書籍 資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター | 名和 高司(著)

書籍 資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター | 名和 高司(著)

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資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター

名和 高司(著)

出版社:日経BP (2022/6/16)
Amazon.co.jp:資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター

  • 新しいことができない、世代交代が起きない、無能な人が出世する・・・

    本物の経済学(イノベーション)とはなにかを知れ

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本書は、京都先端科学大学ビジネススクール教授、一橋大学ビジネススクール客員教授の著者が、「イノベーションの父」と呼ばれるヨーゼフ・アロイス・シュンペーター(1883-1950)の思想をわかりやすく解説したうえで、現代に適用していくための示唆に富んだ一冊です。

シュンペーターの3つの主著を中心に思想の真髄を解説したうえで、近年の経営者や企業の取り組みと対比しながら今後の方向性を示していますので、ビジネスリーダーの方々にとって、自身や組織の今後の取り組みを考えていくうえで参考になります。

本書は3部8章で構成し、シュンペーターは何者なのか、その思想を概観し、イノベーションの本質に迫ったうえで、資本主義の次に来る世界を展望しています。

第Ⅰ部では、シュンペーターがなぜ今再評価されているのか、シュンペーターは何を語ろうとしているのかを3つの主著を通して紐解きながら、シュンペーターが何者なのか、その思想を紹介しています。

  • ・chapter01では、イノベーション、創造的破壊、新結合、アントレプレナー、景気循環、コンドラチェフの波、社会主義などの考え方について、シュンペーターの思想の本質を俯瞰しています。
  • ・chapter02では、シュンペーターは経済学の主流からは傍流扱いされていたにもかかわらず、なぜ現在はその思想の本質的な価値を見出し始めているかを、時間軸を意識しながら紹介しています。

第Ⅱ部では、創造的破壊はどのように生まれるのか、主役としての企業家(アントレプレナー)と資本家はどのような役割を果たすのかなど、イノベーションの本質に迫っています。

  • ・chapter03では、「イノベーション」の本質として、動態論の展開としてのパラダイムシフト、そこからの現代経営への重要なメッセージに加え、「創造的破壊」の本質を紐解いています。
  • ・chapter04では、イノベーションのカギとなる「新結合」について、イノベーションの種類(新結合のパターン)を解説し、近年のオープンイノベーションを成功させるための必要要件を整理したうえで、アマゾンやリクルートの取り組みを紹介しながら、日本流の異結合のあり方を提言しています。
  • ・chapter05では、イノベーションを実践するアントレプレナー(行動の人)について、行動する人の特徴的な行動意欲を整理し、アントレプレナーがイノベーションに駆り立てる動機を紐解いています。
  • ・chapter06では、アントレプレナーの成功要件となる「信用」、その信用を保証する「銀行家」の役割を紐解き、シュンペーター流のスケール感のあるイノベーションを仕掛けるための、新結合に必要な無形資産の重要性を示しています。
  • ・chapter07では、シュンペーターの景気循環論の価値を詳細に紐解いたうえで、短期と長期を見る目、先読みして逆張りをする決断力など、アントレプレナーにとっての重要な要素を整理しています。

第Ⅲ部では、資本主義はその成功ゆえに自ら壊れるとシュンペーターは予言したことに対し、資本主義の次に来る世界を展望しています。

  • ・chapter08では、資本主義の動態論を語っていたシュンペーターが、晩年の第3の主著では「資本主義は成功したために終焉する」と予言した要因を紐解いています。

chapter∞では、シュンペーターが現代日本に現れたと想定し、首相官邸での「新しい資本主義実現会議」、経済同友会での「イノベーション戦略委員会(Society 5.0の実装)」、京都の大学の「アントレプレナーシップ」講座という3つの場に登壇したとして、どのような提言をするかを探っています。

