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HARD THINGS
答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか
ベン・ホロウィッツ(著)、小澤隆生(その他)、滑川海彦、高橋信夫(翻訳)
出版社:日経BP社(2015/4/17)
Amazon.co.jp:HARD THINGS
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シリコンバレーのスター経営者に慕われる最強投資家からのアドバイス
「偉大な会社をつくり、育て、運営したいすべての人に、信じられないほど価値ある本」
マーク・ザッカーバーグ(フェイスブックCEO)
本書は、かつてはネットスケープなどを経てオプスウェア(元ラウドクラウド)の共同創業者兼CEO、現在はシリコンバレーで一番注目されるベンチャーキャピタル「アンドリューセン・ホロニック」の共同創業者兼ゼネラルパートナーであり、シリコンバレーのスター経営者に慕われる最強投資家の著者が、壮絶すぎる実体験を通して得た教訓を綴った一冊です。
アンドリューセン・ホロニックは、次世代の最先端テクノロジー企業を生み出す起業家に投資しており、投資先にはエア・ビー・アンド・ビー、ギットハブ、フェイスブック、ピンタレスト、ツイッターなどがあります。
本書は、偉大な会社になるための法則を解説したものではなく、起業やビジネスで直面する困難(ハード・シングス)にはどんなものがあるのかを指摘し、それらを切り抜けるための対処法を生々しく語っています。
起業家だけではなく、組織のリーダーや事業を立ち上げようとされている方々にとって、本書のアドバイスから知恵と勇気を得ることができます。
本書は第1章から9章までありますが、大きく3つで構成されています。
第1章から3章までは、
- ・妻フェリシアとの出会い、そして現在のベンチャーキャピタルのパートナーでウェブブラウザ「モザイク」の開発とネットスケープ社の共同創業者であったマーク・アンドリューセンとの出会いから始まり、
- ・ドットコム不況や顧客の倒産、そして資金ショートの危機などの困難を切り抜け続けて1,700億円超で会社を売却するという大成功を収めるまでを振り返っています。
第4章から8章までは、
- ・会社設立から上場から売却までのあらゆる段階を乗り越えてきた中で著者が学んだことに加え、
- ・クラウドコンピューティングの先駆け企業のラウドクラウド社と、データセンターの管理ソフトウェア提供企業のオプスウェア社を経営した経験の中から、遭遇する困難への対処法を紹介しています。
最終章の第9章では、
- ・著者自身の経験から得た新しいタイプのベンチャーキャピタルについて解説しています。
- ・実際に会社を起業し経営した経験がある者だけが、起業して会社を経営する人々に助言する資格があるとし、優秀であり異色でもあるベンチャーキャピタルをつくるための基本的な方向性、創業者CEOを盛り立て育成するベンチャーキャピタルについて語っています。
私はこの本で難しい問題への対処法やマニュアルを提供するつもりはない。その代わりに、私がどんな困難(HARD THINGS)に直面したかを語ろうと思う。
私は起業家、CEOを経て現在はベンチャーキャピタリストだが、過去の体験から得た教訓を日々生かしている。特に新世代の若い創業者CEOを助けるときに役立っている。
会社を立ち上げれば窮地に陥り、厳しい状況に追い込まれるときが必ずある。
私はそういう状況を経験し、切り抜けてきた。
具体的な状況はさまざまであっても、そこには深いレベルで共通し、響きあうパターンがある。
物事がうまくいかなくなるとき
成功するCEOの秘訣はないとしながら、際立ったスキルがあるとすれば「良い手がないときに集中して最善の手を打つ能力である」と語っています。
「武士道」の原則に従う
戦士が常に死を意識し、毎日が最後の日であるかのように生きていれば、自分のあらゆる行動を正しく実行できる。
