リモートワーク、AI・アルゴリズム、デジタルプラットフォームが、既存の権力構造を再編する可能性があります。

物理的境界を超えた「分散型組織」やネットワーク構造、情報の不完全性や非対称性の解消あるいは拡大、仕事に関する価値観や意識の変化などに対応した政治が必要になってくると考えています。

そこでは、AIによる意思決定・監視が政治的行動に与える影響の探索、SNS上の印象管理やハイブリッドワーク下での政治スキルの有効性検証など、社内政治のあり方がどのように変わっていく可能性があるのかは改めて考えていきます。

参考

関係する書籍(当サイト)

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書籍 社内政治の科学 経営学の研究成果 | 木村 琢磨(著)

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