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テクノロジーの地政学
シリコンバレー vs 中国、新時代の覇者たち
シバタナオキ(著)、吉川欣也(著)
出版社:日経BP社(2018/11/22)
Amazon.co.jp:テクノロジーの地政学
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どうなる自動車産業!?
金融業界、次の勝ち組は!?
小売りの新たな形は!?日本企業が「ソフトウェア経済圏」に乗り遅れないための指南書
関連書籍
2021年08月11日 野口 悠紀雄『良いデジタル化 悪いデジタル化』日本経済新聞出版 (2021/6/19)
2021年07月03日 山本 康正『世界標準のテクノロジー教養』幻冬舎 (2021/2/25)
2020年05月23日 日高 洋祐『Beyond MaaS 日本から始まる新モビリティ革命』日経BP(2020/3/5)
2019年08月07日 アクセンチュア『Mobility 3.0 ディスラプターは誰だ?』東洋経済新報社(2019/5/31)
本書は、月額1万円の受講料にもかかわらず、200席分が即日完売したオンライン講座『テクノロジーの地政学』(2018年6~9月開催)のエッセンスを書籍化されたものです。
著者は、元楽天株式会社執行役員でスタンフォード大学客員教授で、現在はスタートアップ経営者であるシバタ ナオキ氏、そして自ら設立した企業を株式会社ACCESSへ5,000万ドル(約50億円)で売却後に新たなMiselu社とGolden Whales社の創業者兼CEOを務める吉川 欣也氏です。
世界のビジネス最先端を知り、スタートアップ経験豊富な両者が、6つの分野で活躍されている方をゲストに呼び、シリコンバレーと中国の動向を比較しながら、既存産業のビジネスモデルを大きく変える企業の取り組みを解説しています。
本書は1~6章で6つの分野の最新動向について、「おわりに」では日本企業への提言と謝辞が展開されています。
6つの分野を章に分けて、まず見開き2ページで「分野のマーケットトレンド」を比較紹介し、そのトレンドをシリコンバレー編と中国編で詳細に解説し、次に主要プレーヤーを見開き2ページで比較紹介後に両地域の詳細を解説し、最後に各分野で注目されるスタートアップの紹介、未来展望についてゲスト解説と議論するという構成になっています。
- ■CHAPTER1~6では、「人口知能」「次世代モビリティ」「フィンテック・仮想通貨」「小売り」「ロボティクス」「農業・食テック」の6つの分野において、シリコンバレーと中国を比較しながら最新動向を紹介しながら、現地で実際に働いているゲスト解説によりリアルな情報を基に議論が繰り広げられています。
- ■そして「おわりに」では、各産業で巻き起こっているソフトウェア革命の様子を振り返って、ゲスト解説から学んだことを基に「日本企業の置かれた現状」と「取るべき変化の道筋」についてまとめられています。
シリコンバレーの進化はとどまるどころか加速していますし、中国が欧米や日本の後追いをしていた時代はとうの昔に終わっているという事実をまずは受けとめるべきだ、というのが本書を読み始める前に一番強く認識していただきたい点です。
日本人として、あるいは日本企業の代表として、こうした危機感を持ちながら、世界のテクノロジーの最先端に触れていただくきっかけになれば幸いです。
ソフトウェア経済圏と進化する中国
ソフトウェアが世界を飲み込む
米国の伝説的な投資家マーク・アンドリューセン氏が、2011年8月に米『ウォール・ストリート・ジャーナル』に寄稿して話題になった未来予想「Why Software Is Eating The World」
この「ソフトウェアが世界を飲み込む」という予見は、2018年現在、様々な産業で現実になっている。
自動車産業や製造業、金融業、小売業など、多くの既存産業をソフトウェアが侵食し、ビジネスモデルを大きく変えている。
かつての自動車メーカーは、3~5年くらいをかけて新車を開発するというサイクルが一般的であったが、シリコンバレーの電気自動車メーカーの米テスラ社のユーザーはクルマを買った後でもソフトウェアを更新すれば性能を改善できるようになった。
従来の自動車メーカーは「一度クルマを売ったら終わり」であったが、販売後もソフトウェアを通じてユーザーにサービスを提供するテスラのビジネスモデルは、破壊的な変化を生み出している。
また、米グーグルが2018年10月に発売したスマートフォン「Pixel3」は、人工知能搭載で各種機能が格段に進化している。
