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世界の経営学者はいま何を考えているのか 知られざるビジネスの知のフロンティア
入山 章栄(著)
出版社:英治出版(2012/11/13)
Amazon.co.jp:世界の経営学者はいま何を考えているのか
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・アメリカの経営学者はドラッカーを読まない。
世界の経営学者は科学を目指している。・『ハーバード・ビジネス・レビュー』は学術誌ではない。
できる限り科学的な手法で経営の真理に近づくためのフロンティアを切り開く研究を行い、その理論や分析結果を有力な「学術誌」に乗せることである。・良い授業をしても出世できない。
研究を通じて経営学のフロンティアを切り開き、発展させることである。
関連書籍
2020年02月08日 入山 章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019/12/12)
2019年03月07日 チャールズ・オライリー『両利きの経営「二兎を追う」戦略』東洋経済新報社(2019/2/15)
2015年12月03日 入山 章栄『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』日経BP社 (2015/11/20)
本書は、ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーで、経営戦略論及び国際経営論を専門に研究されている著者が、世界の経営学の最前線をわかりやすく紹介している一冊です。
世界トップレベルのビジネス研究の「おもしろいところ」を厳選し、エッセイ風にわかりやすく紹介している。
とあって、いづれの研究テーマも興味深く、新たな気づきを得ることができます。
本書で語られていることの中には、これまで私たちが漠然と「経営学」と思っていたものとは違っていることに驚かれる部分もありました。
紹介されている理論は、日本には詳しく伝わってきていないものもあり、経営学に興味ある方々にとっては、
- ・未だ発展途上の経営学の動向を知り、今後の研究の方向性を確認することができます。
- ・また、各理論の主な論文や研究者が紹介されていますので、その分野の知識をさらに深めるための参考になります。
ビジネスリーダーの方々にとっては、
- ・本書は学問的な内容が多いため、実務側からすると理屈ぽく感じるかもしれません。
世界の経営学の現状や方向性を俯瞰し、学問から実務へ応用していくためのヒントにはなりそうです。
- ・また、経営学で現在議論されている事実や理論を紹介するという「実証性」の側面に重きが置かれていますので、それらが価値があるものかどうかを議論するという「規範性」については、それぞれの判断が必要です。
また本書では、既に知っていたり活用している理論に対し、その後の研究から得られた反論も随所に紹介されています。
- ・マイケル・ポーター教授の「競争戦略論」やクレイトン・クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」も、経営学の最前線では古い理論となっていること、
- ・ジェイ・バーニー教授の「リソース・ベースト・ビュー」は経営理論といえるのかという批判に対する反論、さらにその再反論
など、様々な研究者の議論を通して、その論点や研究概要などを確認することができます。
世界の経営学は科学を目指している。
しかし、それはみなさんの日々のビジネスの泥くさい意思決定と反するものではない。
むしろ世界の経営学は、それらの泥くさい意思決定をも科学的にとらえようと努力している。
経営学の研究アプローチ:日本と欧米との主な違い
1.日本:帰納法的アプローチ
成功(または失敗)した企業を数社選んで詳細に調べ、そのケーススタディーから法則や要因などを整理するアプローチ
2.欧米:演繹的アプローチ
理論仮説を立て、それを統計的な手法で検証するアプローチ
経営学の3分野の理論基盤
1.経済学ディシプリン
(1)仮定:人は本質的に合理的な選択をする。
(2)代表:ファイブ・フォース(マイケル・ポーター教授)、取引費用論(オリバー・ウィリアムソン)、リソース・ベースト・ビュー(ジェイ・バーニー教授、エディス・ペンローズ教授、バーガー・ワーナーフェルト教授)、リアル・オプション
2.社会学ディシプリン
(1)仮定:古典的な経済学が想定するほどには人や組織は情報を処理する能力はなく、それが組織の行動に影響を及ぼす。
(2)代表:ハーバード・サイモン教授、ジェームス・マーチ教授、中野郁二郎教授
3.認知心理学ディシプリン
(1)仮定:人と人、あるいは組織と組織は、「社会的」に相互作用する。
(2)代表:ネットワーク理論、ソーシャル・キャピタル
「企業とは何か」4つの視点と考え方
1効率性を重視する視点
経済学ディシプリンの取引費用論
2.企業の「パワー(力)」を重視する視点
社会学ディシプリンの経営資源をめぐる相互依存関係
3.企業の「経営資源」を重視する視点(企業は経営資源の集合体)
リソース・ベースト・ビュー、認知心理学の影響を受けているダイナミック・ケイパビリティ
4.従業員の「アイデンティティ」を重視する視点
認知心理学ディシプリンの研究者らが主張
有力な学術誌の違い
1.『アドミニストレイティブ・サイエンス・クォータリー(Administrative Science Quarterly)』
社会学ディシプリン
2.『マネジメント・サイエンス(Management Science)』
経済学ディシプリン
3.『ジャーナル・オブ・インターナショナル・ビジネス・スタディーズ(Journal Journal of International Business Studies)』
もともとは経済学寄り。最近は社会学や認知心理学も受け入れつつある。
本書の概要
Ⅰ.マイケル・ポーター教授の戦略だけでは、もう通用しない
競争戦略の最先端で語られる「攻め」の競争行動
1.競争戦略論
「持続的な競争優位(Sustained Competitive Advantage)」を獲得すること。
2.マイケル・ポーター教授のいう「持続的な競争優位」は、「ハイパー・コンペティション」を含む様々な競争環境下では、実現できなくなっている。
