書籍 THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す | アダム・グラント(著)

書籍 THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す | アダム・グラント(著)

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THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す

アダム・グラント(著)、楠木 建(監修, 翻訳)
出版社:三笠書房 (2022/4/18)
Amazon.co.jp:THINK AGAIN

  • 「知っているつもり」がもたらす知的な怠慢

    学び続ける人の指針がここにある!

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本書は、ペンシルベニア大学ウォートン校教授で組織心理学者の著者が、どのように再考が行われるかを探求した一冊です。

再考は知識や見解を改めるだけではなく、思考を自由にするとして、「思い込みを手放し、発想を変える」ための方法を、心理学の視点から紐解いていますので、すべての方々がより満ちた人生を送るための参考になります。

なお、著者のデビュー作『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房、2014年1月10日)は31カ国語で翻訳され、続く『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』(三笠書房、2016年6月24日)も『ニューヨーク・タイムズ』紙でビジネス書の売上第1位を獲得しています。

その著者が、これまでの書籍のいくつかの論点を考え直し、見解を変えてたのが本書となります。

本書は4つのPart、11のChapterで構成されており、既存の考えを新たな視点から見つめ直すことがいかに大切かを紐解いています。

Part1では、新たな考えを受け入れることに焦点を当てています。

  • ・Chapter1では、誰もが持つ「三つの思考モード」を示しながら科学者のように考えることの重要性を説いたうえで、再考のプロセスがループで循環していることを過信サイクルと対比しながら解説しています。
  • ・Chapter2では、ダイニング=クルーガー効果(知ったかぶり、自信過剰)を補足説明し、アームチェア・クォーターバック症候群(口先だけのゲーム観戦者)とインポスター症候群(優秀であるが自信に欠ける)とを対比しながら、「自信」と「謙虚さ」のバランスの取り方を探っています。
  • ・Chapter3では、過去の自分やアイデンティティから分離して「愚かなこだわり」から自由になる方法に加え、個人的感情や固定概念を捨て、外から入ってくる情報に心を開くことによって、科学者のように客観的にものごとを捉え、自分の過ちを発見することが自己の向上につながることを説いています。
  • ・Chapter4では、リレーションシップ・コンフリクト(人間関係で起こる対立)とタスク・コンフリスト(意見のぶつかり合い)とを対比しながら生産性に与える影響を解説し、再考を促すのは「応援ネットワーク」ではなく非協調的な人で構成する「挑戦的なネットワーク」の存在であり、建設的なグッド・ファイト(熱い論戦)が欠かせないことを説いています。

Part2では、より協調的なアプローチに着目し、謙虚さや好奇心をより明確に示し、周りの人に再考することを促す方法を掘り下げています。

  • ・Chapter5では、「一流の交渉人」だけが心得ている四つのポイントを示し、「相手を圧倒する」よりはるかに大事なこと、「多すぎる論拠」は逆効果になること、相手に「自分で決める余地」を与える効果などを解説しながら、議論の場で相手の心を動かす方法を解説しています。
  • ・Chapter6では、人は同じ思考を持つ人と交流する傾向があるために極端な方向に流れやすいという「集団極性化」を崩すための仮説を考察しながら、相手の「先入観」や「偏見」と向き合い、「反目」と「憎悪」の連鎖を止める方法を紐解いています。
  • ・Chapter7では、自力で変われるように導くアプローチの「動機づけ面接」を例示し、「コンサルティングの現場」での応用例、優れた傾聴者の姿勢を紹介しながら、「穏やかな傾聴」こそ人の心を開く秘訣であることや、相手に「変わる動機」を見つけてもらう方法を紹介しています。

Part3では、生涯を通じて学び続ける社会や共同体を創造する方法を取り上げ、生活のあらゆる面を再考すること、各ライフステージで学び続けることの必要性に焦点を当てています。

