書籍 両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く/チャールズ・A・オライリー(著)

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両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く
Lead and Disrupt: How to Solve the Innovator's Dilemma

チャールズ・A・オライリー(著)、マイケル・L・タッシュマン(著)、入山章栄(監訳・解説)、冨山和彦(解説)
出版社:東洋経済新報社(2019/2/15)
Amazon.co.jp:両利きの経営

 

lead-and-disrupt

入山章栄・冨山和彦 W解説
デジタル時代の最強戦略

クリステンセン教授 激賞
『イノベーションのジレンマ』を超える最重要理論

 

 

本書は、第一線の研究者である著者らが、世界のイノベーション研究の最重要理論である「両利きの経営」に関して書き下ろした、初の体系的かつ実践的な解説書です。

「両利きの経営」という概念が広く知られるようになったのは、1991年にスタンフォード大学のジェームズ・マーチ教授が発表した論文ですが、その後、その概念を実務の世界に適用し、研究を続けたのが、本書の著者であるスタンフォード大学経営大学院のチャールズ・A・オライリー教授とハーバード・ビジネススクールのマイケル・L・タッシュマン教授です。

成功の罠にはまった企業やリーダーと、変化に適応して成長できた企業やリーダーとを豊富な事例を挙げて対比させながら、イノベーションで既存事業を強化しつつ(深化)、従来とは異なる新規事業を開拓し(探索)、変化に適応する「両利きの経営」のコンセプトや実践のポイントが解説されていますので、企業のイノベーションを担うリーダーの方々にとって解説書となります。

また、両利きの概念以外に、イノベーションに関する経営学の重要な理論も紹介されいますので、各理論を整理していくうえで非常に役立ちます。

 

本書は3部構成で8章に分かれており、その前後を早稲田ビジネススクール准教授の入山章栄氏と経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEOの冨山和彦氏が、本書のポイントをわかりやすく解説してくれています。

  • ・第Ⅰ部は基礎編として、多くの成功事例と失敗事例を紹介しながら、両利きの経営をはじめ、イノベーションを考えるうえでの主要な経営理論やフレームワークを解説しています。
  • ・第Ⅱ部は両利きの実践として、様々な事例を「単発の事業・プロジェクトの事例」と「組織に仕組みとして埋め込んできた事例」の二つに分けて、両利きの経営をどのようにして展開していったかを紹介し、両利き戦略を実行していくための要件を導き出しています。
  • ・第Ⅲ部は両利きの経営を徹底させ飛躍するために、両利きの経営の実践に向けた法則やルール、リーダーシップスキルに関する提言を提示しています。

 

このためリーダーは、「何」をすべきかと、「どのように」それを行うかの両方を理解する必要がある。

また、成熟事業で成功する組織を設計すると同時に、新興事業でも競争しなくてはならない。

成熟事業の成功要因は漸進型の改善、顧客への細心の注意、厳密な実行だが、新興事業の成功要因はスピード、柔軟性、ミスへの耐性だ。

その両方ができる組織能力(ケイパビリティ)を「両利きの経営」と私たちは呼んでいる。

リーダーが成功の要だとすれば、両利きの経営は戦うための武器にあたる。

 

両利きの経営

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『両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』を参考にして一部加筆

 

両利きの経営 = 知の探索 + 知の深化

知の探索

  • ・自社の既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていこうとする行為
  • ・検索、スピード、自治、柔軟性、発見、バラツキのある環境

知の深化

  • ・自社の持つ一定分野の知を継続して深掘りし、磨き込んでいく行為
  • ・予測可能性、安定性、効率性、コントロール、確実性、バラツキの縮小

 

成功企業は、急速に変化する環境に対応するために、内外のコンピテンシーを統合、構築、再構成する能力を持っているため、既存の強みを有効活用できる分野(成熟事業)と新しいことをするために既存の資源を使う分野(新領域)の両方で競争可能となっている。

そこには、成熟事業における既存の資産と組織能力を有効活用し、必要に応じて、それを新しい強みにつくり替えることに前向きで、かつ、実際にやってのける「両利きの経営」のできるリーダーが存在している。

破壊に直面した組織は、継続的な改善やコスト削減が成功の鍵となる成熟事業で何とか競争しながら(深化)、実験やイノベーションが求められる新しい技術やビジネスモデルを探求する(探索)必要がある。

真の優位性は、新参者の競合他社が持っていない、あるいは新たに開発しないといけない資産や組織能力を使って、ベンチャーが有利なスタートを切れることであり、探索ユニットが適切な状況下で、深化ユニットで学んだことを競争優位につながる形で活かせることである。

 

サクセストラップ(成功の罠)と対応策

調整機能により短期的に成功する企業では、マネージャーは戦略を実行するために、適切な人材獲得に奔走し、組織を整備し、評価や報酬の対象を適切に定め、KSFの達成につながる行動を促す文化を醸成する。

しかし、調整が綿密に行われるほど、構造的な慢性が生じやすくなる。

さらに、規範を守る人が出世し、新規採用では企業の期待値に合った能力を持っている人が選定される。

この社会的なコントロールシステムや文化的な調整は、戦略実行に役立ち、企業の成功に貢献するが、「文化的な慢性」につながり、変化は一層難しくなる。

公式なコントロールシステムの調整(構造や指標など組織的ハードウェア)と、社会的なコントロールシステム(規範、価値観、行動など組織的ソフトウェア)は、戦略を実践していくうえで極めて重要であるが、組織的慢性も醸成され、脅威に対する変革が難しくなってしまう。

