書籍 ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学/入山 章栄(著)

書籍 ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学/入山 章栄(著)

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ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学

入山 章栄(著)
出版社:日経BP社 (2015/11/20)
Amazon.co.jp:ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学

  • ドラッカー、ポーターしか知らないあなたへ
    最先端の「知」こそがビジネス課題を解き明かす

    日本企業を取り巻くビジネス課題について、10年間米国で経営学研究に携わってきた気鋭の日本人学者が、世界の経営学のエッセンスを圧倒的に分かりやすく解説。

    最先端の「ビジネス知」が、あなたの常識を覆す。
    圧巻の全26章。

関連書籍
 2020年02月08日 入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019/12/12)
 2019年03月07日 チャールズ・オライリー『両利きの経営「二兎を追う」戦略』東洋経済新報社(2019/2/15)

本書は、2013年秋までの10年間、米国の二つのビジネススクールに在籍し、経営学の勉強・教育・研修に携わり、現在は早稲田大学ビジネススクール准教授の著者が、MBA本やビジネス誌を読んでも、ビジネススクールの授業を通じても知り得ない「世界最先端の知見」を解説した一冊です。

一般的に知られている「経営学」と、世界の最先端で経営学者が生み出している知見の間には、きわめて大きなギャップがあるとして、「イノベーション」「グローバル化」「組織学習」「ダイバーシティー」「競争理論」「リーダーシップ」「CSR」「女性の企業参加」「同族経営」など、日本で話題になりやすい11テーマについて、世界先端の経営学の知見を身近な事例に引き付けて紹介しています。

本書では、前著と同様に多くの論文や実証分析を紹介しながら経営理論を検証していますので、経営や戦略立案を担っているリーダーにとってはビジネスへの「思考の軸や考え方」に対する示唆を得ることができ、経営学の研究者や興味のある方々にとっては「世界最先端の経営学の知」を確認することができます。

本書は、11のパートに分けて26章で構成されており、主なパート末には「経営学ミニ解説」として、パートで取り上げた理論などを詳しく解説しています。

Part1:いま必要な世界最先端の経営学

Part2:競争戦略の誤解

Part3:先端イノベーション理論と日本企業

Part4:最先端の組織学習論

Part5:グローバルという幻想

Part6:働く女性の経営学

Part7:科学的に見るリーダーシップ

Part8:同族企業とCSRの功罪

Part9:起業活性化の経営理論

Part10:やはり不毛な経営学

Part11:海外経営大学院の知られざる実態

本書を読み通すことで、これまで決して語られてこなかった「世界最先端の経営学の知」が手に入ること請け合いです。
そこから、みなさんがご自身のビジネスへの示唆を得たり、あるいは思考の整理の軸にしたりしていただければと、私は強く願います。
いまこそ、ビジネススクールでも教えてくれない、世界最先端のビジネスの知に浸かってみてください。

Part1:いま必要な世界最先端の経営学

「Part1:いま必要な世界最先端の経営学」では、本書の意義について解説していますので、世界の経営学の現状を知ることができます。

経営学の現状を紹介しながら、「なぜビジネススクールでは、世界最先端の経営学が学べないのか」を解説しいています。

  • ・MBAなどで使用されている経営戦略論の教科書は、どれも中身に大差がなく、内容は四半世紀近く変わっていないばかりか、紹介されているツールやコンセプトの大部分は現在の経営学者は研究対象としていない。
  • ・現代の経営学を把握するポイントは「国際標準化」と「科学化」にあり、世界中の経営学者により新しいビジネスの知が日々生み出されている。
  • ・しかし、ビジネススクールの教育や教科書に反映されないのは、経営学の研究で得られた知見が、実務に応用しやすいように「分析ツールに落とし込む」ルートがないためであるが、経営学では「ツール化」が学術業績として認められていないので経営学者は熱心でない。
経営学に抱いている二つの誤解

また、経営学に抱いている二つの誤解を解きほぐしながら、「経営学は役に立つのか」についての著者の見解を示しています。

誤解1.経営学者は「役に立つこと」に興味がある。

  • ・学者が経営学を探求するする推進力となっているのは、「役に立つかどうか」よりも、「経営の真理を知りたい」「組織行動の本質を知りたい」といった「知的好奇心」にある。
  • ・「優れた研究」と評価されるのは「厳密性」と「知的に新しい」であり、この二つを多くの経営学者は追求しがちであり、そこに「実務に役立つ」も同時に追求するのはきわめて難しい。
  • ・しかし、「厳密性」と「役立つ」を同時に追求することを充実させれば、「厳密性」「知的に新しい」「役立つ」の三角形が完成し、経営学がビジネスパーソンにもっと身近になってくるはずである。
  • ・最近、経営学最大の学会「アカデミー・オブ・マネジメント(AOM)」が新学術誌を創刊し、求められる研究要件の一つとして「政策や経営の実践に示唆のあるビジネス現象についての、時流に即したエビデンス」を位置付けている。

