書籍 DXの思考法 日本経済復活への最強戦略/西山 圭太(著)

書籍 DXの思考法 日本経済復活への最強戦略/西山 圭太(著)

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DXの思考法 日本経済復活への最強戦略

西山 圭太(著)、解説・冨山和彦(解説)
出版社:文藝春秋 (2021/4/13)
Amazon.co.jp:DXの思考法

  • DXの真髄を見事に解き明かした。これからのビジネス、社会を考える必読書

    各国の「知の巨人」が認めた天才ビジョナリーが描く「ミルフィーユ化する世界」

    社会、産業、社会、そして国家、個人までが、DXの「対象」かつ「主体」となる時代が到来。

関連書籍
 2021年06月01日 トニー サルダナ『なぜ、DXは失敗するのか?』東洋経済新報社 (2021/4/2)

本書は、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授の著者が、日本企業の風土や決まり事を変革する「コーポレート・トランスフォーメーション(CX)」を実現するためには、産業丸ごとの転換「インダスリアル・トランスフォーメーション(IX)」時代の自らの地図を描くことを提言した一冊です。

経済産業省で新しい産業構造論を推進し、株式会社産業革新機構や東京電力ホールディングス株式会社では改革を支援するなど、著者の豊富な経験からデジタル化の本質を探っています。

そして、本書全体の解説として、株式会社産業革新機構でともに経営改革や成長支援をしてきた、経営共創基盤(IGPI)グループ会長の富山氏が、世界の中での日本DXの課題を指摘しながら、アーキテクチャー認識力、思考力を持つ人材に恵まれていることがIX時代において決定的な重要性を持っていると提言しています。

本書は、全てのビジネスパーソンにとって、デジタル化の本質的な意味合い、IXの衝撃の実相、IX時代を勝ち抜いていくための能力要件を理解するうえで大変参考になります。

本書は9章と解説で構成されており、第2章から第4章まではデジタル化時代の白地図はどのようなものなのかを示し、第5章から第8章では、白地図に自らを書き込んで、地図を書き換えることとはどういうことなのかを議論しています。

第1章は序章的な位置づけで、DX論とCX論、それらをつなぐIXとの関係、IXそしてデジタル化を専門的な知識を詰め込むのではないやり方で、どのようにして理解し、身体に刻み、実現していくかのアプローチを示しています。

第2章では、デジタル化時代においては「具体ではなく抽象化」、汎用的なやり方で捉えていくこの重要性を示しています。

  • ・IX時代の白地図を描き始める前に、日本のカイシャを支えてきた基本的なロジックを振り返り、日本企業の伝統的な企業別労働組合、カイゼン活動、特に高度成長期を支えてきた「タテ割り」的発想を紐解き、デジタル化時代における課題を浮き彫りにしています。

第3章では、「深いレイヤー構造を使ったネットワーク」がデジタル化のかたちであることを示しています。

  • ・汎用的なやり方で捉える際の鍵として、メカニズムを図形的な表現として、層・レイヤーが積み重なる構造(菓子のミルフィーユのような構造)を示しています。
  • ・ネットワーク理論の中では「弱いつながり」こそが決定的なインパクトを持ち、イノベーションにつながることを振り返っています。

第4章では、深さのあるレイヤー構造について、デジタル化の白地図を詳細に解説しています。

  • ・アリババが担っているメカニズムは、ネットワークコーディネーションとデータインテリジェンスの二つで、ビジネスの成長は関わるエコシステムのレイヤーを増やしていることを詳細に分析しています。
  • ・デジタル時代の白地図は、サプライヤ軸の計算処理基盤とユーザー軸(UI-UX軸)のデータ解析の2軸からなるレイヤー構造であることを示しています。

第5章では、デジタル化の白地図を元に、自身の会社をDXに結びつけ、会社自体を書き込んでいくための考え方について解説しています。

  • ・デジタル化の時代、IXの時代には、次から次にレイヤーをつくるGAFAが支配していくのか、それとも日本の産業などの他プレイヤーに機会はないのかを議論しています。
  • ・中でも、組織を有能な人材で構成し、イノベーションを組織の目的としているネットフリックスのDXを詳細に分析しています。
  • ・そこで、本棚にない本を探し、自らがつくり、SaaSなどのかたちで世界に提供し、それで本棚を埋めていき、次第に本棚のかたち自体をも変えていくことが、これからの機会となることを提言しています。

第6章では、「本棚にない本を探して開発する」ためには、スタートアップ企業とのフェアなパートナシップが不可欠であるとして、製造業を含む大企業が取り組んでいくためのポイントを整理しています。

  • ・ドイツが提唱したインダストリー4.0の三つの軸(ヒエラルキー軸・ライフサイクル軸・レイヤー軸)を紹介し、ポイントは標準化を経てヒエラルキー軸からレイヤー軸に転嫁することであると整理しています。
  • ・ダイセル(旧:ダイセル化学工業)の両利き経営の裏には、「二つの利き手」が衝突せず、両立し、お互いを支え合っていることを紹介しています。

