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社内政治の科学 経営学の研究成果
木村 琢磨(著)
出版社:日経BP (2025/11/14)
Amazon.co.jp:社内政治の科学
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印象操作、派閥、権力争い、ゴマすり、社内人脈、根回し・・・
世界の学術研究に基づく「理論・フレームワーク」
本書は、東京大学の経済学博士の著者が、社会科学の知見に裏づけられた社内政治の全体像を丁寧に解説した一冊です。
世界中でさまざまな理論が展開され、膨大な理論研究・実証研究が積み重ねられてきた中で、特に社内政治の理解を大きく前進させてきた質の高い研究に焦点を当てています。
利害の異なる人たちを束ね、会社の目標を実現するために努力しているビジネスリーダーの方々にとって、もともと政治的な存在である会社という組織の中で、どのようにしたら影響力を発揮できるかを考えるうえで参考になります。
本書は6章で構成しており、学術研究に基づいて社内政治の理解を深めつつ、それらを現場でどのように実践に活かしていけるかを解説しています。
第1章では、ビジネスの現場で起きている社内政治の実例と、そこに注目してきた研究の変遷を解説しています。
組織におけるさまざまな疑問の背景にある政治的な力学を解明し、日本企業に特有の構造や文化との関係を考察しています。
第2章では、日本人が見落としがちなグローバルの社内政治を解説しています。
日本独特の政治行動が海外ではどう見られているのか、日本人が海外で陥りやすい「社内政治の落とし穴」について論じています。
第3章では、社内政治の定義や研究史、理論的な展開を整理し、「権力」や「意味のマネジメント」との関係を通して社内政治の本質を考察しています。
「社内政治とは何か」という根本的な問いに対して、学術的な視点から答えています。
第4章では、近年のリーダーシップ研究においてはリーダーが社内政治をマネジメントすることの重要性を提案しているとして、政治的側面を備えたリーダーシップについて考察しています。
変革や動機づけなどのリーダーシップの中核には社内政治が深く関わっているとして、リーダーがどのようにして組織を動かすための影響力を築き、行使するかについて、リーダーシップ研究の知見に基づいて考察しています。
第5章では、個人の実践力に焦点を当て、社内政治をうまくマネジメントするために欠かせない個人の総合的な能力について解説しています。
政治知識、政治スキル、政治準備性、政治的パワーの4つを合わせたものを政治力と呼び、自分の政治力を自己診断し、向上させるための具体的な視点を提供しています。
第6章では、社内政治の状況や課題をエビデンスに基づいて把握するための「社内政治の分析法」について解説しています。
4つの分析アプローチを通じて社内政治の現状を分析し、組織マネジメントや政治力あるリーダー育成のために活用する方法を示しています。
本書が、社内政治を敬遠するものではなく、そのさまざまな側面を理解し、状況に応じて適切に扱うための視点や手がかりを提案できれば幸いです。
そして、政治的な力を戦略的かつ倫理的に活用することが、健全で活力ある組織づくりにつながることを実感していただければ、著者として望外の喜びです。
社内政治

『社内政治の科学』を参考にしてATY-Japanで作成
社内政治とは、
自己または会社の利益の増大または損失の抑制を目的として、
会社の意思決定に影響を与え、社内での権力・資源の獲得や利害調整のために行われる、
会社から正式に承認されていない影響行動である。
社内政治は、組織風土として定義することもできるが、行動として定義する。
社内政治を意味のマネジメントと捉える考え方もあり、組織内の物事の意味を社員たちがどのように理解・解釈するかをコントロールし、調整することが社内政治の本質でもある。
- ・意味形成(sensemaking)は、状況を言葉で明確に理解できるものに変換し、それを行動の出発点として用いるプロセスと定義される(Weick et al. 2005)。
- ・意味形成は、単に情報を解釈するだけでなく、人びとが「何が起きているか」を理解し、「次に何をすべきか」を決めるための、行動と結びついたプロセスである。
- ・意味のマネジメントの要素
ラベリングと分類、回顧的プロセス、相互作用とコミュニケーション