現在の私たちには、資本主義そのもののイノベーションが問われています。

とはいえ、それは共産主義や社会主義を意味するわけではありません。

右でも左でもなく、「第3の道」を私たち自身の「志(パーパス)」を頼りに歩みださなければならない、とシュンペーターは語りかけます。

私はそれを「志本主義」(パーパシズム)と呼んでいます。

草葉の陰で、シュンペーターは、彼一流の皮肉っぽくも親しみのある笑いを浮かべているのではないでしょうか。

本書は、未来を拓く意欲に満ちた次世代の人財に向けて書き下ろしたものです。

シュンペーターの3つの主著に見る思想や理論

創造的な力によって均衡が破られる(創造的破壊)ことこそ、経済発展の本質があり、この創造的破壊を引き起こすのがイノベーションである。

イノベーションは企業内部から引き起こされ、「ゼロからの創造」ではなく、今あるものを新しく組み合わせる「新結合」である。

イノベーションの本質は、社会実装し、さらにスケールさせることにある。

イノベーションの担い手はアントレプレナー(企業家)であり、その特徴は「行動する人」である。

アントレプレナーは収穫逓減に向かうことに満足せず、イノベーションをもたらす。

このタイプの「動態的」人間の特徴は、「創造的活動の喜び」に目覚めている。

アントレプレナーが未来を創造するための元手は「信用」であり、銀行を通じて「信用」を勝ち取らなければならない。

イノベーションは景気循環を生み、景気循環はチキン(約3年)・ジュグラー(約10年)・コンドラチェフ(約50年)の3つの循環が重なり合って起こる。

経済構造に絶えず内部からの革命が起き、古い構造が絶えず破壊され、新しい構造が絶えず生み出されている。
この「創造的破壊」の過程こそが資本主義の本質を示す事実である。

資本主義はその成功ゆえに、システムを支える社会制度が揺らぎ、崩壊を迫られる状況、社会主義への移行を強く示唆する状況が「必然的」に訪れる。

シュンペーターは、処女作『理論経済の本質と主要内容』(1908年)で「均衡」を大前提としたアダム・スミス以来の経済学に異議を唱えました。

そして、第1の主著『経済発展の理論』(1912年)でイノベーションこそが進化の原動力で経済を動態的に発展させていくと言及し、第2の主著『景気循環の理論』(1939年)で経済を波動として捉えて動態的発展を長い時間軸で検証し、第3の主著『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)で3つの社会経済モデルを取り上げながら新しい未来を拓く必要があることを論じている。

時間軸を知ることこそ、シュンペーターの思想の真髄がわかる。

  • ・経済や社会を「静態」として切り取るのではなく、「動態」として時間軸の中で捉えている。
  • ・しかも、時間軸を固定せず、ミクロ・マクロ・メガの視点で自在に見ている。
  • ・経済発展とは、内生的、自発的に生まれる経済の循環的変化であり、非連続的な変化である。
3つの主著を通じて、時間を徐々に拡大

第1の主著『経済発展の理論』(1912年)

  • ・イノベーションが経済の均衡を破り、それこそが成長の源泉である。
  • ・創造的破壊が未来を拓き、時間軸をずらしはじめ、ミクロな動きに注目している。
  • ・創造的破壊が停滞している状況を動きのある状態に反転させるというダイナミズムを、ミクロな時間軸の中で捉えている。

第2の主著『景気循環の理論』(1939年)

  • ・イノベーションは成長を一時的にもたらすものの、やがて失速し、不景気に突入する。
  • ・その中から、次世代のイノベーションがまた生まれることで、景気は循環を繰り返す。
  • ・時間軸を10~50年スパンでとることで、経済を波動として捉えるようになった。
  • ・10~50年というスパンで、静態と動態は循環していくというマクロな時間軸で洞察を示している。

第3の主著『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)

  • ・これまでの経済原則や社会思想そのものが黄昏に向かいつつあり、それらを超える新しい未来を拓く必要がある。
  • ・時間軸を100年超と捉える(1世紀でも短期である)。
  • ・ミクロの動きがマクロの動きをもたらし、それ集積することでメガ・トレンドを引き起こす。
  • ・100年を超える時間軸で、世界の大きなうねりを捉えている(1世紀すら短期である)。
それまで(既存)の経済学との違い

