書籍 経営学とはなにか WHAT IS MANAGEMENT? | 伊丹 敬之(著)

書籍 経営学とはなにか WHAT IS MANAGEMENT? | 伊丹 敬之(著)

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経営学とはなにか(WHAT IS MANAGEMENT?)

伊丹 敬之(著)

出版社:日経BP 日本経済新聞出版 (2023/5/18)
Amazon.co.jp:経営学とはなにか

  • 経営という仕事を解明する実学の体系。

    未来への設計図を描く、他人を通して事をなす、想定外に対処する、決断する。

本書は、国際大学学長・一橋大学名誉教授の著者が、「経営するということ」を定義し、そのために求められるリーダーの行動について、実学の大系を示した一冊です。

著者は、50年以上にわたって日本企業を直視し続けてきた第一級の経営学者で、本書はさまざまなリーダーの立場に立って経営に関する悩みに答えています。

実際に組織全体のトップとして、あるいは下部組織の長として、「経営」しているビジネスリーダーの方々が何を行うべきかを経営ステップの順序で考え、リーダーの行動を体系化していますので、経営学の概論を再確認できるだけでなく、自らの経験を自省し今後の方向性を考えていくうえで役立ちます。

本書は2部8章で構成しており、経営行動の原理の概要から、企業の存在の本質を考え、経営に役立つ実学の大系を示しています。

第Ⅰ部の「経営行動の原理」では、「想定外への対処」と「決断する」ということを経営学の体系のなかに位置付けて、経営行動の原理について解説しています。

  • ・第1章は経営行動の原理「未来への設計図を描く」の内の「組織の立ち位置を設計する」で、顧客、競争相手、分業相手という環境のなかでの他者との関係のあり方の設計について解説しています。
  • ・第2章は「未来を目指す流れを設計する」で、前章が現在の組織の立ち位置を考えたのに対して、この章では現在の立ち位置からどのような流れで未来を目指すか、未来への「動き自体」の設計を考えています。
  • ・第3章は経営行動の原理「他人を通して事をなす」の内の「組織的な影響システムをつくる」で、設計図を実現するにはリーダー一人だけの力では成し得ないとして、現場の人たちが自分の行動を決める際に本質的なインパクトを持つ基礎要因を解説しています。
  • ・第4章は「現場の自己刺激プロセスを活性化する」で、前章の上からの影響システムによる現場への影響に対して、この章では現場の人びとが自分の行動を決めている背後にある要因を紐解いています。
  • ・第5章は経営行動の原理「想定外に対処する」で、これまでの4つの章が経営行動としての組織の枠組みの設計に関する議論に対して、この章は想定外が起きたときにどのような経営行動をすべきか、また現在はわからない想定外に対してどのような事前準備があり得るのかを議論しています。
  • ・第6章は経営行動の原理「決断する」で、これまでの章では経営行動を決める際の原理を議論してきたのに対し、この章では経営行動を実際に行う際に、経営者あるいはリーダーにとって必ず必要な「決断する」について、その考え方となる「決断の作法」や決断の原理を議論し、決断の事例とその背後の原理を考えています。

第Ⅱ部の「企業という存在の本質」では、現実に経営行動が大量にとられている企業という経済組織に着目して、その企業という存在の本質を考えています。

  • ・第7章は「企業という存在の本質」で、第Ⅰ部の経営者あるいは組織リーダーによる経営行動に関する議論に対して、この章では企業という存在そのものの3つの本質について議論し、「経営の仕事」の内容を詳細に解説しています。
  • ・第8章は「本質と原理の交差点、そして企業統治」で、第Ⅰ部と第Ⅱ部を統合する議論として、企業という存在の本質と経営行動の原理とをどのような関係として考えるべきか、その全体像を描いています。
    なお、この章の前半では企業の本質と経営行動の原理の間の関係を論じ、後半は企業全体のための総合判断をよりよい方向へ導くための企業統治について議論しています。

そして、終章「経営を考えるための16の言葉」では、経営を実際に行わなければならない人たちを想定し、経営をどのように考えればいいのか、そのポイントを4つのパート、合計16の言葉に整理しています。

