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NECの中期経営計画と決算資料を参考にしてATY-Japanで作成
NECは2021年5月14日、2020年度通期決算発表に合わせて、2025年度を最終年度とする「2025中期経営計画」も発表しました。
発表から約3ヶ月経った「2025中期経営計画」の現状について、「囲碁に例えれば、布石がほぼ終わり、中盤戦に差し掛かるところ。どこで戦うか、どこで攻めを起こすか、終盤に向けて、どこを補強していくかを考えている」と、2021年4月に社長に就任した森田 隆之社長兼CEOがコメントしています。
そこで、過去の中期経営計画の目標値未達の歴史とともに、「2025中期経営計画」の状況を整理します。
「2020中期経営計画」の振り返りと過去の中期経営計画
「2020中期経営計画」の振り返り
「2020中期経営計画」の目標と2020年度(2021年3月期)の実績は、以下の通りです。
2017年度 | 2020中期経営計画 | 2025中期経営計画 | ||
---|---|---|---|---|
実績 | 目標 | 実績 | 目標 | |
売上収益 | 2兆8,444億円 | 3兆円 | 2兆9,940億円 | 3兆5,000億円 |
営業利益 売上収益比 |
639億円 2.2% |
1,500億円 5.0% |
1,538億円 5.1% |
|
調整後営業利益 売上収益比 |
725億円 2.6% |
1,782億円 6.0% |
3,000億円 8.6% |
|
当期利益 売上収益比 |
459億円 1.6% |
900億円 3.0% |
1,496億円 5.0% |
|
調整後当期利益 売上収益比 |
503億円 1.8% |
1,496億円 5.0% |
1,850億円 5.3% |
|
フリー キャッシュ・フロー |
1,158億円 | 1,000億円 | 1,524億円 | |
ROE 自己資本利益率 | 5% | 10% |
NECの中期経営計画と決算資料を参考にしてATY-Japanで作成
調整後営業損益 = IFRS営業損益 - 調整項目
「2020中期経営計画」の振り返りとしては、継続的成長投資ができる収益性確保 と実行力の改革により営業利益率 6%を達成し、グローバル成長と国内事業のさらなる収益性向上を目指すと振り返っています。
財務目標としていた、営業利益 1,500億円、利益率 5.0%、フリー・キャッシュ・フロー 1,000億円の主な目標値を達成しています。
「2020中期経営計画」であげた3つの方針については、主に以下取り組みを実行ています。
収益構造の改革
- ・特別転進支援施策の実施
- ・エネルギー事業縮小、ディスプレイ事業合弁会社化
- ・NECプラットフォームズ生産体制効率化、筑波研究所売却
成長の実現
- ・KMD Avaloq 買収
- ・NTT、楽天との戦略的協業
- ・DX事業創出、デジタルプラットフォーム / オファリング等の整備
実行力の改革
- ・dotData / NEC X 設立、創薬事業への参入
- ・NEC Way改定、役員の委任契約、外部人材登用
過去の主な中期経営計画と目標値未達成の歴史
以下に、過去の主な中期経営計画の目標値と結果の概要を整理します。
「2020中期経営計画」は目標値を達成するとともに、2年連続で最終利益の過去最高を更新しました。
しかし、それまでの中期経営計画においては、各計画年度で対策を講じて努力してきたのでしょうが、毎回未達成に終わっています。
発表時 | 中期経営計画 | |||
---|---|---|---|---|
決算 | 発表時目標 | 結果 | 主な構造改革 | |
中期成長戦略 2003年10月30日発表 |
2002年度 2003年3月期 |
2006年度 2007年3月期 |
||
売上高 | 4兆6,950億円 | - | 4兆6,526億円 | 【人員削減】 2001年 4,000人削減 2002年 2,000人削減 |
営業利益 | 1,208億円 | - | 700億円 | |
営業利益率 | 2.6% | 7.0% | 1.5% | |
純利益 | △245億円 | - | 91億円 | |
ROE | - | 15.0% | 0.9% | |
海外比率 | 22.4% | - | 26.1% | |
経営戦略説明会 2006年5月29日発表 |
2005年度 2006年3月期 |
2006年度 2007年3月期 |
||
売上高 | 4兆9,300億円 | - | 4兆6,526億円 | |
