書籍 戦略の要諦 | リチャード・P・ルメルト(著)

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戦略の要諦
The Crux : How Leaders Become Strategists

リチャード・P・ルメルト (著)、村井章子 (翻訳)
出版社:日経BP 日本経済新聞出版 (2023/11/25)
Amazon.co.jp:戦略の要諦

  • 『良い戦略、悪い戦略』の最新作!

    ミッション パーパスは無意味である。

    願望や理想を戦略にするな。
    克服可能な最重要ポイントを見極め、解決を考え抜け。

本書は、UCLAアンダーソン・スクール・オブ・マネジメント名誉教授の著者が、困難な課題に正面から向き合い最重要ポイントを見つけて集中攻撃するのが戦略であり、その要諦をまとめた一冊です。

著者は戦略論と経営理論の世界的権威で、エコノミスト誌では「マネジメント・コンセプトと企業プラクティスに対して最も影響力ある25人」に選ばれ、マッキンゼー・クォータリー誌は「戦略の戦略家」「戦略の大家」と命名しています。

本書は、ロングセラー『良い戦略、悪い戦略』の著者が、長年の研究と豊富なコンサルティング経験に基づいて、戦略をめぐる誤解を解きほぐしていますので、ビジネスリーダーの方々が自らの事業戦略を策定していくうえで大変参考になります。

本書は5部20章で構成しており、困難な課題を見つけ、最重要ポイントを見極め、誘惑に迷わされず、課題解決のための一貫性ある行動計画を立てるといった、戦略の策定プロセスを詳細に解説しています。

第1部では、課題解決型の戦略の要諦を説明し、特に最重要ポイントの概念を取り上げています。

  • ・第1章では、戦略は組織が直面する課題を特定し理解するところから始まるとして、長期目標の罠や三種類の課題を紹介し、ネットフリックスを例にしながら課題の最重要ポイントの特定方法を示しています。
  • ・第2章では、戦略について理解を深めるための演繹と設計の違いを説明したうえで、解決策の設計、ひらめきのメカニズムについて詳細に解説しています。
  • ・第3章では、セールスフォース・ドットコムの例を示しながら、戦略は継続的なプロセスであると認識することの重要性を説いています。
  • ・第4章では、多数ある課題を絞り込み、重要かつ取り組み可能な課題を見極める方法を解説し、そのスキルを磨くための戦略マスタークラスの演習を紹介しています。
  • ・第5章では、単に売上を伸ばすのではなく価値創造による利益を伴う成長を実現した成功企業の特徴を、7つの要素に分解して解説しています。
  • ・第6章では、戦略が権力の行使を伴うことは避けられないとして、権力基盤づくりや大組織内での権力の獲得方法を示しています。
  • ・第7章では、方針と行動が一貫すれば相乗効果は生まれ、いっそうの競争優位につながるとして、成功事例に加え、整合性に欠けた事例をあげながら、その要因を紐解いています。

第2部では、主に競争から生じる課題を診断し、最重要ポイントを見極める方法を検討しています。

  • ・第8章では、課題の核心を見抜くためには、課題をさまざまな要素の関係性を理解しなければならないとして、アナロジー(類推)とリフレーミング(再構成)という二つのツールを紹介しています。
  • ・第9章では、何かを測定するときには必ず比較が行われるとして、外部との比較は難しいが想定外のヒントを得ることができることや、既存データを新たな視点から見ることで予想外の発見があることを、事例を紹介しながら解説しています。
  • ・第10章では、ビジネスの分析や診断でよく使われるフレームワークやツールは、いくつかの前提を置いたり、注意すべき要素を絞り込んだりしなければ効率が上がらないとして、どんな誤りが起こりうるかを検討しています。

第3部では、見極めた最重要ポイントをどう攻略すべきかを論じ、攻略を試みる際に生じる新たな問題、最重要ポイントが組織の機能不全に関わっている場合の対処法なども取り上げています。

  • ・第11章では、戦略は強みを軸に組み立てるのが王道であるとして、優位性の基本要素や創出方法に加え、規模の経済やネットワーク効果を拡大する方法を解説しています。
  • ・第12章では、テクノロジー絡みの問題で戦略を立てるときには技術の進歩に注意しなければならないとして、フォーカスすべき技術進歩の「長い波」と「短い波」、補完的資産について解説しています。
  • ・第13章では、問題が組織自体である場合は組織の対応力が不足しているケースであるとして、外圧などによる転換点、大企業における慣性と規模について掘り下げ、組織改革・組織再生への取り組みを紹介しています。

