このページ内の目次
先日整理した富士通の第2四半期(2018年4月1日~9月30日)は、前年同期に対して、売上収益は減収となったものの、営業利益と税引前利益及び当期利益は増益しました。
第1四半期同様に、本業よりも再編影響及び退職給付制度などの特殊事項が影響する内容になっています。
ここでは、第2四半期決算に合わせて発表された「経営方針 2018年度進捗レビュー」について、「2015年に発表した経営方針の進捗状況」や「成長に向けた施策」などの主なポイントを整理します。
経営方針の進捗状況(2018年度 進捗レビュー)
2015年6月に田中社長就任以来、在任中の達成目標として以下の目標を掲げていますが、今回その進捗状況と今後の取り組みについての発表がありました。
目標 | 2017年度実績 | 2018年度予想 | 今回のレビュー | |
---|---|---|---|---|
営業利益率 | 10%以上 | 4.5% 本業ベース:3.2% |
3.6% | 見直し |
フリー キャッシュフロー |
1,500億円以上 | 1,778億円 | 1,200億円 | 見込み通り |
自己資本比率 | 40%以上 | 34.8% | 未定 | 見込み通り |
海外売上比率 | 50%以上 | 36.8% | 未定 | 見直し |
現段階において、自己資本比率とフリーキャッシュフローの指標は見込み通りに進捗しているが、営業利益率と海外売上比率は見直すことになるとしています。
そして、具体的な数値目標として、2022年度にテクノロジーソリューション事業で、売上高3兆1,500億円、営業利益率10%を目指すことを新たに発表しています。
なお、日本における構造改革の成果が現れるのは2020年度前半、海外では2020年度後半になるとして、2019年度は一時的に縮小する見込みとしています。
M&Aについては、機会があれば積極的に行っていくとしています。
提供するサービスを強化する上で補完ができ、シナジーが高まる企業や製品を強化するために有力な技術を持っている企業がM&Aの対象となり、相手先企業の規模も柔軟に考えたいとしています。
2022年度、テクノロジーソリューション事業で営業利益率10%を目指す。
2017年度 実績 | 2018年度 予想 | 2019年度 予想 | 2022年度 目標 | |
---|---|---|---|---|
売上高 | 3兆527億円 | 3兆1,000億円 | 3兆円 | 3兆1,500億円 |
国内売上 | 1兆9,983億円 | 2兆500億円 | 2兆500億円 | 2兆1,500億円 |
海外売上 | 1兆543億円 | 1兆500億円 | 9,500億円 | 1兆円 |
海外比率 | 34.5% | 33.9% | 31.7% | 31.7% |
営業利益率 | - | 4% | 5% | 10% |
- ・2022年度の売上高3兆1,500億円の内訳:国内は売上高2兆1,500億円、海外で1兆円
2019年度の売上高3兆円(営業利益率5%):国内2兆500億円、海外9,500億円
2018年度の売上高3兆1,000億円(営業利益率4%):国内2兆500億円、海外1兆500億円
- ・M&Aを含まない成長をベースに策定し、海外売上高比率50%の目標については2022年度までの計画からは除外する。
- ・海外事業は売り上げ規模を追うのではなく、顧客への価値提供を目指し、強固な収益体質の確立を目指す。
サービスオリエンテッドカンパニーとして、つながるサービスで収益力を高め、成長を目指し、この実現に向けて「形をかえる」と「質をかえる」取り組みをしており、今後は「質をかえる」取り組みに集中するとしています。
- ・形をかえる取り組み
コア事業であるテクノロジーソリューションに経営資源を集中する取り組みで、デバイスソリューション事業及びユビキタスソリューション事業の主要ビジネスに関して独立化を進め、ひとつの山を越えたとしています。
- ・形をかえる取り組み
テクノロジーソリューションの事業内容を進化させ、成長を目指す。
成長に向けた3つの施策
成長に向けた施策として、「国内ビジネスの営業改革」「事業の強化」「新たなグローバル体制の構築」の3つを展開することを改めて発表しました。
1.国内ビジネスの営業改革
本体とグループ会社に分散している国内1万人以上の営業体制を見直し、重点分野にパワーシフトする。
従来のアカウント営業に加えて、専門営業を強化してシンプルな営業体制にすることにより、より付加価値の高い提案をスピーディに行なう。
専任営業のチームは以下の構成とし、2020年度には1,200名規模に増強する。
- ・製造・流通分野を中心に、顧客の事業やLoBに入り込み、パートナーとともにビジネスを創出するチーム
- ・AIやIoTといった最新のデジタルテクノロジーにより、顧客の事業に新たな価値を提供するチーム
- ・組織や業界の垣根を越えて、顧客同士をつなぎ新たなビジネスモデルによるクロインダストリーを創出するチーム
2.事業の強化
基本方針として、以下の4つを展開する。
- 1.統一戦略によるグローバル商品開発:世界に通用する商品開発
- 2.自前主義からの脱却:テクノロジーにこだわり有力な製品を開発してきた姿勢を維持しながら、有力なパートナーが持つ商品やサービスを組み合わせて高い価値を実現
- 3.市場特性にあったスピーディなサービス提供:事業部門や研究開発部門を戦略的に各リージョンに配置し、ニーズを適切に把握し、地域における営業部門と密接に連携
- 4.グローバルに競争力のある人材の獲得と育成:世界各地において、多様で実践力がある人材を獲得
コンサルティング部門を強化し、500人規模の組織を立ち上げ
