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富士通の経営方針と決算資料を参考にしてATY-Japanで作成
富士通は、2020年度(2021年3月期)通期決算に合わせて、「2020年度経営方針進捗レビュー」も発表しています。
今回の発表では、価値創造のための2つの事業領域に加え、2020年5月に発表した「パーパス(存在意義)」実現に向けた「価値創造」と「自らの変革」合わせた7つの課題への取り組み状況を明らかにしています。
2020年度の経営方針
わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続的可能にしていくことです。
富士通のパーパスを定義しています。
そこで、テクノロジーソリューション事業の中期目標として、2022年度売上収益3兆5,000億円、営業利益率10%を掲げています。
また、非財務指標として、人権・多様性、ウェルビーイング、環境、コンプライアンス、サプライチェーン、安全衛生、コミュニティの7つの課題について、NPS(Net Promoter Score)を用いて評価する仕組みを2021年度中に目標値を設定する予定としています。
価値創造のための2つの事業領域
デジタル(DX、モダナイゼーション)を「For Growth」、従来型ITを「For Stability」と定め、2つの事業領域でお客様や社会への価値創造に取り組む。
「For Growth」では規模の拡大と収益規制の両方を伸ばし、「For Stability」は効率性を上げ、利益率を高める。
- ・For Growth:DXやモダナイゼーションといったデジタル領域を、お客さまの事業の変革と成長に貢献する事業領域
2022年度売上収益1兆3,000億円を目指し、テクノロジーソリューションの売上収益の内37%を占める計画
- ・For Stability:システム保守や運用、プロダクト提供といった従来型IT領域を、IT基盤の安定への貢献と、品質向上に取り組む領域
2020年5月発表「パーパス(存在意義)」
「『イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく』というパーパスに基づいて、富士通は、すべての活動を行っていく」として、富士通グループ全社員の原理原則である「Fujitsu Way」を12年ぶりに刷新しています。
- ・新たなFujitsu Wayは、社員全員がパーパス実現に向けて、自律的に意思を決定し、行動していくためのよりどころである。
- ・Fujitsu Wayは、パーパス、大切にする価値観、行動規範で構成している。
富士通グループは、すべての行動をFujitsu Wayに照らし合わせて判断し、パーパスの実現に取り組むことになる。
2020年度の実績と取り組み
富士通は、パーパス実現のために取り組む課題として、「価値創造」と「自らの変革」をあげています。
さらに、「価値創造」では、顧客の事業変革や成長に貢献する「For Growth」領域で規模の拡大と収益性の向上を目指し、顧客の事業の安定化に貢献する「For Stability」で効率性を高め、利益を向上させる方針を打ち出しています。
そして「価値創造」の観点からは、「グローバルビジネス戦略の再構築」「日本国内での課題解決力強化」「お客さま事業の一層の安定化に貢献」「お客さまのDXベストパートナーへ」という4つの取り組み
「自らの変革」の観点からは、「データドリブン経営強化」「DX人材への進化・生産性の向上」「全員参加型、エコシステム型のDX推進」という3つの取り組み
「価値創造」と「自らの変革」のための投資として、今後5年間で5,000億円の投資を継続
- ・価値創造のための投資
サービス・オファリング投資、M&A・有力パートナーとのアライアンス、ベンチャー投資、将来を見据えた戦略的なDXビジネスへの投資
- ・自らの変革のための投資
高度人材(コンサルティング、サービス)の獲得、内部強化(リスキング、社内システム)
2020年度の取り組み
価値創造 1.グローバルビジネス戦略の再構築
- ・グローバル共通のポートフォリオ、アカウントプラン、オファリング、アライアンスの施策を実行
全てのリージョンで効率化を進め、将来のビジネス規模拡大と利益率向上のための施策を推進した他、グローバル共通のポートフォリオに沿って、重点アカウントの選定やオファリングを拡充し、リージョン同士やリージョンと各ビジネスグループとの連携を強化