  • ・Chapter8では、「バイナリー・バイアス(二元バイアス)」という好ましくない傾向への対処法として、多種多様な観点を提示する「複雑化」について、「不確実なこと」を素直に伝えていく効果、「建設的な話し合いの場」で見られる感情の変化などを紹介しながら、現実の複雑さを「不合理な真実」ではなく「刺激的な真実」と捉え、「平行線の対話」を打開していく方法を掘り下げています。
  • ・Chapter9では、知識は常に進化することとして、「建設的に論じる」力の伸ばし方、「教えること」の効果、試行錯誤し「新しい何か」を創造・発見する喜びなどを紹介しながら、教育は生涯にわたり草案を何度も描き直す習慣を築くこと、生涯にわたって「学び続ける力」を培うことと説いています。
  • ・Chapter10では、「心理的安全性」と「アカンタビリティ」との組み合わせが必要であるとして、NASAやゲイツ財団の事例を紹介しながら、「学びの文化」を職場で醸成させる方法を解説しています。

Part4では結論として、視野を広げ、「人生プラン」の再考を迫っています。

  • ・Chapter11では、視野が狭まり、他の可能性が目に入らないという「トンネル・ビジョン」に陥るリスクを回避し、「将来の自己像」のレパートリーを広げる方法、情熱的に生き「意義ある人生」を送るための取り組みを紹介しながら、再考は思考を自由にして、より満ち足りた人生を送るためのツールであることを説いています。

本書がきっかけとなり、多くの人がもはや役に立たない知識や見解を捨て、「不変性」ではなく「柔軟性」を獲得してくれることを心から願う。

再考するスキルを身につければ、仕事においても生活においても、よりよい成果を上げられると私は確信している。

発想を変え、新たな視点から見つめ直すことで、それまで解決できなかった問題の答えを見つけ、既存の対処法を修正し、新たな問題に取り組めるはずだ。

再考するとは、周囲の人からより多くのことを学び、後悔のない人生を歩むための方法である。

あなたの大切なツール ―― おそらく、あなたのアイデンティティで最も大切な部分 ―― を捨てるべき時もある。

その時を悟ることが、真の英知であろう。

誰もが持つ「三つの思考モード」

三つの思考モード

『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』を参考にしてATY-Japanで作成

「牧師」「検察官」「政治家」の思考モード

1.「牧師」の思考モード
信念がぐらついているとき、理想を守り確固としたものにするために説教する。

2.「検察官」の思考モード
他者の推論に矛盾を感じれば、相手の間違いを明らかにするために論拠を並べる。

3.「政治家」の思考モード
多くの人を見方につけたいとき、支持層の是認を獲得するためにキャンペーンやロビー活動を行う。

これらの思考モードでは、自分の信念を貫くこと、他者の過ちを指摘すること、多くの支持を獲得することに没頭するあまり、自分の見解が間違っているかもしれないなどと再考しなくなるといった、潜在的な危険性がある。

「科学者」の思考モード

自分の知っていることを疑い、知らないことを深掘りする力が要求される。

単に偏見のない心でものごとに対応するのではなく、能動的に偏見を持たない。

メンタル・アジリティ(思考の敏捷性)が向上し、偏見を捨てて、さまざまな観点からものごとを見つめことができる。

考えを変えることは知的誠実さであり、他者に説得されることは真実に一歩近づいたと認識する。

「なぜ自分の見解が正しいのか」ではなく、「なぜ自分の見解が間違っている(かもしれない)のか」を意識する。

スーパー・フォーキャスター

  • ・再考サイクルを幾度も回す。
  • ・自信と謙虚さを保ち、自分の判断を客観的に見直す。
  • ・好奇心を忘れず、新しい有力な情報を探しては、それに基づいて予測を改める。

私たちの誰もが、再考するスキルを磨くことができる。

どのような結論に到達しようとも、私たち一人ひとりがより頻繁に科学者のゴーグルをかけて再考するなら、世界はもっと住みやすい場所になるかもしれない。

さて、あなたは私の提案に同意するだろうか?