アダム・スミスに始まる古典派経済学やマーシャルに代表される新古典派経済学では、資本主義を完全競争の世界として捉えていた。

自由競争をすると、自然と市場に「均衡」がもたらされることを大前提としていた。

これに対してシュンペーターは、創造的な力によって均衡が破られる(創造的破壊)ことこそ、経済発展の本質があるとした。

常に新しいものを取り入れるような企業家精神が、資本主義を推し進める力になる。

コンドラチェフの波、新結合による「産業革命」

コンドラチェフの波、新結合による「産業革命」

『資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター』を参考にしてATY-Japanで作成

シュンペーターが説くイノベーションは、若さの特権でもあります。

資本主義は、年齢とともに衰退に向かいます。

しかし、心の若さをずっと持っていれば、資本主義の壁を破って創造的破壊をしかけていくことができるはずです。

シュンペーターとのつかの間の旅は、ひとまず終点まで来ました。

しかし、皆さん一人ひとりのイノベーションへの終わりのない旅は、この本を閉じてから始まることでしょう。

まとめ(私見)

本書は、シュンペーターの思想や理論をわかりやすく解説しながら、以降の思想や理論への展開、経営者や企業の取り組みとの関連など、著者が鋭い考察を加えた一冊です。

シュンペーターの思想や理論はもとより、それらを現代にどのように適用できるかを示していますので、ビジネスリーダーの方々にとって、自身や組織の今後の方向性を考えていくうえで非常に参考になります。

そして、シュンペーターが資本主義の終焉を予想していることに対して、資本主義の本質を再確認し、資本主義の枠組みを超えた新しい社会と経済のあり方を考えることを投げかけています。

なお、シュンペーターの思想や理論そのものを理解したいのであれば、シュンペーターが示したものなのか、思想や理論を踏まえた著者の考えなのかを見極めながら本書を読み込んでいくことも必要と思います。

また、本書は、シュンペーターの3つの主著を時間軸の中で解説していますので、それぞれの主著の思想や理論のつながりが理解しやくすくなっています。

さらに、最後の「chapter∞」では、シュンペーターが現代日本に現れ、首相官邸や経済同友会、京都の大学の講座という3つの場に登壇したとして、どのような提言をするかを探っていますので、非常に興味深い内容となっています。

また、シュンペーターが活動した時代の他の思想と対比しながら解説を加えていますので、シュンペーターの思想の本質的な価値を見出すことができます。

近代経済学の父アダム・スミス(1723-1790)、共産主義経済を唱えたカール・マルクス(1818-1883)、マクロ経済学の創始者ジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946)といった経済学の代表者と対比していますので、当時の時代背景や思想を俯瞰するのに役立ちます。

シュンペーターは、アダム・スミスを源流とする資本主義は成功があだとなって崩壊すると予言し、ケインズの修正資本主義も一過性の「酸素室」にすぎず、むしろ資本主義の衰退を加速させたと弾劾しています。

また、フリードリヒ・ハイエク(1899-1992)やミントン・フリードマン(1912-2006)の新自由主義と対比しながら資本主義の先を議論していますので、経済モデルを超えて、政治や社会のあり方を考えさせられます。

なお、シュンペーターが唱えた社会経済の進化論は、その後、複雑系理論や進化経済論の系譜に受け継がれて、自己組織化や創発型組織などの組織論の源流となっているようです。

シュンペーターは、今から100年前に「イノベーション」という概念を初めて世に問いました。

そして、同時に「創造的破壊」「新結合」「アントレプレナー(企業家)」といった言葉も生み出し、「景気循環」や「コンドラチェフの波」をイノベーションの概念から再説明しています。

