書籍 アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る/藤井 保文、尾原 和啓(著)

書籍 アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る/藤井 保文、尾原 和啓(著)

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アフターデジタル - オフラインのない時代に生き残る

Online Merges with Offline

藤井 保文 (著)、尾原 和啓(著)
出版社:日経BP(2019/3/23)
Amazon.co.jp:アフターデジタル

  • すべてオンラインになった世界のビジネスの在り方

    日本はいま、中国から何を学ぶべきか
    中国はいま、日本から何を学ぼうとしているのか
    ふたつの答えに、日本の未来のヒントがある!

関連書籍
 2021年08月11日 野口 悠紀雄『良いデジタル化 悪いデジタル化』日本経済新聞出版 (2021/6/19)

本書は、企業のデジタルUX改善を支援する株式会社ビービットの東アジア営業責任者の藤井氏、マッキンゼー・アンド・カンパニーやNTTドコモ及びリクルートを経て、経済産業省対外通商政策委員などを歴任し、現在はIT批評家の尾原氏が、世界の潮流から見たデジタルトランスフォーメーションの方法論をまとめた一冊です。

発売3ヶ月で3万部を突破したとあって、中国をはじめとする世界の先進事例を示しながら、わかりやすく整理されていますので、ビジネスリーダーの方々にとって企業の改革方法を考えていく上で大変参考になります。

本書は4章で構成されており、先進事例を日本企業にどのように適用していくべきなのかを提言しています。

  • ・第1章では、先進的な事例を示しながら、世界の動きに対して日本が遅れている状況が掘り下げられています。
    特に、中国都市部について、日本のメディアが伝えている表層的な話しではなく、現地企業と議論した中で得られた情報を、著者が拠点として活動しているからこその情報が満載されてします。
  • ・第2章では、「アフターデジタル」という世界観を解説しながら、そのビジネスにおける思考法として「OMO(Online Merges with Offline)」という概念が紹介されています。
    特に、日本的な思考とのズレがどこで起きがちなのかを示した、本書で最も重要な章と言えます。
  • ・第3章では、これまで当たり前だと認識されていた概念や方法を、アフターデジタルの世界観で見つめ直すことにより、新たな解釈を与えてくれています。
    概念の理解を深めるとともに、嗜好訓練に役立ちます。
  • ・第4章では、日本企業に合ったデジタルトランスフォーメーションの進め方が解説されています。
    「必要なコンポーネント」を提示して、経営層と現場のそれぞれができることが提案されています。

モバイルやセンサーが遍在すると現実世界にオフラインがなくなり、「オンラインがデジタル世界に包含される」ようになります。

そうした世界を私たちは「アフターデジタル」と呼んでいます。

(略)

アフターデジタルの世界観は、あたかも「デジタルに住んでいる」ともいうべきもので、まだ日本ではあまり認識されていません。

それもそのはず、まだ日本には到来していません。

(略)

日本が世界に追いつき追い越していくには、「データ×エクスペリエンスの切り口で考え、新たな視野を獲得することが大事である」との思いを抱いており、それを形にしたのが本書であるとも言えます。

「ビフォアデジタル」と「アフターデジタル」

属性データは、そこに普段の行動データがつながって初めて意味あるデータ、価値のあるデータとなる。

あらゆる行動が活用可能なデータになったことで、ユーザーの趣向が時系列で把握でき、欲しいタイミングで、欲しい価値を提供するビジネスが誕生してきている。

エクスペリエンスと行動データのループが、競争原理の根幹となる。

企業は、データを収集し、そのデータをフル活用し、プロダクトとUX(顧客体験、ユーザーエクスペリエンス)をいかに高速で改善できるかが競争原理となる。

顧客体験やジャーニーとは、もっと長い時間、ずっと寄り添い続けるようなビジネスモデルである。

  • ・オンライン行動の全てがデジタルデータ化し、その保有と活用が鍵となる。
  • ・行動データは一人当たりの量が重要であるため、ユーザーとの接点は高頻度である方が望ましい。
  • ・行動データを貯め続けるためには、「楽しい、便利、使いやすい」といった体験品質の高さが必須となる。
  • ・データを活用することにより、適したタイミングで適したコミュニケーションでのアプローチが可能になり、体験がさらに良くなる。

