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エコシステム・ディスラプション――業界なき時代の競争戦略
Winning the Right Game
ロン・アドナー (著)、中川 功一 (監修)、蓑輪 美帆 (翻訳)
出版社:東洋経済新報社 (2022/8/11)
Amazon.co.jp:エコシステム・ディスラプション
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ライバルは見えないところからやって来る!
クリステンセン、コリンズが絶賛する著者による「正しいゲーム」に勝つためのまったく新しい戦い方
関連書籍
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2023年10月01日 モハン・スブラマニアム『デジタル競争戦略』ダイヤモンド社 (2023/8/30)
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本書は、ダートマス大学タックビジネススクール教授であり、戦略コンサルティングのストラテジー・インサイト・グループの創業者兼CEOの著者が、自身の論文の中で実証してきた事項をもとに、エコシステム・ディスラプションの進め方を解説した一冊です。
本書では、多くの事例に加え、ツールや手法を紹介しながらエコシステムにおける戦略を解説していますので、ビジネスリーダーの方々が自らの組織へ応用していくうえで大変参考になります。
本書は7章で構成しており、各章を通じて優れたエコシステム戦略を策定するための新たな手法やルールを示しています。
- ・第1章では、コダックを例に挙げて、戦略策定の新たなアプローチを紹介しています。
何がエコシステムなのか、エコシステムが成熟して業界となり業界が解体されてエコシステムになるというサイクルを考え、新たなコンセプトである「価値創造(バリューアーキテクチャー)」に展開しています。
- ・第2章では、企業が一対一の対応とは異なる形で、広範にわたるゲームを戦う手立てについて考察しています。
エコシステム防御の三原則に従い、エコシステム・ディスラプションに対して価値構造を強化してパートナーと同盟する方法を、適応した事例から紐解いています。
- ・第3章では、価値構造を築きパートナーと連携してディスラプションを進める際に、いかにして有意なポジションをとるかを考察しています。
エコシステムの防御で最も重要なのはパートナーとの連携であり、それをどのようにしてパートナーに連携してもらえばよいか、エコシステム構築の三原則について事例を紹介しながら紐解いています。
- ・第4章では、エコシステム・ディスラプションのタイミングを理解するフレームワークを示したうえで、特定されたシナリオごとに適した行動を考察しています。
さらに、以降のタイミングを予想し、一貫した戦略を策定して脅威と機会に優先順位をつけ、資源をいつ、どこに配分するかを示しています。
- ・第5章では、誰が必要な連携を進めるか、誰がエコシステムのリーダーとなるべきかについて、企業レベルで考察しています。
エコシステム・リーダーシップのリトマス試験、賢いフォロワーの戦略などを示しながら、他社を適切にリードすること、エコシステムの一員としてうまく立ち回る方法を解説しています。
- ・第6章では、成熟したエコシステムでリーダーシップを発揮するための「遂行マインドセット」、新たなエコシステムでリーダーシップを構築するための「連携マインドセット」の違いについて考察しています。
さらに、社内エコシステムを進める意義、組織でCEO以外の存在が直面する課題、社内エコシステムがリーダーシップの移行や組織の変革にもたらす影響を考察しています。
- ・第7章では、成功はリーダーの戦略とマインドセットだけではなく、そのアイデアを理解し、その遂行にかかわる組織の能力にかかっているとして、組織内での立場に応じた役割を解説しています。
新たな価値提案が産業をまたがる競争に影響を与え、境界を取り払い、構造を覆すとき、エコシステムを変えるディスラプションが起こる。
これまでの競争は、ライバル企業と共通の目的を持って競うものであり、はっきりとした勝ち負けが存在した。
しかし現在では、異なる目標を掲げ、異なる指標に焦点を当てたライバル同士が競っている。
これまでは、各企業がコスト効率と品質で優位に立とうとバラバラに行動していたが、今日では、これまで思いもしなかったパートナーを集め、個々の企業では実現できない方法で価値創造(バリュークリエイション)を行っている。