第7章では、会社の将来像を、サイバーとフィジカルの全体像を表現し、変化の可能性を取り込み、データを提供したい価値につなげるものであるとして、その表現方法としての「アーキテクチャ」という考え方を解説しています。

  • ・アーキテクチャとは、データを入手し、保存し、加工し、価値やソリューションに対応させるための設計と定義して、アーキテクチャを理解するうえで急所となるポイントを整理しています。
  • ・データと価値とが結びつくメカニズムはレイヤー構造になり、アーキテクチャで考えるときには、これまでの思考法から離れる必要があることの重要性を解いています。

第8章では、アーキテクチャは、街や暮らし、社会、政府のあり方とも関係し始めているとして、社会全体あるいはガバナンスの観点からレイヤー構造のかたちをとったエコシステムをどう捉え、どう関わるべきかを議論しています。

  • ・スマートシティのようなシステムをシステムズ・オブ・システムズ(SoS)といい、社会のガバナンスを考えるうえでも、社会全体をレイヤー構造を見立てて、アーキテクチャという手法を武器にすべきと提言しています。
  • ・インドのデータ政策の中の「インディア・スタック」を紹介しながら、GAFAなどの民間セクターがグローバルに提供しているサービスをひとつのレイヤーとして認めながらも、そこにインド政府が設計したレイヤーを差し込むことで、全体として政策目的を達成しようとしている姿を紐解いています。
  • ・デジタル化の進展は「グローバル」と「ローカル」との関係に新たな切り口を与えるものであるとして、「ローカルマネジメント法人」の創設を提案し、2020年5月に設置された「デジタル・アーキテクチャ・デザイン・センター」(DADC)の取り組みを紹介しています。

第9章では全体のまとめ的な位置づけで、かつてから積み重なってきた変化がある水位に到達し、社会、ビジネス、産業、会社のあり方を次々に転換し始めている中での対応策を整理しています。

  • ・レイヤー構造を整理し、そのレイヤーが重なり合って臨界点を超えている状況であり、IX時代の白地図を理解し、本棚にない本を探すことの重要性を提言しています。
  • ・そして、「野球からサッカーへ」という表現で喩え、IX世代に必要な発想を身に着けているかのテストを提示しています。

あなたが経営する立場に立っているとして、DXに取り組むうえで、システムの技術的構成から、企業間関係、日本企業の組織風土に至る幅広い話の全体像をどうとらえて、どういう手順で考えたほうが良いのか。

その基本的な視座を提供することができないか。

それが本書で取り組もうとしていることである。

言い換えれば、DXに取り組む各々の経営者が自分の立ち位置を確認し、自分なりの道筋を判断する地図のようなものを描けないか、ということである。

IX(Industrial Transformation:産業構造全体の変容)

IX:産業構造全体の変容

『DXの思考法 日本経済復活への最強戦略』を参考にしてATY-Japanで作成

現在の決定的な変化は、世界の実課題とコンピュータの物理的基盤をつなぐエコシステムが急速に発達し、精巧になってきていることである。

エコシステムはレイヤー構造のかたちをしていて、それが産業そのもののかたちとして共有されつつある。

ハードウェアの発達やデータを含めた「量」の増加に加え、エコシステムが進化して精巧になった「質」の変化が重要となる。

今後の経営者は、全貌を大まかに把握し、自らの企業の経営判断に活かすことが欠かせない。

デジタル化の重要なインパクトは、それが産業構造全体を大きく変容させる力を持っていることであり、それがインダスリアル・トランスフォーメーション(IX:Industrial Transformation)である。

DXで変革を進めて競争力を取り戻そうとする理論と、企業そのものを大改造して破壊的イノベーションの時代を勝ち抜く組織能力や経営能力を身に着けようというコーポレート・トランスフォーメーション(CX:Corporate Transformation)や「両利きの経営」の間をつなぐ、「知の架け橋」の位置づけがIX実相論となる。

DX→IX→CXの先には、社会の変容(SX:Social Transformation)、個人の生き方変容(LX:Life Transformation)が不可避的に起きていく。

DXを実現するためには、企業風土を抜本的に変える必要がある。

タテ割りを打破し、サイロ文化をやめ、朝から晩までコンプライアンスチェックと稟議書の作成や承認という仕事を卒業し、延々と続く結論のない会議をやめるべきである。

DXに取り組むには、企業のあり方、組織のあり方そのものの見直しに結びつけて取り組む必要がある。

昭和以来のカイシャのタテ割り行動様式ロジックを乗り越える改革ができてはじめて、DXが達成できる。

デジタル技術やシステムの変化を理解せずに経営論や組織風土論を語っていても意味がなく、双方向性、そして二つをどう統合していくかにDXの本質がある。

決定的な変化が起きつつある。

それをもたらしているのは様々な技術であり、それらへの理解は欠かせない。

しかしおそらくより根底にあるのは、我々が持つに至った新たな発想であり、ロジックである。

本書はそのロジックを表現しているのがソフトウェアだというのが、より正しい。

抽象と具体を行き来し、そしてパターンで物事を捉える。

前者は異なる次元を跨いで考え、後者は分野を跨いで考えるための手立てだ、と言える。

そしてそれらを使って人間が持つ課題に挑む。

それが新しい発想、ロジックだ。

まとめ(私見)

