書籍 シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養/山本 康正(著)

書籍 シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養/山本 康正(著)

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シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養

山本 康正(著)

出版社:幻冬舎 (2021/2/25)
Amazon.co.jp:世界標準のテクノロジー教養

  • 2021年を逃せば、日本企業は百年に一度のチャンスを失う。

    SaaS、フィンテック、ロボティクス・・・
    日本が遅れた必須ビジネスの今と未来。

    トップエリートが最先端を解説。

本書は、東京大学大学院を卒業後に米ニューヨーク金融機関に就職し、ハーバード大学大学院で理学博士号を取得し、米グーグルを経てDNX Ventureのインダストリーパートナーを務める著者が、世界で活躍する8名の精鋭の知見を紹介しながら、今後とるべきビジネス戦略を解説した一冊です。

DNX Venturesは、東京とシリコンバレーに拠点を構え、アーリーステージのB2Bスタートアップへ投資を行うベンチャーキャピタルです。

各分野の最前線で活躍しているスペシャリストが、世界で起きていることを紹介し、日本復興への道を示していますので、テクノロジー視点から今後のビジネスを考えていくうえで、そして既存企業でDXを推進していくうえで大変参考になります。

本書は8章で構成されており、第1章で今現在世界で何が起こっているのかを説明し、2章以降は様々な分野でデジタル化がどのように進んでいて、成功企業ではテクノロジーをどのように活用しているかについて、各分野のスペシャリストの知見を紹介し、各章の最後に著者の考えをまとめています。

  • ・第1章では、アメリカで進むDXへの取り組みが日本では進んでいない実態、日本企業の本質的な弱さを明らかにしています。
  • ・第2章では、デジタルエコノミーにおいて、企業経営に不可欠な三要素(SaaSの活用、M&Aの推進、CVC)について解説し、デジタル時代に求められる能力や人材の確保について提言しています。
  • ・第3章では、小売とテクノロジーの組み合わせであるリテールテックに関して、日米の動向を比較したうえで、日本が抱える課題と可能性を明らかにして、最先端のテクノロジーと日本の店舗オペレーションの融合へのヒントを示しています。
  • ・第4章では、フィンテックに関して、日本が遅れている原因、フィンテック先進国である英米と中国の違いを明らかにしながら、デジタル化への方策を提言しています。
  • ・第5章では、ロボティクス、人工衛星、自動運転という最先端分野に関して、世界の動向を紹介しながら、これらの発展途上の分野で日本企業がとるべき方向性を示しています。
  • ・第6章では、日本企業ではなぜDXが進まないのかという根本的な問題に関して、「両利きの経営」の概念やDXの完成形を示し、現在のシリコンバレーで起きていることや日本企業がDXを推進するために必要なことを共有しています。
  • ・第7章では、DXのトップランナーとして知られているコマツのCTOとの対談で明らかになった、コマツの取り組みやビジョンを紹介し、その成功要因を探っています。
  • ・第8章では、DXへの近道は、先端的なテクノロジーに強く、その開発に取り組んでいるスタートアップと連携することであるとして、スタートアップとの連携や付き合い方について解説しています。

しかし同時にこれはチャンスです。

百年に一度ともいわれる世界的感染症は、日本企業に根強い文化であるといわれてきたハンコを廃止させようとする動きや分散型台帳技術の浸透など、数々の革新をもたらしています。

おかしな部分、古い部分が淘汰されてきたのです。

DXという言葉の流行もその一つでしょう。

今やらないでいつやるのでしょうか。

これからも世界は変わっていきますが、この百年に一度のチャンスを、まずは今後二十年を見据えて活かしていただきたいのです。

DXへの取り組みが日本では進んでいない実態

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン Ver.1.0」平成30年12月

DXには、企業から見た内側と外側がある。

  • ・内側:これまでのIT化の延長線上である働き方改革
  • ・外側:ビジネス(例えば、どうやって顧客からお金を集めるか、売り切り方からサブスクリプションへの移行)

