書籍 「価値」こそがすべて!:ハーバード・ビジネス・スクール教授の戦略講義

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「価値」こそがすべて!:ハーバード・ビジネス・スクール教授の戦略講義
Better, Simpler Strategy

フェリックス・オーバーフォルツァー・ジー(著)、原田 勉(翻訳)
出版社:東洋経済新報社 (2023/4/7)
Amazon.co.jp:「価値」こそがすべて!

  • ハーバード・ビジネス・スクール教授の戦略講義

    優れた戦略は、たった一つの図で表せる!

    圧倒的なパフォーマンスを引き出す戦略を考える技術、実行する技術

本書は、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)教授の著者が、HBSのエグゼクティブ・コースやMBAプログラムで教えている戦略への主要なアプローチである「バリューベース戦略」をまとめた一冊です。

本書はハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で人気の高い戦略コースでの対話から生まれ、「バリューベース戦略」はHBSでも最先端の戦略理論です。

マイケル・ポーターのポジショニング・アプローチやダイナミックケイパビリティ論など、従来の戦略論をより進化させ、なおかつシンプルに定式化したものになっています。

「長期的な財務的成功は優れた価値創造を反映する」という考え方を取り上げ、さまざまな企業がこのアプローチをどのように実践してきたかを探っていますので、ビジネスリーダーの方々が自身の戦略マネジメントを基本に立ち返って考えるうえで大変参考になります。

本書は6部20章で構成しており、多くの調査分析や事例を紹介しながら「バリューベース戦略」について解説しています。

第1部では、なぜ一部の企業が他の企業よりもはるかに成功しているのかを紐解き、財務パフォーマンスの大まかなパターンを確認し、価値創造の方法として「バリューベース戦略」を解説しています。

  • ・バリューベース戦略の基本的な考えを示し、その主要原則を解説しています。
  • ・企業がよりはるかに成功している答えは、顧客、従業員、サプ ライヤーに対して、どのように価値を生み出しているかに大きく関係していることを示しています。
  • ・「利益ではなく、価値を考える(そうすれば、利益は後からついてくる)」ことの重要性を提言しています。

第2部では、WTP(支払意思額)を高め、より大きな顧客価値を生み出すための主な方法を明らかにしています。

  • ・取り上げている企業は、上場企業から零細企業、グローバル企業から地域の新興企業まで多岐にわたり、それぞれの企業がWTPを高める方法を示しています。
  • ・WTPを高める方法として、より魅力的な製品、補完製品、ネットワーク効果などの方法について、事例を示しながら詳細に解説しています。

第3部では、バリュースティックの底辺に注目して、WTS(売却意思額)を低下させることで競争優位に立てることを、企業を紹介しながら解説しています。

  • ・手厚い報酬や魅力的な職場環境は、従業員に対してより多くの価値を生み出し、素晴らしいパフォーマンスを達成できる可能性が高いことを示しています。
  • ・バイヤーとサプライヤーとの緊張状態を企業がどのように克服しているかを観察し、サプライ ヤーとの関係を改善するうえでも効果的であることを示しています。

第4部では、米国トップ企業の生産性は最下位企業の2倍であることから、同じインプットを使って、なぜここまで差が付くのかを紐解いています。

  • ・企業が生産性を高めるとコストとWTSは同時に低下することを、さまざまな事例を紹介しながら解説しています。
  • ・生産性を高める3つのメカニズムとして、規模の経済、学習効果、経営のクオリティについて探っています。

第5部では、WTPの上昇、WTSの低下、コストとWTSの低下(生産性の向上)といった、これまでの洞察にもとづいて、企業が立案したバリューベース戦略を実行に移す方法について検討しています。

  • ・優れたストラテジストは、「バリュードライバー」がWTPとWTSに与える影響を深く理解し、競合に差をつけているとして、提案された戦略とWTPやWTSを結び付けるメカニズムを解説しています。
  • ・HBSで演習している「バリューマップ」を紹介し、トレードオフを可視化する強力な手段であることを示しています。
  • ・「バリューマップ」は、投資を導き、戦略をオペレーションと結び付けるのに役立つとして、戦略的な選択を活動や予算にどのように関連付けるかを説明しています。