経営の現場で経営にさまざまに悩み、ときに喜んでおられる人たちが、この本での経営行動や企業の本質の整理の枠組みとそのなかでの説明を読んで、
「ああ、そうだよな。自分が明確に意識していたことが整理されているし、意識もしないままに漠然と感じていたこと・思っていたことも、ここには書いてある」
と感じてもらえるか。

それが、私にとってこの本の成功のイメージである。

経営学とはなにか

経営学とはなにか

『経営学とはなにか』を参考にしてATY-Japanで作成

「経営するということ」の定義は、「組織で働く人びとの行動を導き、彼らの行動が生産的でありかつ成果が上がるようなものにすること」というものである。

「経営すること」は、どんな組織でもその頂点に立つリーダーがしなければならないことである。

組織のリーダーが組織を経営するためにとる行動を「経営行動」と呼ぶとすれば、経営学とは経営行動の原理的解明を目指す学問であり、経営学の本質は金儲けのための学問ではない。

経営者をはじめとしてさまざまな下部組織のリーダーたちの多くが「経営する」という作業をしており、広義の経営学としては、経営行動一般の原理だけでなく、企業という存在そのものの本質の議論と、その本質と経営行動の原理の関わり合いの議論をすることが大切となる。

経営者の二つの顔、企業に潜む二つの矛盾

経営者は、組織をつくるという道義的責任と、一人ひとりの人間の強みを生産的なものとし、成果が上がるようなものにする責任を引き受けなければならない。

企業という経済組織体の頂点に立つ経営者は、企業という存在の本質の深化・追求を目的として、経営行動をさまざまに工夫する人、というのがあるべき姿である。

企業存在の本質と経営行動の原理という、二つの観点の複眼を持って企業という経済組織体のあり方を考えている人である。

企業の本質を深化・追求する経営行動の選択にせよ、企業の本質に内在する潜在的矛盾をうまく調整させるような経営行動の選択にせよ、そうした選択が経営者による総合判断、総合調整に委ねられている。

その役割を経営者が果たすようにするためには、経営者への「影響システム」が必要となる。

影響システムを株主の法的権力をベースに働かせるのが株主主権原理主義的な企業統治であるが、世界的な潮流としては株主主権原理主義への反省の波が起きている。

株主主権原理主義的な企業統治への抵抗の波は、ステークホルダー資本主義とも呼ばれる。

企業統治の本質は「外から経営者を律する」ということであるが、経営者が適切な経営行動をとるように「影響システム」を社会が用意することは難しい。

外からではなく、経営者自らが自分を律することに期待せざるを得ない部分が残るが、経営者が自己点検を行うには「顧客の声」と「上級幹部の眼」という二つの鏡がある。

経営者に求められる二つの顔

経営行動を選択して決めるのが経営者の基本的な仕事であるが、企業というものの社会的意義を考えることが必要である。

社会のなかで生かされている企業を率いている経営者には二つの顔があるが、二つの顔を使い分け、あるいは統合して、経営者は経営行動の原理と企業の本質の間の「総合調整者」としての総合判断することが求められている。

社外に対して、企業という存在の代表者

  • ・役割1.カネの結合体である企業の頂点に位置する株主への、直接的な説明責任を負う。
  • ・役割2.企業の社会的責任の実行責任者であり、社会への説明責任を負う。

社内に向かって、企業という階層組織のトップリーダー

  • ・役割.経営行動を設計し、最終的な決断をするといった、経営行動全体を決める責任を負う。
  • ・企業というヒトの集合体の「求心力の中心」を負う。
企業の本質に潜む二つの矛盾

企業の本質への配慮は経営行動の選択を助けることもあるが、その本質そのものに内在している潜在的な矛盾が、経営行動の選択を難しくすることもある。

企業の本質のどこに重点に考えるべきかで、経営者が悩むことになる。

二つの潜在的矛盾を経営者のなかで内製化して、なるべく顕在化しないように経営行動を選択しなければならないし、経営者の総合調整者としての役割に矛盾の解決が任される。

矛盾1.技術的変換と社会的責任との間の矛盾

  • ・一つの企業にとってさまざまな技術的変換プロセスの選択がありうるとき、変換プロセスの技術的あるいは経済的効率の追求だけでは、企業の社会的責任との間にすれ違いをもたらしかねない。
  • ・技術的変換は、本質的には「よりよい製品を提供できる」という意味で社会への貢献になる部分は大きいが、その変換プロセスが社会にもたらすマイナスもあり得る。

