書籍 デジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略/ユルゲン・メフェルト、 野中 賢治(著)

書籍 デジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略/ユルゲン・メフェルト、 野中 賢治(著)

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デジタルの未来
デジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略

DIGITAL@SCALE
THE PLAYBOOK YOU NEED TO TRANSFORM YOUR COMPANY

ユルゲン・メフェルト(著)、野中 賢治(著)、アンドレ・アンドニアン (その他)
出版社:日本経済新聞出版社(2018/8/25)
Amazon.co.jp:デジタルの未来

  • 世界一のコンサル マキンゼーが全社規模の変革を解説。

    オールド企業が生き残るには、デジタル企業に生まれ変わるしかない。

    不可避の変化を乗り越える!
    今なぜ、企業がデジタル化に真剣に取り組まなければならないだろうか?
    それは、生き残るための「必要条件」だからである。

関連書籍
 2021年06月01日 トニー サルダナ『なぜ、DXは失敗するのか?』東洋経済新報社 (2021/4/2)
 2021年05月12日 西山 圭太『DXの思考法』文藝春秋 (2021/4/13)
 2019年02月25日 ピーター・ウェイル『デジタル・ビジネスモデル』日本経済新聞出版社(2018/11/17)

本書は、マッキンゼー・アンド・カンパニー、デュッセルドルフ・オフィス、シニアパートナーのユルゲン・メフェルト氏と、同社の日本支社シニアパートナーのお二人が、全社規模の「大規模なデジタル化」に取り組む必要性を説き、同社が担ってきた様々なプロジェクトを通して得られた知見が収録された一冊です。

また、自動車、小売、金融、ヘルスケア、銀行、エネルギー、電力、通信、コンテンツ、出版、物流、行政といった業界において、どのような「デジタルの未来」が待ち受けているのか、それに対応するためにどう変革を進めるべきかを、各業界を専門とするコンサルタントが解説しています。

「なぜ今変わらなければならないのか?」という疑問に答えるため、「WHY(なぜ)」「WHAT(何を)」「HOW(どのように)」の3つの軸で、変革プロセスの進め方を学ぶことができますので、経営者やビジネスリーダーの方々にとって大変参考になります。

本書は10章で構成されており、デジタル変革についての構想を描く手助けをしてくれます。

  • ■第1章ではデジタル・トランスフォーメーションを定義しながらデジタル化の必要性を言及し、第2章では抜本的な改革を準備するために必要なのは「WHY」「WHAT」「HOW」のシンプルな質問に答えていくこととして、各質問に答えていくためのポイントを解説しています。
  • ■第3章(WHY)では、なぜ全てのビジネスにデジタル・コンセプトが必要であるかを言及しています。
    そのためには、自分はどこに立っているのか、どの強みを活かしているのか、どんな障害が予想できるのかなど、棚卸をしながら率直な自己評価から始めることを提案しています。
  • ■第4~6章(WHAT)では、何を実行する必要があるのか、要点を整理しています。
    新たに出現している重要なエコシステムを提示し、ビジネス・アーキテクチャをどのように変化させる必要があるのか、テクノロジーを組織の上にどのように土台を築いていくべきかを解説しています。
  • ■第7~8章(HOW)と9章では、デジタル・トランスフォーメーションを、包括的に迅速に組織で実行することについて解説しています。
    強い意志で、デジタル・オペレーティング・システムに切り替え、積極的に変化を推し進め、あらゆるレベルにおいてマネージャーが率先して動ける仕組みをつくることの重要性を説いています。
  • ■第10章では、著者らの対話形式で、デジタル時代の市場と科学技術について討論し、激動の中を切り抜けていくために何が必要かを検証し、提案してくれています。

日本の大企業の多くは50年あるいは100年以上の長い歴史を持ち、長年にわたって成功を収めてきた。

だがこの激動を前に、今までの成功体験を捨て、ビジネスモデルを再構築することが不可欠となっている。

新しいビジネスモデルは、企業の根幹(コア)部分も変える必要がある。

どのように開発、製造、購買、メンテナンスなどを行うのか(オペレーショナルプロセス)、どのように顧客や消費者にアプローチし、商品・サービス・付加価値を提供していくか(コマーシャルプロセス)、それを支える業務部門はどうあるべきか(バックオフィスプロセス)といった全てを再構築しなければならないのだ。

デジタル・トランスフォーメーションに向けた3つの質問

WHY

デジタル化という困難に立ち向かってまで、「なぜ」会社は変わらなくてはならないのか。
自分の事業にとって、デジタルというテーマはどれほど重要なのか?

