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企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則 スタートアップ×伝統企業
中垣 徹二郎 (著)、加藤 雅則 (著)、根来 龍之 (監修)
出版社:日経BP (2023/6/23)
Amazon.co.jp:スタートアップ×伝統企業
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日本企業のオープンイノベーションを総括する
関連書籍
2023年12月16日 チャールズ・オライリー『コーポレート・エクスプローラー』英治出版 (2023/2/3)
本書は、スタートアップへの投資とともに出資者を中心とした事業会社との連携を牽引してきた著者らが、「スタートアップ×伝統企業」の連携によってオープンイノベーションを推進していくための実践的ポイントを解説した一冊です。
著者のお一人は、シリコンバレーと東京に拠点を置くベンチャーキャピタル(VC)のDNX VenturesのPartnership Advisorで、もう一人は、経営陣に対するエグゼクティブ・コーチングを起点とした対話型組織開発を得意とし、「両利きの経営」の提唱者であるチャールズ・A・オライリー教授の日本における共同研究者です。
スタートアップ大国でありオープンイノベーションが活発な米国では、伝統企業もスタートアップの買収などによって進化しているのに対し、「自前主義」で成長してきた日本の伝統的企業とスタートアップの連携はかみ合っていないとしています。
そこで、大企業とスタートアップの性質の課題を乗り越え、両者をつないで持ち味をうまくかみ合わせる鍵は「ポリネーター(pollinator)」の存在であるとして、その行動や育成について詳細に掘り下げています。
ベンチャーキャピタリストの現場での実例、そこから得られた知見をふんだんに詰め込んで、ポリネーターの思考法と行動原則を紹介していますので、特に新規事業やイノベーションを推進しているビジネスリーダーの方々、さらにはトップやミドルマネジメント層、そしてスタートアップの方々にとって、自社に内在する強みを活かし、競争力を維持するうえで大変参考になります。
本書は3部で構成しており、オープンイノベーションを推進していくための実践的ポイント、そしてポリネーターの行動や育成について詳細に掘り下げています。
第1部は、オープンイノベーション思考への転換が必要になってきているとして、スタートアップ連携の必要性、自前主義からの脱却、組織カルチャーの刷新について解説しています。
- ・第1章では、クローズドイノベーションとオープンイノベーションとを対比したうえで、オープンイノベーションが必要になっている背景について、具体的な統計資料を示しながら整理しています。
- ・第2章では、オープンイノベーションが欠かせない時代になり、イノベーションの起点がテックスタートアップに移っているという認識から、オープンイノベーションを促すうえで重要な4つの活動についいて解説しています。
- ・第3章では、新たな価値を生み出すためには自社の固定した視点を転換しなければならないとし、その役割を担うポリネーターは自社の内側とは異なる視点を持ち、その視点を一段上げることが必要であるとして、視点を転換するために意識すべき3つのポイントを解説しています。
第2部は、ポリネーターの5つの行動原則について、それぞれ章を独立して詳細に解説しています。
- ・第4章では、スタートアップに認知され、信頼を獲得し、パートナーとして協業へ持ち込めるようになるために、レガシー企業が不得手な傾向にある「スタートアップの巻き込み」について5つの処方箋を示しています。
- ・第5章では、オープンイノベーションを実現するためには、新事業の種を見つけて運び、事業化していくために行動することが必要であるため、社内を巻き込んで協力を取り付け、社外企業の技術活用を提案し、組織を実際に駆動させるために必要となる4つの活動を示しています。
- ・第6章では、オープンイノベーションを成し遂げるためにはポリネーターと経営トップとの一体化は必要不可欠であるとして、ポリネーターが組織で機能するための重要な3つの要素を示しています。
- ・第7章では、予算が下りなければアクションは起こせないとして、ポリネーターが成果を出していくために欠くことのできない「資金の重要性」と、それを引き出すための実践法について、押さえておくべき3つのポイントを示しています。