アフターデジタル時代の顧客体験は、データやIT技術を活かして、いかにユーザーのリアルペインを解決するためにユーザーひとり一人にきめ細かな対応ができるか、そこからいかに人間対人間のコミュニケーションを築いていけるかが問われる。

「ビフォアデジタル」と「アフターデジタル」

after-digital

出典:本書『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』

ビフォアデジタル:リアル(店や人)でいつでも会えるお客様が、たまにデジタルにも来てくれる。

アフターデジタル:デジタルで絶えず接点があり、たまにデジタルを活用したリアル(店や人)にも来てくれる。

  • ・人は常時デジタル環境に接続している状況になり、リアル行動も含めたあらゆる行動データが蓄積される。
  • ・「オフラインとオンラインの主従関係が逆転した世界」という視点変換にある。

「アフターデジタル」という社会環境は、オフラインが存在しなくなる社会を指しており、例えば米国の一部地域、中国都市部、エストニアに代表される一部の北欧では、既にオンラインとオフラインの主従逆転が起きている。

モバイルやIoT、行動データを高頻度に取得できるモバイルデバイスやセンサーが普及すると、データ化できないオフライン行動はなくなり、「オフラインがデジタル世界に包含される」ようになる。

OMO(Online Merges with Offline)

グーグルチャイナの元CEOで、現在イノベーションベンチャーズを率いる李 開復 氏が2017年9月に提唱した考え方である。

アフターデジタル時代における成功企業が共通して持っている思考法で、オンラインがオフラインとが融合し、一体のものとして捉えたうえで、これをオンラインにおける戦い方や競争原理として捉える考え方である。

なお本書では、OMOを「オンラインとオフラインを融合し一体のものとしたうえで、これをオンラインにおける戦い方や競争原理と考えるデジタル成功企業の成功法」としています。

OMOの発生条件(李 開復) = スマートフォンの普及、モバイルペイメントの普及、センサーの安価化、AIの発達

  • ・スマートフォン及びモバイルネットワークの普及
    いつでもどこでもデータを取得でき、普遍的な接続性をもたらす。
  • ・モバイル決済浸透率の上昇
    モバイル決済は少額でもどんな場所でも利用が可能になる。
  • ・幅広い種類のセンサーが高品質で安価に手に入り、偏在する。
    現実世界の動作をリアルタイムでデジタル化し、活用が可能になる。
  • ・自動化されたロボット、人工知能の普及
    最終的には物流(サプライチェーンプロセス)も自動化することが可能になる。

オンラインとオフラインは既に溶け合って違いはなくなりつつあり、顧客はチャネルでは考えず、その時に一番便利な方法を選ぶようになり、企業側は様々な選択肢を提供していくことが重要となる。

OMOにおける重要な考え方 = ユーザー志向、顧客視点

  • ・チャネルの自由な行き来
    ユーザーは状況ごとに一番便利な方法を選びたいだけなので、企業側は全方位的に、それら全てで接点を持つビジネスを設計すべきである。
  • ・データをUXとプロダクトに返す
    行動データなど、もらったデータを基に、より良いサービスをユーザーに返す。
  • ・リアルも含めた高速改善
    ABテストや高速PDCAといったオンラインだからこそできる手法も駆使し、リアル接点においてもウェブサイトのユーザー行動のようにデータを取得して、プロダクトや店の構造を含めた高速に改善する。

UX(User Experience)の5段階

ux-5stage

本書『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』を参考にしてATY-Japanで作成

現在の一般的な日本企業は、「第3段階:エボリューション」を目指すべきである。

一方、決済プラットフォーマーになろうとしている大型プレイヤーにとっては、第4段階や第5段階が重要な視点となる。

  • ・オンラインの原理で既存型ビジネスを再構築することでエコシステムが実現可能になり、ステークホルダーにより大きな恩恵がもたらせられるようになる。
  • ・エコシステムは総合的なメリットを生み出すと考えると、これからの時代変化を見据えて「自社(自部署)だけで顧客を囲い込んでもどうにもならない」と決断する。

