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良いデジタル化 悪いデジタル化 生産性を上げ、プライバシーを守る改革を
野口 悠紀雄(著)
出版社:日本経済新聞出版 (2021/6/19)
Amazon.co.jp:良いデジタル化 悪いデジタル化
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生産性を上げ、プライバシーを守る改革を
日本の「失敗の本質」を明らかにし、本当に「使える」仕組みへの道筋を提示する。
本書は、一橋大学名誉教授の著者が、日本のデジタル化の現状を概観し、将来に向かう方向付けを提言した一冊です。
日本政府や企業におけるデジタル化の遅れ、デジタル化を阻む日本社会の構造を指摘し、本人確認やプライバシーと個人情報の保護、米中のIT政策の動向を俯瞰しながら、日本のデジタル化が進むべき道を示しています。
著者ならではの視点で、詳細なデータを示して解説していますので、すべての方々が、「プライバシーを保護しながら高度なデジタル処理ができる仕組み」をどのようにつくっていくべきかを考えるきっかけとなる一冊です。
本書は8章で構成されており、第1章から第4章では、日本のデジタル化の遅れを概観しながらその原因を分析し、第5章から第8章では将来への方向性として、本人確認手段や個人情報保護、米中の動向を見ながら、日本のデジタル化の進むべき道を示しています。
- ・第1章では、コロナ対策において、デジタル化の遅れが暴露された状況とその原因を掘り下げています。
- ・第2章では、デジタル化が進んでいないのは官庁だけではなく、民間企業や日常生活においても同じ状況であり、その原因を探っています。
- ・第3章では、「脱ハンコ」について、政府は20年前から行政手続きのデジタル化を約束していたにもかかわらず、未だに紙と印鑑が用いられている現状を詳細に紹介しています。
- ・第4章では、日本社会におけるデジタル化の遅れと生産性との関係、それがもたらす問題について、特に情報システムの構築と運営、SIベンダー構造や顧客との関係、経営者のIT理解不足など、日本固有の問題を掘り下げています。
- ・第5章では、本人確認の仕組みに視点を向け、中央集権的な仕組みのマイナンバーカードの問題を指摘し、ブロックチェーンを用いた分散型IDの活用を目指すべきと提案しています。
- ・第6章では、GAFAなどのプラットフォーム企業の巨大化に伴う問題について、クッキーの制限に関するグーグルやEUの動向、改訂はされたものの問題は未解決となっている日本の個人情報保護の取り組みについて掘り下げています。
- ・第7章では、米中のIT政策の動向について、中国共産党が民間IT企業の成長を抑える方向に政策転換したと想定し、一方の米バイデン政権の成立に伴う巨大IT企業への政策転換の可能性について言及しています。
- ・第8章では、日本の目指すべきデジタル化の方向とその実現手段について、ブロックチェーンを活用した電子国家を実現したエストニアを紹介しながら、クラウドとブロックチェーンを導入し、開かれた社会をつくり、政府が国民の信頼を獲得することの必要性を強調しています。
新型コロナ禍の発生後、さまざまな出来事を通じて、日本におけるデジタル化の遅れが白日のもとに晒し出された。
日本の生産性が国際的にみて低い水準にあることがこれまでも指摘されてきたが、その基本的な原因がここにあることが明らかになった。
なぜ、こうした事態になってしまったのか?
それは、日本社会の基本的な構造と深い関りがある。
本書は、これらの点について、具体的な事例を見ながら検証する。
コロナ対応での失敗を克服すべく、デジタル庁の新設など、さまざまな取り組みが行われようとしている。
では現状を脱して、いかなる方向を目指すべきか?