エコシステムを変えるディスラプションは、単に競争に拍車をかけるだけではなく、競争の基盤を根本から変えるゲームチェンジャーとなる。
新しい市場に攻め入る場合でも、今いる市場で新規参入企業を迎え撃つ場合でも、競合や成長、影響力に対して、今までとは違う見方が求められる。
成功は、もはや単に「勝つ」ことを意味しない。
成功とは、自社にとって適切なゲームで勝つことなのである。
エコシステム・ディスラプション
エコシステム・ディスラプションにおける脅威は、協力的なパートナーが「非常に優秀」な存在となって既存企業が持つ価値創造の基盤を破壊し、パイそのもを破壊させるというものである。
最大の脅威は、勝つために全力を尽くしたのに、それが誤ったゲームだと最後に気づくことである。
一方、業界を基盤とする従来の破壊は、奇襲をかけた参入者が「そこそこ」の存在となってコア市場でシェアを奪い合う(既存企業のパイを奪い合う)ものである。
エコシステムのディスラプターは、産業セクターの価値構造を変化させ、そうすることで隣に新しいものをつくり出し、ディスラプターの参入後は、それまで別々だった業界が統合され、業界の枠が変化する。
従来の破壊とエコシステム・ディスラプションには、競合を増やすか、競合を定義し直すかの違いがある。
エコシステム・ディスラプションの本質は新たな価値構築を展開することにあり、新たな価値構築はパートナーや活動が新たに連携することに依存する。
価値提案、価値構造、エコシステム
『エコシステム・ディスラプション』を参考にしてATY-Japanで作成
価値提案とは、企業努力によりエンドユーザーが受ける効用のこと。
- ・自社の価値提案を定めることは、エコシステムを理解するための最初のステップとなる。
- ・エコシステム全体の働きがつくり出す効用をはっきりとまとめたもので、後に続く活動や協働の方向性を決定づける。
- ・効用を明確に示す以外にも、エンドユーザーを特定することができる。
価値構造とは、価値提案を構築するための要素をまとめたもの。
- ・企業がエンドユーザーに与える効用の根底にある概念で、「価値要素(バリューエレメント)」を表し、体系化するための構図である。
- ・技術や物理的な構成要素、活動、それらをつなぐコントロールされた関係という点から定義されるものではない。
- ・事業モデルではない。
提案に対する顧客の購買意欲のもとにある価値作りに焦点を当てる。
- ・価値構造における価値要素は、バリューチェーンや活動システム、価値の流れ(バリューストリーム)における手段ではないし、ユーザーが製品やサービスを評価する際に考慮する属性や好みで定義されるものではない。。
エコシステムとは、パートナー同士が協力し合い、エンドユーザーに価値提案を行う構造のこと。
- ・「価値提案」が軸となる。
価値創造の目標に沿ってエコシステムの方向づけを行えば、一企業の見解や技術にとらわれることを防げる。
- ・価値提案を行うために協力し合うことを選んだ、具体的な「パートナー」の存在がある。
エコシステムは多面的で、単に売り手と買い手に分けても理解できない。
- ・エコシステムには「構造」がある。
プレイヤーは協力的な環境で、明確な役割や立場を持って連携し、その中で動く。
エコシステム・ディスラプションへの対応
エコシステム・ディスラプションの動きを理解し、経営陣がエコシステムを基盤とする崩壊の可能性に気づいていたら、いくつかの選択肢を試すことができる。
- ・特化
特定の強み領域で競争するものの、ただし構成部品の進化に効用を受け続けられる分野に集中する。
- ・拡張
どの周辺事業を主力とするかを考える。
- ・多角化
自社の立場の危うさを認識し、事業を過度に集中させない。
- ・ニッチ分野の発見
プラス方向へ進む道が見つからない場合は、見つかるまで資源を温存する。
最悪の場合、防衛可能なニッチ市場で体制を整え直し、そこから新たな取り組みを始める。
枠を超えた変化の意味を理解し、自社の価値創造と重要性を維持するにはイノベーションを超えた視点を持つ。
価値構造は、自社の役割をより広く考えるためのレンズでもある。
エコシステムの台頭は、自社の価値提案や競争的文脈だけでなく、その土台にある関係性を考え直す機会となる。
自社の価値創造の根底となる前提条件を問い直し、選択した目標や着目する条件を慎重に評価すれば、価値構造がステークホルダーの規範と自社の戦略を結ぶロードマップを提供してくれる。
