書籍 ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛/リチャード・ブラント(著)

書籍 ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛/リチャード・ブラント(著)

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ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛

リチャード・ブラント(著)、滑川 海彦(解説)(その他)、井口 耕二(翻訳)
出版社:日経BP社(2012/10/18)
Amazon.co.jp:ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛

世界最大のショッピングサイト、電子書籍「Kindle」を成功させたアマゾンの戦略

 

本書は、ジャーナリストとして、シリコンバレーについて20年以上も書き続け、テクノロジー界に広く知られている著者が、アマゾン(Amazon.com)の創業から現在に至るまでの経営、CEOジェフ・ベゾス氏の生い立ちから起業家精神などについて解説した一冊です。

また、翻訳は『スティーブ・ジョブスⅠⅡ』(講談社、2011年10・11月)などを担当された井口氏、解説は『フェイスブック 若き天才の野望』(日経BP社、2011年1月)などを翻訳された滑川氏が担当されています。

世界的な起業家の伝記を翻訳された両氏ならではの視点での記述もあり、起業家または起業を目指している方々にとって、さらにアマゾンという企業を研究したい方々にとっても大いに役立つ一冊です。

本書は、これまでアマゾンが遭遇した局面における取り組みについて、その時代背景、CEOジェフ・ベゾス氏の発言や実際にかかわった社員の言葉を引用しながら、経営的な視点からコンパクトにまとめられています。

アマゾン及びCEOジェフ・ベゾス氏の伝記としてではなく、ベンチャー企業が創業から急成長していくうえでの課題をどのように解決していったか、それを牽引するCEOとしての決断や思考及びマネジメントなど、先行事例として学ぶところが多くあります。

しかし、ジェフ・ベゾス氏の類まれな先見性や牽引力などを紹介しているだけではなく、マネジメントや人間的な視点で課題とも思われるところを指摘しているもの本書の特徴です。

アマゾン(Amazon.com)といえば以下の言葉が思い浮かびますが、本書にはそれらの経緯やジェフ・ベゾス氏のCEOとしての想いや志が解説されています。

世界最大のショッピングサイト

  • ・1994年7月に前身となる法人を登記、1995年8月アマゾンを設立、1997年5月株式を公開する。
  • ・2012年9月現在、登録顧客数:1億5,200万人、従業員:5万1,300人、株式時価総額9兆2,000億円(アップル:51兆円超)

立ち読み機能(2001年10月追加)

  • ・購入前に本の一部が読める機能で、2年後には「なか見!検索」という、興味ある部分をタダで立ち読みできる機能を追加する。

カスタマーレビュー

  • ・都合が悪いレビューも、競合製品も、ユーザーが便利になるなら掲載する。

ワンクリック(1999年9月米特許商標庁が認可、2010年認めることで最終判断)

  • ・1回のクリックで注文できる仕組みで、特許のために10年間も闘い続ける。

ピザ2枚で足りる人数でブレーンストーミング

  • ・分散型の会社、組織化されていない会社。現場の人たちがグループの考えに従うのではなく、ひとり一人がアイデアを出せるような組織とする。

ドア板の机

  • ・社員の机は、ドア板に足をつけたものを使用している。
  • ・お金は自分たちのためではなく、顧客のために使うという精神の表れ。
  • ・一方では、現実よりも評判を重視し、外向きのイメージを丁寧につくっているという皮肉もある。
 

それらから見えてくるのは、「顧客第一主義」「信念・執念」「合理主義」「将来を見据える眼力」などではないでしょうか。

そこで本書の整理として、アマゾンの経営について、私なりにまとめてみます。

1.創業

ビル・ゲイツ氏や故スティーブ・ジョブス氏などは、「事業に情熱を感じて会社を興した」のに対し、ジェフ・ベゾス氏は違った側面もあります。

  • ・金持ちになるより、すごい会社をつくる方が大事である。
  • ・1994年、インターネットの可能性を知る。
  • ・インターネットの成長から、一財産も二財産も築きたい。
  • ・人が集まる場所をつくり、集まった人たちに売る。
    →世界最大のインターネット小売店(世界最大の小売店)をつくりたい。

他の主なアントレプレナー

  • ・ビル・ゲイツ:あらゆる人の机にコンピューターを置く。
  • ・スティーブ・ジョブス:業界を一新するデザインのパーソナルコンピューターを開発する。
  • ・ラリー・ペイジ、サーゲイ・プリン:誰もが世界の情報にアクセスできる検索エンジンをつくる。