誤解2.経営学は「答え」を与えてくれる。

  • ・経営学は、それぞれの企業の戦略・方針に「それは正解です」「間違っています」と安直に答えを出せる学問ではない。
  • ・経営学が提供するものは以下の二つで、これを自身の思考の軸・ベンチマークとして使うことが、経営学の「使い方」である。
    ①理論研究から導かれた「真理に近いかもしれない経営法則」
    ②実証分析などを通じて、その法則が一般に多くの企業・組織・人に当てはまりやすい法則かどうかの検証結果

Part2:競争戦略の誤解

経営学は、企業の戦略を「競争戦略(事業戦略)」と「企業戦略」に大別されるとして、ここでは「競争戦略」に焦点を絞って、代表的なマイケル・ポーターの「ポーターの競争戦略(SCP戦略)」とジェイ・バーニーの「リソース・ベースト・ビュー(RBV)」を紹介しています。

さらに、RBVを発展させたジェイ・バーニーが提示した考えで、競争戦略を考える上では「三つの競争の型」の理解が重要であり、型ごとに適用できる経営理論が違うことを、日本の家電業界の課題を示しながら解説しています。
①IO(Industrial Organization:産業組織)型
②チェンバレン型
③シュンペーター型

そして、厳密に探求した研究はまだ多くない「ビジネスモデル」について、世界最先端の経営学では、どのように捉え、どのような知見が得られているのかを紹介しています。

  • ・定義(2001年、ストラテジック・マネジメント・ジャーナル誌)
    ビジネスモデルとは、事業機会を生かすことを通じて、価値を創造するためにデザインされた諸処の取引群についての内容・構造・ガバナンスの総体である(著者意訳)
  • ・ビジネスモデルの4条件
    現実には、4条件すべてを満たすビジネスモデルを描くのは難しいとしながら、特にどの条件が重要かを、企業価値との関係について統計分析した論文を紹介しながら示しています。
    ①効率性(Efficiency)
    ②補完性(Complementarity)
    ③囲い込み(Lock-in)
    ④新奇性(Novelty)

Part3:先端イノベーション理論と日本企業

経営学の先端で展開されているイノベーションに関する理論を説明しながら、日本企業への示唆が探られています。

前著にも解説されていましたが、「知の深化」と「知の探索」の「両利きの経営」を実践できる企業が業績がよいことを示してします。

しかし、企業は「知の深化」への傾向が強くなり、中長期的なイノベーションが停滞(コンピテンシー・トラップ)している。

両利きの組織体制は、新規事業部署にはなるべく「知の探索」を好きなようにやらせ、他方で「知の深化」は上層部で既存事業分野との融合を図るべきとし、そのためには両利きのリーダーの存在が欠かせないとしています。

  • ・自社の定義する「ビジネスの範囲」を狭めず、多様な可能性を探求できる広い企業アイデンティティーを持つ
  • ・「知の探索」部門と「知の深化」部門の予算対立のバランスは経営者自身がとる
  • ・「知の探索」部門と「知の深化」部門の間で異なるルール・評価基準をとる

一方、外部の新しいイノベーションに対抗するために、組織の知を「コンポーネントな知」と「アーキテクチュアルな知」に区別して、経営学で議論される「知の種類」についての知見を紹介し、常にイノベーションを起こし続ける企業について議論が展開されています。

そして、「チャラ男」と「根回しオヤジ」という表現で、日本企業に対して提言しています。

「イノベーション」と「創造性」とを明確に区別すべきとして、フットワークが軽くて弱いつながりを持つ開発者(チャラ男)が、やがて創造性を高め、結果として有望なアイデアを出したら、今度は強いつながりで根回しにもたけた上司(根回しオヤジ)がそれを実現まで持っていく。

Part4以降の概要(目次)

Part4以降も、一般的に知られている「経営学」について、身近な事例に引き付けながら解説されています。

世界の最先端で経営学者が生み出している知見、それらの知見の背景となる思考や関連する論文などは、本書に詳しく記述されていますので一読をお薦めします。

Part1:いま必要な世界最先端の経営学
第1章:なぜビジネススクールでは最先端の経営学が学べないのか
第2章:「経営学は役に立たない」について二つの誤解

Part2:競争戦略の誤解
第3章:あなたの会社の戦略がうまくいかない、最も根本的な理由
第4章:成功しやすいビジネスモデルの条件とは何か

Part3:先端イノベーション理論と日本企業
第5章:イノベーションの絶対条件!「両利きの経営」を進めるには
第6章:なぜ大企業は革新的イノベーションについていけないのか
第7章:「チャラ男」と「根回しオヤジ」こそが、最強のコンビである