新たな分野で効用を競うには新たな視点が必要となり、そのためにはズームアウトして、製品や組織、業界といったレベルだけではなく、自社が参加するエコシステムのレベルで課題を熟考する。
自社のゲームを理解することは、価値提案とその構造の土台にある要素、価値構造をはっきりと自覚することになる。
価値逆転とエコシステム・ディスラプションは、枠の外のさまざまな分野での新たな課題や機会を生み出す。
経営陣が大きな視点を持てば、これまで以上に盤石で優れたエコシステム戦略を策定できる。
エコシステム防御と構築の三原則
エコシステム防御の三原則
価値構造は、単に価値創造の手法を概念化するものではない。
価値要素とその関係をはっきりさせることで、脅威に対する理解や戦略的対応の道筋が一貫したものとなる。
従来の競合戦略は、陣地の攻略、直接的な敵、ゼロサムゲームといった軍事的思考を基盤とするが、エコシステム戦略は共存、同盟の構築、共通の戦略的関心の発見など、外交的な立場を基盤とする。
エコシステムの防御の原則は、ライバルの価値創造能力を打ち消すのではなく、自社の価値創造能力を維持することを重視する。
原則1.パートナーを集めて再配置し、自社の価値構造を修正する。
- ・自社の価値構造を修正すれば、必然的に価値提案を構成する具体的な価値要素が変化することになる。
- ・一般的には、自社に有利で攻撃者に不利になるように価値構造を修正する機会を探る。
- ・自社の構造を強化する戦略は、価値提案をさらに深く掘り下げることから始まる。
自社の取り組みや能力だけを改善することから、協働するパートナーの能力を向上させて、より豊かな価値提案をつくることへ関心を広げる。
- ・競争とコモディティ化を受け入れる分野、強化の機会のある分野、新たな価値要素を生むための投資を優先させる分野を決められる立場につく。
原則2.同じ考えのパートナーと、防御の基盤を築く。
- ・ディスラプターの登場で窮地に陥った存在が周囲にいないか探し、エコシステムに対して同じような考えを持つプレイヤーで同盟を組むことに注力する。
- ・優先させる価値要素を厳選して的を絞って対応し、単なる防御を超えた価値要素を明確にする。
原則3.野心を自制し、防御の同盟を維持する。
- ・エコシステムの防御はチームで戦うゲームであり、パートナーの動員が鍵となる。
自社の価値構造に合わせて同盟を組み、パートナーと連携する。
- ・プレッシャーと誘惑の両方を受けながらも、同盟を維持する。
ライバルを犠牲にした成長と、パートナーを犠牲にした成長とを、明らかに区別する戦略的規律を保つ。
エコシステム構築の三原則
企業が単独で、新しく刺激的な価値提案の基盤となる価値要素をサポートするのは難しいため、パートナーを引き付けて連携できるかどうかに成功がかかっている。
これから戦う新たなゲームに他のプライヤーを引き込み、しかも関わりたいと思わせること、エコシステムを思い描くのではなく実際に構築する方法を見つけることが重要である。
すぐに売上を増やすよりもパートナーを迎えることが目的であることを念頭に、さまざまな方法で評価する。
段階を踏んだ拡張による、より広範な価値構築を築くための計画を強調する形で評価すること。
原則1.最小限の要素で構築する。
- ・最小限の要素によるエコシステム(MVE:Minimum Viable Ecosystem)を構築することから始める。
- ・MVEの目的はパートナーを引き込むことであり、MVEの段階における顧客の重要な貢献は利益に寄与することではなく、パートナーのコミットメントを強化するための裏づけを用意することにある。(MVPにおける顧客は、製品を発売する前に市場について教えてくれる存在である)
- ・行き先をよく考えて出発し、次にそこに至る道筋を特定する。
普遍的な正しいMVEではなく、自社にとって正しいMVEを探す。
原則2.段階的に拡張する。
- ・MVEの次の段階で、どのパートナーあるいは活動を、どの順番で導入するかを明確にする。
- ・パートナーを迎える目的は、パートナーは価値構造をつくり、次のパートナーを迎える下地をつくることにある。
- ・パートナーが増えれば価値構造は強化され、ひいては価値提案も強化される。
原則3.エコシステムを継承する。
- ・あるエコシステムで構築された要素を活用して二つ目のエコシステムを構築する可能性に焦点を当てる。
- ・新たな市場を切り拓くための「秘伝の技」となるし、スタートアップにとっても成長と拡大のための強力な推進力となる。
- ・パートナーを説得して、まだ確立されていないビジョンに引き込む、デリケートなプロセスでもある。
エコシステムの世界は、さまざまな可能性を作り出す。