矛盾2.カネの結合体とヒトの結合体の二面性ゆえの矛盾

  • ・企業が生み出す付加価値からの金銭的な報酬の取り合い、資本の「結果だけの論理」とヒトの「プロセス論理」のせめぎ合い、企業の統治権を株主だけが株式会社では持っているという「三面性に反する」という問題がある。
  • ・特に、統治権に関する矛盾は、そもそも株式会社制度そのものが持っている統治権の規定の特徴であるだけに解決は難しいかもしれない。

体系としてはシンプルかも知れないが、そのすべてを行わなければならない経営者あるいは組織リーダーからすれば、経営するということはこんなに面倒くさいことか、という印象になるかも知れない。

経営行動だけでも六つの項目(各章)があり、そのうえ、企業の本質は潜在的に矛盾を抱えているし、企業統治で外部から牽制される(攻められる?)。

しかし、いかに面倒でも、経営を引き受ける方々がいないと、組織が困る、社会が混乱する。

ドラッカーの言葉を前章のコラムで紹介したように、経営者やリーダーはわれわれの社会できわめて大きな役割を果たしている不可欠な存在なのである。

まとめ(私見)

本書は、「経営するということ」を「組織で働く人々の行動を導き、彼らの行動が生産的でありかつ成果が上がるようなものにすること」と定義し、そのためのに求められるリーダーの行動について解説した一冊です。

リーダーには、「未来への設計図を描く」「他人を通して事をなす」「想定外に対処する」「決断する」という行動が求められるとして、それぞれの内容を詳細に解説していますので、ビジネスリーダーの方々にとって、経営についてクリアな思考ができるような助けになるだけでなく、さまざまな経営現象を自分なりに理論的に理解できます。

なお、経営行動の基本においては、経営者だけでなく下部組織のリーダーも考える存在であるとして、経営行動を6つの章に独立して一つひとつ詳細に解説したうえで、章の最後の項では、人事部長、営業部長、研究開発部長、経理担当役員、購買部長といった特定部門のリーダーを想定して、その章の内容がどのように読み替えられるかを具体的に考えています。

そして、各章の末尾には、その章に関係の深い経営者あるいは学者を紹介していますが、その内容は一般的な紹介ではなく、著者がどのように彼らから影響を受けたか、その背景や著者の思いを整理していますので、各章の内容をより深く理解するのに役立ちます。

さらに、終章「経営を考えるための16の言葉」は、経営をどのように考えればいいのかについて、4つのパート(合計16の言葉)にポイントを的確に整理していますので、「経営とはなにか」の問いに対する著者の答えを確認でき、経営に対する自身の考えを再整理できます。

経営行動の原則としては、未来への設計図を描き、その実行を他人にやってもらう。

しかし、意図通りにはいかず、想定外がおきる。

それへの対処も、経営の重要部分。

また、すべての経営行動の通奏低音として、決断することが大切である。

そして、企業の本質を考えたうえで、企業統治が経営者へのチェックリストとして存在する。

本書は、第Ⅰ部で経営行動の原理について議論し、第Ⅱ部では企業という存在そのものの本質、特に企業組織を取り上げて議論しています。

経営行動の原理は、組織の経営のあり方を決めるリーダーの立場に立って、企業内部の視点から「組織の立ち位置を設計する」ことから「リーダーとして決断する」ことにまでに及ぶ、経営行動のあるべき姿の原理を示しています。

  • 1.未来への設計図を描く
    1-1.組織の立ち位置を設計する
    1-2.未来を目指す流れを設計する
  • 2.他人を通して事をなす
    2-1.組織的な影響システムをつくる
    2-2.現場の自己刺激プロセスを活性化する
  • 3.想定外に対処する
  • 4.決断する

第Ⅱ部では、企業という経済組織体をどのように捉えればいいのかという視点から、企業という存在の特徴やその本質について議論しています。

企業という存在を「製品・サービスの提供を主な機能としてつくられた、人と資源の集合体で、一つの管理組織のもとに置かれたもの」と定義して、企業の本質を以下の3つに分けて議論しています。

  • ・企業が果たしている役割の本質:技術的変換
  • ・企業の構成の本質:カネの統合体とヒトの結合体の二面性
  • ・企業と社会の本質:社会からのさまざまな恩恵のおかげで生きている存在

