このページ内の目次
出典:『情報通信白書 平成30年度版』総務省(2018年7月)
デジタルビジネス・トランスフォーメーション(DX)を実行していくうえでは、専門とする組織を立ち上げ、牽引していくことが有効です。
『情報通信白書 平成30年度版』(総務省、2018年7月)や『DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくる』(マイケル・ウェイド、2019年8月23日、日本経済新聞出版社)、その他の一般の意見においても、同様の傾向があります。
そこで、デジタルビジネス・トランスフォーメーション(DX)を実行するための組織を設置することの必要性について整理します。
CIOやCDOなどの設置による組織改革の必要性
『情報通信白書 平成30年度版』(総務省、2018年7月)によると、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)やCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)などの設置による組織改革の必要性があるとしています。
その一方で、「業務の一部へICTを導入することに対する現場部門の反発」や「現場部門と情報システム部門の調整・役割分担」などの課題があることも指摘しています。
- ・企業におけるAI・IoT等を含むICT等の導入・利活用によるプロセス面・プロダクト面の変革は、経営層が積極的に関与し、トップダウンでの推進体制が整わなければ実現は難しい。
- ・実現にあたっては、ICTのポテンシャルを引き出すことのできる組織整備が求められるが、変革の規模が大きく、かつ企業活動の広範にわたるものであればあるほど、経営層のコミットと変革に責任を持つリーダーが必要になる。
そして、企業向け国際アンケートによると、回答企業におけるCIO・CDOの設置率は、諸外国と比較して日本は低い状況です。
日本は「設置はわからない」の割合がCIO・CDO共に50%を上回っていることから、そもそも自社におけるCIO・CDOに係る取り組み状況の認知度が低いことがわかります。
- ・CIOの設置率:日本 11.2%、米国 36.2%、英国 44.8%、ドイツ 35.6%
- ・CDOの設置率:日本 5.0%、米国 16.8%、英国 27.4%、ドイツ 16.4%
CIO・CDOの設置企業はデジタル化に関する理解度が高い傾向
出典:『情報通信白書 平成30年度版』総務省(2018年7月)
CIO・CDOを設置(又は設置を検討)している企業において、デジタル化に関して「ほとんどの従業員の間で理解されている」の回答率が29.7%であるのに対し、その他の企業では8.5%と3倍以上の差が開いています。
この結果から、CIO・CDO設置(検討)企業においては、現場の社員における情報化・デジタル化の推進に対して理解が進んでいることが読み取れます。
さらに、CIO・CDOを設置(検討)している国内企業の方が、そうではない企業に比べて、ICTの導入率や、ICTによる雇用や労働力向上にかかる取組みの実施率が高いという結果もあります。
デジタルビジネス・アジリティ(敏捷性、迅速さ)
デジタル・ボルテックス(デジタルの渦:Digital Vortex)によって変化し続ける市場に、組織が適応していくためには「変化するための能力」が必要となります。
この「変化するための能力」を、『対デジタル・ディスラプター戦略』(日本経済新聞出版社、2017年)ではデジタルビジネス・アジリティ(Digital Business Agility)と呼んで、詳細に説明をしています。
- ・デジタルビジネス・アジリティの目指すところは、大きく複雑な組織に、「方向転換」する能力を与えること。
- ・防衛的戦略と攻撃的戦略の両方を追求しながら、組み合せ型ディスラプションを生むための新しいアプローチが必要であり、その一連の能力のこと。
- ・また、将来を占って計画を立てる「計画的戦略」と、予期せぬ出来事に対処するための「創発的戦略」とに区別するとしたら、アジリティは出来事や機会に応じて「創発的戦略」を実行できるようになる一連の能力のこと。
デジタルビジネス・アジリティのための核となる3つの能力
デジタルビジネス・アジリティには、核となる3つの能力があり、これらが調和することにより、組織に敏捷性・迅速さが生まれるとしています。
1.ハイパーウェアネス(察知力)(Hyper-awareness)
- ・関連データや洞察を収集し、置かれている状況において大きな意味を持つ変化を察知する。
- ・高める方法:行動認識、状況認識
2.情報に基づく意思決定(Informed Decision-Making)
- ・データを解析して検知を吸収し、適切な人材を引き込み、一貫して正しい決定をくだす。
- ・高める方法:開放的意思決定、拡張的意思決定
3.迅速な実行力(Fast Execution)
- ・うまくいっていなかったり、時代遅れになったりしているアプローチを捨てて迅速に実行し、素早く規模を拡大する。
- ・高める方法:動的リソース、動的プロセス
特に既存企業においては、社内に分散(サイロ化)している人とデータをつなぎ合わせて「デジタル能力」を実装していくことが重要となります。
社内に分散している組織リソース(人、データ、インフラ)をかき集めて連携させることにより、新たなカスタマーバリューを創出、あるいはデジタル・ビジネスモデルを実現できます。
その際に、デジタルビジネス・アジリティは結びつきを強化し、いつでも変革可能な企業を生み出すことができます。
