イノベーションストリームとVSRプロセス、両利きの経営に向けたリーダーシップ

イノベーションストリームとVSRプロセス、両利きの経営に向けたリーダーシップ

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『両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』を参考にして作成

ここでは、『両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』で紹介されているイノベーションに関する経営学の重要な理論について整理します。

ひとつは著者らが独自に提示する実務的なフレームワーク「イノベーションストリーム」、もう一つは生物進化学を応用した社会学の視点がベースの「VSR(多様化・選択・維持)プロセス」です。

そして、「両利きの経営」を実現するためのリーダーシップについて、求められる行動や実践方法について整理します。

変化の激しい今日においては、成熟事業における既存の資産と組織能力を有効活用し、必要に応じて新しい強みにつくり替えることに前向きで、実際に実践する「両利きの経営」ができるリーダーの存在が重要になってきます。

イノベーションストリーム

イノベーションを起こすときには、新しい技術やビジネスモデルなどの新しい組織能力を身に着ける必要がある場合と、顧客インサイトがない場合などは新しい市場・顧客の組み合せに対応する場合がある。

実現可能性(組織能力)や対応する顧客タイプ(市場)で分けると、イノベーションは概念上三つの方向性(領域)で起こる可能性がある。

1.漸進型イノベーション

  • ・製品やサービスをより速くするか、より安くするか、より良くすることを目指していく。
  • ・既存の組織能力を頼りに、すでにわかっている道のりを進み、組織内に蓄積された知識に基づいて前進する。

2.不連続型イノベーション

  • ・大きな変化や不連続的な変化によって起こり、組織能力が無効になるような技術進歩を通じて改善が図られ、通常異なる知識基盤が必要となる。
  • ・通常、既存組織が持っているものとは異なる組織能力や技術が必要となり、その技術は必ずしも世の中で新しいものではなく、その企業にとってのみ新しい場合もある。

3.アーキテクチュアル・イノベーション(破壊的イノベーション)

  • ・一見するとマイナーな改善によって起こり、既存の技術や構成要素を組み合わせることで既存の製品やサービスを大幅に向上させる。
  • ・大々的な技術進歩に基づくものではないが、既存の製品やサービスに破壊をもたらすことも多い。

深化とは、これまで以上にうまく事業を行うことで、成功している企業は、時間とともに顧客理解を深め、より効率的に顧客ニーズを満たせるようになる。

そして、競争が激化し、利益率が低下する中で、企業は新しい顧客セグメントに対応するか、高利益率を狙える不連続的イノベーション、もしくはアーキテクチュアル・イノベーションを通じて隣接市場へ移動しようとすることが多い。

しかし、失敗企業は、往々にして創業当初の事業から移行する必要性がわかっていなかったり、移行が遅すぎたりする。

その一因は、既存顧客に既存製品・サービスを販売することから、新しい組織能力や製品を使って新規顧客に売り込むことへと移行する際に、リーダーたちがうまくマネジメントできないことにある。

両利きの状態になれず、利用可能なイノベーションストリームをマネジメントできていない。

VSR(多様化・選択・維持)プロセス

進化の本質は、時間とともに変化や変換することにあり、「自然選択」は時間とともに、生き延びるのに役立つ有利な特徴が一般的になり、不利な特徴は広がらない。

進化論の3つの基礎

  • ・多様化(variation)
    有機体や組織が違う特徴を持つ
  • ・選択(selection)
    違いによって、その有機体が生き延びる能力に差が生じる場合がある
  • ・維持(retention)
    ある世代から次の世代へと、有益な特徴が受け継がれる可能性がある

時間とともに変化する環境に適合していければ、生存確率が高まる。

組織における適合性とは、物理的、財務的、知的な資源を引き付ける能力を指し、組織の生態学的な適合性を維持する方向でプロセスを管理していく、経営陣の能力にかかっている。

組織に突きつけられる基本的な問題は、現在の生存能力を確保するために十分な深化活動に関与すると同時に、未来の生存能力を確保するために十分なエネルギーを探索活動に捧げることである。

両利きの経営を実現するためのリーダーシップ

組織の観点でいうと、深化がマネジメントの問題であるのに対し、探索は基本的にリーダーシップの問題である。

組織のリーダーが、既存事業の成功を深化させながら、既存の組織能力を活用して新市場を探索する「両利きの経営」を行ってはじめて、長期の成功がもたらされる。

  • ・既存のビジネスモデルを活かして、未来の探索に役立つ形で既存の資産を再編成できる場合、リーダーシップが極めて重要となる。
  • ・探索を正当化し促進することがリーダーたちの重要な役割であり、リーダーたちが新しい組織能力の開発を積極的に推し進めない限り、組織は停滞していく。

組織的な調整から生まれるパワーと危険性を認識して、探索と深化を同時に実行していくための異なる調整が求められる。

  • ・深化では効率性、生産性、差異を減らすことが強調されるのに対し、探索は要求水準の高い調査、発見、差異を減らすことが重要になる。
  • ・探索と深化を同時に実現していくためには、それぞれをサブユニットに分けるだけではなく、異なるビジネスモデル、組織能力、システム、プロセス、インセンティブ、文化も必要である。

既存(深化)事業から探索事業に資本を割り振るように支援する。

両利きの経営の付加価値は、成熟事業の貴重な資源を新規事業に適用できるところにあるため、新規事業と成熟事業の間のインターフェースを管理して、必ず起こってしまう対立を解決する。

探索事業は大組織から必要なスキルや組織を活用するが、物理的にスペースを分け、独自のアイデンティティや文化を発展させる。

求められる3つの行動

1.新しい探索事業が新規の競合に対して競争優位に立てるような、既存事業の資産や組織能力を突き止める。

2.深化事業から生じる惰性が新しいスタートアップの勢いを削がないように、経営陣が支援し監督する。

3.新しいベンチャーを正式に切り離して、成熟事業からの邪魔や「支援」なしに、成功に向けて必要な人材、構造、文化を調整できるようにする。

両利きの経営の成功と失敗に関わるリーダーシップの原則

1.心に訴えかける戦略的抱負を示して、幹部チームを巻き込む。

2.探索と深化との緊張関係をどこに持たせるかを明確に選定する。

3.幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図る。

4.「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する。

5.探索事業や深化事業についての議論や意志決定の実践に時間を割く。

戦略的刷新が適切かどうかを判断するための問い

1.成長機会が限られた成熟期の戦略によって、大方の業績が決まっているか

2.自組織の戦略を移行できる製品、サービス、プロセスの機会があるか

3.中核市場の外部に機会または脅威はあるか

4.その機会は、自社の中核となる組織能力や関連するアイデンティティの脅威となるか

リーダーシップの実践方法

1.成長に向けて感情移入のできる抱負を定める。

2.儀礼的な文書化された計画プロセスではなく、対話として戦略を扱う。

3.今後起こることを教えてくれる実験を通じて成長する。

4.リーダーシップコミュニティを刷新活動に巻き込む。
少なくとも幹部チームがかけてくるものと同等の圧力が、ボトムアップから生じるようなプロセスを設計する。

5.実行するための規律を持たせる。
刷新は、一夜漬けの仕事だと甘く見てはいけない。

参考(当サイト)

関係する書籍(当サイト)

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