3.現在の優れた企業は、長い間安定して競争優位を保っているのではなく、一時的な優位(Temporary Advantage)をくさりのようにつないで、結果として長期的に高い業績を得ているように見えている。
4.「守りの戦略」と「攻めの競争行動」は、相矛盾するものではなく両立する可能性がある。
Ⅱ.「組織の記憶力」と「トランザクティブ・メモリー」
組織の記憶力を高めるためには、どうすればよいのか
1.組織も過去の経験から学習するが、学習のスピードには組織や産業で違いがある。
組織も人と同様に、経験を蓄積するほど作業効率や生産性が高まる。
2.組織の記憶力を飛躍的に伸ばすためには、組織のメンバーの「誰が何を知っているか」を知っておくという「トランザクティブ・メモリー」を活用することが重要である。
3.「他の人が何を知っているか」を自然に日頃から意識できる組織作りを目指す。
Ⅲ.研究手法論から得られる、経営分析の実践への教訓
「見せかけの経営効果」にだまされないために
1.経営方針と業績の関係は、別の第三の要因が出発点になっていて、見かけ上、経営効果があるように見えるだけかもしれない。
2.戦略と業績データを見せられ、その戦略に経営効果があるという主張を聞かされたときには、「内生性」や「モデレーティング効果」を考慮しているかを念頭におく。
3.安易に結果を受け入れるのではなく、自分自身で因果関係を確認する。
Ⅳ.「イノベーションのジレンマ」と「両利きの経営」
1.コンピテンシー・トラップ
「イノベーションのジレンマ」と同じようにイノベーションの停滞リスクを論じているが、より組織に本質的に内在するリスクとして理論化され、世界の経営学で主に研究されている。
2.世界のイノベーション研究のフロンティアで経営学者の多くが研究しているのは、「知の深化(Exploitation)」と「知の探索(Exploration)」を行う「両利きの経営(Ambidexterity)」である。
3.イノベーションの停滞を避けるためには、企業は組織としての「知の探索」と「知の深化」のバランスを保ち、戦略・体制・ルールを作ることが必要である。
4.従業員の意識を高めることで、ひとり一人が常に「両利きの経営」を意識するような企業文化を作ることができる。
5.市場や技術の変化が速い産業では、オープンイノベーション戦略により、「知の探索」を継続することが大切である。
Ⅴ.その他のテーマ
1.経営学の3つの「ソーシャル」「強い結びつき」「弱い結びつき」
経営学には3つの「ソーシャル」の研究があり、深い知識を知りたいときや成熟産業では「強い結びつき」、広く知識を集めたいときや不確実性の高い産業では「弱い結びつき」が有効である。
2.グローバル経営における国民性指数とその意味、集団主義はビジネスにプラスなのか。
企業が新たに進出する国を決めるときは、経済指標だけでは見えてこないリスク要因を深く分析すべきであるが、分析のひとつは国民性指標がある。
3.国際起業論で語られる世界で起きつつある潮流
起業家やベンチャーキャピタリストが一定地域に集中する傾向はあるものの、「超国家コミュニティ」の発展により国際化してきている。
4.不確実性の時代の事業計画、経営戦略理論のひとつ「リアル・オプション」
経営戦略論には「コンテンツ派」と「プランニング派」があり、「リアル・オプション」の事業計画は「プランニング派」の計画主義と学習主義の架け橋となるかもしれない。
5.ファイナンス理論を超える「人間くさい」M&Aの研究
経営者は、経営上の説明とは別の理由で、非合理の買収額を払ってしまうこともあり、それは経営者たちの「思い上がり」「あせり」「プライド」からくる。
6.コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)研究から得られる日本への示唆
CVC投資が多い事業会社ほどイノベーション・パフォーマンスも高くなり、スタートアップの技術を獲得するための買収に代わる手段となっている。
経営学の課題
1.経営学者の理論への偏重が、理論の乱立を引き起こしている。
2.「おもしろい」理論への偏重が、重要な経営の事実・法則を分析することを妨げている。
3.平均にもとづく統計手法では、独創的な経営手法で成功している企業を分析できない可能性が残る。
本書最終の二つの章では、「経営学は本当に役に立つのか」と問いかけ、「科学的でありながら役に立つ」ものにするための新たな試みも紹介されています。
例えば、「知的におもしろい経営理論」を生み出すのではなく、事実を積み上げることを目的とした「エビデンス・ベースド・マネジメント」や「メタ・アナリシス」という手法です。
さらに「ガウシアン統計分析」で外れ値になってしまう企業を分析するための手法として、「ケース・スタディー」「ベイズ統計」「複雑系の応用(ベキ法則)」の可能性を紹介されています。
経営学の分野は、アメリカを中心として世界に広まっていることは事実でしょうが、それらの理論がデファクトスタンダード化し、標準化されてしまう可能性もあることに疑問を持っています。
日本には、長い歴史の中で培われた「日本の経営学」があると思います。
そこには経験から蓄積された暗黙知として受け継がれている部分も多く、欧米の経営学からすと「科学」ではないのかもしれません。
しかし、欧米の理論を単純に採用するだけではなく、時代に応じた新たな経営理論を「日本の経営学」に融合していくことが必要であると考えています。
機会があれば、もう一度本書を読みかえして、自分なりに内容を整理していきたいと考えています。
本書の内容整理(当サイト)
「世界の経営学者はいま何を考えているのか」まとめ(当サイト)
本書で紹介されている研究テーマの内、特に個人的に興味を持った研究テーマについて、研究者を中心に各理論の論点や反論などを整理しました。
参考
本書に関する著者の連載コラム、日経ビジネス
※「日経ビジネスオンライン」の会員登録(登録は無料)が必要です。
2013年1月15日
「高学歴プア予備軍」こそ、米ビジネススクールの博士号を目指せ
2012年12月25日
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本書で紹介されている「有力な学術誌」サイト
Administrative Science Quarterly
Journal Journal of International Business Studies
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