社内政治には、印象マネジメントが含まれることもあり、印象マネジメントが意識的かつ戦略的に行われ、社内での非公式な影響力の行使・使用を目的とする場合に社内政治が手段になりうる。
- ・印象マネジメントとは、他者に与える印象を意図的に操作し、自分が相手に持ってほしいと思うイメージを形成しようとする行為である(Schlenker, 1980)。
- ・印象マネジメントは意味形成の材料を提供する役割もあり、自分に関する「意味」を他者の中に戦略的に形成していくことでもある。
- ・印象マネジメントは、人ではなく部署、施策や企画提案も対象となり、どのように売り込むかという技術は「イシュー・セリング」というテーマで研究されている。
自分の提案を通すにはどうすればよいのか、改革を進める際に誰を巻き込むべきか。
あるいは異なる部門間の利害をどう調整すれば、組織として前進できるのか。
こうした問いに対して、社内政治の研究は実に多くのヒントを与えてくれます。
「社内政治」という言葉からは、あからさまな根回しや派閥工作を連想しがちです。
しかし本書で繰り返し強調したのは、社内政治の中には「組織を動かすための働きかけ」になるものもあるという点です。
そのような社内政治は、信頼・共感・正当性・倫理的判断に基づく、前向きで創造的な活動でもあります。
本書を通じて、読者の皆さまには「社内政治=悪」という見方にとどまらず、むしろ組織の健全な運営や変革のために必要な行動であるという視点を持っていただけたのではないかと思います。
まとめ(私見)
本書は、社会科学の知見に裏づけられた社内政治の全体像を丁寧に解説した一冊です。
世界中でさまざまな理論が展開され、膨大な理論研究・実証研究が積み重ねられてきた中で、特に社内政治の理解を大きく前進させてきた質の高い研究に焦点を当てています。
利害の異なる人たちを束ね、会社の目標を実現するために努力しているビジネスリーダーの方々が、もともと政治的な存在である会社という組織の中で、どのようにしたら影響力を発揮できるかを考えるうえで参考になります。
また、社内政治に関係する学術論文だけなく、モチベーション、リーダーシップ、組織変革といった組織行動に関する理論研究や実証研究も解説していますので、それらの理論やフレームワークが時代の環境変化の中でどのように変わっていたのかを俯瞰できます。
そしてリーダーの方々にとっては、理論やフレームワークを自組織の現実を見る際の出発点となり、問題解決につなげられます。
特に、最終章では、組織開発や組織行動学、組織心理学の研究は社内政治を分析するうえで有用なフレームワークや手法を提供しているとして、社内政治を分析するための4つのアプローチを紹介していますので、自組織を分析し対策を考えるだけでなく、自らが政治的リーダーになるためのヒントを得ることができます。
社内政治の代表としては「根回し」「本音と建て前」や「ゴマすり」といった行動の他、派閥間の争い、「忖度」「えこひいき」「権力争い」といった言葉を思い浮かべるかもしれません。
しかし経営学の世界では、組織は必ずしも合理的に動くわけではないという認識が一般的で、企業を分析するためには政治的な視点が重要であることが広く認識されています。
企業は「異なる利害や関心を持つグループの集合体(Cyert & March, 1963)」や「政治の舞台(Mintzberg 1983, 1985)」などで示しているように、組織には合理的な戦略論だけでは説明できない事実があるとしています。
そのため、社内政治は「なくすことを目指すべきもの」ではなく「前提とすべき事実」であると認識しておくべきものとして解説を展開しています。
そこでリーダーに求められるのは、「社内政治は常に存在する」という前提で、それを健全な調整機能として活用していく姿勢が必要となります。
組織の意思決定は形式的なルールや手続きだけでは進みませんし、誰がどのような影響を与えるかによって意思決定の行方が左右されるのが現実です。
そのことから社内政治は、権力の行使や使用が日常業務の枠を超えた非公式なものであると言えます。
また社内政治は、賛同者からは「リーダーシップがある」「組織を動かせる人である」と高く評価されて「善」とみなされますが、反対者からは「権力を政治的に使っている」「権力を乱用している」と否定的に評価されて「悪」とみなされることもあります。
自らの権力を強める場合も有力者の力を借りる場合も、それまでに築いてきた人間関係や信頼が重要になりますので、社内に良い人間関係、強い人脈をつくることは社内政治行動の中でも重要な活動の一つになります。