苦悩を乗り越えるときの助けとなる意識
- ・一人で背負いこんではいけない。
- ・単純なゲームではないと考える。
- ・長く戦っていれば、運をつかめるかもしれない。
- ・被害者意識を持つな。
- ・良い手がないときには、最善の手を打つ。
会社を経営していると、過度に前向きにならなくてはならないという心理的プレッシャーがあるが、重圧と戦い、恐怖と向き合って、ありのままを伝えることが必要である。
- ・健全な企業文化は、悪いニュースの共有を促す。
- ・問題を隠し立てせずに自由に語れる会社は、迅速に問題を解決できる。
- ・問題を隠ぺいする会社は、関係者全員をいら立たせる。
人を正しく解雇する方法
ステップ1.自分の頭をしっかりさせる。
ステップ2.実行を先送りしない。
ステップ3.レイオフの理由を自分の中で明確にしておく。
ステップ4.管理職を訓練する。
ステップ5.全社員に説明する。
ステップ6.みんなの前にいる。
幹部を解雇する準備
ステップ1.根本原因の分析
- ・役職の定義がそもそも間違っていた。
- ・長所ではなく、短所のなさを理由に採用していた。
- ・拡大を急ぎ過ぎた。
- ・幹部が間違った野心を持っていた。
- ・幹部を会社になじませられなかった。
ステップ2.取締役会に報告する
- ・CEOの困難な任務について、支持と理解を得る。
- ・退職金について意見を聞いて承諾を得る。
- ・解雇された幹部の名誉を守る。
ステップ3.解雇通告の準備
- ・理由をはっきりさせる。
- ・明確な言葉を使う。結論を出さずに議論を終わらせてはいけない。
- ・退職金の承諾を取り、説明する準備をしておく。
ステップ4.社内コミュニケーションの準備
- ・社内連絡の順番:直属の部下、それ以外の上級スタッフ、その他の社員
人、製品、利益を大切にする - この順番で
「人を大切にする」ことは、自分の会社を働きやすい場所にするという意味である。
真に優秀で、真に経験のあるCEOたちに共通する重要な特徴は、組織的問題に対してあえて困難な答えを選択している。
良い製品マネジャーの特徴
市場、製品、製品ライン、競合をよくわかっており、深い知識と強い信頼に基づいて行動する。
製品のCEOであり、全責任を負い、製品の成功によって自分自身を評価する。
会社や収益源や競合などの周囲の環境を知り、勝利への計画を編み出し、それを実行する責任を持つ。
すばらしい製品を最適な時期に出荷するために、協力すべき組織に自分の時間を全部吸い取られたりしない。
目標の「What(何をすべきか)」を明確に定義し、「How(どうやったらできるか)」ではなく、その「What」が実現するまでを管理する。
エンジニアリングチームとは書面と口頭の両方でコミュニケーションをとり、情報は非公式に収集するが、指示は非公式に出さない。
製品計画の段階では優れた価値を市場に届けることを基準にし、市場に進出した段階では市場シェアと売上目標の達成を基準に考える。
事業継続に必須な要素
一般社員の場合には、それぞれが独自に自分のキャリアパスの充実を考えてもよいが、経営に携わる上級幹部の場合には、動機が重要である。
社内政治を抑えるテクニック
- ・正しい野心を持った人材を採用する。
正しい野心=会社の勝利を第一の目標とし、その副産物として自分の成功を目指す。
- ・社内政治につながりそうな問題について、あらかじめ厳格なルールをつくる。
例:実績評価と給与査定、社内組織のデザインと責任分野、昇進
ほとんどの会社は遅かれ早かれ、職名の扱いで大失敗をするが、緩和する効果的な方策は、昇進の要件と手続きをできる限り明確に定め、厳正に運用することである。
- ・ピーターの法則
階層的組織において有能なメンバーは次第に昇進していくが、遅かれ早かれ自分の能力に及ばない地位に達してしまい、さらなる昇進は望めなくなる。
- ・ダメ社員の法則
大組織においては、その職階においても社員の能力はその職階の最低の能力の社員の能力に収斂する。