「万事上手くいっているのに、なぜ変わる必要があるのか?」という問いに答えながら、デジタル・トランスフォーメーションに進んで取り組むように促す。

どの点に関しても経営者が責任を負い、行動しなくてはいけないという自覚を引き出し、どれだけの変化が必要なのかを決定し、最大の障害と最大の強みを見極め、目標を絞り込む。

  • ■「一刻を争う」という危機感を持つ。
    根本的な改革には強い信念と実行力が必要であるが、加えてキッカケが必要であり、「恐れ」は引き金となり変革に弾みをつける。
  • ■どれだけの変化が求められているのかを見定める。
    CEOが自問すべきなのは、「自社の現在のビジネスモデルは廃れるのか?どれだけの変化が必要なのか?」である。
  • ■変化への障壁を見極め、素早く対処する。
    従来型の組織は慣性の力が強く働き、業績が好調であれば大抵のマネージャーと従業員は変化を求められても本腰を入れようとしないため、会社を変えようとする経営者は、変化を阻む障壁を見極め、取り除かなくてはならない。
  • ■強みを持つアセットを見極め、期待値を設定する。
    アナログな状態からデジタル化に向けて会社を進めるためには、まずは自社の強みに焦点を絞るべきである。
WHAT

具体的に「何を」変える必要があるのか。
ビジネスモデル全体、商品開発など価値創造の中核部分、マーケティング、サプライチェーン、あるいは技術・組織・企業文化など、基本的な機能まで含めるのか?

「わが社にとってデジタル化とは何を意味するのか、どう優先順位をつけるのか?」という問いに答えるために、戦略とオペレーションそれぞれの施策の優先順位を決める。

  • ■新しいエコシステムを築く。
    ライバル企業の動向、自社のデジタル化への取り組み、従来の業界間の境目の収益プールなどを広い幅で確認し、現代のビジネスモデルを見直し、新しいビジョンや説得力ある価値提案をする。
  • ■ビジネス・アーキテクチャを設計する。
    カスタマー・エクスペリエンスの領域ではデジタルは最強の武器になり、シンプルで信頼性のあるプロセスで、最初の顧客接点から注文完了まで切れ目ない流れを実現する。
  • ■基盤を強化する。
    追加的に機敏でスピードの速いITシステムを整備し、それを運用するための新しいデジタル人材を雇用する。
HOW

企業は「どのように」デジタル・トランスフォーメーションを計画し、自社の構造、プロセス、IT、マネジメントのやり方を変えなければいけないのか?

「デジタル・トランスフォーメーションに必要な活動を、どのように管理するか?」という問いに答えるために、構造、プロセス、マネジメント手段、ITを根本から変える。

  • ■デジタルロードマップを作る。
    ・デジタル化を進めていくための道筋を作る。
    ・その際優先すべきは顧客接点であり、顧客と会社との接点のうち重要なものは全てデジタル化する。
    ・ロードマップには、方向性と優先順位、何年にも及ぶデジタル・トランスフォーメーションの中間目標を含める。
  • ■デジタル企業の主要要素を埋め込む。
    ・デジタル企業であるための要素を定義し、現場に埋め込む。
    ・新しい製品とサービスは速やかに市場で試し、その結果を測り、必要であればさらに最適化する。
    ・予算は中間目標の達成に紐づけされ、プロジェクトの進捗状況は定期的に分析する。
  • ■拡大を支える仕組みを作る。
    ・変革を進める取り組みを全社に、またそのエコシステムに拡大していくために、スピード感を持つIT構造を作る。
    ・日々のビジネスを処理するための安定したIT構造と、急成長する新プロジェクトのための柔軟性の高い、アジャイルなIT構造

マネジメントへの重要な質問

WHY

自分はどこに立っているのか、どの強みを活かしていけるのか、どんな障害が予測できるのか

質問
緊迫感 1.デジタル化の脅威と潜在力を特定できているか?
2.客観的に棚卸しに取り組んでいるか?
3.デジタル化を直に体験しているか?
変化のタイプ 4.現在の事業は、デジタル世界で生き延びられるか?
5.一部だけに的を絞ったデジタル化で十分なのか?
6.デジタル化のための新しい人材は、確保しているか?
変化を阻む壁 7.オーナー、従業員、マネージャーは、極度のストレスにさらされていないか?
8.最も有能で実績のあるマネージャーは、変化を支持しているか?
9.業務の縦割り体制は、変化の邪魔になっていないか?
関連するアセット 10.事業のカギを握るアセットは何か。顧客、商品、技術?
11.デジタル時代にも引き続き重要なアセットは?
12.デジタル時代に合わせて、どのようにアセットを上手く変えていくのか?
熱意 13.CEOは、変化を推進しているか?
14.どれだけ高みを目指し、どれだけのスピードで行動すべきか?
15.従業員は、やる気になっているか?

『デジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略』を参考にしてATY-Japanで作成

WHAT

転換のためのプランをどのように作るのか、デジタル・モードへの順調な切り替えをどう監視するのか、組織全体にどう広げていくのか

質問
新しいエコシステム
を築く
1.ライバルは、新しい技術で私たちのビジネスモデルを攻撃しているか?
2.私たちは、デジタル技術の可能性を活用して改革しているか?
3.従来の業界の境目で、新しいプロフィット・プールは現れているか?
ビジネス・アーキ
テクチャを開発する
4.カスタマー・エクスペリエンスを根本から改善するために、
 デジタル化を十分に活用できているか?
5.新しい製品を、迅速かつ急進的に開発して、ライバルに先んじているか?
6.デジタル化とアドバンスト・アナリティクスを十分に活用して、
 最大限の効率化を進めているか?
基盤を強化する 7.最新の技術とITを活用しているか?
8.機敏でフラットな組織で、起業家精神を育んでいるか?
9.新たな人材を焚き付ける企業であるか、的確な相手とパートナーシップを
 築いているか?

『デジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略』を参考にしてATY-Japanで作成

HOW

強い意志でデジタル・オペレーティング・システムに切り替え、積極的に変化を推し進め、あらゆるレベルにおいてマネージャーが率先して動ける仕組みをつくる。

スタートアップと緊密に連携し、速さを新しい指針とする。

質問
計画作成 1.会社全体のデジタル化のためのプランはあるか?
2.変革の中心に顧客を据えているか?
3.私たちの組織構造は、目指す変化を実現できるか?
デジタル企業を強化する 4.デジタル・ネイティブは、年単位ではなく週単位で考える。
 わが社はどれだけ敏感か?
5.市場でのデジタル化の成果を正確に測れるか?
6.デジタルの経験と業界の知見を備えた人材のチームを結成しているか?
強力に拡大する 7.迅速に、体系的に、強力に拡大しているか?
8.私たちのITは、ビジネスのスピードをアップしているか?
9.スタートアップと価値あるパートナーシップを築いているか?
10.組織をどのように巻き込むか、
 懸念に対処するためのコンセプトはあるか?

『デジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略』を参考にしてATY-Japanで作成

最高デジタル責任者(CDO)

CDOは多才であり、戦略家でデジタル・ネイティブであり、顧客と従業員をよく理解していなければならない。

社内外に卓越したネットワークを築いていかなければならない。

社内では、デジタル・トランスフォーメーションが組織全体に浸透するように説く。

狙い

ターゲットを絞って現在の事業をデジタル化し、オフライン機能をオンライン・プラットフォームに移す。

新しいテクノロジーの導入、イノベーションの促進、インターネットのトレンドの理解、新しいテクノロジーとそのポテンシャルを生かすためのアイデアを提示する。

主な任務

新しいテクノロジーへの転換を推進

  • ・テクノロジーのトレンドを把握する。
  • ・新しいテクノロジーについて、部門に情報をもたらす。
  • ・新しいテクノロジーを、ビジネスソリューションの開発に適用する。

要望の舵取り

  • ・部門ごとのプロジェクトに、リソースを提供する。
  • ・部門の枠を超えた広範囲における要望の舵取り役を務める。

新しいソリューションの開発

  • ・プロバイダーとともに、新しいテクノロジーを実装する。
  • ・業務の委託先も含め、異なる領域の仕事のボリュームを管理する。
KPI

時間のKPI

  • ・期日までに、ソフトウェアをローンチできた割合(%)
  • ・開発にかかる時間の総数

コストのKPI

  • ・全ての商取引におけるオンライン上の商取引の割合(%)
  • ・予算に計上したプロジェクトの割合(%)

品質のKPI

  • ・オンラインで完結した販売の割合(%)
  • ・オンライン・ユーザー数の増加
  • ・顧客獲得率の増加
  • ・購買時の消失率の減少

デジタル時代のための重要な提案

1.誰もが最低限の技術的なスキルを学ぶ。

2.どんな場合でも顧客を中心として考える。

3.良いことを行なうためだけに科学技術を使う。
技術の非連続的な変化を、前向きにポジティブに受け止め、デジタル・イノベーションを脅威として見るのではなく開放と捉える。