- ・昨年に立ち上げたデジタルトランスフォーメーションを支える組織と富士通総研の連携を強化する。
- ・外部からのコンサルタントの獲得、コンサルタントパートナーとして他社とのアライアンスにも積極的に取り組む。
サービスデリバリーの変革
- ・アジャイル手法をエンタープライズ分野に適用するために、全ての組織にエンタープライズ・アジャイルを展開する。
- ・これに対応可能な人材を国内外で順次育成し、2020年度には少なくとも100億円の効率化を目指す。
- ・さらに、従来の人月をベースにしたモデルから、今後は提供価値をベースにしたモデルにシフトし、付加価値の高いサービス提供を目指す。
国内市場においては、営業の強化と連動しフロントリソースを強化し、特に製造・流通分野のエンジニアリソースを、現在の3,800人から2020年には4,300人まで増員する。
SAP関連人材の強化
- ・2020年度には通過点として全世界でSAP関連人材を5,000人にまで強化する。
- ・2025年のSAPライセンスの切り替えに向けて、顧客ニーズに対応する体制を作り、このビジネス機会を確実に収益につなげる。
3.新たなグローバル体制の構築
マトリクス経営を導入してから5年が経過し、その進化系として「グローバルマトリクス5.0」を採用する。
これにより、各リージョンにおけるマーケティング機能を強化し、世界中から集めた情報をグローバルな営業戦略や事業戦略に反映する。
「事業の強化」の内、商品力強化に向けた取り組み
クラウドビジネスの商品力強化
- ・2018年度上期に以前からの自前主義を転換
MicrosoftやVMwareなどのメガクラウドパートナーとのアライアンスを積極化し、全世界1万人規模の認定エンジニアを育成中
- ・クラウドへのマイグレーションや自動配備に関するツール群を拡充
オンプレミスとつなぐハイブリッドITビジネスに注力しているとともに、AIやIoTなどのクラウド上のアプリケーションを拡充中
デジタルビジネスの商品力強化
- ・デジタルアニーラ
バンクーバーにヘッドクオーターを設置するとともに、北米などAI先進地域の企業・人材と連携する。
■今後は適用領域の拡大を進め、これらの成果をビジネスに展開する。
■難解な組み合わせ最適化問題を解決したり、製造工程の革新、新薬のスピーディな開発、最適な金融ポートフォリオの開発などにおいて実績が出てきている。
- ・セキュリティはデリバリー体制を強化
■東京とロンドンの2ヘッドクオーター制で対応する。
■セキュリティ・マイスターSEを2021年度までに1万1,000人に増強する。
ネットワーク領域の強化
- ・エリクソンとの戦略的パートナーシップを組み、国内市場において、モバイルキャリア向け5G無線基地局の共同開発を行い、将来的にはこれをグローバル市場に展開する。
- ・無線の専業メーカーのエリクソンの強みに、富士通の技術を組み合わせることにより、両社のシナジーが発揮でき、将来は一緒に製品をグローバル提供することも視野に入れる。
- ・将来構想として、以下を推進する。
■5G無線基地局のグローバル市場への展開
■5Gモバイル網バックホール製品群の補完
■IoTソリューションの提供
■ネットワーク製品製造拠点の活用
EMEIA:利益率改善に向けて抜本的な構造改革を実施
- ・プロダクトビジネスの体質強化に向けたグローバル再編、アウグスブルグ工場(ドイツ)の閉鎖に向けた検討開始する。
- ・顧客基盤が強い拠点に経営資源を集中する。(全体の約半数を見直し)
- ・間接費用の圧縮によるコスト競争力を強化する。
経営体制の見直しとリソースシフト
経営体制の見直し
意思決定と実行力のスピードアップ、責任と権限の明確化(2019年1月1日付け)
- ・代表取締役を田中達也社長と塚野英博副社長の2人体制に変更
- ・執行役員を現在の執行役員常務以上とすることで、役員数を半減し、事業責任を明確化することにより、代表取締役を含むと60人から26人に減少
- ・複数の事業部門を、テクノロジーソリューション部門としてひとつに集約し、指揮系統のシンプル化と従来の部門を越えたシナジーを創出
- ・全体最適の視点でグループフォーメーション改革を加速するため、一部主要子会社の社長は富士通の担当役員が兼務し、グループガバナンスを強化
成長に向けたリソースシフト
5000人規模のリソースシフトによる成長領域の増強、間接及び支援機能の効率化・適正化(間接部門の25%が対象)
- ・コーポレートファンクションなどの業務ノウハウを活用した営業、SE、業務コンサルティング、SAPコンサルティング人材の育成
- ・グループ会社の間接及び支援機能を本体に集約
サービスカンパニーにふさわしい人材投資の拡充、グループ内外へのキャリアチェンジや転進を支援
- ・製造体制については、事業規模や業態に応じたフォーメーションの見直し
製造体制の統廃合というよりも、作るものの量に応じた製造体制、コストを賄える製造体制を前提
関連する情報(当サイト)
2018.05.07 社長就任時目標の進捗状況(富士通の2017年度通期決算発表時)
2018.02.10 NECの過去の中期計画の目標値と未達成の歴史
2018.02.01 NECの「2020中期経営計画」
2018.11.10 富士通の経営方針の2018年度進捗レビュー
2018.11.09 2018年度第2四半期決算:富士通
2018.11.08 2018年度第2四半期決算:NEC
関連記事
前へ
富士通の2018年度(2019年3月期)第2四半期決算は減収増益、本業は前年並みも特殊事項が影響
次へ
書籍 プラットフォーム・レボリューション(PLATFORM REVOLUTION)/ジェフリー・G・パーカー(著)