本書は、産業構造全体を大きく変容させる「インダスリアル・トランスフォーメーション(IX:Industrial Transformation)」時代において、自らの地図を描くことを提言した一冊です。

著者は、政策立案と遂行の経験に加え、不良債権処理、産業革新機構での事業再編や東京電力の再建という実務に関わった経験ならではの視点から、デジタル化の本質を掘り下げていますので、全てのビジネスパーソンがIX時代を勝ち抜いていくうえで参考になります。

デジタル・トランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)というと、「デジタルによる事業構造の変革」や「デジタル技術を活用して既存の事業を強化する」といったことで使われる場合もあるし、個々の企業が「新しい製品やサービスや新しいビジネスモデルを通して、競争上の優位性を確立すること」を意味する場合も、さらには既存の業界の枠を超えた参入による業界再編を含めたこととして使われる場合もあります。

本書は、デジタル化、個々の企業の変革、業界再編を分けて語っているのも特徴です。

IXを、DXで変革を進めて競争力を取り戻そうとする理論と、企業そのものを大改造して破壊的イノベーションの時代を勝ち抜く組織能力や経営能力を身に着けようというコーポレート・トランスフォーメーション(CX:Corporate Transformation)との間をつなぐ架け橋と位置づけています。

そこで、IX時代の経営ロジック、デジタル化のロジックを、個人と組織の身体に刻み込むことこそがDXの本質であるとしています。

そして、デジタル化に「かたち」があるとすれば、それは「深さのあるネットワーク」であると表現し、その「深さ」に対応するのがレイヤー構造(ミルフィーユ)であると表現しています。

また、日本企業の経営者がすべきことは、「本屋にない本を探す」と例えています。

それは、会社のDXを考える際、IT部門の人間を読んで自社の持っているシステム構成やデータについて質問するのではなく、先に外部環境を棚卸しることを指しています。

また、本棚にすでにある他人のプロダクトを利用することを「業務の効率化」、本棚にない本を自分で開発することを「プロダクト」と区別し、経営者が取り組むべきことは、「本屋の本棚を見て」「そこにない本を探す」べきであると主張しています。

データをいじるのではなく、対象となっている世界をパターンの組み合わせで理解すること、デジタル化やビッグデータはそれを手伝うための道具であることを理解することが重要である。

それを理解することで、フィジカルな対象を横切って捉え、サイバー空間の中での経験も含めて、サイバーとフィジカルの間をも跨いで、横につなぐことができるとしています。

DXとは、業種を問わないロジックを身に着けることであり、サイバーとフィジカルの間を行き来することで強みを発揮する、垣根を超えてパターンを見出すことこそが、日本企業が最も身につけなければならないロジックであり、スキルであるとしています。

DXのスタートラインは、自社のシステム構成を理解することではなく、まず本屋の本棚の前に立って、その本棚を見渡して、それで自社ビジネスをどう組み立てるかを考えるべきである。

「本屋にない本」を探すことが、ビジネスが価値とソリューションを生むための一手であり、企業がプラットフォームになるきっかけでもあり、業種という考え方から卒業することにもつながる。

デジタル化の進展を通じてレイヤー構造のかたちをとったエコシステムが生まれ、サイバー・フィジカル融合を経てあらゆる企業が関わるようになっています。

企業がそれらと向き合うには、本棚に本を探すような感覚で臨み、アーキテクチャという手法を使ってアプローチすべきである。

「デジタル化から経営へ、経営からデジタル化へ」「具体から抽象へ、抽象から具体へ」と往復を繰り返すことが、IX時代に求められる思考態度であり、行動様式である。

本書には、「ミルフィーユ」「白地図」「本屋にない本を探す」などの表現が使われていて、その意味するとこを表現からは想像することはできませんが、それらの表現にはデジタル化の本質を鋭く掘り下げています。

また、「レイヤー構造」や「アーキテクチャ」といった用語も、具体的な事例を紹介しながら、わかりやすく解説しています。

そのうえで、IX時代での自らの地図の描き方、アーキテクチャ認識力・思考力を持つ人材、身に着けるべき発想を提言していますので、IX時代を勝ち抜いていくための対応策を考えていくうえで参考となる一冊です。

目次

第1章 デジタル時代の歩き方

第2章 抽象化の破壊力―上がってから下がる

第3章 レイヤーがコンピュータと人間の距離を縮める

第4章 デジタル化の白地図を描く

第5章 本屋にない本を探す

第6章 第4次産業革命とは「万能工場」をつくることだ

第7章 アーキテクチャを武器にする

第8章 政府はサンドイッチのようになる

第9章 トランスフォーメーションの時代

解説 本書は全てのビジネスパーソンへの応援的挑戦状

参考

DXの思考法 日本経済復活への最強戦略』西山圭太 解説・冨山和彦 | 文藝春秋BOOKS

企業のDX化には「本棚を眺める」事が不可欠な訳 | 東洋経済オンライン

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