書籍 コーポレート・エクスプローラー ――「両利きの経営」を実現する4つの原則

書籍 コーポレート・エクスプローラー ――「両利きの経営」を実現する4つの原則

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コーポレート・エクスプローラー ――新規事業の探索と組織変革をリードし、「両利きの経営」を実現する4つの原則
How Corporations Beat Startups at the Innovation Game

アンドリュー・J・M・ビンズ (著)、チャールズ・A・オライリー (著)、マイケル・L・タッシュマン (著)
出版社:英治出版 (2023/2/3)
Amazon.co.jp:コーポレート・エクスプローラー

  • 両利きの経営、待望の実践書

    大企業にしかできない、イノベーションの起こし方

本書は、世界的経営学者と実践家が、事業機会を探索するリーダーに焦点をあて、求められる作法とその活躍を支える組織のあり方を体系化した一冊です。

著者らは、『両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』(東洋経済新報社、2019年、増補改訂版 2022年)を共著した両教授に、ボストンを拠点とするコンサルティング会社チェンジ・ロジックの共同創業者が加わって、実際のコンサルティング現場で得た知見やコンセプトを加えています。

この3名の著者が、成熟した企業の内側からイノベーションを起こすリーダー(コーポレート・エクスプローラー:CE)について詳細に掘り下げていますので、既存企業内のビジネスリーダーの方々だけなく、企業内で新規事業を立ち上げる方々や起業家にとって大変参考になります。

本書は、創造的破壊を起こす企業の4つの特徴をパートに分けて、それぞれ3章ずつ計12章で構成しており、新規事業を育てる手法やフレームワーク、そしてコーポレート・エクスプローラーが実務の中で直面した壁に対し、どの手法をどのように活用したかを解説しています。

パート1は「戦略的抱負」で、経営陣が創造的破壊の機会や脅威に負けないほどの「戦略的抱負」を持ち、行動を変える必要性も理解することが不可欠であることを説いています。

  • ・第1章では、創造的破壊を牽引できるのはスタートアップのみという常識は当てはまらなくなってきたとして、社内イノベーションの利点を紹介し、成功企業の4つの特徴を俯瞰しています。
  • ・第2章では、ユニカ・ハンガリー支社の事例を紹介しながら、CEが新規事業を成功させるまでの流れを説明しています。
  • ・第3章では、企業の成長意欲と直結する「戦略的抱負」を定めて、探索事業にお墨付きを与えることが肝心として、CEの成功を左右するCEOや経営陣の役割を説明しています。

パート2は「イノベーションの原則」で、グローバルなイノベーション業界が体系化した「イノベーションの原則」を事業推進に取り入れることの重要性を説いています。

  • ・第4章では、「着想」という原則は、ただ案を出すだけでなく斬新かつ自社の戦略的抱負と一貫した事業案を出すことであるとして、解決すべき顧客の問題を突き止め(顧客調査)、顧客を惹きつける力のある解決策を出す(発案)という2段階があることを解説しています。
  • ・第5章では、「育成」という原則は、優れた構想を検討し、立証済みの事業として提案するか、中止または方向転換するかを決めることで、検証を通して学びを深める科学的手法を解説しています。
  • ・第6章では、「量産化」という原則は、育成で立証された事業モデルを持続的の高い事業として市場化することであり、新規事業に欠かせない顧客・組織能力・経営資源の資産を集め獲得する方法を解説しています。

パート3は「両利きの組織」で、革新的な新規事業をコア事業と分離する「両利きの組織」を構築し、新規事業には欠かせない裁量権を守りながらコア事業の資産を活用することの重要性を説いています。

  • ・第7章では、CEはコア事業にとらわれないで活動できる裁量権が必要な一方で、量産化への道を支えるコア事業の資産も常に活用できなければならないとして、コア事業と探索事業を後押しする特別な組織である「両利きの組織」のあり方を解説しています。
  • ・第8章では、探索事業は検証と挑戦と柔軟性を重視し、コア事業は確実性と効率性とリスク回避を重視するため全く異なる理論で回っているとして、計測・管理システムなどのソフト面の要素としての「探索事業システム」を解説しています。
  • ・第9章では、起業家のモチベーションは金銭的見返りであるが、CEは正当な扱い以上の見返りまでは望んでいないとして、新規事業でリスクと報酬の釣り合いをとる方法を考察しています。

パート4は「探索事業のリーダーシップ」で、リソースを投じて新規事業を後押しする覚悟のある経営陣の間に、明らかな「探索事業のリーダーシップ」が必要であることを説いています。

  • ・第10章では、社内での新規事業は失敗しやすく、その最大の障壁は深掘りを優先するコア事業システムであるとして、4種類のサイレントキラーがどのようにCEの取り組みを台無しにするのかを解説しています。
  • ・第11章では、組織変革とイノベーションを両立する「二重らせん」について、CEを後押しする組織内での味方のつくり方や事業の評価を管理する方法を解説しています。
  • ・第12章では、チャンスが訪れたのに踏み出せない、崖っぷちに立っていても動けないといった困難の要因を説明し、CEOに実行する覚悟を持たせるのもCEの役割であるとして、困難への対処法を考察しています。