- ・サービスデリバリー体制の変革
世界8カ国に展開しているグローバルデリバリーセンターで、世界規模でサービスデリバリーの標準化や最適化を進め、サービスモデルの見直しに着手し、効率化によるコスト競争力を強化
- ・海外リージョンの構造改革
欧州では、プロダクト生産体制の見直しを完了してサービスビジネスへシフト
米国では、事業全体の構造改革に着手
オセアニアでは、業種軸のフォーメーションを強化
アジアでは、サービスビジネスへのシフトを進め、重点業種へのオファリングを強化
価値創造 2.日本国内での課題解決力強化
- ・2020年10月1日に発足した富士通Japanが、2021年4月1日付で11,000人規模の体制で本格的にスタート
2021年4月1日付で、富士通新潟システムズ、富士通ワイエフシー、富士通山口情報、富士通エフ・オー・エムの4社を吸収して、国内における富士通グループの顧客窓口を一本化し、コンサルティングからサポートまでをワンストップで提供する体制を整備
(全国を6つのエリアに分けて、各エリアに責任本部を設置し、営業スタイル変革による社会課題へ対応、DXビジネスを積極的に展開)
- ・2期連続で世界4冠を達成したスーパーコンピュータ「富岳」の技術とAI技術の組み合わせにより、環境・防災・健康などの現代社会が抱えるさまざまな課題の解決に貢献
- ・「未来社会&テクノロジー本部」を、2021年4月に社長直下の組織として設置
ウェルビーイングを実現する未来の社会を描くデザイナー、それを実装するエンジニアなどの350人体制で構成
価値創造 3.お客さま事業の一層の安定化に貢献
- ・ジャパン・グローバルゲートウェイを2020年11月に設立
付加価値の高いITサービスを持続的に提供できる企業になるために、徹底した内製化、デリバリースキルの向上、標準化により品質と生産性を向上
- ・SI系グループ会社を再編し、15社のうち11社をジャパン・グローバルゲートウェイに統合
各社に分散していた強みを集約してグループの総合力を強化し、重複投資の抑制や費用削減を進めてコスト効果も期待
- ・全社リスクマネジメント室を社長直下に設置
重大なインシデントに対して迅速に対応できるような体制を整え、お客さまのIT基盤の安定稼働を確実に実行
価値創造 4.お客さまのDXベストパートナーへ
- ・フロント機能を強化
顧客のDXをリードするビジネスプロデューサーの育成では、国内で3,700人を対象に育成プログラムを開始
2020年4月に始動したRidgelinezについては、DXを軸にして富士通とは異なる独自ビジネスを推進し、すでに約300社の多様な業種の企業にDX支援のコンサルティングサービスを提供
- ・協業によるDXビジネスの創出
ペプチエイド㈱の設立:新型コロナウイルス感染症治療薬の開発を目的とした新会社
㈱DUCNETの設立:製造業のDXを実現するクラウドサービスを提供する新会社
Zippinとの協業:リアル店舗におけるDXを加速、競争力の強化を支援
自らの変革 1.データドリブン経営強化
- ・One Fujitsuの取り組みを推進
- ・社内で発生するあらゆるデータをリアルタイムで収集、分析し、データに基づく未来予測型の経営に移行
- ・Palantirのデータ分析テクノロジーを活用
自らの変革 2.DX人材への進化・生産性の向上
- ・デザイン思考の浸透によるDX人材の育成やジョブ型人材マネジメントの導入
- ・ジョブ型人材マネジメント、Work Life Shiftにより、生産性の高い働き方を支援
自らの変革 3.全員参加型、エコシステム型のDX推進
- ・社内DXプロジェクト(フジトラ)を開始、約300の変革テーマを推進中
- ・お客様や社員の声を、経営や事業施策に活用する「VOICEプログラム」を実施
名刺管理ソリューションの導入や顧客や社員の声を、経営や事業施策に活用
2021年度の業績予想(2022年度目標達成に向けた取り組み)
財務目標
富士通の経営方針と決算資料を参考にしてATY-Japanで作成
成長投資を加速し、テクノロジーソリューションで売上収益3兆5,000億円(内、For Growth領域で1兆3,000億円、全収益の37%)、営業利益率10%を目指す。
売上収益の拡大
- ・重点注力分野の拡充
- ・サービスビジネスの継続強化
採算性改善
- ・サービスデリバリー体制変革
- ・海外リージョン構造改革
- ・不採算プロジェクト抑制