多くの方々が聞き覚えのある言葉ですし、現在にこそ応用すべき思想であると思います。

真のイノベーションとは、環境変化に身を合わせるのではなく、その流れの先を読み、次の変化を自ら仕掛けることであるとしています。

そして、イノベーションは技術革新ではなく今あるものを新しく組み合わせる「新結合」であり、その「新結合の5類型」には「販路」や「供給源」、さらには「組織」に関することが含まれています。

新結合によって「顧客が今まで気づかなかった価値」を創造することがカギとなりますが、外部との異結合としてのオープンイノベーションだけではなく、組織内部の異結合も必要となります。

さらに、シュンペーターは、イノベーションは「事業創造を意味する、企業の自発的な営みである」としています。

アントレプレナーが組織内で活動しやすい環境、その根底を築く文化を醸成していくことこそが、イノベーションを繰り返し生み出していくことができます。

アントレプレナーは、リスクを前に立ちすくむのではなく、「動態的」人間であり、「行動の人」です。

そのための必要な要件は「志(パーパス)」と「執念」であり、「信用」や「信頼」があってこそであることも示唆しています。

なお、本書では、「両利きの経営」や「中期計画」に対して警告しています。

「両利きの経営」に対する指摘は極論であると個人的には感じますが、バックキャスト型の戦略策定に関しては賛同します。

  • ・強みを軸に新しい鉱脈を掘り当てることこそが、イノベーションの本質である。
    右手と左手が勝手に動いてしまっては強みが分散されるだけでなく不調和音を奏でてしまうため、既存企業にとっての成功の確率が高いのは「深化(深掘り)」と「伸化(ずらし)」である。
  • ・10年後に大きく化けるイノベーションを仕掛けることが大切なことである。
    そのためには、長期計画を構築し、そこから現在を振り返って(バックキャスト)、当面の短期計画を実施することが求められる。

近年、デジタル技術を活用した変革として、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の実践が叫ばれています。

まさに、デジタルを介した「異業種」間の新結合です。

しかし、シュンペーターの理論では、どんなに革新的なテクノロジーがあっても、最終的には停滞を免れることはできないことを示しています。

現在は、コンドラチェフの波で言うと「第5次産業革命」を迎えています。

デジタルによる新結合によってさまざまなサービスが創造(好況)されますが、景気循環論によれば、それはやがて山(好景気)となって反動(不況)に転じ、イノベーションの「均衡の攪乱」(均衡)へ、そして再び創造へと発展します。

この「破壊と均衡」「不安定と安定」の循環は約50年周期ですし、変化することが常態であると言えます。

そのためには、経済や社会は動態的であるとして、長期的な視点からバックキャストして戦略を策定し、イノベーションを生み出し続けていかなければなりません。

イノベーションの起点は「内発的」であり、その源泉は志(パーパス)と情熱です。

そして、イノベーションの担い手は、アントレプレナー(行動する人)です。

景気循環を経営に織り込んで、進化し続けるアントレプレナーを組織内に育成し、活躍できる環境や文化を醸成していくことが必要です。

本書は、シュンペーターの思想や理論をわかりやすく解説しただけでなく、自身や組織の今後の取り組み、資本主義の枠組みを超えた新しい社会と経済のあり方を考えていくうえで示唆の富んだ一冊です。

目次

はじめに

第1部 シュンペーターは何者?

chapter01 シュンペーターの思想を知る

chapter02 シュンペーターは何者か

第2部 イノベーションとは何か

chapter03 シュンペーターの思想の本質

chapter04 イノベーションのカギは「新結合」

chapter05 アントレプレナーになろう!

chapter06 信用を忘れてはいけない

chapter07 時代の波を読む

第3部 資本主義の先を見る

chapter08 資本主義のあとに

chapter∞ もしシュンペーターが現代日本に現れたら

おわりに

参考

資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター | 日経BOOKプラス

閉塞感を打ち壊すためのシュンペーター:日経ビジネス電子版

関係する書籍(当サイト)
資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター

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