本書で扱う「コーポレート・エクスプローラー(CE)」とは、成熟した企業の内側からイノベーションを起こすリーダーだ。

現実味のないテーマだと思う人もいるかもしれない。

「社内イノベーション」は「耳をつんざくほどの静寂」とか「ワーケーション(普段の職場から離れたリゾート地などで仕事をすること)」のように、矛盾した表現だと捉えがちだ。

だが、私たちの考えは違う。

本書で説明するのは、CEが自社の資産を活用して破壊的な新規事業を迅速に成功させる方法だ。

簡単ではないし失敗例もあるのはたしかだが、今や世界中で社内イノベーションの成功例が見られる。

コーポレート・エクスプローラー(CE)

コーポレート・エクスプローラー

『コーポレート・エクスプローラー』を参考にしてATY-Japanで作成

コーポレート・エクスプローラー(CE:Corporate Explorer)とは、成熟した企業の内側からイノベーションを起こすリーダーである。

CEは、イノベーションを起こすだけでなく、組織カルチャーも変革しなければならない。

CEには、戦略的抱負を実現するためにイノベーションの原則を守りながら事業を進める意欲が必要である。

大企業の内側で起こすイノベーションには反発が生じやすいが、CEが組織自体を変革すればそれもなくなる。

社内で破壊的事業を立ち上げるには、CEが、権限を持つ経営陣とともに、新しい組織能力である「探索事業のリーダーシップ」を発揮することが必要である。

成熟した大企業が変化してきている4つの要素

これまでの常識では、「創造的破壊の世界では成熟した大企業に勝機はなく、新旧どちらのビジネスでも戦えない」ということであったが、近頃は変わってきている。

成熟企業にも、見事に新規事業を独り立ちさせているところが増えてきていて、その変化には4つの要素がある。

戦略的抱負

企業が「戦略的抱負(戦略を兼ね備えた決意)」を明確に示せば、既存事業の効率・利益追求と、新市場の探索という相容れない目標の両方に妥当性やお墨付きを与えてる。

経営陣に明確かつ説得力のある「戦略的抱負」があれば、漸進型ではなく一足飛びのイノベーションを起こしやすくなる。

戦略的抱負は、単なる指針表明ではなく、イノベーションを生み出すことに悪影響を及ぼしそうな考えに異議を唱えやすい組織カルチャーを生む力がある。

イノベーションの原則

顧客が重視する課題と解決策から事業案を出す「着想」、採算性ある事業にする方法を学ぶ「育成」、社内の顧客と組織能力と経営資源を集め、立証したアイデアを本格的に事業化する「量産化」という三原則がある。

CEが知っておくべきなのは、着想・育成・量産化のイノベーションの原則である。

  • ・着想は、斬新かつ自社の戦略的抱負と一貫した事業案を生み出すため、顧客の悩みを重視する「アウトサイド・イン」方式を習得する。
  • ・育成は、優れた構想を検討し、立証済みの事業として提案するか、中止または方向転換するかを決める。
  • ・量産化は、育成で立証された事業モデルを持続性の高い事業として市場化する原則で、育成で得た学びに基づいて資産を集める。

両利きの組織

探索事業を通常のコア事業から分離する「両利きの組織」を採用する。

成熟度の異なる複数の事業を管理するのは難しく、この難題を解決する方法の一つが「両利きの組織」である。

事業の成熟度に合った戦略を推進できるように探索事業をコア事業から分離し、探索事業はCEOなどの経営幹部直轄として、コア事業体制の外で活動する裁量権を持たせる。

新規事業が成長に必要な裁量権を持ちながら、自社の資産を活用できる仕組みをつくる。

探索事業のリーダーシップ

CEは、戦略的抱負を実現するためにイノベーションの原則を守りながら事業を進める意欲が必要である。

CEは、今までにない業務手法を取り入れ、自社の常識もひっくり返す。

組織再建の機会を貪欲に求め、説得力のある論拠で経営陣の注意を引き、新規事業の成功に力を注ぐ一方で、周囲との同調は求めず、ビジョン実現のためにはルールを破ることもいとわない。

社内の出世という点では、CEになる選択肢は楽でも手堅くもない。

CEを引き受けるということは、周囲から浮く存在になり、従来の社内慣習を守らず、出世街道にも背を向けることになるからだ。

しかし、昇進構造自体が崩れつつある不確実な現代では、どのみち確実に出世できるかはわからない。

今後は、不確実性を扱いながら組織をまとめるCEの力が求められる可能性もある。

逆説的だが、ヘラクレイトスの川に入るのが企業やCEの未来を確かなものとする最良の道かもしれない。

まとめ(私見)