基本的な目的は、プライバシーを保護しつつ、しかも高度なデジタル処理が可能となるよゆな仕組みを作ることだ。
良いデジタル化 悪いデジタル化
『良いデジタル化 悪いデジタル化』を参考にしてATY-Japanで作成
日本のデジタル化の遅れ
日本政府の遅れ
省庁単位で専用LAN(構内情報通信網)を使っているため、省庁間でのテレビ会議すら満足にできなかった。
特別定額給付金支給において、オンライン申請にはマイナンバーカードを用いて申請するが、自治体現場では大混乱に陥った。
コロナ感染者データを収集するのも、手書きとFAXに依存していた。
新システム「新型コロナウィルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)」が2020年5月に稼働したものの、2021年4月においても手入力は続いている。
民間企業他の遅れ
2020年4月12~13日時点でのオフィスワーク中心(事務・企画・開発など)の仕事のテレワーク実施率は、全国平均で27%。(東京都は52%であったが5%未満の県も多く、政府目標の70%には届かなかった。)
2020年4月3日のグーグルの調査によると、職場へ来る動きは、感染拡大前(2020年1~2月)に比べて、アメリカで38%減、イタリアで63%減に対して、日本は9%減にとどまった。(東京都では27%減に対し、ニューヨーク州は46%減)
日本の場合、緊急事態宣言解除後の6月には減少率は4月の約半分に戻り、テレワークは一時的なもので、多くの企業が元の出勤状態に戻している。(紙と印鑑の事務処理では、会社に出勤せざるを得ないという事情を反映)
「テレワークの最新動向と総務省の政策展開(2019年5月31日)」での調査結果では、テレワークに対する理解が十分でなく、日本企業における仕事の進め方が導入の障害になっていることがうかがえる。
仕事の進め方に問題があるために生産性が低く、テレワークも導入できない。仕事の進め方が適切な企業は、生産性が高く、テレワークも導入できる。
デジタル化を阻む日本社会の構造
日本におけるデジタル化とは、技術の問題というよりは、利権と既得権を切り崩せるかという問題である。
日本の生産性が低い基本的な理由は、情報処理が未だに紙への依存から脱却できないことにある。
諸外国ではユーザー組織が社内にITエンジニアを抱えて開発を主導しているが、日本はSIerに丸投げしている。
IT業界は多重下請け構造であり、責任の所在が曖昧である。
デジタル化の問題は組織をどうするかという問題であるが、組織のリーダーがその問題を理解していないし、ITベンダー企業を客観的に評価できる知識もない。
日本のデジタル化が進むべき道
「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」(経済産業省、2018年12月)における定義
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データをデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位を確立すること
デジタル化が進まないことと日本の生産性の低さは、ほぼ同じ問題であり、デジタル化を妨げている要因が、同時に、日本の生産性の低さの要因ともなっている。
日本においてIT化が進まないのは、日本型組織や日本社会の特性と密接な関係がある。
デジタル化には日本社会の基本的な構造を変えることであり、日本社会や組織を世界に向かって開けたものにすること、政府が信頼を獲得することが、最も重要なポイントである。
本人を確認する手段として、マイナンバーカードのような中央集権的型の仕組みで行うのではなく、ブロックチェーンを用いた分散型の仕組みをつくることが重要である。
そのためには、デジタル化だけではなくクラウド化を推進し、ブロックチェーンを用いた国民IDシステムを構築してプライバシーを保護し、開かれた社会をつくり、政府が国民の信頼を獲得することである。
デジタル化は、表面的には技術の問題ではあるが、それと同時に、いやそれ以上に、国民の信頼の問題である。
いかに高度の技術を駆使したところで、それが国民管理の道具ではないかと疑われれば、あるいは利権確保や天下りの確保のためのものではないかと疑われれば、普及することはない。
エストニア政府の報告書は、「問題は技術面だけではない。鍵は、信頼だ。エストニアの国民は、政府が国民の役に立ち、国民を守るデジタルシステムを構築してくれるという信頼を持っている」と述べている。
総務省の接待事件を見ていると、果たして日本の政府がそのような信頼を獲得できるのかどうか、甚だ心もとなくなってくる。
こうした事態を克服して信頼を回復することが、最も重要な課題である。
繰り返そう。
日本のデジタル化を成功させるための最重要の条件は、政府が国民から信頼されることだ。
まとめ(私見)
本書は、日本のデジタル化の遅れを概観しながらその原因を分析し、将来への方向性として、本人確認手段や個人情報保護、米中の動向を見ながら、日本のデジタル化の進むべき道を示した一冊です。
著者ならではの視点から、詳細なデータに基づく現状確認に加え、その根底にある原因を考察し、将来への方向性を具体的に示していますので、今後のデジタル化への対応策を考えていくうえで、大変参考になります。
