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デジタル化の時代では、あらゆる産業でディスラプション(破壊)が進行しています。
AIやIOT(Internet of Things)をはじめとする、デジタル技術を活用した新たなビジネスやサービスが展開され、さらにはビジネスモデルをも大きく変えようとしています。
利用者は「感動する新しい体験」を享受しはじめ、「モバイル」「ソーシャル」「ビッグデータ」「クラウド」のプラットフォームを活用し、新たなデジタル技術を組み合わせて提供している企業は、いっきに市場を抑えてしまうこともあります。
その状況は、多くの事例が示しているように、身近でも感じ取ることができるようになりました。
これらは、消費者を対象とするB2C企業に限らず、業界を下支えているB2B企業にも影響があります。
中間企業の反発を気にしてバリューチェーンを変革したくないと躊躇している間に、他のB2B企業が新たなビジネスモデルで価値(バリュー)を提供して、業界構造を変えようとしている事例もあります。
過去からの延長で戦略を策定し、組織化し、マネジメントしている企業は、デジタルを活用した企業に足元をすくわれることになります。
そこで企業は、デジタル技術やサービスを活用した新たな戦略を立案し、迅速に実行していく必要があります。
先日、『デジタルトランスフォーメーションの実際』『対デジタル・ディスラプター戦略 既存企業の戦い方』の二つの書籍をご紹介しました。
『デジタルトランスフォーメーションの実際』では、日本企業がデジタルトランスフォーメーションを推進するうえで有効な基本戦略について、「デジタルパッチ」「デジタルインテグレーション」「デジタルトランスフォーメーションの完遂」という3つから成る戦略(ステップ)を提言しています。
また、『対デジタル・ディスラプター戦略 既存企業の戦い方』では、特に既存企業を対象にして、全ての業界で進行している「デジタル化」に対する勝ち残りをかけた戦い方について、「3つのカスタマーバリュー」「4つの対応戦略」「3つのデジタルビジネス・アジリティ(敏捷性、迅速さ)」を提言しています。
以下では、『対デジタル・ディスラプター戦略 既存企業の戦い方』を参考にして、「3つのカスタマーバリュー」「4つの対応戦略」「3つのデジタルビジネス・アジリティ(敏捷性、迅速さ)」を個人的な視点から整理します。
二つの書籍ともに、経営者や事業企画を担当されている方々にとって、今後の事業の方向性を考えるうえで大変参考になります。
特に既存企業は、過去からのビジネス環境に適応した態勢があり、それらを破棄して方向転換することは難しいのかもしれませんが、リーダーシップを発揮して「意識改革」と「迅速な実行」を牽引していかないといけません。
カスタマーバリューとビジネスモデル
デジタル・ディスラプターは、3種類のカスタマーバリューを創出しており、15種類の特徴的なビジネスモデルの内複数を組み合わせた「組み合わせ型ディラプション」で顧客に届けている。
カスタマーバリュー | ビジネスモデル | バリュー |
---|---|---|
【コストバリュー】 価格を下げたり、 その他の経済的利益を 提供したりすることで、 競争優位を高める |
【無料/超低価格】 ・対価を求めず製品やサービスを 無料提供 ・キャッシュバックやリワード ・薄利もしくはゼロ ・フリーミアム |
・徹底的なコスト排除 ・ロイヤリティや貢献に対して バリューが増加 |
【購入者集約】 ・人や時間に対してコストを分散 |
・時間をかけたコスト償却 ・共同購入による割引 ・規模の経済 |
|
【価格透明性】 ・価格を比較することで、 有利な条件で取引 |
・より多くの提供業者の中から 選べる ・比較購入 |
|
【リバースオークション】 ・逆オークション形式の販売 ・競争入札 ・投げ銭方式 |
・値下げ圧力 ・戦略的調達 |
|
【従量課金制】 ・使用あるいは消費した分だけ 対価を支払う ・サブスクリプションサービス ・クラウドサービス(XaaS) |
・変動費 ・低リスク ・ベンダーの経費削減 |
|
カスタマーバリュー | ビジネスモデル | バリュー |
【エクスペリエンス バリュー】 顧客に優れた体験を 提供することで、 競争力を高める |
【カスタマーエンパワメント】 ・セルフサービスを可能にする ・中間業者の排除 ・DIY |
・独自性 ・コントロール力 ・利便性の向上 |
【カスタマイズ】 ・製品やサービス、 体験をパーソナライズする |
・カスタム性の向上、 コンテクスト化 ・外見あるいはデザインの 改良 |
|
【即時的な満足感】 ・製品やサービス、付加価値体験を リアルタイムで、もしくはモバイル 機器などの新しいデバイスを 通して届ける ・非物質化 |
・妥当性 ・即時性 |
|
【摩擦軽減】 ・さらなる単純化 ・効率の向上 ・情報の集約 |
・業務プロセスでの待機時間や ボトルネックを除去する |
|
【自動化】 ・解析や低コストの労働力を使った プロセスの自動化 |
・時間の節約 ・実行品質の改善 ・安い賃金の利用 |
|
カスタマーバリュー | ビジネスモデル | バリュー |
【プラットフォーム バリュー】 顧客にポジティブな ネットワーク効果を 提供することで、 競争力を高める |
【エコシステム】 ・標準化された道具や基盤、 環境を提供して、 他社が独自に価値を 提供できるようにする |
・エコシステムの他の参加者たち との共同作業 ・再現性やリソースの有効活用 ・エコシステムを通して、 製品やサービスを収益化する チャンス |