2.事業展開

スタート時にはひとつの市場に集中し、その市場で成功できれば他の市場も同じようにできるとして、まず書籍販売からスタートして取扱い商品と地域を拡大しています。

  • ・創業時に書籍を選んだ基準(フローチャートを作成して書籍販売を選ぶ)
    よく知られた製品、市場が大きい、競争が激しい、仕入れが容易、販売書籍のデータベース作成、ディスカウントのチャンス、送料、オンラインの可能性
  • ・事業に役立つことが多いのは、ブランド、スキルセット、顧客ベース
    3つのポイントが活用できる領域に事業を広げる。
  • ・反復を重視する。
    どんなことでも、きちんとできるまで何度でも繰り返す。
  • ・実験をしてみて、うまく行ったものは残し、うまく行かなかったものはやめる。
    大切なのは、辛抱すべきかあきらめるべきかの判断である。
(1)商品の拡大
  • ・1998年にCD販売を開始し、映画のデータベース会社を買収、DVD販売へと拡大する。
  • ・1999年を通じて薬品、家電、玩具、ゲーム、スポーツ用品などと取扱い商品を拡大し、取扱い品目は1,800万種類に達する。
  • ・2000年には、屋外用家具、ヘルス&ビューティー用品、キッチン用品の取り扱いを開始する。
  • ・2009年にザッポスを10億ドル相当のアマゾンの株式で買収する。
    代診から4年後に買収にこぎつけたのですが、「短期的な利益よりも顧客を大事にする」という理念が両者を合意に結びつけたようです。
  • ・2010年にも6社を買収するなど、以降も拡大してきています。
(2)地域の拡大
  • ・商品の拡大と平行して地域も拡大し、1998年英国とドイツにサイトを開設した後、世界中に進出する。
  • ・日本法人のアマゾンジャパン株式会社は、2000年11月に設立され、アマゾンジャパン・ロジスティクス株式会社運営の専用倉庫フルフィルメントセンターは予定含め12ヶ所、カスタマーサービスセンターは2ヶ所。
(3)その他の事業展開

①アマゾンウェブサービス(AWS)

  • ・2002年7月に立ち上げ以来拡大を続けている。
    アマゾンが保有する巨大なコンピューターを必要に応じてレンタルできる「クラウドサービス」で、法人だけではなく個人でも利用できるサービス。
  • ・2010年の売上は5億ドル(全売上の2%)、利益率は23%(全平均利益率5%)

②Kindle(キンドル)

  • ・2007年の発売以来、2011年のシェアは47%(iPad:32%)で、今年9月には「Kindle Fire HD」を発表。
    【参考】2010年電子書籍:市場規模は年間10億ドル(2015年度予想30億ドル)、12月時点の一部大手出版社の売上比率は10%(数量比率20%)
  • ・電子書籍リーダーという単なるハードウェアではなく、コンテンツや使い勝手までを含めた相対的なサービスと位置付け、将来的には無料化の可能性あり。

③ブルーオリジン(高校の卒業式に語った夢)

  • ・2003年(開発費3,000万ドル)に存在が明らかになる。
    第一段階として、乗客を宇宙空間と大気圏の境目、さらには周回軌道まで連れて行こうという事業。
  • ・2010年に商業飛行を目標にしていたが、未だ打上げには至っていない。
    しかし、近年のNASA予算削減に伴って事業を民間へ移行する中、2011年初頭には370万ドルの予算をNASAから獲得し、以降も活動を継続している。

3.資金調達

  • ・大量の資金を必要としなかったため、事業計画なしで立上げ。
    起業資金は自前で用意し、その後家族から調達。その後、個人から小口の資金を得る。
  • ・創業の翌年、ベンチャーキャピタルから800万ドルの投資を受ける。
  • ・1997年5月に株式を公開し、1株18ドルで5,400万ドルを調達する。

4.人材

優秀な人材を見つけることを信条とし、最高の人材だけを雇う努力をしている。

  • ・会社設立は人脈をたどって集めて4人からスタートし、1996年に著名な投資家を取締役に迎える。
  • ・採用試験は、素粒子物理学博士号の口頭試問に引けをとらない厳しさ。
    何人もの社員と面接を重ねたうえで、ジェフ・ベゾス本人との面接に通らなければならない。
  • ・誰かを雇ったら、その人を基準に次はもっと優れた人を雇う。そうすれば、人的資源が全体的によくなっていく。
  • ・普通の会社になじまないタイプを求め、仕事と関係ない分野に興味や才能を持つ人材を好む。

5.設備

  • ・本拠地はシアトル(フローチャートを作って検討)
    【選定条件】
    アントレプレナーやソフトウェアプログラマが相当数いる地域、本拠地は人口が少ない州、大手取次の倉庫が近くにあること(但し、発着便の多い空港を持つ大都市)
  • ・本の在庫と流通というプロセスも掌握。
    1997年にシアトルの倉庫を拡大するとともに物流センターも新設し、在庫許容を30万冊(それまでの6倍)に増加する一方、出版社から直接配送してもらう中抜きも可能にする。

    ここで、在庫を持たないという当初のビジネスモデル構想から転換しています。今となっては、リアルを結びつけることによる競争優位につながっています。
  • ・1999年末までにハイテク倉庫を5つ新設し、保管能力は10倍、出荷能力は1日当たり100万箱となる。
  • ・最初から実績豊富で信頼性の高い情報システム。
    会社の成長に合わせてシステムを入れ替えるというリスクを回避している。