営業利益 | 725億円 | 1,300億円 | 700億円 | |
営業利益率 | 1.5% | 7.0% | 1.5% | |
純利益 | △101億円 | - | 91億円 | |
ROE | - | 15.0% | 0.9% | |
海外比率 | 27.3% | - | 26.1% | |
V2012 2010年2月25日発表 |
2009年度 2010年3月期 |
2012年度 2013年3月期 |
||
売上高 | 3兆5,831億円 | 4兆円 | 3兆716億円 | 【携帯事業】 2010年 合弁会社に移行 【PC事業】 2011年 レノボに売却 【人員削減】 2012年 10,000人削減 |
営業利益 | 509億円 | 2,000億円 | 1,146億円 | |
営業利益率 | 1.4% | 5.0% | 3.7% | |
純利益 | 114億円 | 1,000億円 | 304億円 | |
ROE | 1.0% | 10.0% | 4.5% | |
海外比率 | 19.9% | 25.0% | 15.7% | |
発表時 | 中期経営計画 | |||
決算 | 発表時目標 | 結果 | 主な構造改革 | |
2015中期経営計画 2013年4月26日発表 |
2012年度 2013年3月期 |
2015年度 2016年3月期 |
||
売上高 | 3兆716億円 | 3兆2,000億円 | 2兆8,248億円 | 【半導体事業】 2013年 非持分化 【プロバイダ事業】 2014年 Biglobe売却 |
営業利益 | 1,146億円 | 1,500億円 | 914億円 | |
営業利益率 | 3.7% | 4.7% | 3.2% | |
純利益 | 304億円 | 600億円 | 759億円 | |
ROE | 4.5% | 10.0% | 8.5% | |
海外比率 | 15.7% | 23.0% | 21.4% | |
2018中期経営計画 2016年4月28日発表 |
2015年度 2016年3月期 |
2018年度 2019年3月期 |
||
売上高 | 2兆8,248億円 | 3兆円 | 2020年度達成 目標を延期 ↓ |
【携帯事業】 2016年 合弁会社解散 【半導体事業】 2017年 保有株売却 【電池事業】 2018年 持ち株を譲渡 |
営業利益 | 914億円 | 1,500億円 | ||
営業利益率 | 3.2% | 5.0% | ||
純利益 | 759億円 | 850億円 | ||
ROE | 8.5% | 10.0% | ||
海外比率 | 21.4% | 26.7% | ||
発表時 | 中期経営計画 | |||
決算 | 発表時目標 | 結果 | 主な構造改革 | |
2020中期経営計画 2018年1月30日発表 |
2017年度 2018年3月期 |
2020年度 2021年3月期 |
||
売上高 | 2兆8,8,444億円 | 3兆円 | 2兆9,940億円 | 【蓄電池事業】 NECエナジー売却予定 【照明事業】 NECライティング売却 【光学事業】 昭和オプトロニクス売却 【ディスプレイ事業】 NECディスプレイ売却 【その他】 NECプラットフォームズ 生産体制効率化 筑波研究所売却 【人員削減】 特別転進支援施策 (3,000人規模の削減) |
営業利益 | 639億円 | 1,500億円 | 1,538億円 | |
営業利益率 | 2.2% | 5.0% | 5.1% | |
純利益 | 459億円 | 900億円 | 1,496億円 | |
ROE | 5.0% | 10.0% | ||
海外比率 | 26.0% | 29.7% | 23.5% | |
2025中期経営計画 2021年5月14日発表 |
2020年度 2021年3月期 |
2025年度 2026年3月期 |
||
売上高 | 2兆9,940億円 | 3兆5,000円 | - | |
調整後営業利益 | 1,782億円 | 3,000億円 | - | |
売上収益比 | 6.0% | 8.6% | - | |
調整後当期利益 | 1,496億円 | 1,850円 | - | |
売上収益比 | 5.0% | 5.3% | - | |
EBITDA | 2,958億円 | 4,500億円 | - | |
売上収益比 | 9.9% | 12.9% | - | |
ROIC | 4.7% | 6.5% | - |
NECの中期経営計画と決算資料を参考にしてATY-Japanで作成
2015年度以降IFRS基準
2025中期経営方針