あなたがノーと言うなら、どんな証拠があがれば再考するだろう?

まとめ(私見)

本書は、人は再考する能力を皆持っているが、その能力を頻繁に活用していないとして、科学者のように頻繁に考えることの必要性を説いた一冊です。

どのように再考が行われるかを心理学の視点を中心に掘り下げていますので、すべての方々にとって、再考するスキルを磨き、より満ち足りた人生を送るための参考になります。

なお、本書は、自分の考えを再考する方法だけではなく、相手に再考を促し、さらには学び再考し続ける組織や社会を創造する方法にまで踏み込み、そこにある心理的なバイアスへの対処法を示しています。

また、エピローグでは、本書を執筆していくなかで、再考の過程を見せるために校正の跡が残っていますが、本書は幾多の再考を繰り返しながら練り上げられたことを垣間見ることができます。

さらに、巻末には、「インパクトのための行動」として、再考スキルを磨くための30の秘訣が整理されていますので、自分自身の行動を振り返り、再考するスキルを磨く際の参考になります。

著者は、誰もが持つ三つの職業モードとして「牧師」「検察官」「政治家」を挙げて、考えたり、話をしたりするときに、無意識に切り替わっているとしています。

そこには潜在的な危険性があり、どの思考モードも考え直す(再考)という行為は生まれないと警告し、科学者のように考えることの重要性を説いています。

科学者は自分の知っていることを疑い、知らないことを深掘りする力が要求されますので、真実を追求するためには科学者の思考モードに入ることが必要であるとしています。

試行錯誤して、そこから得た知識に基づいて、日々の些細なことに対しても決断することができるというものです。

しかし、常に科学者の思考モードでものごとを見るとは限らないことも指摘していますが、さまざまな知識を深めることに熱心になり、新しいアイデアに耳を傾け、古い見解をを改めるなどして、多くの状況において科学者のように問題を考察し、解決していくことが必要であることが理解できます。

そして、再考のプロセスは、「謙虚さ」を起点とした「再考サイクル」が循環することを、自尊心を起点とする「過信サイクル」と対比しながら解説しています。

この「再考サイクル」においては、科学者の思考モードを解除するとサイクルは崩れ、かわりに「過信サイクル」が展開すると警告しています。

なお、本書では、以下の他に多くの理論を紹介しながら、それぞれの議論を補完していますので、内容に納得感があります。

理論を紹介するだけでなく、概念を明らかにして、因果関係を導いて結論へ展開し、中には例を示しながら理論をわかりやすく説明していますので、各テーマの議論を理解するのを助けてくれます。

  • ・「アームチェア・クォーターバック症候群」(口先だけのゲーム観戦者)に対する「インポスター症候群」(優秀であるが自信に欠ける)
  • ・「ダイニング=クルーガー効果」(自信の度合いと能力との関係)、「マウント・ステューピット」(自信過剰、優越の錯覚)
  • ・「トータリアン・エゴ」(全体主義のエゴ)
  • ・「リレーションシップ・コンフリクト」(人間関係で起こる対立)に対する「タスク・コンフリクト」(異なる意見がぶつかり合う理性的な対立)
  • ・「異論の階層」(要点に反論、抗論、反論、反対、口調を批判、個人に対する批判、罵倒)
  • ・「オーバービュー効果」(外観効果)
  • ・「バイナリー・バイアス」(二元バイアス)
  • ・「認証バイアス」(自分が予期するものを見る)と「望ましさバイアス」(自分が見たいものだけを見る)

将来の目標に達するのに十分な能力が備わっていると自信を持ちながら、そのための正しい手段は何かと現在の自分に問う謙虚さを持つという「自信に満ちた謙虚さ」を習得することは可能であるとしています。