ジェフ・ベゾス氏の人物像

(1)生い立ち
  • ・1964年1月、ニューメキシコ州で生まれ。
  • ・母親が離婚後、亡命キューバ人の学生と再婚。
  • ・母方の先祖はテキサス独立戦争時の大佐であり、南部で大農場を経営。
    ジェフ・ベゾス氏の6歳から16歳まで、夏休みを利用して祖父の農場で過ごし、「何でも自分でやる」ことを学ぶ。
  • ・プリンストン大学で電気工学とコンピューター科学を専攻。
    有償な成績を残していたものの、友人からの印象は薄かった。
    夏休みにエリクソンやIBMでアルバイトをし、優秀なプログラマーであることを実証する。
  • ・ニューヨークの投資会社にネットワーク通信システムの開発エンジニアとして入社後、バンカーズ・トラスト銀行では最年少の副社長になる。
    【入社理由】
    将来は自分の会社を興すため、ビジネスを勉強する必要があると考えていた。
  • ・1990年、D・E・ショー(現在、社員1,500名、運用資産2兆円)というヘッジファンドにスカウトされ、コンピューターネットワークシステムを開発し、事業拡大に貢献する。
    この時に、ウェブとインターネットが巨大な社会的インフラとなる可能性に気づく。
  • ・1994年7月、「オンラインで本を売る会社を始める」と宣言して、D・E・ショーを退社する。
(2)経営者として
  • ・生まれながらのアントレプレナーである。
    鋭い知性に成功を求める意欲、不合理に見えるほど頑固という性格を合わせ持っている。
  • ・後悔最小化理論
    年をとって人生を振り返ったとき、どちらの道を選んだほうが後悔しないのかを考える。
  • ・バックグランドは技術系であるが、技術とシンプルさの組み合わせを持っている。
  • ・マスコミに対する露出を丹念に調整し、アマゾンや自分に対するイメージをコントロールしている。

  • ・常に「すてきな」CEOというわけでもない。
    おだてるときもあればガミガミと叱ったりもする。全体像を見ているときもあれば細かな点にまでも口を挟む。奇矯であり、頭がよく、要求が厳しい。
  • ・血も涙もないという人もいれば、そうでないという人もいる。
  • ・仲間意識の醸成がうまい。
  • ・技術勘があり、どの機能が会社のためになり、どの機能がならなかがわかる。
  • ・長期的な視野にたって考える。5年、7年、10年と待つつもりで進める。
(3)経営哲学
  • ・徹底的な顧客第一主義を貫く。
  • ・きちんとしたものができるまで、発明、再開発を粘り強く続ける。
  • ・長期的に考える。
  • ・毎日が初日である。

業界2位の10倍になるには、実は10%だけ優れていればいいのです。

顧客の体験に焦点を合わせ、消費者が望むものを他社よりほんの少し優れた形で提供する。
他社が追いつくころには新しい何かを導入し、常にほんの少しだけ優れた形で提供し続ける。

本書「解説」でも触れられていますが、私も故スティーブ・ジョブス氏とを比べてしまいました。
私の印象では、故スティーブ・ジョブス氏は「感性」「情熱的」であるのに対し、ジェフ・ベゾス氏は「理性」「合理的」にもとづいているのではないかと思います。

創業は書籍販売にこだわったのではなく、フローチャートで考えた結果であるという記述もあります。
そして、ビジネスを学ぶために、ニューヨークの投資会社に就職するなど、起業して「すごい会社をつくる」こと目指して、周到に考え準備してきたようにも思えます。

しかし、アマゾン設立後は順調に事業を拡大してきたわけではありません。

例えば、1999年3月にはアマゾンオークションを始めるが失敗し、2004年にはアマゾン独自の検索サービスA9を導入しましたが、後に打ち切られました。
さらに、2000年のバブル崩壊の影響で、売上が28億ドル(対前年の68%)に落ち込み、損失も14億ドル(前年度7億2,000万ドル)、株価も90%下落しましたが、それまでの費用度外視ともいえる成長至上主義から、レイオフと支出の切り詰めなどの比較的短期で利益を出す戦略へ転進したこともあります。

今や世界最大のショッピングサイトとなったアマゾンですが、他の企業と同様に様々な難局を乗り越えてきています。
さらに、赤字が続く中でもビジネス実現に向けた先行投資を続け、いくつかの事業が収益を生み出すまでになってきました。
そこには、CEOジェフ・ベゾス氏の存在があります。

本書には、ジェフ・ベゾス氏のCEOとしての評価は賛否両論ありますが、万人受けするCEOではなく、自身の夢や志、創業の理念の実現に向けて努力し続ける姿勢があります。

参考

企業ホームページ

Amazon.com

アマゾンジャパン株式会社

Wikipedia

Amazon.com

アマゾンジャパン株式会社

週刊 東洋経済 2012年 12/1号
タイミングよくアマゾンについて特集記事が掲載されています。
本書と合わせて読むと、アマゾンが与える影響について詳細に理解できます。

ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛
リチャード・ブラント(著)、滑川 海彦(解説)(その他)、井口 耕二(翻訳)
出版社:日経BP社(2012/10/18)
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