第4部では、トップを迷わす誘惑として、ミッションを掲げて意思決定することは無意味であること、戦略と目標管理の違いを紐解いています。

  • ・第14章では、よい目標は優れた戦略策定の結果として導き出されるものであるとして、目標設定の意味を説き、悪い目標の特徴を示しています。
  • ・第15章では、戦略と目標管理は違うがどちらも重要であるとして、目標管理の主流となっているバランスト・スコアカード(BSC)の有効範囲について解説しています。
  • ・第16章では、四半期ごとの企業収益の追求(90日ダービー)という短期指向の問題、その背景となるエージェンシー理論(株主価値とインセンティブ)の欠陥を指摘し、90日ダービーの罠を脱する方法を提言しています。
  • ・第17章では、変化の激しい現代においては長期展望に基づく戦略プランニングは限界があり、ビジョンやミッション・ステートメントは戦略策定の役には立たないことを掘り下げています。

第5部では、長期予算計画を立てるだけの戦略プランニングとの違いを明らかにし、課題に基づいて進める「戦略ファウンドリー(戦略策定プロセス)」を紹介しています。

  • ・第18章では、戦略策定あたっての思い込みや丸投げを改め、権力や地位の影響を受けない、状況分析が終わるまでは議論しないといった留意事項、経営幹部にとって重要なバイアスへの対応策について解説しています。
  • ・第19章では、戦略ファウンドリーの具体例として、参加者の構成や人数、1日目から3日目の進め方を、事例を示しながら紹介しています。
  • ・第20章では、戦略ファウンドリーを成功に導くための留意事項を示し、そのための基本ツールを紹介しています。

戦略の策定とは、単なる意思決定ではない。

意思決定の場合、とりうる行動の選択肢があらかじめリストアップされていて、その中から選ぶことが想定されるが、戦略を立てるときはそうではない。

まずは課題の特定から始まる。

また戦略策定と目標設定はちがう。

戦略は組織が直面する課題から始まるのであって、先に最終到達地点としての目標を設定するのは順序があべこべである。

戦略を立てると言いながら実際には目標を立てている人は、誰かがどこかで課題を解決してくれるとでも考えているのだろう。

最重要ポイントに集中攻撃する戦略

戦略とは、組織の運命を決するような重大かつ困難な課題を解決するために設計された方針と行動計画の組み合わせを意味する。

  • ・戦略とは単に目標を掲げることではないし、問題解決の一種と捉えるべきである。
  • ・現在何が問題なのかを理解せずに解決することはできない。
  • ・戦略は、組織が直面する課題、または逃してはならない重大な機会を特定し、理解するところから始まる。
    それは、競争状況や法律や社会規範の変化によって生じるかもしれないし、組織自体に由来するかもしれない。
  • ・直面する状況の理解が深まるにつれて、成否を決すると同時に現実的に解決可能な最重要ポイントが見えてくる。

課題を診断したうえで解決を考え抜くことこそ、戦略を立てる最善の方法である。

課題を分析すると同時に手持ちのリソースを点検し、最大の難所を乗り越える方法を練る。

戦略を設計するときには、想像力と、実際に使われている戦略の知識を組み合わせ、それぞれ使えそうなところを活用することが必要である。

課題の最重要ポイントは、さまざまな条件、リソース面の制約、方針の衝突などが重なって摩擦熱を発するようなポイントである。

最重要ポイントは、単に難しいだけでなく成否を分ける勝負所であって、かつ、集中的に取り組めば克服可能な難所を意味する。

戦略は継続的なプロセスであることが認識されれば、組織はそういうものとして戦略に取り組むようになり、漠然とした目標やスローガンを連呼するような愚は犯さなくなる。

戦略策定プロセスは、問題を解決し好機を生かす生産的で起業家精神にあふれた仕事になる。

戦略を考えるときには、さまざまな問題や野心や願望は棚上げにして、他といちばん差をつけられそうなところ、「勝てる」ところにフォーカスしなければならない。

戦略の要諦

戦略の要諦

『戦略の要諦』を参考にしてATY-Japanで作成

戦略を立てる最善の方法は、困難な課題に正面から立ち向かうことである。

  • ・最初にすべきは困難な問題をじっくり見つめ、その構成要素やそこに作用している要因を理解する。
  • ・そうすれは、何を目指すべきか、そのためにどう行動したらいいか、どのルートをとるべきかが見えてくる。
  • ・その過程で、最重要ポイント(クリアすれば成功がグッと近づくポイント)を見極める。
  • ・ポイントを見極めたら、アタックする方法を考え、その方針でいいかどうか再検討する。