そして、手に入れるべきは、バランスの取れた「自信と謙虚さ」であるとしています。

そのためには、自己の能力を信じながら、自分の解決方法が正しくない可能性、あるいは問題自体を正しく理解していない可能性を認めること。

そこから疑問が生まれれば、既存の知識を再評価するようになり、ほどほどの自信があれば、新しい見解を追い求めることができるとしています。

グローバルにおける社会情勢の変化、技術の急速な進展など、取り巻く環境は大きく変わり、予測が難しい現代にとっては、状況に応じて考え直し、決断していくことが必要になります。

しかし、知識には、未知を受け入れたがらないという欠点があります。

新しいことを受け入れる能力や積極的な意志があってこそよい判断ができるもので、人生において、見直すこと、考え直すことは重要な習慣であると思います。

人は、年を重ね、さまざまな経験を蓄積してくなかで「自信」を持ってきますし、動機によって「信念」が形成されていきます。

周囲の従順さやお世辞を気に入る組織リーダーは、組織の業績が悪くなると自信過剰になり、危機に直面していることにも気づかず、軌道修正するどころか、使いものにならないビジネス戦略に固辞する傾向があります。

自分に同調してくれる人たちよりも、自分の見解に意見してくれる人たちからより多くを学び、批判を受け止め、それを成長の糧にできる姿勢が必要となります。

リーダー自らが知的に謙虚になり、自信と謙虚さとのバランスをとり、再考のサイクルを回しながら、メンバーに対しては動機づけ面接を行うなどして、再考する文化を醸成していかなければなりません。

そのためには、「心理的安全性」(不安を感じることなく問題や自分の意見を言える状態)と「アカンタビリティ」(説明責任)の組み合わせも必要となります。

先行き不確定な状況が続くなかでは過去の成功体験は役に立たないし、まだ創造されていない可能性もあります。

個人の人生においては、生活のあらゆる面で再考すること、各ライフステージで学び続けること、組織や社会においては、学び、再考し続ける文化を醸成すること。

本書は、信念と価値観を区別し、学びの目的は信念を進化させることと理解して、謙虚さに裏打ちされた知的柔軟性の必要性を再認識させられる一冊です。

目次

プロローグ

Part1 自分の考えを再考する方法

Chapter1 今、自分の「思考モード」を見直せ ― あなたの中にいる牧師、検察官、政治家、そして科学者

Chapter2 どうすれば「思考の盲点」に気づけるか ― 「自信」と「謙虚さ」のバランスの取り方

Chapter3 「自分の間違い」を発見する喜び ― なぜ「過ちに気づく」ことはスリリングな経験なのか

Chapter4 「熱い議論」(グッド・ファイト)を恐れるな ― 「建設的な対立」の心理学

Part2 相手に再考を促す方法

Chapter5 「敵」と見なすか、「ダンスの相手」と思うか ― 議論の場で相手の心を動かす方法

Chapter6 「反目」と「憎悪」の連鎖を止めるために ― 相手の「先入観」「偏見」とどう向き合うか

Chapter7 「穏やかな傾聴」こそ人の心を開く ― 相手に「変わる動機」を見つけてもらう方法

Part3 学び、再考し続ける社会・組織を創造する方法

Chapter8 「平行線の対話」を打開していくには ― 分断された社会の「溝」を埋めるために

Chapter9 生涯にわたり「学び続ける力」を培う方法 ― 健全な懐疑心と探求心の育て方

Chapter10 「いつものやり方」を変革し続けるために ― 「学びの文化」を職場で醸成させる方法

Part4 結論

Chapter11 視野を広げて「人生プラン」を再考する ― 「トンネル・ビジョン」を回避するために

エピローグ

インパクトのための行動

謝辞

監訳者あとがき 楠木 建 ― 「考えること」よりも「考え直すこと」の重要性

参考

THINK AGAIN | 三笠書房

茹でガエルが教えてくれる、考え直すことの大切さ - TED

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