なお、本書は、デジタルやITに関する技術的な内容ではなく、日本社会の基本的な構造について、具体的な事例を示しながらわかりやすく解説していますので、身近なこととして読み進めていくことができます。
本書には、日本の官庁においてデジタル化が進んでいない状況に加え、民間企業や医療分野、さらに学校教育でもデジタル化が遅れている現状を、多くのデータや事例を示しながら詳細に紹介しています。
また、行政手続きのデジタル化は20年前に政府が約束していたにもかかわらず、未だに多くが紙と印鑑を使っている現状に加え、デジタル化の遅れと生産性との関係、特に情報システム構築や運営に関する日本固有の問題も掘り下げています。
そして、本人確認手段においては、日本のマイナンバーカードに関する課題を、欧米の取り組みと対比しながら指摘し、その対応策を提案しています。
さらに、海外の動向として、プライバシーと個人情報保護に関しては、GAFAやEUのクッキー規制の動向を紹介しながら課題を指摘し、米中のデジタル戦争に転機が起こりつつあることを解説しています。
そのため、国内の特殊な状況だけではなく、海外の動向も確認することができますので、日本のデジタル化の遅れの状況を理解することができます。
本書では、「良いデジタル化」と「悪いデジタル化」の状況を、以下のように言い表していると思います。
- ・悪いデジタル化
仕事の生産性も上がったし、生活も便利になった。しかしプライバシーはなくなり、自由がなくなった。
- ・良いデジタル化
生産性の向上とプライバシー保護が適切に両立している。
日本でデジタル化が機能しない基本的な原因は、純粋に技術的なものというよりは、日本の組織が閉鎖的で、外に開かれたものでないことにあると指摘しています。
そして、従業員が組織間を移動できるような労働市場の形成とともに、経営者も組織間を移動し、デジタルに関して理解することの重要性を説いています。
現在、新型コロナウィルス感染症の影響は甚大なものになっていますが、一方では一気にデジタル化を進める機会でもあります。
そのためには、多くの人びとが現状に対する問題意識を持って、これまでの日本社会の常識と言われてきたことに対する思い込みを捨てて、変革に取り組んでいくことが必要となります。
変革に伴う痛みもあるかもしれませんが、日本の置かれた状況を少しでも改善していくために、地道な努力を続けていかなければなりません。
日本のデジタル化が世界から遅れている状況にあることを多く指摘していますが、諸外国との対比も必要かもしれませんが、日本固有の歴史や特性を考慮したデジタル化を進めていくことも重要です。
本書は、「プライバシーを保護しながら高度なデジタル処理ができる仕組み」をどのようにつくっていくべきかを考えるきっかけとなる一冊です。
目次
はじめに
第1章 コロナで暴かれた日本のデジタル化の遅れ
1 日本政府はテレビ会議ができない?
2 定額給付金申請にマイナンバー機能せず
3 コロナ情報収集はFAXと手書き作業で
4 切り札「接触確認アプリ」COCOAは不具合の連続
5 厚生労働省のITシステムは、なぜ不具合が多いのか?
第2章 遅れているのは官庁だけではない
1 テレワークが進まない
2 オンライン診療が進まない
3 世界はオンライン教育に移行したが、日本では進まない
4 国会の質問取りは、対面でしかできない
5 旧態依然の連絡方法
第3章 やっと脱ハンコに向かう
1 「紙とハンコ」は命をおびやかす
2 電子署名は可能なのだが使われていない
3 使いにくいので実際には便宜的方法に頼る電子署名
4 デジタル庁は20年来の公約違反を解消できるか?
第4章 デジタル化を阻む日本社会の構造
1 IT化の絶望的な遅れが、長期停滞の元凶
2 SIベンダーの言いなり・丸投げ体制
3 多重下請け構造の問題
4 レガシーが足を引っ張る
5 ITを理解しない日本のトップ
第5章 マイナンバーカードの方向は正しいか?
1 不便の極み、マイナンバーカード
2 マイナンバーでワクチン接種管理はできなかった
3 失敗した住基ネットの後継がマイナンバーカード
4 各国のデジタルID:国民に信頼されるシステムとは?
5 集中型の本人確認には限度がある:分散型IDが必要
6 ワクチンパスポートを導入できないガラパゴス日本
第6章 プライバシーと個人情報をどう守るか?
1 システム障害で思い知らされた巨大IT企業の力
2 独禁法で提訴しても問題解決にならない
3 本当の問題はプロファイリング
4 輝ける「スマートシティー」には、プライバシーがない
5 クッキーをめぐるグーグルの方針転換は、なぜ重要なのか?
6 クッキーをめぐるIT巨人間の戦い
7 個人情報保護法でプライバシーを守れるのか?
第7章 米中デジタル戦争に大きな転機
1 中国で重大な地殻変動が起きつつある
2 デジタル人民元の真の狙いは、電子マネーの抑え込み?
3 バイデン政権でアメリカIT政策は変わるか?
第8章 日本のデジタル化が進むべき道
1 「デジタル化」とは何か?
2 やっと日本もクラウド化
3 ブロックチェーンがプライバシーを守る
4 大学院でなく小学校卒業を目指せ
5 国民の信頼確保が最重要
参考
良いデジタル化 悪いデジタル化 | 日経の本 日本経済新聞出版
『良いデジタル化、悪いデジタル化』サポートページ|野口悠紀雄|note
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