For Growthをけん引する7つの重点注力分野
製造、流通、金融、行政などの業種ごとのビジネスをこれまで展開してきたが、それらの縦割りのソリューションを、クロスインダストリーという広い視野でとらえなおし、個々のソリューションは強化しながら、革新的なソリューションを組み合わせて提案することが大切であるとしています。
For Growthをけん引するため、「Vertical」「Horizontal」の領域合わせて7つの重点注力分野を定めています。
特に「Vertical」エリアを定義したのは、2030年を想定して、誰も取り残されないサスティナブルな世界を実現するために、取り組むべき課題や求められていることについて、社会全体を業種横断型の見方をする形で、社会への貢献、顧客と市場、富士通の観点から注力する分野を定め、中長期的に経営リソースを集中することにあるとしています。
Vertical
- ・Sustainable Manufacturing:環境と人に配慮した循環型でトレーサブルなものづくり
- ・Consumer Experience:生活者に多様な体験を届ける決済・小売・流通
- ・Healthy Living:あらゆる人々のウェルビーイングな暮らしをサポート
- ・Trusted Society:安心・安全でレジリエントな社会づくり
Horizontal
- ・Digital Shifts:データを活用したデータドリブン経営や新たな働き方を支援
- ・Business Applications:企業を支えるクラウドインテグレーションやアプリケーション
- ・Hybrid IT:企業や社会を支えるクラウドやセキュリティ
2021年4月1日付で富士通研究所を富士通に統合(CTO直下の組織)
DX企業、テクノロジーカンパニーとして、より全社戦略に沿った迅速な事業化につながる研究開発を行うことが狙いとしています。
社内に点在している調査・分析機能を集約して、全社の技術戦略立案機能を担う「技術戦略本部」と、先端技術研究を行う「研究本部」を置いたことにより、経営と研究開発を一体化し、全社戦略と合致した研究開発をスピーディに実行する。
グローバルな技術動向を調査して「調査・分析機能」で全社技術戦略を立案し、そこからオープン技術活用(M&A、提携)を「研究開発機能」に引継ぎ、「研究開発機能」の基礎研究から未来の企業価値創造、応用研究から製品・サービスの実用化を目指す。
キャピタルアロケーション
強固な財務基盤をベースにキャッシュを最適配分し、持続的な企業価値の向上につなげる。
- ・ベース:社会インフラを支える企業のひとつとして相応しい強固な財務基盤
- ・方向性:事業の成長と資本効率の向上につながる戦略的な成長投資、事業と利益の成長ステージに見合った安定的かつ持続的な株主還元の向上
今後5年間(2020年度~2024年度)の計画
- ・フリーキャッシュフロー:今後5年間で1兆円超のFCFを創出
- ・戦略的な成長投資:5,000億円以上の戦略的な成長投資を継続的に実施
- ・資本効率:一株当たりの当期利益(EPS)の持続的成長(CAGR12%)
環境への取り組み
温室効果ガス削減目標:SBT 1.5℃認定取得
- ・2℃認定(2017年)から目標値を上方修正
- ・「徹底的な省エネ」と「再エネ利活用」を加速し、2030年71.4%削減を目指す(2013年度比)
事業活動におけるリスク回避、環境負荷最小化
- ・製品・梱包のプラスチック削減に着眼した省資源設計のさらなる推進
- ・サプライチェーンを通じた水使用量削減、水リスク評価の強化
ビジネスを通じた環境課題解決
- ・クラウドサービス「FJcloud」を2022年度までに100%再生エネルギー運用
- ・デジタルアニーラを活用した物流効率化によるお客様のCO2削減への貢献
非財務指標
ネットプロモータースコア(お客様NPS)は、グローバルで調査を実施しており、今年度中に目標値を設定する予定
従業員エンゲージメント
- ・富士通で働くことにポジティブな社員が2020年度実績で65%(2019年度実績は56%)
- ・2022年度には75%に高める目標
経済産業省のDX推進指標
- ・2020年度実績は2.4(2019年度実績は1.9)
- ・2022年度には3.5に高める目標
参考:富士通の発表資料
2021.04.28 経営方針進捗レビュー(2021年4月28日実施)
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