第6部では、戦略的な動きは「WTPの上昇」と「WTSの低下」という2つのレバーの内の1つだけに影響を与えることはまずあり得ないとして、現実の戦略イニシアチブがバリュースティックの両端に影響を与えることを示しています。

  • ・4つの要素(WTP、価格、コスト、WTS)は相互に関連していることが多いため、新たな戦略に着手する前には、すべての変化を検討することの重要性を解説しています。
  • ・ベストの状態では、WTPの上昇はWTSの低下させ、ストラテジストが「二重の優位性」を生み出していることを示しています。
  • ・価値創造のさまざまなモードがどのように結び付いているかを探り、特定の戦略イニシアチブの結果を把握するために、すべてのバリュードライバーとそのつながりを説明しています。
  • ・過去20年間標榜してきた「株主優先主義」に対し、今後予測している「ステークホルダー資本主義」におけるバリューベース戦略の独自の立ち位置について議論を展開しています。

この本で私がみなさんにお伝えしたいのは、このような経験、つまり、明晰さによってもたらされる自由なのです。

この本は、確かに企業の(財務)パフォーマンスをテーマにしていますが、私はサクセスストーリーのコレクションを提供することに興味があるわけではありません。

そうではなく、私の目的は、ビジネスや戦略マネジメントの役割について、パワフルかつシンプルな考え方を提供することです。

バリューベース戦略(Value-based strategy)

バリューベース戦略は、複雑な状況を打破し、戦略イニシアチブを評価するのに適している。

フレームワークは、デジタル戦略がグローバル展開にどう関連しているか(または、していないのか)、マーケティング戦略が有能な人材の採用活動と整合的なのかどうかを明らかにする強力なツールである。

バリューベース戦略は、どこに焦点を当て、いかにして企業の競争優位を深化させていくかという意思決定に役立つ。

持続的に高いパフォーマンスをあげている企業は、顧客、従業員、サプライヤーに対して確固たる価値を創造している。

主要原則

  • ・価値創造に優れた企業は、WTP(支払意思額)とWTS(売却意思額)に正面から取り組む。
  • ・同業他社より優位に立つ企業は、模倣が困難な方法でWTPを上昇させ、WTSを低下させる。
  • ・シンプルさは、創造性と幅広いエンゲージメントの余地をもたらす。
  • ・成功した企業の多くは、業界動向よりも業界内で競争力のあるポジションを築くことを重視する。

戦略を実行するためには、WTPやWTSを構成する製品・サービス・職場環境などの属性である「バリュードライバー」を特定し、それらの間の因果関係を特定していくことが重要である。

バリュー・スティック

バリュー・スティック

『「価値」こそがすべて!』を参考にしてATY-Japanで作成

WTPとWTSの差(バリュー・スティック)の長さが企業の生み出す価値であり、付加価値を創出する方法は、WTPを高めるか、WTSを低くするかの2つである。

WTP(Willingness to pay:支払意思額)

バリュースティックの上限に位置し、 顧客の視点を表している。

顧客が製品やサービスに支払うであろう上限額のことで、企業が製品を改善すればWTPは上昇する。

顧客にとっての価値についてより優れた考え方を持っている、WTPにレンズを向けている企業は、長期的に大きな競争優位を築いている。

WTPに注目するマネジャーは、カスタマージャーニー全体を検討し、その過程のあらゆる段階で価値を生み出す機会を探す。

WTPに大きな優位性があれば、自社のバリュープロポジションに強い魅力を感じる顧客に対して、より低いコストでサービスを提供することができる。

顧客のWTPというレンズを通して世界を見ることは大きな優位性をもたらし、価値創造に真剣に取り組むことは戦略的に劇的な結果をもたらす。

顧客のWTPを重視する文化が定着している組織でも、全員が自社の焦点を定期的に思い出すような仕組みを構築することは有効である。

WTPを高め、より大きな顧客価値を生み出している企業は、「より魅力的な製品」「補完製品」「ネットワーク効果」に依拠している。

  • ・製品のクオリティを上げる、ブランドイメージを高める。
    自社の製品やサービスを検討しない人がいる理由を理解し、ニアカスタマーについてもより多くを学ぶ。
  • ・補完製品の存在が、他の製品・サービスのWTPを高め、結果的に顧客により多くの価値を生み出す。
    利益プールをある補完製品から別の補完製品へシフトさせ、一方では補完製品と代替製品とを勘違いしてはいけない。
  • ・ネットワーク効果は、多くの顧客価値が単一企業に集中し、1社のみが生き残るという事態を招く。
    ネットワーク効果は、補完製品またはプラットフォームを介してユーザーを直接結び付けることでWTPを高めるし、小規模プレイヤーも生き残れる。
WTS(Willingness to sell:売却意思額)