その結果、新たな情報や関連する情報をもらたす「弱い結びつき」と、組織に信頼と連帯感をもたらす「強い結びつき」をつくり出すことができます。
- ・弱い結びつき
情報源の巨大なエコシステムからアイデアとデータを集めることにより、社内を「ハイパーアウェア(察知)」な状態にしてくれる。
- ・強い結びつき
変革プログラムの実行を妨げる組織的、技術的、個人的な障害を乗り越えるために、情報をより効率的に伝達することにより、「ハイパーウェアネス(察知力)」「情報に基づく意思決定」「迅速な実行力」を生み出す。
「デジタル」と「変革」は別物
『DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくる』(マイケル・ウェイド、2019年8月23日、日本経済新聞出版社)では、デジタルビジネス・トランスフォーメーション(DX)を実行していくうえで、84%が専門組織又は特別のグループを設立しているという調査結果があります。
また、以下の調査結果もあります。
- ・「デジタルは全マネジャーの仕事であるが、変革はそれに当てはまらない」が、ほぼ半数
- ・「変革はマネジャーの日常業務に加えられるものではない」が、80%
これらの調査結果から、多くの企業が変革に特化した部門を設立しているものの、「デジタル」と「変革」は別物で、「分けて考えていくべきである」ということになります。
一方、専門組織のマネジメント方法は、さまざまであることも指摘しています。
部署や部門、地理レベルでの推進、一元化もしくは部門横断型のアプローチを採っているなど、多くの企業が試行錯誤で推進しているようです。
また、一元型か分散型かの議論に加え、だれが推進(監督)責任者となるのか、多くはエグゼクティブクラスが任命されるものの、その担当職(出身分野)もさまざまなようです。
イノベーションをめぐる領域で繰り広げられていることと同様の議論です。
まとめ(私見)
デジタルビジネス・トランスフォーメーション(DX)を実行していくうえでは、専門とする組織を立ち上げ、牽引していくことが有効です。
その組織の責任者であるCDOは、デジタル技術のみならず、デジタルに適応する組織の体質改善の責任者として、重要な役割を果たすことになります。これまでは、まず経営戦略を決めてからICT戦略を決めていましたが、デジタルの場合はビジネスと一体で戦略を考えていくことが必要となりますので、CDOに経営的視点の素養が求められます。
デジタルビジネス・トランスフォーメーション(DX)の目的の一つは、新しいビジネスモデルを構築することですが、「どのくらいのコストをかければ、どのくらいの売上が見込めるか」といったことを事前に予測することは難しく、不確実なデータの中で推進していかなければなりません。
『情報通信白書 平成30年度版』や『DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくる』、その他の一般の意見においても、実行する専門組織を設けることには異論はないようです。
そして、専門組織がデジタルビジネス・トランスフォーメーション(DX)を実行することによって効果が出ていることも、多くの調査結果から明らかになっています。
しかし、『情報通信白書 平成30年度版』によると、日本のCIO・CDOの設置率は欧米に比べて低い状況です。
特に既存企業においては、「組織のもつれ」や「変革のジレンマ」が存在していますので、それらの課題を解決していきながらデジタルビジネス・トランスフォーメーション(DX)を実行していかなければなりません。
そのための専門組織の有無もさることながら、実行を牽引する責任者や組織体、実行内容そのものが重要です。
参考
情報通信白書平成30年版、総務省(2018年7月)
CIOとは | 政府CIOポータル
政府CIOポータルにおけるCIOの役割定義は、「企業グループ全体のIT活用を俯瞰し、業務、ISの構造と共に、企業グループ全体のIT部門の機能と役割を変革し、企業の“全体最適化”実現に貢献する。」としています。
デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会、METI/経済産業省
DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~、2018年9月7日 中間取りまとめ、METI/経済産業省
デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討(PDF)
2018年5月11日 第1回 配布資料
関係する書籍(当サイト)
-
マイケル・ウェイド(著)、ジェイムズ・マコーレー(著)、アンディ・ノロニャ(著)、根来 龍之・武藤 陽生(翻訳)
出版社:日本経済新聞出版社(2019/8/23)
Amazon.co.jp:DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくる -
マイケル・ウェイド、ジェフ・ルークス、ジェイムズ・マコーレー(著)
出版社:日本経済新聞出版社(2017/10/24)
Amazon.co.jp:対デジタル・ディスラプター戦略
デジタル化を推進する組織
関連記事
前へ
書籍 DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくる/DBTセンター・マイケル・ウェイド(著)
次へ
DXの実行責任者はCDO、さらには最高トランスフォーメーション責任者(CTO)と変革推進室