難所をクリアするための能力やツールなど、活用できるリソースを確認する。

魅力的な誘惑に負けたり横道にそれたりしないように注意する。

  • ・ミッションステートメント作りに何日もかけるとか、四半期業績目標の進捗状況チェックに毎日時間を費やすことは避ける。
  • ・目標管理を戦略と混同しない。

グループやワークショップ方式で戦略を立てるやり方は落とし穴が多いと心得る。

  • ・グループで臨む場合でも、必ず困難な問題をじっくり見ることから始める。
  • ・勇み立って一足飛びに結論に飛びつかない。
  • ・最重要ポイントは何かを見極め、それを乗り越える一貫した方針を考える手順は、一人でもグループでも変わらない。
戦略を立てるスキルを形成する三つの要素

三つのスキルはどれが欠けてもならず、三つが揃って初めて課題の核心(最重要ポイント)に全力集中できるようになる。

スキル1.本当に重要なのはどれで、後回しにしてよいのはどれかを見極める能力

スキル2.重要な問題の解決は手持ちのリソースで現実的に解決可能なのかを判断する能力

スキル3.リソースを集中して投入する決断を下す能力
貴重なリソースを小出しにしたり、一度にいろいろなことに手を出したりする愚を犯さない能力

高邁なパーパスを掲げても、利益を優先しても、本書が論じる課題ありきの戦略にはまったく役に立たない。

読者が戦略とは問題解決の特殊な形であり、それは長い旅であり、困難な課題への取り組みであるという私の主張に同意していただくなら、ミッション・ステートメントが戦略策定の足しにならないことも理解していただけるだろう。

そんなものに時間と労力を注ぐのは無駄である。

会社を率いるのにビジョン・ステートメントもミッション・ステートメントもいらない。

必要なのは、現在直面する変化やチャンスに対応する戦略を考え、実行することによって、あなた自身で実際のミッションを作り出すことだ。

ミッションを世間に公表しても、宣伝効果はあるかもしれないが、経営の指針とはならない。

そもそもミッション・ステートメントは流行や経営者によってあっさり変化する。

用意されたリストから戦略を選ぶということはできない。

戦略はあなたが考え出すものだ。

診断に基づいて解決策をあなたが何通りか考え、その中から最善と判断したものをあなたが選ぶ。

そして具体的で一貫性のある行動計画に落とし込んでいく。

まとめ(私見)

本書は、長年の研究と豊富なコンサルティング経験に基づいて、戦略をめぐる誤解を解きほぐし、戦略を立てる最善の方法についてまとめた一冊です。

困難な課題を見つけ、最重要ポイントを見極め、誘惑に迷わされず、課題解決のための一貫性ある行動計画を立てるといった、戦略の策定プロセスを詳細に解説していますので、ビジネスリーダーの方々が自身の事業戦略を策定する際に大変参考になります。

また、主な分析ツールやフレームワークを診断に使う際の留意点についても言及していますので、コンサルタントの方々が適切に活用していくうえで参考になります。

戦略課題に取り組むうえでの重要なステップは、課題を正しく診断することで、今何が起きているのかを理解し、最重要ポイントを特定し、とるべき妥当な行動方針を決めることである。

そして、効果的な戦略は、直面する課題を洗い出し、さらにリソースの制約や競争状況を考慮し、そこに野心が加味されるところから生まれるとしています。(但し、野心には慎重な吟味が必要)

一方、戦略をめぐる誤解やトップを迷わす誘惑を紹介し、その対応策を示しています。

目標が先ではない。

  • ・リーダーが目標を決めた場合には、会社にとって何が重要か、どこにリソースとエネルギーを集中させるかを決めたことになる。
  • ・目標は、あくまでも管理のためのツールであり、行動の指針として経営陣や各レベルのマネジャーが設定するものである。
  • ・重要な課題や機会を分析も理解もしないで恣意的に目標が決められたとすれば、それは裏づけのない目標である。
  • ・良い目標とは、優れた戦略策定の結果として導き出され、組織を前へ進ませるような行動を指し示すものである。

