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意味ズレ統合モデル(MGIM)の循環

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2026年04月14日
前回は、意味のマネジメントとリーダーシップとは切り離して語ることはできない理由を明らかにし、意味のズレが生じるレベルと機能的な要因、リーダーがズレを縮小・解消するための取り組みを提案しました。
そして、「リーダーシップとは、個人レベルと組織レベルの意味づけのズレを検出し、翻訳し、対話を通じて統合するプロセス」と定義しました。
これを「意味ズレ統合モデル(MGIM:Meaning Gap Integration Model)」と呼び、統合した後に意味を再創出する協働行動に連動することの必要性を提言しました。
そこで今回、「意味ズレ統合モデル(MGIM)」の全体像と構成するプロセスを解説し、「意味ズレ統合モデル(MGIM)」の有効性を説いていきます。
「意味ズレ統合モデル(MGIM)」は、一度で終わるものではなく循環させることにより、組織を累積的に進化させることができます。
なお、前回のセンスメイキング理論は「意味がどのように形成されるか」を中心に説明しているに対して、今回の「意味ズレ統合モデル(MGIM)」は、「異なる意味がどのように統合され、協働行動へと転換されるか」を説明しています。
組織内では複数の主体がそれぞれ異なる意味づけを形成するため、それらの意味の間にズレが生じることは避けられません。
今回の「意味ズレ統合モデル(MGIM)」は、「異なる意味づけをどのように調整し、共有可能な行動へと統合し、新たな意味をつくるのか」という循環プロセスの体系的なモデルです。
意味ズレ統合モデル(MGIM)の全体像

前回、意味づけには、「個人レベルの意味づけ」と「組織レベルの意味づけ」の2つのレベルがあることを明らかにしました。
そして、本来はこの2つが重なり合うことで、メンバーは「自分の仕事が組織の目的とつながっている」と感じ、主体的に動くようになります。
- ・個人レベルの意味づけ
- 主体:メンバー
- 内容:自分の価値観、キャリア観、人生観に照らした「仕事の意味」
- ・組織レベルの意味づけ
- 主体:経営層・リーダー
- 内容:組織の目的、ビジョン、戦略、文化としての「組織の存在意義」
2つのレベル感の意味ズレの要因
最適化した2つのレベルの意味の重なり合いも、時間の経過とともに環境や意識が変化したり、解釈も多様化したりすることで、この2つはズレていきます。
そのズレを生じさせる要因としては主に以下の4つが考えられますが、その根底にあるのは、出来事の理解が異なる(認知的なズレ)、何が重要かが異なる(価値的なズレ)、損得が異なる(利害的なズレ)、「自分たちは何者か」が異なる(アイデンティティ的なズレ)といった機能的な要素が複雑に組み合わさっています。
- ・戦略協働
- 戦略転換時
- 戦略転換は、環境認識の変更(認知的ズレ)と組織の自己定義の再検討(アイデンティティ的ズレ)を同時に要求する。
- 企業や組織を取り巻く環境変化、新技術への対応に向けて戦略を転換する際に、その意義や取り組みに対して意味づけが変わる。
- ・文化協働
- 組織文化改革時
- 組織文化改革は、価値観の変更(価値的ズレ)と変革効果の再認識(利害的ズレ)を同時に要求する。
- 組織外の変化や圧力、組織内の進化によって意味づけが変わる。
- ・危機協働
- 危機対応時
- 危機対応は、対応成果の再認識(利害的ズレ)とその意義の再検討(価値的ズレ)を同時に要求する。
- トラブルや事故などが発生した際に、それらに対応することへの意味づけが変わる。
- ・業務協働
- 日常業務改善時
- 日常業務改善は、改善効果の再認識(利害的ズレ)と自己の存在意義の再検討(アイデンティティ的ズレ)を同時に要求する。
- 日常業務の改善や新たな業務プロセスを導入する際に、それらに取り組むことへの意味づけが変わる。
意味ズレ統合モデル(MGIM)を構成する4つのプロセス

個人と組織の意味づけのズレは避けられないものですが、それを放置すると組織の活力を奪い、個人の成長も阻害することになります。
逆に、ズレを丁寧に扱い、対話を通じて意味を再構築できる組織は、変化に強く、メンバーの主体性も高まります。