0段階
ビジュアルデザインやUIなどといったデザイン分野のみ

第1段階:ベネトレーション

  • ・デザインとテクノロジーとビジネスを等しく、デザインシンキングが包括するような形で捉える。
  • ・UXとは、表面的なUIではなく、ビジネス視点やテクノロジー視点との融合が必要である。

第2段階:ディフュージョン(普及・拡販)

  • ・デザイン、ビジネス、テクノロジーにおいて、ビジネスオペレーション側のエクスペリエンスデザインを磨き込んだ段階を指す。
  • ・「to B」と「to C」それぞれのエクスペリエンスを合わせて考えることによって、「B to B to C」型プラットフォームとしてのUXができあがる。

第3段階:エボリューション

  • ・既存型ビジネスをオンラインの方法論で再構築して、エコシステムを確立する。 = OMO
  • ・デジタルは付加価値ではなく、これからのビジネスにおいての基盤であり、起点にすべきである。

第4段階:データドリブン

  • ・エコシステムの構築により、リアル接点でのデータが蓄積でき、膨大なデータを獲得できるようになる。
    これを、社会貢献や新しい技術開発に活用し、さらなるデータエコシステムをつくる。
  • ・オンラインだけではなく、データエコシステムを成立している段階で、単純にオンラインとオフラインが融合したタイプではない。

第5段階:ホリスティック・エクスペリエンス

  • ・全体論的な体験という意味で、2つの観点がある。
  • ・観点1:デザイン、ビジネス、テクノロジーの全てが融合したものと捉え、7つの要素においてバランスのとれた体現を実現
    7つの要素:トレンド、オペレーション、パフォーマンス、データ、機能、競合優位性、世論
  • ・観点2:エコシステムにおけるサスティナビリティを見るため、NPSによる管理
    NPS(ネット・プロモーターズ・スコア):顧客満足のような不満解消ではなく、顧客にプラスの感情、ロイヤルティを発生させられているかどうかを測る指標

Whyや原理を知ることで「理解」の幅を広げることは、ご自身のデジタルトランスフォーメーションを進めていく冒険の旅のためだけでなく、GAFAや今後台頭するデータの巨人と付き合っていくためにも非常に重要なことです。

(略)

彼らの原理を理解することであり、すべてを止めるのではなく、共に律し合っていくことです。

またAPIですべてがつながっていく時代では、巨人を理解することで進化を先回りし、あなたならではの新しい場をつくることもできるかもしれません。

今から起きるデータ資本主義の巨人たちは敵ではなく、共律共存する仲間として楽しんでいければです。

まとめ(私見)

本書は、株式会社ビービットがこれまでに得た知識・経験に、共著者であるIT批評家の持つ膨大なグローバルレベルの知識を統合することにより、世界視点で捉えたデジタルの変化と、ビジネスにおいて必要な視点やアクションを体系的にまとめた一冊です。

「デジタルトランスフォーメーション」を推進しているビジネスリーダーの方々にとっては、自社及び自事業を変革して、これからの時代に生き残っていくためのガイドとなります。

特に第4章は、業界構造の変化を説明し、企業がどのように変革しておくべきかを、戦略レイヤー別に整理して変革の進め方などを詳細に解説されていますので必読です。

本書には、「デジタル先進国」の中国の最新デジタル環境とその裏側をはじめ、多くの事例が紹介されています。

中国ではインターネット人口が8億人を超え、その97%がスマートフォンを保有し、都市部に至っては、スマートフォン保有者の98%がモバイル決済を行っているという調査結果があります。

これに対して2018年時点では、韓国や米国では4割以上の支払いがキャッシュレス決済であるのに対し、日本では2割にとどまっているようです。

中国では、これらのモバイル決済は全ての購買をIDデータ化するだけではなく、あらゆる消費者の購買行動データも収集しています。

そして、デジタルと行動データを駆使して適切なタイミングで適切なコミュニケーションが取れるようになり、全体的な営業工数や負担はむしろ減り、効率化され、最適化されていきます。