四半期ごとに進化する中国のソフトウェア産業
中国のソフトウェア産業はこの3~4年で急速に進化しており、その勢いは「四半期ごとに目に見えて進化」している。
iPhoneの部品の多くは中国で製造しており、近年は人工知能開発やモバイル決済の普及率などの多くの点で、すでにシリコンバレーを凌駕するまでになっている。
世界の産業地図は、シリコンバレーと中国が作り出す「ソフトウェア経済圏」によって大きく書き換えられようとしている。
6つの分野における最新ビジネス動向
人工知能
シリコンバレー
- ■現在のAI活用は第三次ブームと呼ばれ、ディープラーニングの研究開発は、2012年以降に本格化しており、その火付け役はシリコンバレーの企業群である。
- ■2017年の世界のAI投資総額は年間約1兆円を超え、ITトップ20社のAI人材採用費用は年間総額650億円となる。
- ■6つの解題を一定水準でクリアして、初めてビジネスとして成立する。
データ収集、プライバシー保護、法的責任、AI活用の倫理、人材獲得、ビジネスインテグレーション
- ■GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)やMicrosoftなどの大手がAI投資を強化する一方、AI用半導体開発ではNVIDIAが躍進している。
中国
- ■2017年、AIスタートアップの資金調達で米国を抜いて世界一位(約6,000億円)
資金調達総額の内、中国企業が48%、米国企業が38%(2016年は中国企業は11.6%であったので、1年で一気に逆転)
- ■2017年に中国政府が発表した「次世代AI発展計画」が大きく影響
・2020年までに、中国のAI研究を世界水準に引き上げ、関連産業を含めて17兆円規模にする。
・2025年までに、世界トップの水準までに向上させる。
・2030年までに、関連産業を含めて170兆円規模に育てる。
- ■BAT(Baidu、Tencent、Alibaba)の中国IT御三家は、研究開発に数百億円~1兆円規模を投資
・Tencentは、Teslaに約1,800億円を投資
・Baiduは、自動運転技術で国内外100社超の企業と連携するプラットフォーム「Apollo」開発プロジェクトをリード
・Alibabaは、2017年以降の3年間で約1兆7,000億円の研究開発費を投入
スタートアップが注目される分野
- ■認識AI:音声認識や画像認識などを行う
- ■インターネットAI:Webやアプリサービスを進化させる
- ■ビジネスAI:業務用などのB to B向け
次世代モビリティ
シリコンバレー
- ■クルマのサービス化を促すMaaS(Mobility as a Service)の市場は、2030年代初頭には約1,000兆円となり、シリコンバレーでも自動車関連のスタートアップが急増している。
- ■自動運転に関連する2017年の投資は約4,400億円、ライドシェアは2030年には約28兆円となり、「自動運転Xカーシェア」の「ロボタクシー」などが市場を牽引する。
- ■次世代モビリティの定義
・個人的な副操縦士として運転者を助ける。
・人間では不可能な運転が可能になる。
・人々の移動を革新する。
・都市部で無秩序に増える駐車場の必要性を引き下げる。
・人手不足の地方の運転手問題を解決する。
中国
- ■2017年の新車販売台数は約2,888万台で、9年連続で世界一となった。(日本は約500万台)
電気自動車(EV)は、新車販売台数の約2%であったが、2025年までに20%台に引き上げると発表している。
- ■シリコンバレーと同様に関連技術の研究開発が活況で、中でも電気自動車の開発・普及やライドシェアは、大気汚染問題の解決という面でも注目されている。
地域別EV販売台数は、2015~2016年くらいから中国が30~40%を占めるようになり、2017年には世界の販売台数の約半数を占めるまでになった。
- ■BATやタクシー配車最大手のDiDiが、国内外の自動車メーカーや関連スタートアップと幅広く連携している。
DiDiの2017年の月間ユーザー数は1億超(米Uberは、同約4,000万)
スタートアップが注目される分野
- ■自動運転
- ■コネクテッド
- ■シェアリング&サービス
- ■ニュービークル
フィンテック・仮想通貨
シリコンバレー
- ■フィンテック関連企業への2017年の世界投資額は年間約1兆6,600億円で、その内北米が約7,837億円でトップである。
世界のユニコーン企業25社の内16社が北米企業となる。