ズレは問題ではなく、意味を共に創るための出発点と捉え、リーダーが「意味ズレ統合モデル(MGIM:Meaning Gap Integration Model)」を推進していけば、組織は累積的に進化します。
以下では、意味ズレ統合モデル(MGIM)を構成する4つのプロセスについて、リーダーの役割と成果、主な行動をプロセス単位に解説します。
検出
検出は、個人と組織の意味づけの間に存在するズレを、違和感・混乱・抵抗などの兆候として認識するプロセスです。
その目的は、意味のズレは自然には見えないため、意識的に取り組んで可視化することです。
- ・ズレの存在の可視化、観察
- ・見えない問題を認識可能な問題に顕在化、データ確認
- ・解釈と対話の出発点つくり
そこでリーダーの役割と成果、主な行動は、以下の通りです。
検出プロセスにおいては、リーダーはセンサーとなって、意味のズレに気づくことが役割となります。
その成果は、問題の言語化や不満の構造化、対話可能な状態を確立するなど、意味のズレを可視化することにより、次プロセス「対話」の必要性を生じさせます。
リーダーの主な行動
- 1.兆候の観察・検知
- 例えば、発言が減少したり、無関心や消極的抵抗が存在したりしていないかを観察する。
- また、形式的な同意や部門間の対立が起きていないかを検知する。
- 2.問いかけや意味ズレの言語化
- 例えば、「何が気になっていますか?」「困る点はありますか?」「何が納得できませんか?」と問いかける。
- さらに、状況を注意深く観察することに務め、変化をデータで読み取れる仕組みを構築することも効果的である。
- 3.心理的安全性の確保
- 意味のズレは安全な場所でしか表面化しないことを理解しておく。
- そのため、普段からお互いの信頼関係を構築・維持することに務める。
対話
対話は、異なる意味づけを持つ主体が、自らの理解や価値観をお互いに表現し、相互理解を形成するプロセスです。
その目的は、効果的な対話をすることであり、説得することではないことに留意しなければなりません。
- ・相互理解の形成、双方向コミュニケーション
- ・意味の共有可能領域の拡大、意図・背景・感情の理解
- ・誤解の解消、共通認識、意味の共有
そこでリーダーの役割と成果、主な行動は、以下の通りです。
対話プロセスにおいては、リーダーはファシリテーターとなって、関係者と意味を共有することが役割となります。
その成果は、相互理解の形成であり、完全に一致させるまではいかなくても、理解の可能性を拡大することにより、次プロセス「翻訳」での意味変換を可能にします。
リーダーの主な行動
- 1.意味の表現、暗黙知の表面化
- 例えば、「この仕事は自分にとって何を意味するか」「この変更は何を失わせるか」といった対話をする。
- 一方的に話すのではなく双方向のコミュニケーションと捉え、真摯に聞く姿勢を心がける。
- 2.意味の傾聴
- ただ聞くのではなく、意味を理解することに務める。
- 相手の意図や感情に加え、発言の背景を理解することに務める。
- 3.意味の再解釈
- 例えば、問題の指摘ではなく次への機会、失敗ではなく学習といった方向に再解釈する。
- 誤解を解消し、共通の認識をつくることに務める。
翻訳
翻訳は、抽象的な組織の意味を、個人が理解可能で具体的な意味に変換するプロセスです。
その目的は、主に以下の通りです。
- ・抽象と具体の橋渡し、抽象的な言葉や感情を具体的な課題・ニーズへ変換
- ・意味の構造変換、方針を行動に接続
- ・理解可能性の向上、関係者間で意味を共有できるように整理
そこでリーダーの役割と成果、主な行動は、以下の通りです。
翻訳プロセスにおいては、リーダーは翻訳者であり、行動可能な課題に変換することが役割となります。
その成果は、理解可能な意味形成であり、「わかる」から「動く(動きたい)」に変換することにより、次ステップ「統合」で異なる意味づけ調整を促進します。
リーダーの主な行動
- 1.抽象から具体化への変換、意味の実装
- 例えば、ビジョンを「顧客価値の拡大」とした抽象的な表現の場合は、「問い合わせに迅速に対応することで顧客満足を向上する」など具体的に翻訳する。
- また、メンバーの「忙しい」という言葉を「業務量過多で納期調整が必要」という具体的な課題へ、顧客の「使いにくい」を「操作ステップが多い」という改善点に翻訳するなどに務める。
- 2.物語化