【クラウドソーシング】 ・参加者のエコシステムから 何らかの提供を受ける ・多様な参加者の存在によって、 バリューを創出する |
・より大量かつ多様性に富んだ アイデア ・新しい労働の確保 ・貴重な独自情報の入手 |
|
【コミュニティ】 ・受信者のネットワークやコミュニティを 通した情報の流布 ・伝達の効率性により、バリューを 創出する ・クチコミのコンテンツ |
・コミュニケーションや配信 ・実行力の最適化 |
|
【デジタル・マーケットプレイス】 ・個人と集団を結びつける ・マーケットプレイス機能の創出 ・共有型経済とP2Pの力学 |
・売買や取引から利益を得る ・リソースのソーシャル化、 可動化 ・利用者の教育 |
|
【データオーケストレーター】 ・センサーや機械のデータを組み合せて、 新しい洞察を引き出すために解析する |
・リアルタイムデータ ・データの新しい供給源 ・複雑な状況のパターン認識 ・意志決定の最適化 |
対応戦略とカスタマーバリューの形態
防衛戦略は、バリューバンパイアを払いのけ、攻撃されている事業の寿命を最大限に延ばし、攻撃戦略は、バリューベイカシーを追求することを目的としている。
防衛的戦略 | 攻撃的戦略 | |||
---|---|---|---|---|
収穫戦略 | 撤退戦略 | 破壊戦略 | 拠点戦略 | |
戦略概要 | ディスラプティブな 脅威を遮断し、 攻撃されている事業 分野のパフォーマ ンスを最適化する |
攻撃されている事業 分野から戦略的に 撤退する |
自らの中核事業を ディスラプトし、 新しい市場を 生み出す |
ディスラプションと 関係する競合利益を 持続させる |
コスト バリュー |
○ | ○ | △ | ○ |
エクスペリエンス バリュー |
○ | ○ | or ○ |
and ○ |
プラットフォーム バリュー |
or ○ |
and ○ |
デジタルビジネス・アジリティ(敏捷性、迅速さ)
デジタル化の世界では、アジリティは組織が使える最も重要な武器であり、強固なアジリティなしではデジタル・ボルテックスでは成功し続けることはできない。
目指すところは、大きく複雑な組織に、「方向転換」する能力を与えること。
能力 | 高める方法 | 概要 |
---|---|---|
【ハイパーアウェアネス】 (観察力) 関連データや洞察を収集し、置かれている 状況において大きな意味を持つ変化を 察知する。 ⇒ 他の2つの能力に「データ」と 「洞察」を供給 |
行動認識 | ・従業員を通して情報を得る =インサイドキャプチャー(洞察獲得) ワークパターン認識(働き方の測定) ・顧客の行動をとらえる =隠れたパターンの発見とデジタルと 物理的の両ソースの組合せ |
状況認識 | ・ビジネス環境について洞察を得る ・オペレーション環境について、 洞察を得る |
|
【情報に基づく意志決定】 データを解析して検知を吸収し、 適切な人材を引き込み、 一貫して正しい決定をくだす。 ⇒ 「データ」を「能力」に変える テクノロジーが不可欠 |
開放的意志決定 | ・適切な個人またはグループ見つけ、 組み合わせる ・効率的かつ効果的にアイデアが 共有できる環境を整備する ・共有された知恵を集め、情報に基づく 意思決定する手段を与える ・無意識の偏見を捨て、リアルタイムで 協働する |
拡張的意思決定 | ・「ユビキタス解析」で従業員の 意志決定力を高める ・現場で分析して業務を改善する ・セールスサイクルを俯瞰的に解析する |
|
【迅速な実行力】 うまくいっていなかったり、 時代遅れになったりしているアプローチを 捨てて迅速に実行し、素早く 規模を拡大する。 ⇒ 必要な能力の供給と業務変更に 対応できるエコシステムの整備 |
動的リソース | ・人材を絶えず変化するものと捉える ・IT部門を真の意味でビジネス パートナーになるようにする |
動的プロセス | ・迅速な改善 いち早くプロセスを可能にする ・迅速な介入 テクノロジーでプロセスを最適化する |
参考
『デジタルトランスフォーメーションの実際』関係
株式会社ベイカレント・コンサルティング
1998年創業、本社:東京都港区
戦略から業務・ITまでをカバーする日系総合コンサルティングファーム。
ハイテク、通信、IT、金融、製造、流通など幅広い業界で日本を代表する企業を総合的に支援している。
ベイカレント・コンサルティング(著)
出版社:日経BP社(2017/12/8)
Amazon.co.jp:デジタルトランスフォーメーションの実際
ベイカレント・コンサルティング(著)
出版社:日経BP社(2016/9/14)
Amazon.co.jp:デジタルトランスフォーメーション
『対デジタル・ディスラプター戦略 既存企業の戦い方』関係
IMD
IMD Japan
エグゼプティブ教育で世界トップクラスのビジネススクール
デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)
日本を代表するメンバー企業が集結し、ビジネスにイノベーションを起こすためのプラットフォームとして活動している。
DBISニュース
本書の紹介、国内企業への調査結果、デジタルビジネスアセスメント
デジタルビジネスアセスメント
企業のコアケイパビリティに関する数分のアセスメントを実施すると、暫定的な速報レポート、およびエグゼクティブレポートのリクエストをすることができる。
マイケル・ウェイド、ジェフ・ルークス、ジェイムズ・マコーレー(著)
出版社:日本経済新聞出版社(2017/10/24)
Amazon.co.jp:対デジタル・ディスラプター戦略
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