アメリカがデジタル化に取り組めた背景にあるのは、ITエンジニアの分布にある。

  • ・アメリカは、社内にITエンジニアを抱えている。(約70%のデジタル化を社内で担当し、残りの約30%をアウトソーシング)
  • ・日本は、ITエンジニアのほとんどを社外に頼っているため、なかなかDXが進まない。

日本では、既存の業界を守ろうという意識がいまだに強い。

新しいデジタル・ビジネスモデルを生み出すためには、会社の中枢にデジタルや最先端のテクノロジーに精通している人がいて、その人たちが会社の方向性を決めるところで口を出さないといけない。

  • ・日本で新しいデジタル・ビジネスモデルが出てこない、出てきても根付かない原因は、日本にはテクノロジーがわかる役員が少ないことが挙げられる。
  • ・アメリカのデジタル企業では、CEOの多くがデジタル技術者やIT技術者である。

様々な業界にアンテナを立てて、いつ新しい競合が現れても慌てないようにすることが、今の経営者に求められる。

そのためには、データや情報を大切にし、それらをもたらしてくれるテクノロジーをもっと取り入れなければならない。

日本企業の弱いところは、GAFAのような儲かるビジネスモデルをつくる力がないことである。

テクノロジーとビジネスモデルは両輪と見なして、一緒に回すことが大切であるが、日本企業はそれぞれが専門化(分断)し、両者が交流していない。

DXが実現できている会社とそうでない会社では、社内の情報の流れが違う。

  • ・20世紀後半の日本経済が好調だった時は、「カイゼン」で情報が下(現場)から上(オフィス)に流れていたが、アメリカの製造業では上から設計図が降りてきて現場は作業するだけで、プロセスに問題があっても原因究明は後手になっていた。
  • ・しかし、オフィスがIT化されていくと、現場からの声が経営者まで上がらなくなった。
    ITシステムは外部ベンダーがつくりオフィスは使うだけになり、上下の情報連携が確保されない場合が多い。

デジタル化の本質

本質は、DXによって組織をどう変えるかにあり、そのための選択肢は二つある。

  • ・デジタルツールを使って、組織を根本的に変える。
  • ・既存の組織をデジタルツールの導入で改善する。

DXの完成形は、組織として、顧客の困りごと(ペインポイント)に寄り添って、様々な解決策を多くの人が出し、そして素早い仮説と検証を繰り返せることにある。

  • ・組織の様々な人たちが、いろいろな考え方ができるかどうかが大事である。
  • ・データが正しいかどうかを見極められることも重要である。
    得られたデータそのものは事実であるが、どうやって測っているかによってデータが根拠あるものかどうかが変わってくる。

業界が破壊されて、淘汰されないためには守りも大切だと考えがちであるが、攻撃が最大の防御であり、新しい価値をつくるために攻め続ける会社だけが生き残っていける。

会社のあらゆる層で本当に顧客と向き合って、顧客のペインポイント、ニーズは何なのか、どのように価値を提供できるか、顧客目線で考えられるかに本気で取り組む必要がある。

両利きの経営

収益をあげている「現在の主力事業」と、次の収益を担う「将来の主力事業」とを同時並行で推進し、「現在の主力事業」をさらに磨く一方で、「将来の主力事業」も大きく育てる。

「将来の主力事業」を育てたいなら、「現在の主力事業」と同じことをやってはいけないため、何をもって成功するかというKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定しなければならない。

  • ・多くが主力事業のプラスになるかどうかだけを、新規事業のKPIにしてしまいがちなのは間違いである。
  • ・「現在の主力事業」のプラスになること、IoTやAIを導入して主力事業の収益を向上させるとか、効率化してコストを下げるとかといったことも必要である。
  • ・しかし、「将来の主力事業」を大きく育てるような、「新しい価値」のつくり方を見いだすところに本質はある。