Part4:最先端の組織学習論
第8章:組織の学習力を高めるには、「タバコ部屋」が欠かせない
第9章:「ブレスト」のアイデア出しは、実は効率が悪い!
第10章:「失敗は成功のもと」は、ビジネスでも言えるのか

Part5:グローバルという幻想
第11章:真に「グローバル」な企業は、日本に3社しかない
第12章:「世界がグローバル化した」「フラット化した」を疑え

Part6:働く女性の経営学
第13章:日本企業に、ダイバーシティー経営は本当に必要か
第14章:男性中心職場での「できる女」の条件

Part7:科学的に見るリーダーシップ
第15章:これからのリーダーシップに向くのは、どのような人か
第16章:成功するリーダーに共通する「話法」とは

Part8:同族企業とCSRの功罪
第17章:日本最強の後継社長は「婿養子」である
第18章:CSR活動の思わぬ副次効果とは

Part9:起業活性化の経営理論
第19章:日本の起業活性化に必要なこと(1)簡単な「キャリア倒産」
第20章:日本の起業活性化に必要なこと(2)サラリーマンの「副業天国」
第21章:成功した起業家に共通する「精神」とは

Part10:やはり不毛な経営学
第22章:「もうかる理由って結局なに?」を突き詰める学者たち
第23章:「リソース・ベースト・ビューが捉えきれないこと」とは何か

Part11:海外経営大学院の知られざる実態
第24章:ハーバードを見て、米国のビジネススクールと思うなかれ
第25章:米国の大学の裏事情は、中国人が一番知っている
第26章:来たれ!正解最先端の経営学を語る人材よ

経営学ミニ解説

1.メタ・アナリシス

2.リアル・オプション理論

3.知の探索

4.トランザクティブ・メモリー

5.AAA分析

6.組織の進化論

7.内発的な動機

8.エージェンシー問題

9.四つの不確実性

まとめ(私見)

前著は、既に知っていたり活用している多くの経営理論に対し、その後の研究から得られた理論や反論を詳細に紹介しています。

それに対して本書は、経営学は未だ発展途上で広範であることとしながら、ビジネスを考えていくうえでの「思考の軸」として、日本で話題になりやすい11テーマについて「世界先端の経営学の知見」を紹介しています。

前著は、膨大な研究論文を交えながら経営学の理論が解説されていますので、理論の概要を知り、さらに掘り下げていくための指針になりましたし、本書も最近のテーマを中心に最先端の理論をわかりやすく整理されています。

本書も、多くの研究論文を紹介しながら著者の考えが随所に織り交ぜられており、自身の知見を深めるための羅針盤になる一冊です。

なお、本書は「ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学」というタイトルとなっていますが、著者はビジネススクールを否定しているのではなく、むしろ有効性を認め、人生の選択肢としてチャレンジ(可能であれば海外)して欲しいとしています。

特に米国のビジネススクールは、経営学の博士号と経営学修士(MBA)が二大プログラムであり、そこには「研究重視」「教育中心」「実業界への啓蒙」のどれを軸にしているか三つのタイプの教授陣が所属しています。

本書でも指摘されていますし、私の経験からも、博士号とMBAは目的も違いますし、例えばMBAでは「実務に使う経営学の基礎」を徹底して学ぶことができますし、何よりも志を共にする「人との出会い」があります。

ビジネススクールの定義も様々ですし、国内外に多くのビジネススクールがありますが、自分に合ったビジネススクールを選ぶべきです。

特に欧米では、博士号を取得する日本人が極端に少ないのに対し、インドや中国出身者が台頭しているようで、そのまま研究を続ける人もいますし、帰国して母国で研究し欧米との橋渡し役となっている人も増えているようです。

欧米が全てだとは思いませんが、急速に国際標準化されつつある経営学ですので、先端の知見に接することが限られると日本は取り残されてしまうかもしれません。

ますます不確実性が高まり、ビジネスの知見が求められる中、私もこれからも「思考の軸」を見出し、極めていかなければならないと痛感した一冊でした。

本書に関連する情報

MBAが知らない最先端の経営学
日経ビジネスオンライン

気鋭の経営学者から学ぶ、世界最先端の経営学 (2015年12月)
WISDOM

著者の前著(当サイト)

「世界の経営学者はいま何を考えているのか」まとめ

本書で紹介されている研究テーマの内、特に個人的に興味を持った研究テーマについて、研究者を中心に各理論の論点や反論などを整理しています。

ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学

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