このページ内の目次
以前、デジタル化による事業構造を既存企業が変革していく際の「組織変革」と「価値創造プロセス」について、取組み概要や留意点をこれまでの経験から整理しました。
そして、「価値創造プロセス」を進めていく上では「3つの課題(壁)」があり、それらを解決していくためには経営者の支援が必要であることを明らかにしました。
また、『集中講義デジタル戦略 テクノロジーバトルのフレームワーク』(根来 龍之、2019年8月8日、日経BP)でも、「既存企業の戦略選択における2つの制約」について解説されていますので整理します。
「3つの課題(壁)」を解決するための基本的な対策
近年、技術革新の短サイクル化、デジタル化やモジュール化などにより、製品・サービスの差別化が難しくなってきていると同時に、顧客の価値基準も製品・サービスそのものの機能ではなく、それらを利用した際の体験価値をより重要視するようになってきています。
この様な状況において、企業はデジタル技術を活用することで、ビジネスモデルを変革していく必要があり、そのためには組織風土や人材の変革も重要になっています。
しかし、ほとんどの企業は、これまでの経営環境に適切に対応し、最適化した組織で運営してきていますので、全社的な組織変革を一気に進めることは難しい状況にあります。
変革を推進していく上では「3つの課題(壁)」があり、これらを解決していくためには、「両利きの経営」を実行する経営者のリーダーシップが必要です。
1.明確な意思決定
- ■状況
プロジェクトで考えた提案に対し、実行の是非を明確に意思決定しない。
- ■基本的な対策
・プロジェクトの推進に対して経営者が適時フォローし、結果に対して責任を負う。
・途中に出てきた悩みに対し、経営者自らがメンターとなってアドバイスする。必要によっては、変革の経験者をメンターとして設置する。
2.リソースの確保
- ■状況
ビジネスアイデアを試行や検証する際、社内の関係部門から技術や要員及び時間などの支援が得られない。
- ■基本的な対策
・変革の重要性やプロジェクトの位置づけを経営者自身の口で発信し、全社で協力するよう周知徹底する。
3.社内外との連携
- ■状況
・リソースが確保されても、既存組織の利害が依然として優先され、連携してもらえない。
・また、他社と連携しようとした場合、一部の技術の公開や共同作業など、既存事業部門にオープンイノベーションの理解が得られない。(意識が低い)
- ■基本的な対策
・既存組織に対して明確に指示する。また、業績評価指標を別枠で設ける。
・他社との折衝に当たっては、公開する部分(オープン)と競争する部分(クローズ)とを見極め、経営者が先頭に立って推進する。
既存企業の戦略選択における制約
根来 龍之『集中講義デジタル戦略』日経BP(2019年)を参考にしてATY-Japanで作成
既存企業には、既存製品と既存資源を持っているが故の「戦略の制約」と、既存事業を持つ大企業としての「組織の制約」があるとしています。
戦略の制約
1.製品市場の「戦略矛盾・共食い」問題
- ・新技術・新ビジネスモデルは当初は既存顧客が期待する性能には合わない。
- ・多くは従来製品を求めているし、まだ大きな市場規模が見込まれ、当面の収益性も従来品の方が上回っている。
- ・社内には既存事業の維持を望んでいる人が多いため、徐々に変化したいと考えるのは必然だと感じてしまう。
2.資源の「不足・余剰」問題
- ・経営資源がそのまま使えれば余剰は生まれないが、プロセス代替が大きくなると余剰が発生する。
- ・雇用や取引先の整理は避けたい。
- ・そのため、なるべく既存の事業を継続したいという誘因が働く。
組織の制約
1.「官僚的組織」の安定化問題
- ・大企業では、分業化した状態でコミュニケーションコストを下げるため、手続きをルーティン化してフォーマットが確立している。
- ・仕事が細かくなったことで部分最適で判断するようになり、人に対して調整を行うコストを下げるために前例を踏襲するようになる。
2.既存事業への「組織最適化」問題
- ・既存企業は、長年の実践の結果、マネジメントの構造と業務プロセスが確立している。
- ・新ビジネスは、市場予測が難しい。
- ・既存事業は、コア人材を手放したくないし、継続して投資を求める。
- ・既存事業は、評価基準やマインドが確立している。
デジタル技術の進展に伴い企業の経営環境が大きく変わろうとしている現在に限らず、企業は常にイノベーションを起こしていかなければなりません。
そのためには、既存の事業で安定的な収益を確保しながら、新たな事業を探索し、次の時代の事業を確立していくことが必要となります。
そこで、既存事業の強みをさらに磨き込んでいく活動(深化)と、既存の認知を超えて広げていく活動(探索)のバランスを取りながら、高いレベルで推進していく「両利きの経営」が重要となります。
この「両利きの経営」を実行していくのは、経営者だけです。
関係する情報
書籍(当サイト)
-
集中講義 デジタル戦略
テクノロジーバトルのフレームワーク根来 龍之(著)
出版社:日経BP(2019/8/8)
Amazon.co.jp:集中講義 デジタル戦略 -
チャールズ・A・オライリー(著)、マイケル・L・タッシュマン(著)、入山章栄(監訳・解説)、冨山和彦(解説)
出版社:東洋経済新報社(2019/2/15)
Amazon.co.jp:両利きの経営
デジタル化を推進する組織
関連記事
前へ
プラットフォームの構築、一人勝ちする理由と先行者への対応(攪乱要因)
次へ
ハイプ・サイクル(ガートナー)2019年版発表、2018年版との比較で見えてきた先進技術の動向