組織的な調整力ならびに構造上や文化的な慢性に関係しており、これらは戦略と実行が密接に結び付くと生じやすい。

 

サクセストラップへの対応策

複数の調整をマネジメントする必要性を、マネージャーが認識(両利きの経営)をして、企業と戦略の進化に伴って調整のやり方も進化させる。

探索段階のKSFは、新しい事業コンセプトとビジネスモデルの実証、市場セグメントと顧客の特定、実行に必要な組織能力の開発となる。

組織が順調に成長し始めると、広範な製品やサービスの提供や効率性の重視、利益率と市場シェアの評価へと力点は移っていく。

成功して市場と技術が成熟してくると、競争基盤はコストや効率性に移ることが多く、KSFも効率性と漸進型改善となる。

しかし、変化のペースが速い今日では、リーダーは既存の資産や組織能力を深化し、今日の収益源である成熟事業で競争しながら、新規事業を探索して未来の市場に備えなければならない。

 

両利きになるための構成要素

1.探索と深化が必要であることを正当化する戦略的意図を明確にする。

2.新しいベンチャーの育成と資金供給に経営陣が関与し、監督し、その芽を摘もうとする人びとから保護する。

3.ベンチャーが独自に組織構造面で調整を図れるように、深化型事業から十分な距離を置くとともに、企業内の成熟部門が持つ重要な資産や組織能力を活用するのに必要な組織的インターフェースを注意深く設計する。

4.探索ユニットや深化ユニットにまたがって、共通のアイデンティティをもたらすビジョン、価値観、文化を醸成する。

 

深化ユニットでは重視されるのは漸進型イノベーションと絶え間ない改善だが、探索ユニットでは実験と行動を通じた学習である。

探索ユニットはスピンアウトせずに、深化ユニットの中核となる資産と組織能力を探索ユニット内で活用する。

内部的に矛盾をはらんだ探索ユニットと深化ユニットを共存させるには、包括的で感情に訴える抱負、基本的価値観、幹部チームの強い結束力が必要になる。

 

まとめ(私見)

本書は、成熟した既存企業がイノベーションを起こすうえで、経営学において最も重要な「両利きの経営」理論について、多くの事例を紹介しながら解説した一冊です。

ご承知の通り、デジタル技術の進展に伴い企業の経営環境が大きく変わろうとしている現在に限らず、企業は常にイノベーションを起こしていかなければなりません。

そのためには、既存の事業で安定的な収益を確保しながら、新たな事業を探索し、次の時代の事業を確立していくことが必要となります。

そこで、既存事業の強みをさらに磨き込んでいく活動(深化)と、既存の認知を超えて広げていく活動(探索)のバランスを取りながら、高いレベルで推進していく「両利きの経営」が重要となります。

本書では、両利きの概念以外にも、イノベーションに関する経営学の重要な理論も紹介されています。

  • ■ダイナミック・ケイパビリティ
    ・カルフォルニア州バークレー校のデイビット・ティース教授らが1990年代に提示した考え
    ・環境変化が激しい中でも、企業が恒常的に変化して対応し続ける能力である。
  • ■イノベーションストリーム
    ・著者らが独自に提示する実務的なフレームワーク
    ・市場と組織能力の二軸で4領域に分け、自分たちが目指したい方向性や潜在的な競合他社の可能性を探り、イノベーションの方向性を表現する。
  • ■VSR(多様化・選択・維持)プロセス
    ・生物進化学を応用した社会学の視点がベース
    ・企業内では「人材」「情報」といった重要な経営資源においてVSRプロセスが働く傾向があり、こうしたリソースが企業の特性を規定し、そこから環境対応能力が形成される。

 

なお、本書では、「両利きになる最大の課題は、リーダーシップにある」としています。

『すべては失敗は、経営者の失敗である。』

企業のリーダーには、新しい脅威を確実に察知し、組織の既存資産を再構成して新しい機会を捉える責任があります。

そのためには、リーダーは優れたマネージャーであり、優れたリーダーでなくてはなりません。

イノベーションを推進していくためには、対話や参加などを通して、リーダーやチームが深く関わり合うことが大事になってきます。

感情に訴える抱負、求められる組織的な調整や組織能力が違う探索と深化への取り組みによって、戦略的刷新の取り組みに活気が出てくるだけでなく、実行しながら学び、学習したことを共有していけば、気運も高まってきます。

本書では、両利きの経営を実行していくうえでの貴重なコンセプトや実践のポイントが解説されていますが、その要となるのはリーダーであることを改めて認識した一冊でした。

 

目次

解説 なぜ「両利きの経営」が何よりも重要か(入山章栄)

第Ⅰ部 基礎編:破壊にさらされる中でリードする

第1章 イノベーションという難題

第2章 探索と深化

第3章 イノベーションストリームとのバランスを実現させる

第Ⅱ部 両利きの実践:イノベーションのジレンマを解決する

第4章 6つのイノベーションストーリー

第5章 「正しい」対「ほぼ正しい」

第Ⅲ部 飛躍する:両利きの経営を徹底させる

第6章 両利きの要件とは?

第7章 要としてのリーダー(および幹部チーム)

第8章 変革と戦略的刷新をリードする

解説 イノベーションの時代の経営に関する卓越した指南書(冨山和彦)

 

参考

Lead and Disrupt: How to Solve the Innovator's Dilemma

 

関係する書籍(当サイト)

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「世界の経営学者はいま何を考えているのか」まとめ

本書で紹介されている研究テーマの内、特に個人的に興味を持った研究テーマについて、研究者を中心に各理論の論点や反論などを整理しています。

 

両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く

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両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く

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