バリュースティックの下限に位置し、従業員とサプライヤーに言及したものである。

従業員にとって、 WTSはジョブオファーを受け入れるために必要な最低限の報酬のことであり、企業が仕事をより魅力的なものにすることができればWTSは下がる。

WTSの低下に成功した企業は、多様な形で生み出された価値を享受できる。

WTSを低下させる方法を選択する際には、期待される選択効果が事業目標に貢献するものかどうか検討する。

WTPを高める機会が少ないとしても、従業員やサプライヤーに対してより多くの価値を生み出すことで、素晴らしいパフォーマンスを達成できる可能性は高い。

  • ・WTSを低下させる魅力的な職場環境は、従業員に対してより多くの価値を生み出すことで、素晴らしいパフォーマンスを達成できる可能性が高い。
    人びとの情熱を自社ビジネスの目的と結び付けることは、価値創造への手段となる。
  • ・WTSを低くする戦略は、サプライヤーとの関係を改善するうえでも効果的である。
    サプライヤーのコスト削減を支援し、自社への販売を容易にすることで、最終的には自社自身を助けることになる。

企業が生産性を高めるとコストとWTSは同時に低下し、生産性を高めるメカニズムには「規模の経済」「学習効果」「経営のクオリティ」がある。

  • ・規模の経済は、コストとWTSを低くするための有力な手段であり続ける。
    時間とともに変化する最小効率規模を知る必要がある。
  • ・学習効果により、累積生産量を増やすとコストが下がり、その学習による戦略上の効果もある。
    速くスタートを切れば、学習効果によって競合企業の市場参入を阻止することもできる。
  • ・マネジメントのクオリティの向上が、大きな価値を生む。
    優れたマネジメント手法やオペレーション効率は、企業間で意味のある差別化を生み出すのに役立つ。

しかし、最も重要な仕事は、企業のなかで行われます。

あなたが組織のなかでどのような立場にいようと、1人で仕事をしようと、チームで仕事をしようと、大企業を率いていようと、WTPを高め、WTSを下げるための新しい方法を絶えず追求してください。

あなたの役割は、きわめて重要であり、かつ崇高なものです。

これに納得できるでしょうか。

他人のために価値を創造し、大なり小なりその人の人生に触れることに夢中になることほど、素晴らしい生き方はないでしょう。

まとめ(私見)

本書は、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で人気の高い戦略コースでの対話から生まれています。

より良い意思決定を行い、企業のパフォーマンスを向上させるために採用する「バリューベース戦略」、企業の競争力と戦略的な機会を一目瞭然にするツール「バリューマップ」などを詳細に解説した一冊です。

「バリューベース戦略」は、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)でも最先端の戦略理論であり、日本ではまだよく知られていないようですが、ビジネスリーダーの方々が自社戦略を刷新していくうえで大変参考になります。

バリューベース戦略の基本的な考え方はシンプルなもので、「持続的に高いパフォーマンスをあげている企業は、顧客、従業員、サプライヤーに対して確固たる価値を創造している」ということです。

そのうえで、「バリュースティック」と呼ぶ簡単な図を示して、企業が生み出す価値の最大化について、その方法を詳細に解説しています。

  • ・WTP(Willingness to pay:支払意思額):顧客が製品やサービスに支払うであろう上限額
  • ・WTS(Willingness to sell:売却意思額):従業員やサプライヤーにとっての下限額

WTPとWTSの差(バリュー・スティック)の長さが企業の生み出す価値であり、付加価値を創出する方法は、WTPを高めるか、WTSを低くするかの2つであるとしています。

なお、WTPを高めることとWTSを低くすることは、異なるタイプの競争優位性を同時に獲得することであり、互いに矛盾した行動が必要であるため、同時に行うことは困難であり、あるいは不可能であると考えられてきました。