- ・第8章では、オープンイノベーションを成功させるためには、組織カルチャーを変えることが欠かせないないが一朝一夕では変えられないとして、長期戦覚悟で粘り強く行動していくことが求められるポリネーターに向く人材タイプを2つ示しています。
第3部は、ポリネーターの育成と組織について、ポリネーターの育成と機能化、大企業がVCを活用するためのポイントを解説しています。
- ・第9章では、企業として継続的にポリネーター人材を確保していかないとオープンイノベーションを推進することは難しいとして、ポリネーターを育成して、機能させるための方法を解説しています。
- ・第10章では、VCはスタートアップにとって重要な存在であるが、オープンイノベーションを目指す大企業にとってもVCは頼れるパートナーにもなるとして、事業会社がオープンイノベーションの探索を続けていくために、どのようにVCを使えばいいのかを、VCの視点から具体策を提案しています。
さらに、2つの補論を加えて本書の解説を補完し、オープンイノベーションを成功させるポリネーターの役割について解説しています。
- ・補論1では、オープンイノベーションは「両利きの経営」を実践するうえで欠かせない経営手法の一つであるとして、両利きの経営の本来の意味を再定義して、オープンイノベーションとポリネーターの役割を位置付けています。
- ・補論2では、オープンイノベーションとイナーシャ(慣性)の問題を関連付けて、スタートアップとの連携を成功させるためにはイナーシャの克服が必要であること、そのためにポリネーターが果たすべき役割について論じています。
本書を執筆した目的は、ポリネーターの役割を可視化することだ。
スタートアップとの連携においては、「シリコンバレーのルール」など信頼関係の構築に欠かせない知識・姿勢が必要になるし、一方で大企業の「大きな歯車」を動かしていくためのコツをつかむことも欠かせない。
そうした点について、私のベンチャーキャピタリスト人生で見聞きした現場の実例、そこから得られた知見を余すところなく詰め込み、具体的な事例を交えながら、ポリネーターの思考法と行動原則を紹介していく。
オープンイノベーションに積極的に取り組んでいる日本企業のポリネーターの方々の経験談やアドバイスも多数紹介していく。
オープンイノベーション思考への転換の必要性
『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則』を参考にしてATY-Japanで作成
今やオープンイノベーションが欠かせない時代になり、同時にイノベーションの起点がテックスタートアップに移っている。
オープンイノベーションは、自社と外部を柔軟に行き来しながら商売の種を集め、効率的に組み合わせ、組織内で揉んでスピンアウトする手法である。
自社だけでは達成困難な事業であっても、外部の人材や技術、資金などを活用することで目標を達成し、新たな市場を開拓できる。
オープンイノベーションが必要になる主な背景
技術や製品のライフサイクルが短期化し、優れたサービスは一瞬で普及する時代になった。
今やイノベーションの起点は、伝統的大企業だけでなくテックスタートアップ企業であり、これは一過性のものではなく、これからもスタートアップはイノベーションの中心に位置する。
かつては大企業が優位だった経営資源のかなりの部分を、スタートアップでも利用できる環境が整ってきており、スタートアップであっても短期間で大企業に匹敵する規模にまで事業を成長させられる。
成長企業は、既存事業を補うための買収と、新しい領域拡大のための買収とで巨大化する。
大企業は、自社の成長戦略にスタートアップを対象としたM&Aを組み込むことで長期的な価値向上が実現でき、スタートアップにとってはM&Aが安定的な成長に資する選択肢となり得る。
ポリネーター(pollinator)とは
『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則』を参考にしてATY-Japanで作成
ポリネーター(pollinator)とは、植物の花粉を運んで受粉させ、花粉の雄性配偶子と花の胚珠を受精させる生物のこと。
本書におけるポリネーターとは、自社と社外を積極的に仲介し、既存ビジネスを補完するきっかけを作り、新しいビジネスの種づくりを仕掛ける。
大企業とスタートアップの協業を駆使していく役割も担っている。
スタートアップとの連携においては、信頼関係の構築に欠かせない知識・姿勢が必要になるし、大企業を動かしていくためのコツをつかむのも欠かせない。
- ・大企業
自社に内在する強みを活かし、競争力を維持するためには、受け身の姿勢から抜け出し、スタートアップとの組み合わせを探る必要がある。
- ・スタートアップ企業