「現在の主力事業」を強化することが目的なのか、「将来の主力事業」を育てることが目的なのかによって、付き合うスタートアップも異なるし、達成目標のKPIも異なる。

  • ・「将来の主力事業」を育てる場合、アーリーステージのスタートアップと一緒に成長していくことが必要となるが、その分野で伸びそうなスタートアップと複数付き合うというポートフォリオの考えが重要である。
  • ・「現在の主力事業」で付き合う成熟度の高いスタートアップとは成功確率が違うということ前提としておかなければならない。。

「現在の主力事業」のプラスになる部分と、「将来の主力事業」のプラスになる部分ではKPIは違ってくるため、この二つを明確に分けて考えるという「両利きの経営」を行うことが重要である。

「将来の主力事業」に関しては数多くの種を蒔いて、芽が出そうなところがあれば、そちらに賭けていくという、従来の日本企業にはない発想を可能とするために新しいプロセスが必要である。

新しいプロセスを可能にするには、新しい組織と「両利きの経営」の考え方が重要となり、DX時代に必要なデータ・プロセス・組織の改革には「両利きの経営」のような考え・行動をとることが必要となる。

「両利きの経営」を実現させるためには、経営陣のサポートが必須となる。

  • ・トップが「将来の主力事業」を育てるためのKPIを定義し、必要なリソースを送り込むことができれば、即断即決が可能になる。
  • ・DXの推進においては、データ・プロセス、人に関わるトップのリーダーシップが大事である。

KPIは最初に設定したものにこだわらず、適切なKPIを見つける努力を継続していくことが必要で、KPIは違えども「現在の主力事業」に対して早い段階である程度の成果を出すことが必要となる。

「将来の主力事業」に対して社内サポートが得られるようにするためには、「既存の主力事業」に意識的かつ定期的に成功を与えることが大切である。

コマツから見えてくるDX成功の要因

建設分野の見える化を目的にスマートコントラクションを立ち上げ、見える化の次は最適化に進化し、それを実現させるためにランドログというオープンプラットフォームを立ち上げる。

  • ・全行程をデジタルで管理することで、流れを見えるようにする。
  • ・最適化に向けたて取り組む。
    自社以外の他メーカーの機器全てをデジタルで連動し、効率化を図る。
  • ・自社でカバーできないことは社外のパートナーと連携することでスピード化を図る。

いくら社長が交代してもトップが率先垂範するという経営方針はまったくブレない。

  • ・早期に目標を達成することが大事であることをトップが理解して自ら推進している。
  • ・成功事例を早期につくることが、社内で認めてもらい協力者を増やすカギとなるが、トップがリソースを用意し、そのリソースをもとに素早く行動に移すことができる優秀な人材を持っている。

ビジネスドメインをブレさせることなく、時代に合わせて対応力を強化してきた。

ハードウェア製造といったものづくりだけでなく、時代が求めるのであればデジタルを活用したソリューションも提供していくという「両利きの経営」の理念がある。

コマツウェイとSLQDC(安全・健康、法令、品質、納期、コストの順番)の二つがグローバルに浸透している。

これらが徹底されることは、従業員のトップへの信頼感と仕事をするうえでの安心感につながり、その安心感があるからこそ、トップダウンの浸透も早い。

自社の力だけではなく、VCを上手に活用することも欠かせなく、日々の会話を通して情報交換することで、事業会社にとって最も重要な市場と技術の変化への理解が深まり、先読みすることが可能になる。

テクノロジーを担う人材の最も重要な能力は、社外と社内の双方に対してコミュニケーションがとれることである。

テクノロジーを担う適性がある人材

  • ・世界中の上下左右に網の目のような人脈ネットワークを形成できるような積極的で前向きに物事を考えられる人
  • ・飽くなき探求心を持っていること
  • ・趣味的なものでもいいので、ここだけは負けない分野を一つ持っていること
    社内で、「これについて聞くならこの人だ」といわれるものがある人