4.オープンになって、オープンなスタンダードを通じてイノベーションを促進する。

5.変化をポジティブなものとして受け入れる。
破壊を受け入れ、コントロールを止めてオープンになり、カニバリゼーションも良しとする。

6.破壊的なうねりに備え、組織としての柔軟性を担保する。

7.アイデアと創造性のためにネットワークを育て、そのためには社内に目を向ける。

8.社会的な序列を超えるコンピタンスを受け入れる。

9.教育とトレーニングは、自分だけのプレイリストをつくる。

10.思考のサイロ化を防ぐ。
若い人たちが、まず幅広いトレーニングを受けるようにする。

相違部分は、1つひとつ経験を積み重ねながら乗り越えていく必要がある。

全組織を1年でガラッと変えるというより、組織の代謝リズムに合わせ、数年間かけて徐々に結果を出す。

中略

資金面よりも組織としての動き方の変化がものをいうため、経営の意思とそれを反映させる経営の能力がその差を作る。

まとめ(私見)

本書は、「WHY(なぜ)」「WHAT(何を)」「HOW(どのように)」という流れに沿って、全社規模の「大規模なデジタル化」構想を描いていくことができます。

特に、第4章では、主な業界において、デジタル化が「ニュー・エコノミー」を創出し、マーケットシェアの再配分が起こっている様子が紹介されています。

デジタル化で変わるモビリティ、スマート化する住宅、新しい小売、金融の進化、公共部門の変化、ヘルスケア、通信業界への脅威、激変する物流業界、電力供給網のデジタル革命と、9つの新しいエコシステムを取り上げて、戦略的な視点からの問いに答えています。

さらに、第5章では、顧客体験、カスタマー・エクスペリエンスの開発について、製品・サービスと価格提案のアプローチについて、バリューチェーンの変化について、成功しているデジタル企業が顧客ニーズを起点として製品とプロセスを設計している様を例示しています。

ここでは、「カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)」「製品・サービスのイノベーション」「新たな付加価値」の3つの領域に絞って、デジタル化がどのようにビジネス・アーキテクチャを変えているかを見ながら、経営のやり方と管理手法までを大きく変える必要性に迫っています。

これらを通して、「自分の業界や組織に当てはめると、どのようなことが言えるのか」という視点で、「マネジメントへの重要な問い」に答え、対応策を考えていけば、自らの事業の変革へのヒントを得ることができます。

さらに、従来とイノベーティブな会社の比較、デジタル化に向けた組織の成熟度、カスタマー・ジャーニーのKPIなど、非常に有効な資料も整理されていますので、自らの事業を変革していく上での指針となります。

ビジネスで成功するためには、学術的思考とチームワークのスキルが必要であり、従業員はエンド・トゥ・エンドで顧客を理解すべきです。

イノベーションは、これまで以上に高い信頼性を必要とするようになり、何よりも先に信頼性を獲得しなければならないし、マネジメントは極めて重要な役割を担うことになります。

デジタル化の必要性を従業員に説明し、その範囲と指針を定め、社内に横たわる慣性を打ち破り、企業文化に変化を起こす。

単にデジタル技術を取り入れれば済むという次元ではなく、究極のゴールは全く新しいビジネスモデルを創造・設計することであるからこそ、デジタル化はCEOから始めなければならないし、CEOの態度ひとつで企業の運命は決まってくることを再認識してくれる一冊でした。

目次

日本語版への序文 アンドレ・アンドニアン

はじめに デジタル思考

第1章 デジタルは世界を急速に、不可逆的に変えている

第2章 全社を挙げて、基礎から作りかえよ――大規模なデジタル化

第3章 【WHY】残された時間はわずか

第4章 【WHAT】やるべきことをデジタルで

第5章 【WHAT】ビジネス・アーキテクチャを開発する

第6章 【WHAT】 事業基盤を強化する

第7章 【HOW】全社にスピーディに導入する

第8章 【HOW】デジタル企業を成長させる

第9章 【最も大事なこと】全社を挙げたデジタル化

第10章 デジタル・トランスフォーメーションに取り組む準備は整っているか?

日本語版へのあとがき 野中賢治

参考

デジタルトランスフォーメーション関係(当サイト)
デジタルの未来 デジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略
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    デジタルの未来
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    出版社:日本経済新聞出版社(2018/8/25)
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