そして空いた時間は、より信頼を得るコミュニケーションに当てていくことができ、利用者側にも企業側にもメリットある仕組みになっています。

さらに中国では、支払い能力を可視化した「シーマ・クレジット」と呼ばれるスコアもあり、スコア幅は350~950点で、社会的な信用度を示すようになっています。

シーマ・クレジットの評価軸は、個人特性・支払い能力・返済履歴・人脈・素行で、出身大学や職業を登録することによりスコアを上げることもできるようです。

もともと中国にはまともな与信管理がなかったことが背景にあるのでしょうが、中国人のマナーが急激に上がった要因もこれらの信用スコアが浸透していったからかもしれませんし、実利主義であるからこそインセンティブ設計を確立してWin-Winの関係を構築できているのではないかと思います。

中には、自分の決済データや行動データを収集されることに不快感を抱く方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、取得されたデータが顧客ごとにつなげて活用され、データの持つ意味合いを読み取って適切なタイミングで適切な情報提供があったり、これまで以上の利便性やサービス向上及び高質体験があれば、ユーザー(利用者)側の満足度も上がります。

企業側としては、ユーザー視点と顧客満足の視点から全てのチャネルを行き来でき、収集したデータを適切に管理して、UX(顧客体験、ユーザーエクスペリエンス)とプロダクトとしてフィードバックし、常に改善努力をし続ける取り組みを通して、信頼を構築してくことが重要となってきます。

そかも一回限りではなく、常に寄り添い、何かあったらすぐに役に立てる存在になっていくことが求められます。

2025年までに日本企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を行わなければ、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性(2025年の崖)がある。

2018年に経済産業省が発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」において、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変するデジタル・トランスフォーメーション(DX)の必要性を提言しています。

これからはデジタルが基盤になるという前提に立ったうえで、いかに戦略を組み立てていくかを考えていくことが必要となります。

その際、本書で紹介されている企業やサービスを単純に模倣するのではなく、国民性や地域特性、自社の事業環境に応じて、彼らの姿勢から本質を学び、利用者の生活や社会システムをどの様に構築していくべきなのかを考えていくことが重要となります。

目次

まえがき

第1章知らずには生き残れない、デジタル化する世界の本質

1-1 世界の状況、日本の状況

1-2 モバイル決済は「すべての購買をIDデータ化する」

1-3 シェアリング自転車は「生活拠点と移動をデータ化する」

1-4 行動データでつなぐ、新たな信用・評価社会

1-5 デジタル中国の本質 データが市民の行動を変え、社会を変える

1-6 大企業や既存型企業の変革好事例「平安保険グループ」

1-7 エクスペリエンスと行動データのループを回す時代へ

第2章 アフターデジタル時代のOMO型ビジネス~必要な視点転換~

2-1 ビフォアデジタルとアフターデジタル

2-2 OMO:リアルとデジタルを分ける時代の終焉

2-3 ECはやがてなくなっていく

2-4 転覆され続ける既存業態

2-5 日本企業にありがちな思考の悪例

2-6 企業同士がつながって当たり前 OMOの行き着く先の姿

第3章 アフターデジタル事例による思考訓練

3-1 GDPR vs 中国データ主義 ~データの取り扱いをめぐる議論~

3-2 「レアな接点」に価値がある時代

3-3 技術進化による「おもてなし2.0」

3-4 高速化・細分化・ボーダレス化する、これからのものづくり

3-5 不思議で特異な日本の強み

第4章 アフターデジタルを見据えた日本式ビジネス変革

4-1 次の時代の競争原理と産業構造

4-2 企業に求められる変革

4-3 日本企業が変わるには

4-4 つながる世界での私たちのポテンシャル

あとがき

参考

株式会社ビービット(beBit)
ユーザ視点からの価値創出を追求するエクスペリエンス・デザイン・パートナー

ビービットのオフィシャルブログ
一兆スマイル新聞 | エクスペリエンスデザインで世界を変える ビービットのブログ

転職12回&拠点は海外 尾原和啓の縛られない働き方
日経doors

【ライブでも録画でも】尾原 和啓 ITビジネスの原理実践編 受講メンバー募集!
- CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

「アフターデジタル」で努力が報われる社会を
日経ビジネス電子版

DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
METI/経済産業省

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    出版社:日経BP(2019/3/23)
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