二兎を追うものは一兎も得ずという「スタック・イン・ザ・ミドル」になってしまうということですが、本書ではバリュードライバーが自然につながっていれば、この矛盾が顕在することがないことを、多くの事例を紹介しながら示しています。

WTP上昇とWTS低下の二重の優位性を構築するには、あるバリュードライバーから他の一連のバリュードライバーへとつながる結び付きに細心の注意を払う必要があり、それらの結びつきが強ければ強いほど、企業が享受できる全体的な優位性は大きくなるとしています。

ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の多くのエグゼクティブ・コースで実施している演習で作成する「バリューマップ」も紹介しています。

バリューマップは、顧客のグループを選定するところから始め、顧客が購入する際に重要視する基準(バリュードライバー)をリストアップし、バリュードライバーを最も重要なものから最も重要でないものへとランク付けして作成していきます。

このバリューマップを使えば、自社の競争力と戦略的な機会を確認し、時間の経過とともに自社のバリュープロポジションをどのように進化させたいかを考えるのに役立ちます。

WTPやWTSの差別化の機会を特定するのに役立つものですが、本書ではコンサルティング企業やオンライン旅行サービス企業および銀行の事例を紹介していますので、これらを参考にしながら自社のバリューマップを作成して関係者と議論することをお薦めします。

バリューマップは、WTPやWTSをどのように動かすかといった「戦略策定」から、WTPやWTSの変化を実現するための具体的な活動やイニシアチブの「戦略実行」への移行を促進する強力なツールとなりそうです。

本書では、戦略は「価値の獲得ではなく価値の創造」であり、経済的な成功は真の価値創造に続くものであるとしています。

価値創造の原則

  • ・WTPの上昇:より大きな顧客価値を生み出す。
  • ・WTSの低下:従業員とサプライヤーの価値を生み出す。
  • ・コストの削減:「規模の経済」「学習効果」「経営のクオリティ」のメカニズムで生産性を上げる。
  • ・バリューマップの分析:バリューベース戦略を実行する。

しかも、それは株主だけではなく、すべてのステークホルダーに価値を提供する必要があると主張しています。

そのため、バリュースティック両端の「WTPの上昇」と「WTSの低下」は、顧客や従業員、サプライヤーといったステークホルダーを見据えて、さまざまな工夫を加えることでさらに成果を引き出すことがでると思います。

バリューベース戦略は「バリューマップ」に現れますが、自社のバリューマップを作成し、自社のバリュープロポジションをどのように進化させたいか関係者で議論し、実行することをお薦めします。

本書は、戦略と戦略的思考へのアプローチを再認識し、自社の戦略刷新の方向性を定め、組織全体で戦略を実行していくうえで非常に参考になる一冊です。

目次

はじめに

第1部 卓越したパフォーマンス
     ──価値を生み出すバリューベース戦略

 第1章 よりシンプルに、より良く
 第2章 チャンスの海
 第3章 利益ではなく、価値を考える

第2部 顧客の価値
     ──WTPを上昇させる戦略アプローチ

 第4章 拍手喝采
 第5章 見え隠れするもの
 第6章 ヘルパーを募集中
 第7章 友か敵か?
 第8章 ティッピングポイント
 第9章 弱者のための戦略

第3部 人材とサプライヤーの価値
     ──WTSを低下させる戦略アプローチ

 第10章 聴こえている感覚
 第11章 ギグと情熱
 第12章 サプライチェーンも人である

第4部 トップ企業の生産性
     ──コストとWTSを同時に低下させる戦略アプローチ

 第13章 ビッグ・イズ・ビューティフル
 第14章 学習効果
 第15章 嘲笑する理由はない

第5部 バリューベース戦略の実行
     ──バリュードライバーとバリューマップ

 第16章 Howを尋ねる
 第17章 良き戦略には悪が必要
 第18章 投資を導く

第6部 価値の創造
     ──シンプルで優れた戦略の目的

 第19章 点と点をつなぐ
 第20章 社会的価値

訳者あとがき

参考

「価値」こそがすべて! | 東洋経済STORE

「価値」こそがすべて! | 神戸大学大学院経営学研究科

Strategies Beyond the Market - Harvard Business School

Felix Oberholzer-Gee - Harvard Business School

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    Amazon.co.jp:「価値」こそがすべて!

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