戦略目標を並び立てても戦略にはならない。

  • ・戦略とは、ある状況に作用する要因を診断・分析し、どう取り組むかに関する論理的な主張でなければならない。数字の洪水で思考を押し流してはならない。
  • ・企業の直面する課題が現在の業務効率とは別のところにある場合、バランスト・スコアカードは解決の手掛かりにはならない。
  • ・既存事業の見直しや新規事業の開拓には、バランスト・スコアカードは有効ではない。

エージェンシー理論に基づくインセンティブ・プログラムを用意しても、戦略的な問題は解決しない。

  • ・エージェンシー理論は、株主価値と投資リターンを高めることこそが企業の歩むべき道を照らす北極星であると表現されるが、この理論は経営者にやる気を出させるインセンティブ以上の複雑な問題は扱えない。
  • ・戦略を立てる能力はボーナスをはずむと伸びるものではないし、この方面の無能力がボーナスで解消されるわけでもない。

ミッションを公表しても、経営の指針にはならない。

  • ・どうしても何かぶち上げたいならモットー程度にとどめる。
  • ・モットーは格言や金言の類であり、感情に訴え、気分を高揚させる。

さらに、分析ツールやフレームワークについても、慎重に活用すべきであると警告しています。

マイケル・ポーターの「5フォース」フレームワークは、「産業の収益性」といった概念には意味がない。

  • ・フレームワークの問題点は、現実の産業の大半は構成企業の利益率がまちまちであるということである。
  • ・あくまでも産業のパフォーマンスを分析するためのツールであって、個別企業のパフォーマンスが対象ではない。
  • ・一つの産業について、5フォース一つひとつの要因を細かく見ていけば、役に立つヒントが得られる可能性は高い。

なお、フレームワークは状況を分析するうえで役に立つこともあるとしながら、使う際にどんな誤りが起こり得るかを紐解いています。

本書では、投資意思決定ツール、BCGマトリクス、破壊的イノベーションの理論について紐解いていますが、他にも、バリューチェーン分析、購買行動モデル、多項ロジットモデル、マッキンゼーの7Sフレームワーク、ブルー・オーシャン戦略、シナリオ開発、ベンチマーキング、製品ライフサイクル理論、根本原因分析などのツールがあるとしています。

どのツールも、少数の要素にのみ注目していて、何らかの前提の上に成り立っているため、前提に合致しない状況でツールを適用すると、道を誤ることになりかねないと警告しています。

戦略は、状況変化、直面する課題、スキルと知識、リソース、機会の緻密な分析に裏づけられた判断に基づかなければなりません。

戦略を立てるとは、何をすべきかを熟慮のうえに判断することです。

長期予算計画を立てるだけの戦略プランニングとは違うし、目標管理とは別物です。

本書は、戦略をめぐる誤解を改めて確認し、戦略とは何か、戦略を策定することとはどういうことなのか、その戦略は自分自身が考え出すものであることを認識できる一冊です。

目次

はじめに フォンテーヌブローの森にて

第1部 課題に基づく戦略と最重要ポイント

第1章 戦略自動作成機は存在しない
第1章 課題を解きほぐす
第3章 戦略は長い旅路である
第4章 どこなら勝てるか
第5章 戦略と成長
第6章 戦略と権力
第7章 行動の一貫性

第2部 診断

第8章 アナロジーとリフレーミング
第9章 比較とフレームワーク
第10章 分析ツールの活用は慎重に

第3部 最重要ポイントを攻略する

第11章 強みを探す
第12章 イノベーション
第13章 組織の機能不全

第4部 リーダーを迷わす誘惑

第14章 目標が先ではない
第15章 戦略と目標管理はちがう
第16章 現在の財務実績は過去の戦略の結果である
第17章 戦略プランニングの活用と誤用

第5部 戦略ファウンドリー

第18章 ラムズフェルドの疑問
第19章 戦略ファウンドリーの擬似体験
第20章 戦略ファウンドリー:コンセプトとツール

参考

戦略の要諦 | 日経BOOKプラス

はじめに:『戦略の要諦』 | 日経BOOKプラス

Richard P. Rumelt | UCLA Anderson School of Management

Richard Rumelt / The Crux: How Leaders Become Strategists

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