- ■仮想通貨関連企業への2018年の世界投資額は年間約2,800億円で、その内55%が北米企業である。
この急速な伸びは、「技術に張る」動きも堅調に増加している。
中国
- ■モバイル決済の2017年取引総額は年間約1,600億円で、その内90%をAlibabaのAlipayとTencentのWeChat Payが占める。
- ■2017年9月に中国国内でのICO及び仮想通貨取引所が全面禁止となり、2016年まで世界の取引の約90%を人民元が占めていたが2017年は急減した。
スタートアップが注目される分野
- ■送金・決済
- ■投資・資産運用
- ■保険
- ■融資・資金調達
- ■仮想通貨・ブロックチェーン
小売り
シリコンバレー
- ■小売り・消費財への2017年の世界投資額は年間約1,940億円で過去最高となる。
マーケットを変えようとしたテクノロジーを駆使した新たなプレーヤーへの投資は増えているものの、リアルな実店舗中心の大手企業は最新技術への対応が遅れている。
- ■生産者と消費者が直接つながる新業態D2C(Direct to Consumer)は、オンライン販売限定で始め、ある程度ブランドが確立された後に直営店を出すというパターンが多い。
- ■オンラインとオフラインの融合戦略が、今後の成長のカギとなる。
実店舗中心の小売り企業はITを駆使した販売戦略を強化し、ECのようなインターネット企業は実店舗での購買体験にイノベーションを起こそうとしている。
中国
- ■「EC」「トラベル」「メディア」を合わせたデジタルマーケットは、2017年まで首位だった米国を抜き、2018年は中国が約76兆円で世界一の規模になる見込み。
- ■越境ECの売上シェアは2018年のトップ3が中国企業で、中でもC to Cマーケットプレイスの流通総額ではAlibabaグループのTaobaoが世界一である。
中国の主なECサービスは、「購買体験」を非常に重視している。
- ■2018年1月オープンしたAmazon GOを背景として、中国の無人店舗企業への2017年の投資額は140億円を超え、スタートアップへの投資も盛り上がっている。
また、小規模な個人商店へもQRコード決済が普及し、キャッシュレス化が進んでいる。
スタートアップが注目される分野
- ■店舗体験・店舗:新しい形を提供
- ■オンラインマーケットプレイス
- ■D2C(Direct to Consumer)
ロボティクス
シリコンバレー
- ■ロボット開発への世界投資額は、2018年年間で約3,288億円になる見込みで、中でも重工業向けロボットとドローン開発が大きな割合を占め、他に小売業向け、倉庫業向け、配送サービス向けのロボット開発にも投資が進んでいる。
- ■ロボット開発の背景にある4つのC
・Core Technology:ロボットやドローン開発に必要な部品が、低価格で大量に提供されるようになった。
・Commoditization:必要なソフトウェア開発を、素早く効率的にできるようになった。
・Connectivity:IoTのようなビジネスモデルが、一般化してきた。
・Commrcialization:アジャイル開発やスタートアップとの連携など、製造業が変化してきた。
- ■ロボットやドローン普及へのカギ
・協働ロボットの進化
・AIによる自動化技術の進化
・Robot as a Serviceという新たなビジネスモデルの確立
中国
- ■2017年の産業用ロボットの販売台数では、中国が世界の約3分の1を占める。
2018年は18万台になると声明を発表(2017年時点での予想は約16万台)
- ■2015年5月に「中国2025」を発表し、2015年に3つの段階を経て国内製造業を世界トップにする計画を打ち出す。
・2025年までに、世界の製造強国入りを果たす。
・2035年までに、世界の中位に位置させる。
・2049年(建国100周年)までに、製造業の世界トップになる。
- ■2014~2016年のドローン企業の資金調達額は、トップ5の内3社が中国企業であった。
中でも、2016年までの資金調達額が約105億円で世界1位のDJIは、2016年時点の世界商用ドローン市場の約70%のシェアを確保している。
スタートアップが注目される分野
- ■産業用ロボット
- ■消費者向けロボット
- ■医療用ロボット
農業・食テック
シリコンバレー
- ■米国では、アグテック(AgTech=農業Xテクノロジー)やフードテック(FoodTech=食Xテクノロジー)と呼ばれており、2017年の世界投資額は約437億円に達している。