本書では、社内政治はリーダーシップ行動の一部とみなされるようになってきたとして、政治的側面を備えたリーダーシップについて章を独立して詳細に解説しています。
リーダーシップの核心は、強制的に人を動かすのではなく、相手が自発的に動きたくなるよう働きかけることであり、そのためには「わかりやすく伝える力」や「共感を得た合意形成力」が不可欠であり、メンバーが力を発揮できる環境を整えることが重要な役割であると説いています。
社内で影響力を発揮し、合意を形成し、人びとの努力を引き出すという行為自体が、政治的な駆け引きや調整を必要とするため、リーダシップは社内政治と深く関わっています。
変革リーダーシップ論における変革型リーダーシップとは、ビジョンを提示するとともに、日常的な対話や配慮を通じてフォロワーの意欲と可能性を引き出すリーダーであるとしています。
組織が新たな状態へと移行するまでの3段階モデル(Lewin, 1947)、変革を戦略的かつリーダーシップ主導で進めるための実践的手順(Kotter, 1995)を紹介し、社内政治との関連を考察しています。
- ・力場理論を土台とした3段階モデルは、組織における心理的・行動的な変化に着目し、モデルに沿って変革を進める際には政治的な側面が関わってくる。
- ・実践的手順は、社内政治の現実をより直線的に捉えており、社内政治を変革プロセスの一部として扱い、政治的アプローチが組織変革の成功に不可欠であることを示唆している。
また、組織変革の専門家たちは、変革に社内政治が伴うのは当然であり、変革における政治は悪いことではなく推進力にもなると認識し(Buchanan & Badham, 1999)、社内政治のためのスキルが組織変革の成否を左右する(Buchanan & Badham, 2020)ことを紹介しています。
なお、変革推進者としての人的ネットワークや評判が不十分なリーダーは、社内人脈の豊富な人や、変革推進者として社内で信頼されている人を変革推進チームに巻き込むことで補うこともできる(共有型リーダーシップ:Carson et al, 2007; Wang et al, 2014)としています。
さらに、ミドルマネージャーのリーダシップについては、上下の板挟みの中で発揮され、その役割の重要性も解説しています。
政治的リーダーシップとは、状況を正確に把握し、相手の反応を見極めながら柔軟に対応する、実践的なリーダーシップのあり方であると言えます。
経営環境が常に変化している中で、それらに対応していくためには、企業は変革し続けていかなければなりません。
社内政治は、多様な利害や解釈が交錯する組織において合意を形成するための手段と言えます。
社内政治は、単なる「利己的な行動」や「巧妙な策略」ではなく、組織における資源の配分や意思決定に正当に関わる行動になうるものとして理解する必要があります。
そこでリーダーは、本書で紹介している政治力(政治知識・政治スキル・政治準備性・政治的パワー)を身に着け、社内政治をマネジメントすることが重要になります。
そして、その政治力を利己的に使うのではなく、会社のために使う意思がなければなりません。
この意思を持てるかどうか、継続できるかどうかは、リーダーの倫理性にかかっています。
本書は、社内政治を理解し、活用し、組織を変えていくために、自分はどのように影響力を発揮できるのかを考え、組織やキャリアにおける「前向きな政治」の第一歩となる一冊です。
目次
はじめに
第1章 あなたの周りの社内政治
第2章 「日本だけ」ではない社内政治
第3章 そもそも社内政治とは?
第4章 リーダーシップとしての社内政治
第5章 ビジネスパーソンに必要な政治力
第6章 社内政治を分析する
おわりに
参考
社内政治の科学 | 日経BOOKプラス
はじめに:『社内政治の科学 経営学の研究成果』 | 日経BOOKプラス
関係する書籍(当サイト)
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ミンツバーグの組織論
7つの類型と力学、そしてその先へヘンリー・ミンツバーグ (著)、池村千秋 (翻訳)
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参考:経営理論の整理(当サイト)
社内政治の科学 経営学の研究成果
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社内政治の科学
経営学の研究成果木村 琢磨(著)
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