創造的なアイデアを社会実装していくためにも、組み合っていく大企業を探さなければならない。
- ・ポリネーター
大企業とスタートアップの間を取り持ち、スピードとエネルギーを調整する。
既存事業の強化(補完)と新規事業開発において、スタートアップとのマインドギャップの橋渡しをする。
ポリネーターの存在意義は、社内外をつなぐ架け橋となってオープンイノベーションを実現することである。
ポリネーターは、「カルチャーが変わる」プロセスに働きかける存在である。
= 自社のカルチャーを変革するために動く全方位的サポーター
ポリネーターに求められる資質
- ・しなやかな柔軟性
組織アラインメントが異なる領域を自在に往復する。
- ・したたかな感性
それぞれの組織アラインメントを配慮しつつ、各組織の活動を全体の動きに連動させる。
- ・純粋性
自分の取り組みで会社全体を変えるというアスピレーション(想い)を持つ。
組織アラインメントとは両利きの経営を支える基本概念で、6つの要素間の整合性を整え、適合性というアラインメント(整列)をつくり出すことによって組織は機能するという基本モデル(整合性モデル)に立脚している。
- ・4つの基本要素:KSF(成功の鍵)、人材(能力・経験・スキル)、組織文化(仕事のやり方・行動様式)、組織や仕組み(組織構造・評価制度・手順)
- ・2つの前提要素:経営チームのリーダーシップ、戦略
ポリネーターは、スタートアップや起業家に囲まれ、揉まれながら、新しい行動パターンを習得していくポジションだ。
さらには、その行動パターンを必要に応じて社内にも浸透させながら、新しい事業を生み出して行かなければならない。
だが、ポリネーターのアクションが結果的に社内の組織カルチャー(行動パターン)を変えるきっかけになることがあっても、ポリネーター自身は経営陣でもなく、組織カルチャーを変える役割を直接的に担っているわけではない。
ではポリネーターがすべきことは何か。
それは「カルチャーが変わる」を支援することである。
まとめ(私見)
本書は、「スタートアップ×伝統企業」の連携によってオープンイノベーションを推進していくための実践的ポイントを解説した一冊です。
大企業とスタートアップの性質の課題を乗り越え、両者をつないで持ち味をうまくかみ合わせる鍵は「ポリネーター」の存在であるとして、ポリネーターの思考法と行動原則を紹介していますので、特に新規事業やイノベーションを推進しているビジネスリーダーの方々、さらにはトップやミドルマネジメント層、そしてスタートアップの方々にとって、自社に内在する強みを活かし、競争力を維持するうえで大変参考になります。
また、本書には、ベンチャーキャピタリストの現場での実例、そこから得られた知見に加え、関連する先行理論を解説していますので、自らの知識を整理するうえでも役立ちます。
なお、各テーマでは、米企業の取り組みの考察に加え、日立ソリューションズ、東京海上ホールディングス、栗田工業といった日本企業の取り組み事例、さらにはポリネーターの役割を担っている方々のインタビューを紹介していますので、オープンイノベーション成功のポイントや留意点、さらにはポリネーターの役割や思考などを当事者視点で確認できます。
経営環境が激しく変化している現代においては、研究から製品開発まで一貫して自社内部の人材やリソースだけを活用して価値を創造する「自前主義」では立ち行かなっています。
しかし、自社と外部を柔軟に行き来しながら商売の種を集め、外部の人材や技術、資金などを活用し、効率的に組み合わせることができれば、自社だけでは達成困難な事業であっても展開することができます。
本書では、技術・製品のライフサイクルが短期化していること、イノベーションの起点は伝統企業だけではなくテックスタートアップ企業であることを例示して、今やオープンイノベーションが欠かせない時代になっていると強調しています。
- ・大企業は、自社に内在する強みを活かして、競争力を維持するためには、受け身の姿勢から抜け出してスタートアップとの組み合わせを探ることが必要となります。
- ・一方、スタートアップは、創造的なアイデアを社会実装していくためにも、大企業との連携が必要となります。
大企業とスタートアップとの連携は、直接の出資、VC(ベンチャーキャピタル)やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を通じた出資、M&A、業務提携、商品やサービスの導入などさまざまな形態がありますが、両者の持ち味をうまくかみ合わせる存在がポリネーターであり、連携成功のためにはポリネーター的な思考法や行動様式を理解しておくことが欠かせないとしています。