本書は、新規事業を育てる手法やフレームワーク、そしてコーポレート・エクスプローラー(CE)が実務の中で直面する壁に対し、どんな手法をどのように活用していくかを解説した一冊です。

世界的経営学者と実践家の著者らが、事業機会を探索するリーダーに焦点をあて、求められる作法とその活躍を支える組織のあり方を体系化しています。

著者らが、これまで多くのCEからの学びと、著者自身の研究や教育、コンサルティングの経験から得たものを随所に紹介しながら解説していますので、具体的かつ説得力があります。

成熟した企業の内側からイノベーションを起こすリーダー(コーポレート・エクスプローラー CE)について詳細に掘り下げていますので、既存企業内のビジネスリーダーの方々だけなく、企業内で新規事業を立ち上げる方々や起業家にとっての実践書となります。

本書は、日本での「両利きの経営」関連書籍では3冊目となります。

  • ・『両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』(東洋経済新報社、2019年、増補改訂版 2022年)では、海外の事例を紹介しながら両利きの経営に関する経営理論を紹介し、増補版では組織カルチャーの重要性を追加しています。
  • ・『両利きの組織をつくる』(英治出版、2020年)では、実際の日本企業の事例を紹介しながら、日本企業における両利きの可能性や組織開発の重要性を説いています。
  • ・そして本書は、大企業の中で新たな事業を探索するリーダー(事業開拓の責任者のコーポレート・エクスプローラー:CE)に焦点を当てています。

両利きの経営は、戦略論であり、組織論でもありますが、前著で経営理論から日本企業への適用、そして本書で実践論へと展開しています。

本書では、CEが具体的な活動を通して、どのように探索事業を立ち上げていくかをリアルに大系的に描いていますが、その過程では既存(成熟)企業ならではの課題があります。

コア事業が探索事業を殺してしまう「サイレント・キラー」の存在、顧客・組織能力・経営資源といった資産を再活用した「量産化への道」など、課題への対応策を詳細に解説しています。

着想から量産化までを一連の流れとして全体を捉えて、コア事業との関係について具体的に示しているのが、本書の特徴です。

創造的破壊を牽引できるのはスタートアップのみという常識は当てはまらくなってきており、自社の資産を活用できる社内イノベーションの利点を、企業は自覚しなければなりません。

既存(成熟)企業は、スタートアップにはない自社の利点を認識し、活用できるリソースや組織能力、資金力、スキルを持つ人材、生産力、顧客などの資産を武器に創造的破壊の戦いに挑むことができます。

イノベーションに関する手法は、スタートアップ向けでも企業の内側から行う場合でも進め方は、大きくは変わらないとしています。

しかし、成熟した企業では、社内習慣の中でイノベーションをどう扱うかが成功の鍵であり、CEは起業家とは別物で、スタートアップ向けの手法を活用する前に自社向けに調整する必要があります。

コア事業では効率やリスク回避を重視するのに対し、探索事業は検証や挑戦を目的にしていますので、両事業の理論や組織プロセスなどは異なります。

そこで実践の鍵は、企業風土ではなく組織カルチャー(組織特有の行動パターン)のマネジメントであり、経営者は事業に適した行動パターンを生み出すための基準や原則を示すことが必要となります。

既存(成熟)企業は「イノベーションのジレンマ」に陥らないよう、既存(コア)事業を深化させながら、新規事業を立ち上げ(探索)、組織全体として進化させていかなければなりません。

経営陣は、目先の業績を守りながら、新規事業も育てていくことになります。

そのためには、経営陣が実行する覚悟を持つことが必要ですし、その覚悟を持たせるようにするのがCEの役割となります。

組織のトップに果敢な戦略的抱負があり、それに呼応するCEがいて、新規事業が着想・育成・量産化の原則通りに進む。

経営陣が覚悟を持ち、CEの味方であり続け、量産化の時期が来たら躊躇なく資本投入を決断する。

本書は、着想から量産化までを一連の流れとして全体を捉えて、企業の内側からイノベーションを起こすリーダー(コーポレート・エクスプローラー:CE)が課題をどのように解決していくべきなのかを具体的に示した実践書です。

参考(当サイト)

目次

まえがきと謝辞

Part1 戦略的抱負

1 社内イノベーションの利点

2 新規事業はCEが動かす

3 戦略的抱負の条件

Part2 イノベーションの原則

4 着想――新規事業のアイデアを出す

5 育成――検証を通して学ぶ

6 量産化――新規事業のための資産を集める

Part3 両利きの組織

7 探索事業部

8 探索事業システム

9 CEのリスクと報酬

Part4 探索事業のリーダーシップ

10 探索事業を妨げる「サイレントキラー」

11 二重らせん――イノベーションと組織変革を「両立する」リーダー

12 行動する覚悟――新規事業の量産化を決断するリーダー

付録 CEのフレームワーク

解説

参考

コーポレート・エクスプローラー――新規事業の探索と組織変革をリードし、「両利きの経営」を実現する4つの原則 | 英治出版

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