NECの強みは、効率がいいR&Dと日本で長年に渡り社会インフラやネットワーク基盤を支えてきたクオリティの高い実装力である。
この強みを価値に転換するために、自社の強い技術を共通基盤として整備するとともに、M&Aなどにより、適宜、外部補完することで、グローバルと日本で高い収益力とキャッシュ創出力を実現する。
そこで「2025中期経営計画」では、以下の目標達成に向けて取り組むとしています。
2020中期経営計画 | 2021年度 | 2025中期経営計画 | ||
---|---|---|---|---|
目標 | 実績 | 予想 | 目標 | |
売上収益 | 3兆円 | 2兆9,940億円 | 3兆円 | 3兆5,000億円 |
調整後営業利益 売上収益比 |
1,500億円 5.0% |
1,782億円 6.0% |
1,550億円 5.2% |
3,000億円 8.6% |
調整後当期利益 売上収益比 |
900億円 3.0% |
1,654億円 5.5% |
900億円 3.0% |
1,850億円 5.3% |
EBITDA 売上収益比 |
2,958億円 9.9% |
3,000億円 10.0% |
4,500億円 12.9% |
|
ROIC | 4.7% | 6.5% |
NECの中期経営計画と決算資料を参考にしてATY-Japanで作成
調整後営業損益 = IFRS営業損益 - 調整項目
EBITDA = 売上総利益 - 販売管理費 + 減価償却費/償却費
ROIC = (調整前営業利益 - みなし法人税<30.5%>) ÷ (期末有利子負債 + 期末純資産<非支配株主持分含む>)
今回の中期経営計画は、2021年4月1日付で社長兼CEOに就任した森田隆之氏が初めて発表する経営目標となります。
「デジタルガバメントおよびデジタルファイナンス市場において、グローバルトップクラスのバーチカルSaaSベンダーを目指す」と宣言し、以下の目標値をあげています。
- ・売上収益:3兆5,000億円(2020年度実績:2兆9,940億円)、2020年度比成長率:3.2%
- ・調整後営業利益:3,000億円(同1,782億円)、売上収益比:8.6%(同6.0%)
- ・調整後当期利益:1,850億円(同1,496億円)、売上収益比:5.3%(同5.0%)
- ・EBITDA:4,500億円(同2,958億円)、売上収益比:12.9%(同9.9%)
- ・ROIC:6.5%(同4.7%)
- ・非財務指標
エンゲージメントスコア:50%(同25%)
女性および外国人役員の構成比:20%
女性管理職:20%
NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。
NECは、パーパスとして「Orchestrating a Brighter world」を2013年に掲げて取り組んでいますが、今回の中期経営計画では、「戦略」と「文化」とを結びつけて実現を目指し、そのためには、テクノロジーを最大活用し、世界に一歩先んじて、目指す未来像を提示し、『未来の共感』を創ることが必要であるとしています。
戦略では、
- ・目標指標は、EBITDA成長率を年平均9%
- ・テクノロジーを強みに、グローバル成長と国内事業のトランスフォーメーションを加速し、長期利益の最大化と短期利益の最適化を目指す。
- ・NECの成長モデル、「長期利益の最大化」と「短期利益の最適化」、サスティナブルな成長を支える非財務基盤の確立に取り組む。
文化では、
- ・目標指標は、エンゲージメントスコア50%
- ・NEC Wayのもとに多様な人材が集い、イノベーションを追求する会社を実現し、選ばれる会社(Employer of Choice)を目指す。
- ・人・カルチャーの変革、ビジネスインフラの整備、顧客との未来の共感創りに取り組む。
さらに今回、「NEC 2030 VISION」を策定し、「環境」「社会」「暮らし」の3点から取り組むことを発表しています。
「NEC 2030 VISION」は、各部門の代表者や役員が策定に参画し、未来の生活者を思い、ありたい姿を具体化し、社会実装に向けた活動を開始することになるとしています。
成長事業:2021年度の施策
日本を含むグローバルでフォーカスする事業領域は、デジタル・ガバメント(DG)/デジタル・ファイナンス(DF)、グローバル5Gである。
国内IT事業のトランスフォーメーションでは、コンサルティング領域から実装力までを一体化した強みや、優位性がある共通技術と共通基盤などをコアDXと位置づけ、これを、成長を実現するためのキードライバーとする。