戦うべきゲーム、協力する手立て、リーダーとフォロワー双方が成功する立場などをこれまで以上に生み出す。
多くを生み出す一方で、さらなる力学や複雑性の課題も出現し、失敗に終わる選択肢も増える。
旅の出発点は、成功と失敗の違いが、もはや勝ち負けの違いほど単純ではなくなったことを認めることにある。
複雑な世界では、正しいゲームを選ぶことは、戦いの結果よりも大きな意味を持つ。
間違ったゲームに勝つことは、負けることと変わらないからである。
逆に、戦いを賢く選んでゲームを変える方法を見出せば、競争で大きな強みを得ることになる。
まとめ(私見)
本書は、著者自身の論文の中で実証してきた事項をもとに、エコシステム・ディスラプションの進め方を解説した一冊です。
エコシステムにおける戦略について、計11のツールや手法と、それぞれに関する事例(計11事例)を紹介しながら解説していますので、ビジネスリーダーの方々が自らの組織へ応用していくうえで大変参考になります。
従来は、境界が定まった業界内で製品やサービスの提供によって企業間競争がもたらされてきたのに対し、今日の競争は、企業の連携による総合的な価値提案を提供するエコシステムへと移ってきています。
そこで本書では、これまでとは異なるエコシステムの中で、どのように行動し、どのように勝つかについて考察しています。
エコシステム戦略の中心はパートナーとの連携にあり、価値提案を実現するためにはパートナーとの連携を中心とするコラボレーション(協働)が重要な役割を果たすというのが、本書の主張です。
エコシステムにおいては、あらゆる立場から価値を創造して自分のものにできる者が勝者となり、そこでは手段やタイミングと同じくらい、競争する場を選ぶことが重要となります。
そのうえで、組織に適した戦略を策定し、その戦略を社内に丁寧に伝え、組織全体で一貫した行動をとることが重要となります。
なお本書では、多くのデジタルネイティブ企業、あるいはデジタルトランスフォーメーション(DX)を遂げた大企業を紹介しています。
どの事例も、成功・失敗を問わず、エコシステムを変化させるディスラプションに取り組めば、「デジタル化」だけではなく、次のチャンスをつかめることがわかります。
しかし、エコシステムも常に変化していますので、エコシステム・サイクルの段階でどのような戦略をとるかによって成功と失敗が分かれます。
いつ既存のエコシステムの枠組みの中で事業を行うのか、いつ枠組みを超えるのかを適切に意思決定していかなければなりません。
リーダーは、自らと自らの組織を舵取りする能力を持つことに加え、エコシステムを継承し、業界の枠組みを超えて新たな市場をつくり出すことが必要となります。
そして、自社にとって正しいゲームで勝っていかなければなりません。
本書のアプローチの核心は、価値提案を行動につなげることにあります。
それは、自社組織とパートナーの組織両方の行動であり、価値を築く方法を考えるためのものと言えます。
変化しつつある連携を推し進め、あるいは対応を迫られことで自社の戦略目標のどこに影響が及んでいるかを考えることによって、エコシステムの力学を紐解き、扱うためのアプローチを教えてくれる一冊です。
目次
解説 破壊的イノベーションから、エコシステム・ディスラプションへ
まえがき エコシステム・ディスラプション
― ボーダーレスな世界で勝ち抜くには
第1章 誤ったゲームでの勝利は、敗北を意味する
第2章 エコシステムで防御する
第3章 エコシステムで攻撃する
― 競合の激化から競合の変化へ
第4章 エコシステム・ディスラプションのタイミング
― 遅すぎてもいけないが、それ以上に早すぎてもいけない
第5章 「エゴ」システムという罠
第6章 重要なのはリーダーシップのマインドセット
第7章 理解されてこその戦略
参考
著者サイト | Ron Adner
主なフレームワーク | Ron Adner
エコシステム・ディスラプション | 東洋経済STORE
経営戦略の新理論誕生!「エコシステム・ディスラプション」とは何か? - 中川功一 YouTube
関係する書籍(当サイト)
エコシステム・ディスラプション――業界なき時代の競争戦略
-
エコシステム・ディスラプション
― 業界なき時代の競争戦略ロン・アドナー (著)、中川 功一 (監修)、蓑輪 美帆 (翻訳)
出版社:東洋経済新報社 (2022/8/11)
Amazon.co.jp:エコシステム・ディスラプション
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