特に、伝統のある大企業では、これまでの歴史の中で構築してきた事業構造があり、現在成功している事業を変えようとすることも、他社と新たに連携しようと考える必要性も感じていないかもしれません。
しかし、技術や製品のライフサイクルが短期化している現代においては、現在の事業が続く保証はないため、並行して次の戦略を連続して実行していかなければなりません。
既存事業を深掘りしながら、同時に新しい探索事業を展開する「両利きの経営」が必要となります。
そして、自社の強みを継続、さらに強化していくためにも、他社との連携は有効な戦略となります。
そのためには、既存事業を磨き上げる組織能力と、新しい事業機会を探索する組織能力を同時に追求する組織変革マネジメントが必要になります。
そこで、組織の慣性を打ち破ることが必要になるわけですが、それを実行できるのは経営者のリーダーシップにかかっています。
経営者に組織の慣性を打破する必要性を認識してもらわなければポリネーターの出番はないのですが、経営者に変革の必要性を認識してもらうように働きかけるのもポリネーターの役割となります。
なお、本書では、ポリネーターを、大企業とスタートアップを仲介(媒介)し、新たなビジネスの種づくりを仕掛け、既存の企業体質から脱してオープンイノベーションを推進する人を指しています。
本書で紹介しているポリネーターの思考法や行動原則は、他と組み合わせて新たなカルチャー(行動パターン)を創るという意味においては、日頃の活動でも応用できると思います。
例えば、自社と既存の取引先、顧客同士や取引先同士、社内においては自部門と他部門および地域間、上司と部下など、さらには企業と(デジタル)技術といった、他と連携(あるいは連携を推進)する場面があります。
本書の視座となっているイノベーションのレベルではありませんが、本書には多くの気づきを得ることができます。
それぞれ異なるカルチャーを育んできた者(組織)を連携するのは簡単ではありませんし、時間もかかるかもしれませんが、それぞれの状況に応じた取り組みができると信じています。
オープンイノベーション思考へ変換し、オープンイノベーションを推進することによって競争力を高め、成長することができます。
そのためには、オープンイノベーションを通じて組織変革を推し進め、その中でポリネーターが活躍できる環境を整備していく必要があります。
本書は、オープンイノベーションを推進していくためのポイントを解説し、それを担うポリネーターの思考法と行動原則を紹介していますが、経営戦略や組織カルチャー変革そものを考えていくうえで参考になる一冊です。
目次
序章 オープンイノベーションとポリネーター
第1部 オープンイノベーション思考への転換
第1章 スタートアップ連携の必要性
第2章 自前主義からの脱却
第3章 組織カルチャーの刷新
第2部 ポリネーターの行動原則
第4章 スタートアップとの関係構築
第5章 社内の駆動
第6章 トップとの一体化
第7章 資金の確保
第8章 あきらめない
第3部 ポリネーターの育成と組織
第9章 ポリネーターをどう育て、どう活かすか?
第10章 VCを使って学習機会を得る
補論1 「両利きの経営」の実践地図
補論2 解説オープンイノベーションとイナーシャ問題
参考
企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則 スタートアップ×伝統企業 | 日経BOOKプラス
はじめに:『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則 スタートアップ×伝統企業』 | 日経BOOKプラス
スタートアップとの協業失敗を決定づける元凶 『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則』著者に聞く | 東洋経済オンライン
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企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則
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企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則 スタートアップ×伝統企業
中垣 徹二郎 (著)、加藤 雅則 (著)、根来 龍之 (監修)
出版社:日経BP (2023/6/23)
Amazon.co.jp:スタートアップ×伝統企業
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