そして、3つの企業の本質と経営行動の原理がどのように合体するか、交わるかに議論を展開し、「本質と原理の交差点」に立って総合判断する経営者には2つの顔があり、その経営者のあり方について言及しています。

  • ・社外に対して:企業という存在の代表者
  • ・社内に向かって:企業という階層組織のトップリーダー

本書は、「経営行動の原理」として6つの枠組みを解説したうえで、「企業の本質」と「経営者のあり方」に議論を展開しています。

それは、経営学に関するこれまでの書籍には見かけない独自の構成であり、リーダーになって間もない方々への経営学概論であり、経験豊富なリーダーの方々にとっては自らの経験を振り返って今後の方向性を再確認できる内容となっています。

特に、経営行動の原則の「未来への設計図を描く」と「他人を通して事をなす」は、ほとんどのリーダーは違和感なく理解できるし、すでに実行されていると思います。

一方、「想定外に対処する」は、経営環境が激しく変化し、想定すること自体も難しくなっている近年では重要であり、本書の想定外マネジメントの3つのタイプの「想定外の事後」「想定外の事前」「想定外後の未来」は、想定外マネジメントとして参考になります。

そして、「想定外に対処する」ときこそ、短期的な対処ではなく、企業の本質に立ち返った判断が重要となります。

さらに、「決断する」は、経営行動の原理を実際に行う、リーダーの最大の責任であり、リーダーは不確実な未来を覚悟して、不透明な未来への飛躍に向けて決断しなければならないことを再認識できます。

決断のためには哲学が必要であり、その哲学を「大きなものに受け入れられる感覚」あるいは社会的な倫理観が支えていることが多く、企業の社会的な存在としての意義につながる部分が重要であるとしています。

決断は、経営者というトップリーダーだけの話ではなく、下部組織のリーダーも自分に任された仕事の範囲で決断しなければなりません。

また、「技術的変換と社会的責任との間の矛盾」「カネの結合体とヒトの結合体の二面性ゆえの矛盾」という2つの内在的矛盾をうまく調整しながら、経営行動を選択していかなければなりません。

本書では、決断のインパクトの大小に関わらず、決断の基本構造や決断の作法、真の決断ができるリーダーが満たすべき条件を示しています。

小さな決断、小さな飛躍から始めて、自ら育つためのポジティブフィードバックのサイクルに乗れるように努力すること、そのサイクルで目指すべき方向を示していますので、自身のリーダーシップ(決断力)を強化するうえで参考になります。

企業の本質と経営行動の原理の交差点に立って総合判断しなければならないのは経営者(場合によっては組織リーダー)の責任であり、経営者が適切な経営行動をとるように「影響システム」が必要となります。

しかし、影響システムを社会が用意することは難しいので、経営者は「顧客の声と上級幹部の眼」という2つの「自分の外の鏡」を意識して、自らを律さなければならないと忠告しています。

経営者は企業全体の総合判断を担いますが、下部組織のリーダーの方々も任された範囲で経営を担っているという考えるべきで、最終責任こそないが経営者と類似の思考を迫られる場面が多いと思います。

本書は、「経営のために何をなすべきか、何を考えるべきか」を基本的な視点として、経営者あるいはリーダーの視点に立って掘り下げています。

経営についてクリアな思考ができるような助けになるだけでなく、さまざまな経営現象を自分なりに理論的に理解できる、経営に役立つ実学の大系を示した一冊です。

目次

序章 経営学の全体像

第Ⅰ部 経営行動の原理

 第1章 組織の立ち位置を設計する――未来への設計図を描く①
 第2章 未来を目指す流れを設計する――未来への設計図を描く②
 第3章 組織的な影響システムをつくる――他人を通して事をなす①
 第4章 現場の自己刺激プロセスを活性化する――他人を通して事をなす②
 第5章 想定外に対処する
 第6章 決断する

第Ⅱ部 企業の本質

 第7章 企業という存在の本質
 第8章 本質と原理の交差点、そして企業統治

終章 経営を考えるための一六の言葉

参考

経営学とはなにか | 日経BOOKプラス

伊丹敬之学長の本「経営学とはなにか」が出版されました | 国際大学(IUJ)

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