DXを進めていくには、ブレない考え方といったマインド面も重要となる。

  • ・その課題をどう改善するかという強い思いがずっとある。
  • ・自らが破壊者となる意思を持ち続ける。

社会課題を解決するためには、自らが破壊者になり、迅速に進めることが必要で、自社ですべてをやるこだわりを捨てて、社外のパートナーを集める。

ビジネスの将来像を明確に描き、それをわかりやすく伝える。

  • ・ビジョンを描くためには、どこに社会課題があるかを掘り下げて考える。
  • ・実現のためには、自社だけでなくみんなで解決を目指そうという姿勢がある。
  • ・顧客にどのような価値やメリットを提供できるかを共有する。

本書では私が自信を持って鋭い洞察力を持つといえる方々から、お話をいただきました。

ただ切れ味のいい洞察力を持っている人とリアルでつながるのはなかなか難しいことです。

得るものと与えるもののバランスが取れる能力が求められますし、初対面でお互いに「なるほど、こんな考え方・見方があるのか」と思わせないと、それでつながりが切れてしまうことがほとんどです。

洞察力を得るためにはどうすればいいのか。

私は仮説を持って考えることだと思います。

自分なりの仮説を持って、その仮説を検証するために様々な情報やデータを集め、常に仮説を修正し続ける。

その積み重ねをしていくことが重要です。

まとめ(私見)

本書は、各分野の最前線で活躍しているスペシャリストが、世界で起きていることを紹介し、日本復興への道を示した一冊です。

DXの中心的なテクノロジーとして、SaaS、リテールテック、フィンテック、ロボティクスの各領域におけるスペシャリストが世界の動向について解説し、各分野で日本企業は立ち遅れており、早急な立て直しが必要であることを提言しています。

そこには、なぜ日本企業がここまで海外との差がついてしまったのかという理由が、ある程度見えてきます。

そして、「現在の主力事業」と「将来の主力事業」の両方を同時並行でおこなう「両利きの経営」のあり方、「将来の主力事業」を育てていくためのスタートアップとの付き合い方について詳細に解説しています。

テクノロジーの動向を確認して新たなビジネスを考えるだけでなく、それらを実現するための経営を考えるうえで参考になります。

本書を書いた動機は、デジタルやビジネスを担う若い人たちにどんどん出てきてほしいということのようですが、一方ではシニアの方々にも、次の世界を牽引する若者を導いてほしいという想いもにじみ出ています。

しかし、個人的には、「若者を導く」というよりも「邪魔をすることは避けてほしい」という感じもしています。

特にトップ層や中間管理職には、自分の立場だけを考えた意思決定や事なかれ主義、これまでの経験に固守したマネジメントなど、新たな取り組みに対して壁になっている場合も少なくないと感じています。

近年のDXへの取り組みに関しても、DX推進という掛け声だけ、DX部門を設立するだけで、あとは現場や外部ベンダー任せとなっている企業もあります。

今や産業革命という大きな渦の真っただ中にあります。

その渦の中で戦い続けていくためには、デジタルを理解したトップのリーダーシップのものと、全社員がこれまでの固定概念を捨てて、新しい形でビジネスに取り組んでいかなければなりません。

本書では、主なテクノロジーの世界の動向を紹介しながら日本企業にも希望はあることを示し、デジタルを活用した攻めの経営のあり方を解説しています。

新たなビジネスを始めるきっかけとして、そして社内を改革するための説得材料として活用できる一冊です。

目次

はじめに

第一章 DXの浸透と黒船の襲来

第二章 SaaS ものづくり時代のおわり(倉林陽氏)

第三章 リテールテック 体験としての売買(前田浩伸氏、中垣徹二郎氏)

第四章 フィンテック データが創る新しい経済(北村充崇氏)

第五章 ロボティクス 人と機械の共生(Q・モティワラ氏)

第六章 DX デジタル化の本質(櫛田健児氏)

第七章 DXの成功例 世界で戦う日本企業(冨樫良一氏)

第八章 スタートアップ 最新テクノロジーを取り入れる(野村佳美氏)

おわりに 日本の希望

参考

シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養 | 株式会社 幻冬舎

DNX Ventures | B2Bスタートアップ特化の日米VCファンド

デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)を取りまとめました(METI/経済産業省)

関係する書籍(当サイト)
デジタル化を推進する組織
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