・Understand Inputs:収穫量と過去の気候変動の関係など、各種データを正確に把握
・Boost Efficiency:センサーや衛星画像などから取得したデータを分析して、生産効率を向上
・Manage Operations:ソフトウェアの力でオペレーションを効率化
- ■2050年の世界人口が98億人と予想される中、「AI・ロボットX農業」への期待は大きく、農業ビジネスを手掛けてきた大企業が、関連するシリコンバレーのスタートアップを買収する動きが活発になってきた。
中国
- ■2017年の関連するスタートアップ企業の資金調達案件トップ20の内、約100億円以上の大型案件が11件あり、その内中国企業が4社入っている。
- ■中国では、アグテックやフードテックに加えて「食の安全性」が大きなテーマとなっており、高品質な生鮮食品を提供する各種サービスが人気を博している。
関連する企業は、「より安全に」「より高品質」に加え、「より便利に」を提供する方向に進化している。
スタートアップが注目される分野
- ■農業系ソフトウェア:ITサービスやビッグデータ分析など
- ■農業系ハードウェア:農機、ロボット、ドローンなど
- ■食テック
世界の大企業は、”ソフトウェア・シフト”を急ぐため、シリコンバレーや中国のテクノロジー企業と何かしらの形で連携しようと必死です。
まずはこの意識改革から始めなければならないでしょう。
まとめ(私見)
本書は、多くのビジネス分野で導入が進んでいる人工知能の活用例をはじめ、「クルマのサービス化」や「キャッシュレス化」「小売りの無人化」など、新たに台頭するビジネスモデルの詳細が学べる一冊です。
「人口知能」「次世代モビリティ」「フィンテック・仮想通貨」「小売り」「ロボティクス」「農業・食テック」の6つの分野で計130以上の注目事業を網羅し、各分野のトレンドや主要プレーヤー、注目するスタートアップと未来展望について議論されています。
そして、各分野の市場規模についても、世界に加えシリコンバレーや中国の過去の推移や今後の見込みなどの最新情報が紹介されています。
各分野で活躍されているリーダーや起業を考えている方々、シリコンバレーや中国の最新トレンドを俯瞰したい方々にとって、最新のビジネスモデルを知り、今後の事業展開を考えていくうえで大変参考になります。
先端テクノロジーを生み続けるシリコンバレー、人工知能開発への投資額やモバイル決済の普及率などでは既に世界一となった中国。
これに対して、日本はどの様に対応していくのか、また自身が担当する事業をどの様に展開していくべきなのかを考えるきっかけとなります。
なお、ロボティクスの章で、「体験」を売る時代に日本企業が今後チャレンジすべきこととして、「メンタリティ」「ソフト」「マーケット」「ビジネスモデル」で変化が求められると言及されています。
これらは、他の全ての分野にも言えることで、迅速な改革が必要であると痛感しました。
さらに、「おわりに~日本企業への提言と謝辞」において、著者両者が議論されている3つの提言も意識していくべきです。
- ■意志決定の一部を若手に委ねる
- ■若手だけでなく海外人材も積極的に採用と登用する
- ■自分たちが歴史をつくるという意識で個の力を鍛える
目次
はじめに
CHAPTER01 人工知能
CHAPTER02 次世代モビリティ
CHAPTER03 フィンテック・仮想通貨
CHAPTER04 小売り
CHAPTER05 ロボティクス
CHAPTER06 農業・食テック
おわりに ~ 日本企業への提言と謝辞
参考
決算が読めるようになるマガジン
シバタ ナオキ氏が連載中
Miselu Inc.
吉川 欣也氏が2008年に3度目の起業
関係する書籍(当サイト)
-
スコット・ギャロウェイ(著)、渡会 圭子(訳)
出版社:東洋経済新報社(2018/7/27)Amazon.co.jp:the four GAFA 四騎士が創り変えた世界
-
STARTUP(スタートアップ)
アイデアから利益を生みだす組織マネジメントダイアナ・キャンダー(著)、牧野 洋(翻訳)
出版社:新潮社(2017/8/25)
Amazon.co.jp:STARTUP(スタートアップ)
その他、動向(当サイト)
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シリコンバレー vs 中国、新時代の覇者たちシバタ ナオキ(著)、吉川 欣也(著)
出版社:日経BP社(2018/11/22)
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