- 意味をストーリーとして提示することに加え、過去・現在・未来をつなぐストーリーとなるように務める。
- また、関係者間で意味が共有できるように整理する。
- 3.文脈化
- 例えば、「この戦略は、この部署にとって何を意味するか」を考え、抽象的な言葉や感情を具体的な課題やニーズに変換する。
- 「本当の問題は何か」を明確にするプロセスを整備する。
統合
統合は、異なる意味づけを調整し、共有可能な行動基盤として再構成するプロセスです。
その目的は、主に以下の通りですが、実行後のフィードバックを次の「検出」に連動する循環プロセスを構築することになります。
- ・意味の調整
- ・行動の整合、関係者が役割を理解して分担・協働して実行
- ・組織的一貫性の確保
そこでリーダーの役割と成果、主な行動は、以下の通りです。
統合プロセスにおいては、リーダーは設計者であり、意味ズレの解決に向けた協働行動を推進することが役割となります。
その成果は、メンバーの主体的行動を常態化することにより、協働行動(意味の再創出)に連動します。
リーダーの主な行動
- 1.共通基盤の形成
- 完全一致とまではいかないとしても、最低限の意味を共有できるように務める。
- 例えば、合意された価値を定義したり、共通の目標を共有したりする。
- 2.役割の明確化
- 役割を通じて意味を定着させるように務める。
- 例えば、「誰が何をするか」「どこまで責任をもつか」などを明確にしたり、業務の再配分やスケジュールを調整したりして、協働して実行できるように推進する。
- 3.意味の制度化
- 意味を理解して行動し続けることで、文化として浸透させる。
- 例えば、制度やルールを確立し、行動を粘り強く継続することによって習慣となるように務める。
以上、今回は「意味ズレ統合モデル(MGIM:Meaning Gap Integration Model)」の全体像と構成する4つのプロセスを解説しました。
なお、センスメイキング理論は、意味の形成と再解釈の過程を中心に据えることで、組織における認知的ダイナミクスを説明しています。
しかし、組織が実際に機能するためには、単に意味が理解されるだけでは十分ではなく、それらが共有可能な行動へ転換することが必要です。
今回の「意味ズレ統合モデル(MGIM)」は、意味を理解する段階に留まらず、それを行動可能な形に翻訳し、制度化するまでの循環プロセスです。
センスメイキングと意味ズレ統合モデルの主な比較
- 1.目的
- センスメイキング:意味の形成の説明
- 意味ズレ統合モデル:意味の統合の実現
- 2.分析視点
- センスメイキング:解釈
- 意味ズレ統合モデル:協働行動
- 3.前提
- センスメイキング:曖昧性の存在
- 意味ズレ統合モデル:意味ズレの存在
- 4.主プロセス
- センスメイキング
感知 → 解釈・意味づけ → 行動・行為 - 意味ズレ統合モデル
検出 → 対話 → 翻訳 → 統合 → 意味の再創出(協働行動)
- センスメイキング
- 5.成果
- センスメイキング:理解の形成
- 意味ズレ統合モデル:行動の整合
- 6.構造
- センスメイキング:継続的解釈
- 意味ズレ統合モデル:循環的進化
意味づけには、「個人レベルの意味づけ」と「組織レベルの意味づけ」の2つのレベルがあり、最適化した2つのレベルの意味の重なり合いも、時間の経過に伴ってズレていきます。
ズレは問題ではなく、意味を共に創るための出発点と捉え、リーダーが「意味ズレ統合モデル(MGIM:Meaning Gap Integration Model)」を推進していくことが重要です。
統合された意味は、次の「意味の再創出(統合された意味)」に連動することで、協働行動として表れ、協働行動は組織学習を生み出します。
そして、組織学習はアイデンティティを更新し、更新されたアイデンティティは次の意味づけを形成します。
「意味ズレ統合モデル(MGIM)」から「意味の再創出(統合された意味)」に至るプロセスは一度で終わるものではなく循環させることにより、組織を累積的に進化させることができます。
参考
意味を共に創る「意味ズレ統合モデル(MGIM)」
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リーダーシップの本質的概念は意味のマネジメント | リーダーシップは意味づけのズレを統合するプロセス