社会変化や企業変革のDXを支援するとともに、国内の既存IT事業においても競合を上回る高い収益性を実現したい
成長事業には、「DG/DF」「グローバル5G」「コアDX」「次の柱となる成長事業」の4点をあげ、「成長事業は、競争優位獲得強化のために優先的に資源配分を進め、増収増益をけん引。成長事業以外で構成するベース事業では、慎重な事業環境を前提にした上で収益性の改善に軸足を置く」としています。
そして、成長事業の売上収益に対する構成比と調整後営業利益率について、以下を計画しています。
- ・売上収益に対する構成比:2025年度 32.9%(2020年度:12.7%)
- ・調整後営業利益率:2025年度 成長事業 12.9%、ベース事業 10.0%
(全体:2025年度 8.6%、2020年度 5.1%)
そこで、2021年7月30日に発表した「2021年度第1四半期決算」では、成長事業における2021年度の主な施策は以下の通りとしています。
デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス
- ・売上収益
2020年度 1,931億円、2021年度 2,300億円、2025年度 3,000億円
- ・APACを含めた販売シナジーの創出
- ・オフシェア活用によるコストシナジーの創出
- ・小規模ボルトオン買収の継続
グローバル5G
- ・売上収益
2020年度 417億円、2021年度 800億円、2025年度 1,900億円
- ・国内市場でのシェア拡大
- ・海外での複数商用案件の獲得に加え、生産・販売体制の増強
- ・基地局、コア、運用管理ソフトの開発増強
コアDX
- ・売上収益
2020年度 1,410億円、2021年度 1,800億円、2025年度 5,700億円
- ・アビーム連携によるリソース活用強化と案件の獲得増
- ・行政DXの戦略提言・推進を加速
- ・ハイパースケーラーとの連携強化
発表から約3ヶ月経った「2025中期経営計画」の現状について、囲碁に例えて以下のように表現しています。
まだ布石をしなくてはならない部分もあるが、ほぼ布石は終わったという感じで、局面としては、中盤戦に差し掛かろうとしているところである。
どこで戦うか、どこで攻めを起こすか、そして、終盤に向けてどこを補強していくか、といったことを考える場面である。
限られた時間とリソースを、どこに効果的に展開していくかが、これから重要である。
NECは、「2020中期経営計画」の目標は達成したものの、過去の経営計画は未達成でした。
社員は計画の達成に向けた意欲はあるが、足りないものがあり、それは財務戦略と事業戦略の一体化が徹底されていないことであるとしています。
過去、さまざまな事業を展開してきたものの成功シナリオが成り立たず、競合にも負け、望むポジションを取ることができず、結果的に事業を売却してきた歴史があります。
NECの強みは、効率がいいR&Dと、長年国内で培ってきた社会インフラやネットワーク基盤を支えてきたクオリティの高い実装力であるとして、この強みを価値に転換するために、自社の強い技術を共通基盤として整備するとともに、M&Aなどにより、適宜、外部補完することで、グローバルと日本で高い収益力とキャッシュ創出力の実現を目指しています。
今回の中期経営計画では、「戦略」と「文化」とを結びつけて実現を目指し、そのためには、テクノロジーを最大活用し、世界に一歩先んじて、目指す未来像を提示し、『未来の共感』を創ることが必要であるとしています。
2020年度(2021年3月期)は、売上収益は、新型コロナウィルス感染症の拡大による影響があったものの、国内のNew Normal需要を獲得して前年に対して減収しましたが、営業利益は、不採算プロジェクトの抑制や費用効率化により増益となりました。
2021年度(2022年3月期)第1四半期も、国内市場の回復で、前年同期に対して増収増益となりました。
国内中心の事業展開で業績を維持していますが、「成長事業の国内外への展開とベース事業の低収益性改善の同時展開」をグローバル競争の中でいかに実現していくのか、NECの今後の動向に注目していきたいと思います。
参考
「2025中期経営計画(PDF)」日本電気 株式会社(2021年5月12日発表)
関連する情報(当サイト)
2021.08.13 NECの「2025中期経営計画」は布石を終えて中盤戦
2021.08.07 2021年度第1四半期決算と通期予想:NEC
2021.08.06 2021年度第1四半期決算と通期予想:富士通
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