会社を拡大させるときの秘訣は、自社の置かれている成長段階を正確に見極めて、社内アーキテクチャをそれに応じて修正していくことである。
成長を予期するのはよいが、成長に拙速に対応することは逆効果になる。
やるべきことに全力で集中する
CEOとして最も困難なスキルは自分の心理のコントロールであり、最も困難な決断は知性よりも勇気を必要とする。
組織を運営するのに本質的に重要なスキルは、何をすべきかを知ることと、そのなすべきことを実際に会社に実行させることである。
- ・ワン型CEO:会社の向かうべき方針を決めることを得意とするCEO
- ・ツー型CEO:決められた方針に沿って会社のパフォーマンスを最高にすることを得意とするCEO
従いたくなるリーダー
- ・ビジョンをいきいきと描写できる能力(スティーブ・ジョブス属性)
- ・正しい野心(ビル・キャンベル属性)
- ・ビジョンを実現化する能力(アンディ―・グローブ属性)
新しいタイプのベンチャーキャピタル
基本的な方向性
- ・テクノロジー企業を経営するのに最適な人々は、テクノロジー系の創業者自身である。
イノベーションに積極的な人物が、経営することが必要である。
- ・創業者が会社をスタートさせた後でCEOのスキルを学ぶのが、どんどん困難になっている。
大部分のベンチャーキャピタルは、創業者がCEOとして経験を積み成長するのを待たず、性急に創業者を追い出してプロの経営者と入れ替えようとする。
プロの経営者に比べた時、創業者CEOの弱点
- ・CEO特有のスキル
幹部社員の管理、会社の組織づくり、販売チャネルの構築と運営などは、創業者CEOには欠きがちな能力である。
- ・CEOの人脈
潜在顧客、提携相手、メディア、重要分野の友人や知人など、プロのCEOは人脈が豊富である。
今、私は日々起業家と接しているが、一番伝えたいのはこの教えだ。
自分の独自の性格を愛せ。生い立ちを愛せ。直感を愛せ。成功の鍵はそこにしかない。
私は彼らに前途に待ち受ける困難さを伝えることはできるが、困難に直面したときに何をすべきかは、彼が自ら判断する以外ない。
私にできるのは、それを見出すための手助けだけだ。私はCEOでいる間、一度も心の平和を得られなかったが、運が良ければ時にはそれも得られるだろう。
まとめ(私見)
本書の論点は、企業経営という困難なことには一般に適用できるマニュアルはないとしながら、困難を経験してきた者のみが得られる教訓もあるし、それに基づいた有益な助言もあるというものです。
強力ライバルからの反撃、会社売却、起業、急成長、資金ショート、無理な上場、出張中に妻が呼吸停止、バブル破裂、株価急落、最大顧客の倒産、売上9割を占める顧客の解約危機、3度のレイオフ、上場廃止の危機など、多くの企業が遭遇する困難をあげて、著者ならではの経験に基づいた対処法を語っています。
著者が共同経営するベンチャーキャピタルはシリコンバレーにあり、ハイテク企業を対象としていますが、本書に出てくる困難は業種や組織を問わず、多くの企業で遭遇するものばかりです。
私も企業の創業や新規事業の立ち上げを支援しており、それらを担っているリーダーの苦悩を頻繁に見ています。
遭遇する困難の種類や度合いはそれぞれ異なり、対処も様々ではありますが、その苦悩の多くが本書で取り上げられており、その説得力あるアドバイスは大変参考になりました。
本書に関連する情報
「答えがない難問」に君はどう立ち向かうか
2015年4月20日 日経ビジネスオンライン
HARD THINGS
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HARD THINGS
答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか
ベン・ホロウィッツ(著)、小澤隆生(その他)、滑川海彦、高橋信夫(翻訳)
出版社:日経BP社(2015/4/17)
Amazon.co.jp:HARD THINGS
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